!警告!ダーク有り
「世代交代(新世紀エヴァンゲリオン)」zokuto (2004.10.02 01:06)



 髪の毛から滴り落ちた赤い水滴が、海に落ちて、波紋を描く。

 今、この世界で動いているのはそれだけ。

 ……そこまで言うのは大袈裟というものかもしれない。

 人や生物が一切居なくなったとしても、地球は太陽の周りを動き、月は地球を中心にして周っている。

 重力の関係で、海は満ちたり引いたりするし、温度変化でこの地球のどこかで赤い雨も降れば、もしかしたらプレートが自らの圧力に耐えきれず跳ね上がり、所謂地震というものがどこかで起きているかもしれない。

 けど、少なくとも僕の周り……目の届く距離……遥か彼方の地平線までの範囲で動く物は、大気、光子、その他もろもろの目に見えるけど見えないものを覗けば、それしか動いていない。


 幼い頃には、人間が住む場所であったマンションという集合住宅建築物は、今はもうその役目を無理矢理降板させられ、その不気味なまでの静寂の不釣合いをその身に纏わせて僕の目の前に建っている。



 もう、何年もこの光景を見てきたことか。

 生を過ごすものは、この世界では僕しか存在しない。

 多分、未来永劫、僕しか居ないだろう。

 個は全と回帰したこの世界で、全になったもののそれを拒んだ僕だけが……。

 他の、選択権の無かった人に比べて、一体僕は幸せだったのだろうか、それとも不幸せだったのだろうか。

 時折、そんなことも考える。

 けど、答えを出してみても、事実が変わるわけでもない。

 嘆き悲しんでも、過去に戻れるような事態には変化しない。





 僕は、ただ、今、この世界で、生を、している、だけ。




 とあるきっかけで、死ぬことも老いることもなくなったこの体。

 ただ無為に時間を過ごすだけのこの体。 

 いや、過ごすことしかしようとしないのか。

 僕は、ひとまず考えるのを止めた。



 気が付いたら夕方だった。

 といっても、いつの夕方かわからない。

 考えるのをやめてから一番近い夕方かもしれないし、ひょっとしたらもう人が産まれて死ぬまでの時間が過ぎたときの夕方かもしれない。

 別に、僕にとっては等価値だったので、考えるのを止めた。




 こう、見なれた風景をいつもいつも見ていたら退屈なのに気が付いた。

 他の場所に移ったら、ひょっとしたら新鮮な風景になるだろうな、と思った。

 けど、変わりはいくらでもあったので、やっぱり止めた。

 面倒くさくなったので、考えるのを止めた。



 いつまで考えるのを止めればいいのか?

 そんなことを考えてみた。

 けど、結局は考えるのを止めてみても、そのうちまた考えなければならなくなる。

 ので、僕は考えながら考えるのを止めることにした。

 そこから、僕の中からボクが生まれた。


 考えるのを止めた僕。

 考え続けるボク。

 きっと、そのうち三人目のボクが出来るんだろうなぁ、とボクは思って、青髪の女の子を待つことにした。








 ボクは、いつも考え事をしながら髪の毛から滴り落ち続けるLCL液を見つめている。

 この世界が真っ赤に染まった時から……ずっと、身動き一つせず……ただ呆然と……たちつづけているこの場所で。








「久し振りね、碇君」

 その待ちわびていた言葉を聞くまで、一体何人の私が眠ったことだろう。

 僕、ボク、アタシ、ワタシ、I……

 別にそんなことにも綾波にも興味が無かったので、考えるのを止めて次の私に世代交代してもらった。




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