突然だが、俺は女が苦手だ。いや、恐怖していると言ってもいい。何故か。理由は解らない。物心ついたときには既に、女に対して恐怖を抱いていた。おかげで、中学高校とろくな思い出がない。このままでは、一生童……いや、それはマズイ。男としてマズ過ぎる!
この話は、ある男が前々世、前世に渡る業を背負って生きていく物語である。
「だからといって、一体どうしたらいいんだ。」
その男、横島忠夫は悩んでいた。高校を卒業し特別大学に行くつもりもなかった横島は、父と母が仕事でナルニアへ飛んだ時、ついていってもよかったのだが、行くことを拒んだ。理由は簡単。言葉が通じる女と言葉が通じない女。どちらを選ぶかと彼に尋ねれば当然、前者だっただけのことだ。その結果、
「もう一端の男なんだから、親を当てにするなよ。」
との父からの言葉によって、支援一切なしの生活を余儀なくしている。貯金が多少残っていた横島は母からの
「これが最初で最後の支援よ。」
と言われてもらうことの出来たある程度の金でアパートを借りて、今はそこで苦悩している。
「今までの貯金とお袋から貰った金の余りで今んところは、問題ないがそれも長くはない。かといって、いかなる仕事も何らかの形で……」
そう呟く横島の顔は青ざめていく。
「……だめだ!このままじゃ!!何とか、この体質を改善せねば!!!」
顔を横に振りながら立ち上がった横島は、
「とりあえず……教会に行こう。」
と、部屋を出た。
断っておくが、横島は敬虔なクリスチャンと言った訳ではない。この女性恐怖症を克服しようと、あらゆる事を試した結果が『神頼みしかない』と言う結果になったに過ぎない。何かしらの悩みにぶつかった時にはいつも、近くの教会で神に祈るのだ。お陰で、そこの神父とはかなりの顔なじみになっている。
「こんにちは〜。」
教会に顔を出した横島はそう声をかける。中からは人のよさそうな頭の少し薄……髪の毛の少……生え際が後退……とにかく、そんな神父が顔を出した。
「いらっしゃい、横島君。今日もお祈りかね。」
その男―――唐巣神父―――はそう答える。
「ええ、いつもの悩みとこれからの仕事についてですね。」
横島はそう答えると、いつもの様に十字架の前にひざまずいた。
(神よ、全知全能たる神よ。私の悩みを聞きたまえ。)
何度も言うようだが、横島はクリスチャンではない。よって、こんな時の祈り方も自分流だ。神父いわく、
「正しい祈り方なんてないよ。神を信じてただ、祈るだけさ。」
との事だ。
いつもなら、ただそうやってしばらく祈ってお終いなのだが今日は違った。横島の周りの世界が切り取られたような錯覚におちいり、自分の目の前に光る人影が二人現れたのだ。
<とうとう、彼方に話す時が来てしまったようですね。>
<せやなぁ……。>
光る二つの人影の声が横島に聞こえる。
「あなた達は一体……。」
<キーやん、とでも呼んでください。>
<サっちゃんでええで。>
二人のフランクな物言いに少し、緊張が解けた横島は二人に尋ねた。
「そ、そうですか。それで、話す時って言うのは?」
<実はですね、彼方のその体質についてなのです。>
<そうなんや。その体質な、タダやんの前々世と前世の業……って言うか、そんな感じ。>
返ってきた言葉に驚きを隠せない横島は詰め寄るように尋ねた。
「どう言う事ですか!前々世と前世って!!」
<そないに焦らんでも答えるさかい。実はな、タダやんの前々世と前世、エライ女好きでなぁ。特に前世なんかこの近代社会において、ハーレムまで作りよるぐらいや。それで魂の反動とも言う事が起こったっちゅうことや。>
<本来なら、魂の反動ごときで私達は動いたりしないのですが、こればかりはさすがの私たちも……。実は彼方の前世のハーレム作成には我々も一枚噛んでいまして。彼には、私たちが償っても償いきれない程の重荷を背負わせてしまいまして。最初は償いの一環だったのですが、途中から面白く……失敬、とにかくそう言う事で収集がつかないほどになりまして、結果的に魂の反動がこのような形になって現れたということなのです。>
<それでな、タダやんが18になった時に全てを話そうっちゅう事で出てきたっちゅう訳や。>
横島は頭を抱えながら呻くように
「じゃぁ、なんですか?俺がこんな目にあっているというのは、半分は大局的な自業自得で、半分がお二方の責任であると……」
<まぁ……早い話が、>
<そう言うこっちゃ。>
「ふっざけんなぁ!!!!」
キーやんサっちゃんに対して魂の叫びを浴びせる横島。
「顔も知らんような先祖のツケを何で俺が払わにゃならんのだ!」
<言うても、魂は一緒やから同一人物みたいなもんやで?>
「やかましい!!」
そんな、荒れる横島にキーやんがなだめに入る。
<ですから、このままではあまりにも不憫だと言う事で、あなたに贈り物をと思いまして、やってきたのです。>
そう言って取り出したのはコブシ大の穴の開いた黒い箱。それを興奮冷めやらぬといった感じの横島が見つめながら尋ねた。
「なんですか?これは。」
<これは、彼方が心の奥底で望んでいる望みをつかむ事が出来る箱です。本来ならば、一度しかつかむことは出来ませんが、今回は二度つかむ事が出来るようにしてあります。さぁ。>
そう言ってキーやんは箱を横島の前へと押し出した。
「……そこまでして頂けるのだったら……。」
そう言いながら横島は手を入れ、ピンク色に輝く珠と淡く青く輝く珠を取り出した。
<その珠が一体、どんな物なのかは現世に戻ってから解る事でしょう。それではお行きなさい!>
<くじけずにガンバルんやで〜>
二つの光る人影はそういい残して消えていった。そして気がつくとそこはいつもの教会の十字架の前だった。
「一体、なんだったんだ。あの体験は。」
そう呟きながら自分の手の中に一枚の紙があることに気がついた。広げてみるとそこには
『おめでとう!君に授かった力は前世の霊能力の全てと女の子にモッテモテになる魅力だ!ヤッタネ!
P.S 女性恐怖症の克服と言う願いは魂の反動に反するものだから叶える事は出来ないのだよ。そこんとこ、よろしく。』
横島の願いの一番は当然女性恐怖症の克服だった。しかし上記のような理由で叶うことはなかった。それで叶うことになったのは二番目の『これからの仕事』。今現在でもGSと言う仕事はかなりの高額な報酬を得ることが出来る職業である。これについては特に反論はない。しかし三番目の願いである『女の子にモッテモテ』は女性恐怖症克服が大前提である。しかし、キーやんも言っていたように、『心の奥底で望んでいる望みをつかむ』という点。男である限り、この望みはおそらく普遍的なものであるだろう。その願いが叶ったというわけである。
「ふっざけんな〜!!どちくしょ〜!!!」
横島の魂の叫び再び!である。
ちなみに、神父は
「私は見ていない……何も見てはいないぃぃ!!」
横島がうつむくその先で光る人影―――三対の羽を持つものと頭に荊の冠を掲げるもの―――が見えてしまったことについて、その二つの影が声こそ聞えないものの、漫才をやっているような風に見えてしまった事を必死に全否定していた。
続く
後書き
前作GSザウルスの変形版です。前作はとある事情で真っ白になってしまったのでこのような形を変えた作りで再登場と言う訳です。
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