助けたい・・・。
何があっても、どう思われても、罵られてもかまわない。
助けたい、祐巳様を!祐巳様だけを!!
この「紅薔薇のつぼみの剣」の名に懸けて、愛するお姉様だけでも助けたい。
あたりは漸く静けさを取り戻した。
先程までの銃声、切り合いの音や敵の上げる奇声はもう聞こえない。
今日の襲撃は防ぎ切ったのだろう・・・。
もはやバリケードの役目を果たせそうもない、崩された壁。
先輩方が親しんだマリア様の見守る学園はもうない。
よく見ると自分の制服も敵の返り血に染まっている。
得物である2mを越える長さを誇る愛剣フランベルジュ−−−銘を師に賜って「不退転の決意」という−−−も所々刃毀れし、返り血に濡れていた。
あの日、校庭に突き刺さった巨大な剣。
その周囲3kmほどが校舎、生徒とともに異世界に引きずり込まれてしまった。
そして、襲ってくる敵、敵、敵。
「環境整備委員会=リリアン女学園騎士団」が幾度か撃退したが徐々に押されている。
敵は自分たちを、女を殺さない。
ただ、つれ去るだけである。
つれ去られた生徒を助け出し、この世界から帰る。
それが山百合会の下した決断だった。
華族のお嬢様を育成する明治の御代から続く由緒ある女学校であるリリアン女学園はあまり自衛などとは縁遠く思われるが、銃後の守りは女人の努め、交流のあったフランス、イタリア、スペインなど南欧のカソリック系教会騎士団などから様々な技術を学んでいた。←学ぶなよ、そんなとこから(汗)
前述の「リリアン女学園騎士団」などはその典型と言える。学内には馬を持たないだけで(契約牧場に約30頭ほどウォーホースを所有)、実際の装備は銃火器、剣、槍(馬上槍=ランスもあり)、槌、盾、部分鎧などこの現代とは思えぬほど充実している。
ただ、悲しいかな、人員が少ない。
通常、学内に侵入してくる不埓者など一度に数人程度である。優秀な騎士団員なら一年生一人でも拘束できる。それにあっても年に数回しかない。
そのため、年々規模は縮小され(第二次世界大戦時には常時180名ほどで構成されていたという記録もある)、現在は60人をわずかに上回るのみ・・・。たまたま、「白薔薇様(ロサ・ギガンティア)」藤堂志摩子様が所属していたこともあり、騎士団員の士気は高いがやはり数には贖い切れない。
「黄薔薇様(ロサ・フェティダ)」支倉令様が剣道部、弓道部、合気道部、薙刀部などの武道系と運動部系の有志を率いて遊撃し善戦しているが焼け石に水であった。
「紅薔薇様(ロサ・キネンシス)」小笠原祥子様はこの絶望的な状況の中、防戦の総指揮と生徒の士気を鼓舞し続けている。
そう、あの巨大な剣「ダイ・ソード」の召喚者となった学園の希望、「紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブトゥン)」福沢祐巳様。祐巳様がいる限り、学園生徒は挫けることがない。
だからこそ、今から手を打っておかなければならないのだ。
どんな事態になっても祐巳様のみはお助けできるように!!
「瞳子さん、ここの人達は撤収しましてよ?私達も薔薇の館へ戻りませんと・・・」
相棒である、同じ「紅薔薇のつぼみの妹」細川可南子さんが話しかけてくる。幅広い大陸渡りの長剣に柄を付けたような長槍、雷獣を縫い付け封印していたと伝えられる破魔の霊槍「獣の槍」にも焼け焦げたような跡がある。
互いが互いに相手を快く思っていない。
だが、姉である祐巳様のことを相談するなら、これ以上ないくらい絶対の信頼に値する相手だった。
例え世界中を敵に回しても最後の最後まで祐巳様の味方をやめることのない、そう言い切れる数少ない相手であるのだ、細川可南子という存在は。
瞳子は声を潜めると可南子さんに話しかける。
「可南子さん、少し待ってください。大事なお話がありますの。」
「私に?・・・どういうことです?」
「話しておきたいことがあるんです、祐巳様のことで」
「・・・わかりました。伺いましょうか?」
「今は敵の攻撃を乗り切れていますが、そろそろ弾薬の残りも少なくなってきてます。まもなくジリ貧です。ユーリナさんでしたか?あの方のお話だと敵の狙いは『ダイ・ソード』とその召喚者です。逆に言えば敵が恐れているのは『ダイ・ソード』のみと言えます。ですから万が一の時、山百合会の他の皆さんを囮にしてでも祐巳様を逃がす必要があると思うんです。」
そこまでで瞳子は科白を切って、可南子さんを見つめる。
可南子さんは目を瞑って話を吟味しているようだ。
「これは祥子お姉様、黄薔薇様、白薔薇様とも相談済みですし、黄薔薇のつぼみ、由乃様にもお話してあります。」
「2年生以上はご承知のことと?」
「ええ・・・まだ乃梨子さんにはお話しておりません。」
「それで私にどうしろと?」
可南子さんは探るかのように瞳子に聞く。
「その時が来ましたら、由乃様と祐巳様、乃梨子さんを逃がすことになりますが、あなたには祐巳様に付いて行ってほしいんです。」
「私が?あなたの方が適任ではなくて?」
可南子さんが意外そうに聞き返す。
それに対して瞳子は答えた。
「私では薔薇様方、いえ、特に祥子お姉様を前にしたら必ず躊躇してしまうでしょう。祐巳様を護るためとは言え、祥子お姉様を囮にすることを。だから脱出の際は陽動のため薔薇様方と出ます。」
「瞳子さん・・・貴方は(絶句)」
「可南子さんならお出来になるでしょう?微塵の躊躇もなく、祐巳様を護るためなら他のものを、例えば由乃様や乃梨子さんを切り捨てることができる。たとえ後で後悔するにしても泣くにしても祐巳様にそれをお見せする事なくお一人で決断出来るでしょう。だから貴方に頼みたい、何よりも大切な方だからこそ貴方に!」
可南子さんは目を見開いたまま、絶句している。
それはそうだろう、共に逃げたはずの仲間さえ囮に使えというのだ。だが、瞳子から伝わる決意、並外れた意志が見えた。
『祐巳様を護る』
それは可南子さんの意志でもあった。
「わかりましたわ・・・瞳子さん、いえこう呼ばせてもらうわ、瞳子」
「そろそろ戻りましょうか・・・日が暮れますから。可南子。」
二人は歩いて行く。
最愛の姉、祐巳様の待つ薔薇の館へ・・・。
決意を秘めて。
暗転
「ってなんじゃぁ〜〜〜〜こりゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
ドリルぢゃねぇ(汗)松平瞳子さんの朝は絶叫と共に始まった。
大声のせいか窓ガラスにひびが入り、所々欠けていくのは何かの見間違いだろう、きっと(汗)。
寝起きなのでいつもの髪形ではなく、寝る前に解いた髪先が思う存分撥ねている。昨夜はかなり魘されたらしい。
家中に響き渡るほどの大音声であったはずだが、家族の者は慣れているのか様子を見にもこない。さすがである。
この日、普段は何かにつけて大暴れする、「双子の怪獣」が殊の外静かだったと学級日誌に二人の飼育係ぢゃなくて管理人ぢゃねぇ、イチオー親友ってことになっちゃってる(汗)「白薔薇のつぼみ(ロサ・ギガンティア・アン・ブトゥン)」二条乃梨子さんは記している。
めでたくもあり、めでたくもなし
蛇足
ドリルの寝室のベッドの脇には、最近伺った祐巳様の家で、祐巳様の弟祐麒さんから借りて来た某漫画文庫全4巻が置かれていた。そりゃもうしっかりと(冷汗)。
あとがき
何か変なのキました(汗)。
しかも夢オチ(大汗)。
「マリア様が見てやがりまくり♪」本編というより、外伝ですな(冷汗)。
うちの瞳子っちも可南子っちも何気なく闘いとか、武器を構える姿が似合うとか、すでに「お嬢様」ぢゃねぇって感じですけど、オレの書くリリアン女学園は「男塾」か何かでしょうか?(滝汗)
それにしても今回の電波は最近読み直した「轟世剣ダイ・ソード(長谷川裕一著:講談社漫画文庫全4巻)」のせいでしょうか?
それともオレ様の精神状態イイ感じにヤバ目なせいなんでしょうかねぇ・・・(クスクス)。
しかし、斬り合いしても、返り血浴びても、全くパニクらないお嬢様ってなんかすっげぇイヤ(笑)。
っていうか、「リリアン女学園騎士団=環境整備委員会」ってイヤ過ぎる気がします、何気に。きっと某13課「イスカリオステ」や某埋葬機関みたいな感じなんでしょう・・・。すみません、嘘です<(_ _)>
環境整備委員会
リリアン女学園の「環境」を護り整えるため活動する、現在は「白薔薇様(ロサ・ギガンティア)」藤堂志摩子様直属の学園最精鋭の戦闘集団。第二次大戦中は最大180人の規模を誇ったが現在は約60人で構成されている。
志摩子様直下の「親衛隊=白薔薇」10人、「右翼隊=紅薔薇」20人、同じく「左翼隊=黄薔薇」20人、「従士隊=つぼみ」若干名を以て構成される。
両手、両足、胸当てを板金鎧の部分鎧で覆い、銃火器、剣、槍、槌、盾などで武装している。鎧は軽装用の革鎧もあり、その場合は弓、小銃なども装備する。
学内には馬を持っていないが契約牧場に約30頭ほどの馬がウォーホースの訓練を受けている。
また、銃火器などの扱いにも長けている。
(野戦砲とかもあるらしいけど内緒の秘密らしいw)
従士>騎士>上級騎士>騎士長>騎士団長(>騎士団将=薔薇様)
今回の瞳子ちゃんの夢の状況は、定期演習前(半期に一度らしい)に運び込まれた弾薬(通常備蓄の5倍)のため、敵の撃退に成功しつつあるが、弾薬の補充の当てがないため、ジリ貧になりそうというものであった。