あまりの天気の良さにオキヌちゃん。
「ありったけのお布団干すから手伝いなさい!」
シロやタマモは勿論美神令子まで総動員で屋上に持っていった。
「はひぃ。結構しんどいわね」
歳が原因でもなかろうが、一番ばてていた美神令子である。
日陰を探して腰を下ろした。
「でも、ホント天気がいいわねぇ」
上を見れば雲ひとつ無い青一色の空である。
「ビールでももってこよっかな?」
適度に吹く風も肌に付く汗を飛ばすようで悪くは無い。
ぼーっとした時間を過ごしていると、
『〜〜〜♪〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜』
「ん?」
小さな音であるが歌が耳に入ってくる。
「何語かしら?」
美神令子、日本語はともかく何故か英語は人並み以上の能力はあるが、
その他の言語は皆無である。
誰か外国人でも下を通っているのかとフェンス越しに眺めると。
「あぁ、アンタだったのね、鈴女」
勝手に事務所に巣食っている妖精が陽気に誘われたか、さえずりをしている。
「あ?聞かれてた??」
観られているのに気が付いた鈴女が羽を鳴らして美神令子の鼻先へ。
「やほー。美神おねーさま、私の歌聞いてたの?」
「聞いてた、って言うより耳に入ったってところね」
太陽の動きで日陰が移動したので、それに会わせて身を動かす。
「あら、折角のお日様なのに逃げちゃうの?」
「逃げちゃうって、暑いじゃないの」
「それもそうね」
納得したのか続いて鈴女も中に入った。
「ねぇ、アンタに頼みがあるんだけど、ビール持ってこれる?」
「えー!」
いやだと、顔に出ているが。
「あのね。私はオーナー、あんたは無料で住み着いてる、偶には言うこと聞きなさい!」
指で鈴女の顔を軽く引っ張り上げた。
「わ、判ったわよ、ちょっと待っててね」
「いいこと、すぐ持ってくるのよ」
「あーい」
ぶーんと、昆虫の羽音を鳴らして下へ向かった。
「すぐ来るといいけど」
今度は伸ばしていた足が日向になってきたので、足をたたんだ。
意外と鈴女すぐに戻ってきた。
「よっと、こらしょっとー、もひとつどこいしょー!」
小さい彼女にとってはたかが520g前後のアルミの持ち運びは大変だ。
「ほら、がんばれ、金メダルは直ぐそこだっ!」
今年は四年に一度のスポーツの祭典がある年だったので、思わず出た一言。
「は、はひーぃ。持ってきたわよ」
「ん!宜しい」
念願のビールも手に入ってご満悦である。
プルタブをあけると炭酸が抜け毀れそうになる。
あれだけゆれていればであるが、そこは判っていたのか、すぐに口に入れた。
「ぷはー!止められないとまらないってこの事ね、あ、アンタも呑む?」
「うん!でもそんなにいわないわ」
と、少し零れ落ちた液体を啜る様に飲んでいた。
「でさ、さっき何を歌ってたの?」
少し首をかしげた鈴女。
「わかなーい」
「わかんないって、意味とかあるでしょ?」
首を振って、
「あれはママから教わって、ママもそのまたママから教わったのを、その又ママが・・」
『ママ』とあと6,7回言って、終った。
どうやらかなり前の代から伝えられる歌と言うことか。
「でも意味わからないんじゃ、面白く無いわね」
「ううん。意味は判らなくても、目的があるんだもん」
生意気に親指を立てて誇らしげに胸を張る。
「求婚のお歌なんだって」
「ぶっ!」
呑みかけてたビールを若干戻してしまう美神令子。
「そ、そんなの歌ってんじゃないわよ、まったくマセがきなんだから」
容姿が小さい子供の鈴女、そう思われても仕方が無いが。
「何よ、私もいちおー、結婚適齢期なのよっ!」
元々彼女が日本に来たのは同属探しの旅だ。妖精の年齢に換算すれば結婚適齢期なのか。
「あはは、あーそだったわね」
「失礼しちゃうわ」
ぷんすか怒る鈴女だが、その一挙手一投足が可愛く見えてしまう。
お人形さんのようにと言えば近いか。
「で、見つかりそうなの?」
鈴女、首を振った。
「見つからないわね、やっぱ男の妖精は少ないみたい」
「そう、大変ねぇ」
缶の其処に残ったビールを軽く回して、一気に口に入れた。
「でもま、私、まだまだ若いからいつかきっと見つけて見せるわ」
「がんばりなさいね・・って男と女の区別付いてるのね」
かつて彼女は男女の区別が付いていなかった。
人間ならやや特殊な性癖の持ち主ともいえるのだが。
「うん。今でも女の方が好きよ」
思わず後づさる美神令子である。
「でも、女同士じゃ種は残せないって、教えてもらったから」
「・・・・誰に?」
「シロちゃんにタマモちゃんよ、懇切丁寧に教わったわ」
ははは、と空笑いを見せた美神令子である。
「そうよ。タマゴが出来るには男と女がどーたら、こーたらって」
その類の話、美神令子は苦手である。
加えて保健体育の先生を買った二人は何処で知りえたのか、
かなり詳しく説明している。
中には美神令子も知らない事象もあったようだ。
「わ、わかったでば。もういいわよ」
思わず手で遮るほどの説明振りであった。
「あら、判ったって・・、まだ話半分じゃないの」
「私に説明してもしょーがないでしょうがっ!」
ぐいっと、残りのビールを煽る。
「あの、美神さんってもしかして」
今度は顎に指をあてて考える仕草の鈴女。
「何よ」
三白眼で返すが、怯える様子は無く。
「エッチな事に興味ないの?」
胃まで到達しなかったビールが咳きと共に逆流してくる。
「な、なんて事言うのよ、助平妖精!」
手で捕まえてやろうと、伸ばすがそこは飛ぶ事の出来る鈴女、
「そりゃそうよ。種を残そうとするのは本能だもん、っと捕まるですかっ!」
見事なまでに逃げていた。
「でも、私の方が不思議よぉ。♪年頃の女の子がエッチなことに興味ないなんてぇ〜♪」
先ほど歌っていた意味不明の歌詞を日本語にあててからかっている。
「うぅ。そりゃまったく興味ないっていったら嘘になるけど」
「♪あはー、わかったぁ♪」
にんまりとした鈴女が口を開いて、
「♪美神さんは、むっつり助平〜、興味はあるけど、恥ずかしがってる〜♪」
怒りがこみ上げるが、逆に見事に指摘され撃沈模様である。
「わ、わかったから、歌うの止めなさい!でないと、今日のスープの具よ!」
「はいはい、わーかったわー」
太陽が徐々に西に沈んできた。
「あ、私巣の片付けがあったんだ」
不意に思い出した用にさよならを言って壁側に戻ってしまった。
「ちぇ、何よ、なにが『美神さんはむっつりすけべー』よ、それにシロにタマモ、へんな事おしえて・・ったく」
ぶつくさと文句を言うが誰にも聞こえない。
「鈴女!今のこと言ったら痛い目に合うからね、って聞いてる?」
はいはーい、と返事は聞こえた。
巣に戻った鈴女も最初は上機嫌であったが、
今自分の置かれている状況を思い出してか。
「ふんだ。人間種は沢山いるからって、気楽に構えすぎなのよ」
ぽつりとそんな事を言っていた。
彼女もまだ見ぬ連れ合いと暮らす為に大きめな巣を作っている。
その状況を見るとやや物悲しく思える。
彼女の巣を見ていた美神はなんとなく気が付いたみたいだ。
「あ、美神さん、サボってないで布団しまうの手伝ってくださいよ!」
オキヌちゃんからの命が下り、重い腰を上げ始めた。
夕日が蒼から赤に空と言うカンバスを塗り替えていた。
地平線部分は既に夜色になっている。
FIN
Fairy’s Tail、直訳で妖精の尻尾、意味は「御伽噺」です。
でも今回は特に子供向けのおはなしでは、ありませんでしたが。
前回の反省を踏まえ全文改行してみました。少しは読みやすくなったでしょうか?
トンプソンでした。