#1
GS本部 地下牢獄
最下層にあるその一室に、一人の少年が監禁されていた。
少年は大切な人を犠牲にして、世界に平和をもたらした・・・・
大切な人が生まれ変わる可能性もあった・・・・
だが・・・
その希望は、すべて打ち砕かれた!!
昨日は、厚いサーロインステーキにロマネコンティで最後の夕食をとった。食べ終わった後、看守はにこりともせず囁いた。
『ふん・・・貴様のようなのがこうして人間として処刑されるだけでもありがたいと思え』
次の瞬間少年は看守を殴り倒し、持っていたナイフで両目をえぐり出した。叫び声を聞いて駆けつけたほかの看守に押さえつけられ、特殊警棒でさんざん殴られ、拘束衣を着せられて芋虫のように大きな血だまりのある床を転がりながら、少年は今日の日を待っていた。
『死刑執行』の今日という日を・・・・・
処刑される少年の名は・・・横島忠夫
魔族因子をその身に宿す危険人物・・・・
それが今の彼に張り付けられたレッテル・・・・
やがて時間とともに看守がやってきた。無言で横島を担ぎ上げ、拘束台に縛り付ける。更に特殊な霊札を張り付けて逃げられないようにする。やがてゆっくりと、長いリノリウムの廊下を台が滑り出した。
横島は、ここへつれてこられた日の光景を思い出していた。
深夜、草木も眠る丑三つ時・・・
久しぶりの大仕事で疲れた体を横たえていたときのことだった。何者かがドアを蹴破り、寝ている横島を拉致しようとしたのだ。不意の敵襲に横島は為すすべもなく拘束された。
いや・・抵抗しようにも多勢に無勢。特殊警棒で何度も殴られ、蹴り上げられロープでがんじがらめに縛り上げられてトラックの荷台に放り込まれた。そして、横島が再び目を覚ますとそこは独房だった。
そして今日まで地獄の日々を味わってきた。
何の弁解も許されず・・・
看守に意味もなく殴られ・・・・
人間としての尊厳を奪われ・・・・
獣のように扱われてきた・・・・!!
やがて、拘束台が無機質な光を放つ扉の前で止まった。錆び付いた音を立てながら、扉がゆっくりと開く。眩いばかりの光が霊札の目隠しを通して感じられた。拘束台は死刑台の前で横島を下ろし、別の看守が首に太いロープをかけた。
そこらじゅうから自分に対する嘲りを感じた。
含み笑い・・・
見下し・・・
殺意・・・
愉悦・・・
好奇心・・・・
どいつもこいつも、くそばかりだ!!
と、自分の方に向かって歩いてくる足音が聞こえた。鼻腔をつく香水のにおい、そして胸糞の悪くなるこの霊気は・・・・
「やっぱりあんたか・・・美神美智恵。くそ売女がっ!!」
「お久しぶりね・・・・横島君」
昔の上司はあのころと変わらぬ姿で、横島の前に立っていた。顔は見えないがそのすましたような言い口が、よけいに少年を苛立たせる。自分たちの上司への暴言に看守たちが横島に詰め寄るが、美智恵が制すると忌々しそうに離れた。
「・・・で?いったい何のようだ」
「別に・・・元部下の死に様を見に来ただけよ。それをサカナにして夕食でもと・・知ってた?中世ヨーロッパでは囚人の公開処刑も娯楽の一つだったそうよ?」
「・・・・」
あまりの言いぐさに呆れ返って声も出ない・・・・いや、むしろ胸の中で憎しみが沸々とわき上がってきた。
この女は俺を殺すことを楽しんでいる!!
娯楽だと!?ふざけるな!!
美智恵もそれを感じ取ったのか、さっさと引き下がった。そして神父に目配せすると、高速エレベーターに乗って、“特別ゲスト”が待つ特設展望席へ入っていった。
神父はいつも通り、神様のありがたい説教を聴かせのらりくらりと話を長引かせると、すべての囚人にする質問をした。
『何か言い残すことは?』
「その前にこのうざったい目隠しを外してもらいたいね!!」
すると看守の一人がめんどくさそうな顔をしながら横島に近づき、目隠しを外した。そして次の瞬間、みんなが一斉に息をのんだ。横島の瞳の奥に、殺意と憎しみの炎がめらめらと燃えさかっていた。人間はここまで変わるのかと思うほど、横島の鬼のような形相は凄まじかった。やがて横島は、胸の内の憎しみを吐き出すかのように声を張り上げた。
「よく聞け!!俺は今日ここで処刑される!!だが、俺は必ず甦る!!そして、俺を陥れた貴様らを殺す!!一族郎党、老人、女子供も皆殺しだ!!地獄の業火が俺に力を与え、闇が祝福してくれるだろう!!それまで震えて待っていろ!!はぁーーっはっはっはっあーーーーっ!!」
地獄から聞こえてくるような嘲りが、周囲の人間の心に恐怖を感じさせた。その形相は展望台モニターに大写しにされ、豪華な食事ものどを通らない。美智恵は例外だったのか、鴨肉のステーキをおいしそうに食べている。だが、よく見るとグラスを持つ手が震えている。
時計が時を刻み、ついに死刑執行の合図の鐘が鳴らされた。
と、次の瞬間!!
ガガガガガガガガガァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!
大音響とともに稲光がしたかと思うと、死刑台に拘束された横島に雷が落ちた!!そして稲光の後には焼けこげた横島の死体が・・・・なかった!!
横島は煙のように消え去っていた!!
跡には巻き添えを食った神父の死体と、焼けこげたロープが風に揺られているだけだった・・・・
展望台では別の騒動があった。
「・・・・!!・・・・・!!」
一人が美智恵に掴みかかった。だが、振り払われて尻餅をついた。ほかの客も、美智恵に説明を求めようと詰め寄ろうとした。
「ふふふ・・・いいじゃない?これで死体を片づける手間もなくなったわけだし、甦るなんてできるはずがないでしょ?」
「・・・!!・・・・・・・!!」
美智恵のあまりの言いぐさに、もう一人が精霊石銃を取り出した。
「あら・・・そんなことしてなにになるのかしら?あなた達も共犯、同じ穴の狢なのよ?それをお忘れなく・・・・・」
美智恵とその首謀者たちが去ったあと、“共犯者”は重すぎる雰囲気にみんな黙りこくっていた。それから数時間が経っても、誰一人しゃべらなかった。
次回予告
横島は謎の館に来ていた。そこで出会った謎の大妖怪“ダッキ”とその部下“トウコツ”。彼らの目的は何か?横島はどうなるのか?
次回、羅刹が笑いて・・・ #2
“契約”
「やるさ・・・・一人残らずな・・・・!!」
あとがき
みなさまのご要望に応えて、第一部から再掲載させていただきます。ただ以前執筆したものを若干アレンジしての投稿ですので、雰囲気の変化を感じるかもしれませんがそこはご了承ください。
それでもダーク路線は変わりませんので(笑)
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