六道女学院 非公式怪異事件番号
か−1115号 コックリさん
「コックリさん?」
放課後、帰宅の準備をしていた氷室キヌをクラスメートの一文字魔理が呼び止めた。
「そ! なんか流行ってるみたいでさ」
理由はコックリさんを一緒に行おうという誘い。
「コックリさんってあの?」
「そうあの」
「確か外道拳の使い手でしたね」
「ネタが古過ぎです!」
あまりに頓珍漢なやりとりに業を煮やした弓かおりが二人の間に入った。
「弓も一緒にやるか? まぁ、ただのお呪いだしたいした事じゃねーんだけどよ」
「一文字さん、貴方の認識は間違っています。そもそもコックリさんとはテーブルターニングという降霊術を起源としまして日本には明治時代に」
「ああ、いいって! そんな薀蓄は授業で聞き飽きたって」
「なんですって! そもそも貴方がいい加減な知識で降霊を行おうなどしてるから!」
言い争うかおりと魔理の間でオロオロしているキヌ。とにかくこの場を納めようと、彼女はある提案をした。
「わかりました! ほら、三人でやりましょう! ね? 楽しみだなあ」
「まぁ、氷室さんがそう言うのなら」
「素直じゃねえな。最初っから参加したかったくせに」
魔理の言葉にまた騒ごうとしたかおりを抑え、キヌはコックリさんを行う準備をはじめた。
「って、コックリさんってどう行うんですか?」
「知らずに準備してたんですか! まずですね、ウィジャ盤という霊と交信に必要な物を用意します」
「あ、私が用意しといた」
かおりの説明を遮り、魔理がポケットから折りたたまれた紙を取り出した。鳥居を現す赤いマーク。はい、いいえといった文字とひらがな五十音が書かれれている。
「汚い字ですわね。そもそもウィジャ盤とはテーブルターニングがモールス信号を使っていたのに対し、より高度に霊との対話を実現させた」
「それはいいっつーに! この紙を机においてだな、それを囲んで私達が座るんだ」
魔理に言われたように椅子を用意して机を囲む。真中にキヌ。その左手に魔理で右手がかおりという形になった。
「で、十円玉を紙の上、この鳥居の印の上に置く。この十円玉は古ければ古いほど良い。ギザギザがついてるやつな。そういや昔さ、ギザギザ十円玉一枚でカレーが食べられる店って在ったよな? 今はどうしてんだろう」
「カレーもラーメンもどうでもいいです! この十円玉はですね、コックリさんを降ろす依り代なんです。儀式が終わるまで手荒に扱わない様に」
「私が説明してんだからさ、で、この十円玉に参加者が人差し指を置いて色んな質問をする。するとコックリさんがそれに答えてくれるってわけだ」
魔理の説明をかおりが補足するかたちでキヌに講釈が続いた。最後に呼び出しの呪文を確認し、彼女たちの降霊が始まった。
「「「コックリさん、コックリさん。どうかおいでくださいませ」」」
緊張でキヌが喉をコクっと鳴らす。彼女たちの周りの温度が少しだけ下がった様な気がし、魔理も背をぶるっと振るわせた。
「動きましたわ!」
い や
「な〜んだ降りてこなかったみたいだな」
失敗しちまったぜ、と魔理が笑った。
「降りてきてるじゃないですか! 一文字さん! 指を離してはいけません! コックリさん、コックリさん! 同か質問にお答えください」
え 〜 な に ?
「あ、今度は答えてくれましたよ。やりましたね弓さん! 一文字さん!」
無邪気に喜ぶキヌ。妙にフランクな反応が他の二人は気になりつつも、降霊は続いた。
「さて、なにを尋ねましょう?」
「決まってんだろ? コックリさん、コックリさん。弓の一番感じる所は何所ですか」
ひ だ り ち く び
「なにを尋ねてんですか! なにを!」
「あってんの?」
「黙りなさい! まぁ、信頼に足りると言う事はわかりました」
あってるようです。
「コックリさん、コックリさん。一文字さんの一番の弱点はなんですか」
お し り
「うわああああ!」
「コックリさん、それはアナルですかアヌスですか?」
「なに聞いてんだおキヌちゃん!」
も ま れ る と い く
「なるほど」
「なるほどじゃねー! ひゃい! って揉むな!」
「ごめんなさい。でも、凄いですね。ちゃんと当りますよ」
しきりに感心するキヌ。
「コックリさん、コックリさん。一文字さんの好きな人は何方ですか」
た い が ー
「ま、本当にお付き合いしてたんですね」
「むがー! なんで私ばっかり! コックリさん! その、タイガーの好きな人は誰ですか」
よ こ し ま
「んだこら! ボコすぞおい! よこしまって誰じゃい! 何所の女だああ!」
「待ってください! 横島さんは男です! 良かったですね」
「ま、汚らわしい♪」
かおりさん興味津々。
「タイガー、信じて良いのかよ。コックリさん、コックリさん。弓の好きな人は誰ですか」
み か み
「なじぇ! そ、そんな! いえ、でも、自分で気がついていなかっただけで、でも! あぁ、自分に嘘をつく事も出来ませんし♪」
「それでいいのか? コックリさん。伊達の好きな人は誰ですか」
ま ま
「あの男は!」
自分の事は置いといて怒ってるかおり。
「こんなの何かの間違いです!」
ふんがー と、叫ぶかおりをたしなめる為、今度はキヌが試す事にした。
「見事にすれ違ってますね。じゃあ、今度は私が。コックリさん、コックリさん。私の、その、好きな人は誰ですか」
よ こ し ま
「あ、やっぱりあってますよこれ♪」
「待って! 続きがありますわ」
た だ よ
「誰ー!?」
今度はキヌが叫ぶ番です。そこに、やっと我に帰った魔理が先ほどの事を確認します。タイガーの好きな人について。
「くそ! コックリ! その横島さんの恋人は誰だ!」
ひ だ り て
「左手?」
キヌは自分の左手に座る人物を見ます。つられてかおりも見ます。
「え?」
そこには魔理がいました。
「そんな? 嘘」
思わずキ十円玉に重ねたキヌの指に力がが入ります。下にある魔理の指がゴリゴリいってます。
「親友の恋人を寝取るなんて最悪ですわね」
ここぞとばかりにかおりも責めたてます。
「そうですそうです!」
キヌも一緒に責めます。
「落ち付け! 左手ってそうじゃなくてそのまんまの意味だろ!?」
別シリーズでたまったストレスをぶつけられて堪るかと、空いた左手で何かを掴んで上下に動かすジェスチャーをする魔理。必至です。
「あ、そっちですか。すいません勘違いしていましたわ。でも左手って珍しくありません? 普通利き手で行うものだと聞いていますが」
一発で伝わりました。
「そういえば最近は気分転換に逆手でやってるって横島さんがピートさん達と話しているのを盗み聞きしました。ゆくゆくは二刀流を目指すとか」
キヌが笑顔です。疑いが解けて嬉しいのでしょう。
「道具とかは使わないのかしら。コンニャクとか」
「横島さんの冷蔵庫には空っぽの消臭剤と残高寂しい預金通帳しかありませんよ。あと私が穴をあけてある医療用ゴム製品くらいしか」
ニコニコおキヌちゃん。
「そ、そうなんだ」
ヤンキー時代にですら感じた事の無い恐怖でした。後に魔理はそう語る。
「コックリさん、コックリさん。横島さんの理想の女性はどんなですか」
い ぬ
「犬ー! 獣姦はご法度ですわ! 冷蔵庫にはバターの山!?」
「だから冷蔵庫は空っぽですって! うふふ。横島さんったらそういうプレイが好きだったんだ。通りでシロちゃんばっかり構う訳なんですね。買っておいた首輪の出番がこようとは」
キュピーンとキヌが目を光らせてます。
「もう疲れた」
「ですわね。そろそろお開きにしましょう」
心底疲れきった様子の魔理とかおり。キヌだけはなにやら夢想して心ここに在らず。
「コックリさん、コックリさん。どうぞお帰りください」
い や
「「帰れー!」」
い や
「そんな! なにがいけなかったというの!?」
降霊の恐ろしさを把握しているかおりが驚いています。
ご ほ う び
「はあ?」
あ ぶ ら あ げ
「わかりました。ちゃんとご用意します。コックリさん、コックリさん。どうぞお帰りください」
弓の活躍により、コックリさんは無事帰っていった。しかし彼女達はそれ所ではない。事の真偽を確める為、彼女達は走り出した。
なんで私が呼ばれなくちゃいけないのよ。こういうのはダキニとかの仕事でしょ! まぁ、そんなに頼むなら少しは聞いてやるわよ。なに? 弓って誰よ? ねえヨコシマちょっと聞いて良い?
左乳首? なんでアンタが知ってんのよ。
次はなに? 一文字ってだから誰なのよ。ヨコシマー!
おしりってアンタ。ちゃんと現場を確認したって。もう、その愛子ってのが机の角を使ってるなんてどうでも良いの!
ヨコシマー! アナルとかアヌスってなに?
アナルがお尻の中でアヌスがお尻の皺なんだ。で、どっち? 揉む? そうやってたって? だからどうやって確認したのよ! で今度はその一文字の好きな人だって。タイガー? イク時に名前を叫んでた? へぇ、動物が好きなんだ。猫科のアレってトゲトゲになってんのよ。そういうのが良いのかな?
ってタイガーってヨコシマにまとわりつくでっかいヤツの事じゃない。何時も何時もヨコシマの周りに居てもう! きっとヨコシマの事が好きなのね。
弓の好きなね。弓ってたまに来るあの人よね? お姉様って騒ぐ同性愛の人。なら簡単、簡単。美神っと。
伊達ってあのママーって叫ぶ人でしょ。ならお母さんなんじゃないの?
今度はおキヌちゃんの好きな人? 簡単過ぎてつまらなーい! ちょっと困らせるくらい良いよね。タダヨっと。誰よタダヨって?
ヨコシマの恋人! あんな遊びに行くたびに自家発電してるところ晒すヤツ! あんな男に恋人が居るわけ無いじゃん。当分は左手が恋人ね。なかなか良いブツを持ってるんだから自信持てばいいのに。黒くて硬くて未使用で〜
そんな血の涙流さなくてもいいじゃない。
理想の女性ね。ヨコシマが一番一緒に居るのはシロよね。って事はシロがアイツの好みってわけね。シロもアイツの何所がいいだろ? 確かに優しいし命の恩人だけどすっごいバカよ?
だから泣かない! 言いすぎたわよ。ほら、どうしてもダメだったら私が何とかしてあげるから。私がもっと大きくなったら、ね?
もうおしまい? さすが私、完璧だったみたいね。でもね? 用が済んだからすぐ帰れってのはないんじゃない? そう、人間の世界はギブアンドテイクって言うんでしょ。美神さんが言ってたわ。ま、魂寄越せってわけじゃないし。油揚げで我慢してあげるわ。
「なあ、さっきからなにやってんだ? 変な質問ばっかしやがって」
「ん〜 ボランティア。良い事した後は気分が良いわ」
美神の除霊事務所でのんびりと寛ぐタマモと横島。急にタマモがブツブツ言ったり妙な質問をしてきたりと、二人はなんとなしに時間を潰していた。
「お前がボランティア? 随分丸くなったじゃねーか」
「ヨコシマが私をどう見てるか良くわかったわ」
狐の状態になったタマモが横島の頭をガジガジ齧っていた時、物凄い勢いで女子高生達が横島を襲撃した。
「横島さん! あんたタイガーとどういう関係なんだ! 私は歪んだ三角関係なんて認めないぞ! とりあえずどっちが責めだ! 詳しく図で説明してくれ!」
「横島さん! このスカート履いてください! こっちのチャイナやチマチョゴリでもかまいません! そしてこの首輪を私につけてください! 私は貴方の哀れで卑しい犬ッコロですワン!」
「お姉様! 美神お姉様は何処!? 私は真実の愛に目覚めました! もう貴方しか見えません! ああ、お姉様。あなたは何でお姉様なの!?」
急に女の子に囲まれて困惑する横島。どういう訳かお尻に尻尾がついた何かを差しこめられて
「ぎゃああああ!!」
とか叫んでいるが、タマモはそれよりもキヌ達が持っていた油揚げ(神社に供えるつもりで買ったらしい)を頬張る事に夢中だった。
「うまうま」
おわり
気がついたらこんな時間。でも折角書き終わった事ですし投稿しましょう(挨拶)
ども、清純派の天戸ことアマド金閣です。PS2ゲーム『流行り神』をやっていたらこんな話を思いつきました。少し変な構成で読み辛かったと思いますがお許しください。一応壊れマークを付けときますが全然壊れてないですよね?