「ここか・・・・」
時間は午後11時の深夜。横島燐人はある場所に来ていた。
某町某市にある高級バー「YOSHIWARA」
ここは昔の日本の吉原を再現したような作りになっている、日本人よりも外国人の受けが多く客も外国人が多い。
「・・いらっしゃいませ、初めてでいらっしゃいますか?」
燐人が入ると女将が出迎える、一瞬燐人の容姿にポーとしてたがプロだけあってすぐに立ち直る、燐人を外国人と思ったのか流暢な英語で女将の格好をしたママが言う。
「日本語でいいですよ、一見だが良いですか?」
「はい・・・こちらは一見さんでも大歓迎ですよ、どうぞこちらへ」
女将の案内で二階へ上がる、階段も日本風で少しギシギシ言うのもまた風流である。
客室はそれぞれ個室になっておりその一室に案内される、その部屋も純和風の豪華な部屋。
「静かな所ですね」
「はい、それが当店の自慢ですわ」
単に防音で隣の音も聞こえないだけなのだが。
「ところで指名をしたいのですが」
「はい、ホステスの名前はわかりますか?」
「珠琴(しゅきん)と言います」
「わかりました、只今呼びますので、それまでどうぞお寛ぎくださいませ」
三つ指をついてお辞儀をし去る女将。部屋の中にはあらゆる国のお酒がならんでいた。
座布団に座り純米の日本酒を飲みながら燐人は依頼人のことを考えていた。
それは昨日のこと。
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「失礼な!帰らせていただく!」
男が烈火のごとく怒っている、着ているものから付けている宝石まで高級な物ばかりである。
「どうぞご勝手に、うちでは貴方の依頼は受けられません。」
燐人は冷静に言う。
男は顔を真っ赤にしながら帰っていった。
「今日で10件目でござるな、断ったのは」
シロはため息混じりに言う。
「どれもこれもつまらない依頼だよ、ボデイガードなんて」
座っている椅子を後ろに回転してつまらなそうな顔をする燐人。
実は燐人の名前は裏の世界では有名になっている、というのも先日気まぐれに暴力団を潰したからである、そのせいか用心棒だのボディガードの依頼が頻繁に来る。
「でもこれでは生活費が困るでござる」
「いくらお金を積まれても興味の無い依頼は嫌だね」
等と言っていると、燐人はドアに気配を感じる。
コンコンッ
ドアのノック音が
「どうぞ」
中に入って来たのは青い髪、青い目ををした男であった、歳のころは三十代に見えるが燐人は気配を感じた時から人間ではないと見抜いている。
「ここは横島探偵事務所かね?」
「はい、そうですよ」
「ここは妖怪の依頼も受けると聞いたが?」
「はい、受けますよ、私はここの所長の横島燐人です、どうぞお掛けください」
依頼人がソファに座るとシロがお茶を運んでくる。
「それで?依頼の内容をおっしゃってください」
「行方不明の娘の捜索をお願いしたいのだが」
依頼人はそう言う、人間ならこういうことは警察の仕事なのだが。
燐人は少し考え。
「もしかして行方不明になったのは人魚ですか?」
「何故それを?」
「だって貴方は海洋界の方でしょう?それぐらいわかりますよ」
妖怪のことは匂いでわかる。
海洋界・・・・いわゆる海の世界のことである、浦島太郎が行ったと言う竜宮城もこの世界に入る。
「そこまでわかっているのなら話が早い、実は娘が地上に憧れて家出をしましてね、すぐに連れ戻そうとしたのですが、すでに娘は恐ろしい組織に捕まっていたのです」
「恐ろしい組織?」
「妖怪の人身売買組織です」
その言葉に燐人がピクッと反応する。
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「ようこそ、いらっしゃいませ」
女の声でいきなり現実に戻る
そこにはこの店の趣向なのだろう花魁の格好をした美女が三つ指ついて座っていたカツラとカラーコンタクトで誤魔化しているが匂いで人魚とわかる、間違いないだろう。
「わちきが珠琴でありんす」
「横島燐人だ、さあ、こっちへ」
「はい」
珠琴は燐人の隣に座りお酌をしようとする。
燐人はいきなり珠琴の腕を掴み取り素肌を見る、そこにはボツボツとした点の跡が。
(やはり麻薬)
「いやっ」
珠琴はすぐに腕を隠す
「主さま・・・どうかこのことは見なかったことにしてくださいませ」
珠琴は涙目で言う、よほど今まで酷い目にあって来たのだろう。
「そうはいかん、俺はお前の父親に頼まれてきたんだ」
燐人は正直に言う。
「えっ?お父様の!」
「そうだ、お前の父はお前のことを心配していたぞ」
「お父様・・・・・会いたい・・・・海へ帰りたい」
珠琴はワアアと泣く
「安心しろ、俺が何とかしてやる、だがお前にもひと働きしてもらうがな」
燐人は文殊を数個出し珠琴に何かを言う。
数分後
オーナーの部屋に突然珠琴が入って来る。
「なんだいお前は!ここはお前が来るところじゃないよ!」
オーナーと一緒に何をしていたか知らんが女将が怒鳴る。
「た・・・・大変なんです、先ほどのお客さまが」
「さきほどの・・ああ・・・あの美形の、どうしたんだい乱暴でも働いたのかい」
「違うんです、自殺をしてしまったんです」
「「なんだって?」」
オーナーと女将が驚く。
オーナーと女将が慌てて部屋に入ると、そこには手首を切った燐人の死体が。
珠琴はオーナー室で怯えている。
「ちっ面倒なことをしてくれたぜ」
「どうする、あんた?」
「警察に届けるわけにもいかんし、隠すしかないだろう、そうだ、あそこがいい!」
オーナーと女将は燐人の死体を外の車に運ぶ、幸い他の客は個室で外も外壁が高いため誰にも見られないですむ。
「お前は残っていつもどおりしていろ、それから田中さんにもこのことを伝えろ、いいな!」
オーナは女将に言う。
「ああ・・・わかったよ、見つからないようにね」
オーナの車が出て行くと女将はバーに戻る。
「女将さん・・・あのお客様はどうしたんですか?」
珠琴がオーナー室から出てきて尋ねる。
「まったくお前がしっかりしないから、とんだとばっちりだよ、今日のことは倍にして働いてもらうからね」
「そんな!お客様が亡くなったのはわたしのせいじゃ」
「ふん、どうだかね、(まぁいい、こいつはどうせ今日売られるんだから)おっとこんなことしてられない・・・・お前は例の部屋に居な、わかったね」
「はい・・・」
女将はすぐさまオーナー室に入る。
「・・・・・・・・・・・」
珠琴はそれをぼーと見ていたが、地下に降りていく。
一方オーナーはある古い屋敷にいた、今の時間は午前一時、誰も通る者も居ない。
車のトランクから燐人の死体を引きづりだし中へ運ぶ。
ここはオーナーが麻薬の隠し場所に使っている屋敷だった。
「ふい〜重たかったぜ、まったく世話焼かせやがって・・・」
「悪かったな」
ボソッと声が
「何?」
オーナーは信じられない光景を見る。手首を切り今まで心臓も止まり脈も無かった死体が喋っているのだ。
「ばかな!貴様生きているのか?」
オーナは驚きながら懐から拳銃を取り出す。
「ああ・・・・これぞ横島燐人108の特技の一つ、死んだフリだ(笑)」
つまり手首を切ったように見えたのも幻術によるもの。
「くそっ」
オーナーは引き金を引くが。
「遅い!」
すぐさま燐人は当身を当てる。
気を失うオーナー
「さて・・・・」
再びYOSHIWARAでは
「あっ田中さんですか?YOSHIWARAの女将です」
女将がかけているのはどうやら黒幕のようだ。
「はい・・・わかりました、では早急に・・・・はい」
電話を置きオーナー室を出るとその足で地下室へ向かう。
地下室には様々な妖怪の娘達が鎖で繋がれていた、鎖で繋がれていないのもいたがそういう娘は麻薬漬けにされていたりする。
「お前たち、急だが今からお前たちを出荷する時が来たよ」
女将がブザーを押すと黒服の男達が数人出てくる、この店のボディガード達である。
ボディガード達は女たちの鎖を解いてやる、だが鎖は持ったままだ。
「さぁ行くよ・・・ん?」
振り向き出て階段を登ろうとすると。
「よっ」
金髪の男燐人が陽気に挨拶する。
「な!・・・・お前は?」
「ん〜説明するのめんどくさいから52行前を読んでくれ」
わけのわからんことを言い(笑)一瞬のうちに女将とボディーガードを倒す。
「ばかな・・・・こんなに簡単に・・・グゥ」
最後に倒したボディガードが言う。
「悪いな、俺が強いのとページの都合で(おい!)」
「燐人さん!」
珠琴が駆け寄ってくる。
「これを・・・」
珠琴が小さなテープレコーダーを燐人に渡す、実は先ほどオーナーと女将が燐人の死体のある部屋に行っている間、珠琴はオーナーの部屋に盗聴器を仕掛けておいたのだ。
「全ての会話はこのテープに入れました!」
「ありがとう、よくやってくれたね。助手に雇いたいくらいだよ」
「そんな・・・(ぽっ)」
燐人がそう言うと珠琴は頬を赤らめ俯く。
「よしっ最後の仕事だ」
「遅い・・・・」
大物代議士の田中良三は取引相手を待っていた。今日、ここで数人の妖怪の娘を買い、それを裏の世界で競売にかける、買うのは金に事欠かない連中ばかりだ、彼らは普通の女性では満足せず妖怪の娘をいたぶって楽しんでいるのだ。そして倍の金を手に入れた田中は次の選挙に使うつもりなのだ。
トレーラーが見えた、にんまりと笑い部下に指示を出す田中。
トレーラー到着。
「遅かったではないか!」
「すみません、道路が混んでいたもので」
黒服の運転手の助手席に座っている女将が謝る。
「なんだこれは!」
後ろから部下たちの声が。
「どうした!」
田中はトレーラーの後ろを見て驚く、そこには美女ではなくYOSHIWARAのオーナーと女将!、そして黒服の男達が縛られていた。
「観念するんですね」
ニセ女将が言う。
「貴様!何者だ?」
田中のその言葉にニセ女将はニヤリと笑い。
「ふっ問われて名乗るもおこがましいが〜横島燐人、しがない探偵さ〜」
元の姿に戻りどこからか出した大きな傘を振る燐人。どこからか「日本一!
」と聞こえてきそうだ(笑)
「くっやってしまえ!」
月並みな悪役のセリフを言う田中代議士。
その言葉にぞろそろと屈強な男達が出てきて取り囲む。
すると空から突然笑い声が。
「あ〜はははははは、ようやく拙者の出番でござるな!!」
トレーラーの上、運転手が黒服とサングラスを投げると犬塚シロが笑いながら現れる。
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意味なく閑話休題
作者「ところでシロ、免許持ってたっけ?」
シロ「な・・・・いきなり閑話休題なんてやるなでござる、向うで取ったんでござるよ」
作者「へ〜さすが妖怪の人権を認めている国だけあるな、ところでアメリカの免許は日本じゃ通用しないの知ってる?」
シロ「へっ?そうなのでござるか?」
作者「うん」
シロ「・・・・・・・・まぁ細かいことは気にしないでござる」
てとこで閑話休題終わり。
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そこには腰を抜かしている田中代議士と倒れている部下たちが、ちなみに全て燐人が倒した。
「ああ!拙者の活躍の場が〜〜〜〜作者の馬鹿野郎〜〜〜〜〜でござる」
山に向かって吼えるシロ(笑)
翌日YOSHIWARAには警察の手入れが入り代議士との繋がりやら麻薬やらで全員逮捕となった。ちなみに妖怪の娘たちは麻薬に犯されていないのは逃がしてやった。そして数週間後
横島探偵事務所
「どうもお世話になりもうした」
珠琴の父がお礼を言う。隣には数週間の苦しみに耐え麻薬を抜いた珠琴の姿が。
もちろん他の麻薬漬けになっていた娘たちも同じように苦しみに耐えぬき故郷へ帰っていった。
「いえいえ、これが仕事ですから」
燐人がそう言うと珠琴の父はオルゴールぐらいの大きさの箱を取り出し開ける。
「約束の報酬、どうぞお受け取りを」
「わぁ!凄いでござる」
シロが驚くのも無理は無い、それは地上にはない海底や深海にしかない宝石が数百個入っていた、それ一個一個が数億の価値があるだろう。
「こんなに貴重なものを」
「いえ、貴方は娘の恩人、これでも安いくらいだ」
「あら、お父様もそう思う?」
いままで黙っていた珠琴が言う。
「うん?」
「だったらその分私がここで働くって言うのはどう?」
「おお!それはいい考えだ!」
勝手に親子で話をすすめる、どうやら「助手に雇いたいくらいだ」のセリフが効いたらしい。
「娘はここで働きたいと言っとりますがいかがかな?」
珠琴の父が燐人に言う。
「危険な仕事もあるけど、それでもいいかい?」
燐人が尋ねると珠琴は顔を赤くしながら。
「はいっどこまでもついていきます」
珠琴はっきり答える。まるでプロポーズを受けるようなセリフだが。
「わかりました、娘さんは私が責任を持ってお預かりいたします」
ここいらへんの鈍感さは父親似なのだろう、燐人は平然と受ける。
「よろしくお願いする」
珠琴の父が頭を下げる
「燐人さん、シロさん、これからもお願いします!」
珠琴が元気よく言う
「よろしく」
「よろしくでござる」
こうして新たに事務所の一員が増えた
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新登場人物
珠琴:海洋界の住人で青い髪に青い瞳年齢は17歳くらい。
人間界に憧れて地上に出る、本来人魚だが地上では人間のように暮らせる。
足が塗れると人魚に戻ってしまう。
好物は海で取れる海産物、肉食のシロとはこれで喧嘩しそうだ。