本日は新聞部の取材が薔薇の館であるようです。
何でもそれぞれの薔薇ファミリーごとの取材のようで、黄薔薇ファミリー、白薔薇ファミリーはすでに先週までに終わり、学園祭まで騒ぎの元ぢゃなくて、元凶でもなくて、話題を提供しまくりやがっていた紅薔薇ファミリーの順番…胸騒ぎがします。間違いなく騒ぎになる…杞憂だと良いんですが。
髪を七三分けにした、新聞部部長にして「リリアン瓦版」編集長であるところの山口真美さんは、イイ加減グッタリきていた。
学園祭終了直後、今後の山百合会、薔薇ファミリーについて取材を申し込み、友人である「紅薔薇のつぼみ」福沢祐巳さんの尽力で許可はあっさり降りた。そりゃもうテキトーなまでの素早さで。まぁ、そこまでは良い。
それぞれ二人ずつの黄薔薇、白薔薇ファミリーの取材もあっさりと終わり、先週号と今週号に掲載されてメッサ好評だ。
「黄薔薇のつぼみ」島津由乃さんの悩み事や「黄薔薇様」支倉令様のお料理(手軽にできるお菓子レシピ付き♪)についてのお話、「白薔薇のつぼみ」二条乃梨子さんの山百合会の裏話(一応ダイジョブなところだけだったけど)や「白薔薇様」藤堂志摩子さんの昨年の思い出話など普段聞けない話を満載し、会心の出来だったと断言できる。
しかし、「リリアン瓦版」の読者であるところのリリアン女学園高等部生徒が固唾を飲んで待っているのは、学園祭まで話題の中心っていうか騒ぎの元凶であった「紅薔薇のつぼみ」とその妹たちについてであった。
投書・要望などほとんど来たこともない「リリアン瓦版」に読者の要望が文字どおり積み上がったのだ!(地面から天井近くまで!!)真美さんの姉であり、現在は引退しているはずの前部長にして前編集長であるところの築山三奈子様は喜びのあまり、その集計を一人で、しかもたった1日で終わらせ、結果を部会で発表しまくり気合い入りまくり暴走しまくりであった(汗)。
今日の取材も「私が行く!!」と言い出して、走りだろうとしたところを盟友の武嶋蔦子さんに手伝ってもらって、ようやく物理的に止めてきたのだ(手段については聞かないでほしい…まぁ血は出てないので問題はないだろうが←問題です)。
『お姉様、私はあなたの尊い犠牲を無駄にしませんわ!』←マテや、加害者だろう、アンタも(汗)。
と意気込んで来てみたら…薔薇の館は、紅薔薇ファミリーの内戦のまっただ中にあったのだ。
「あ、真美さん?もうすぐ終わると思うから、こっちでお茶を飲みましょう?(ニッコリ)」
祐巳さんは、この状況に慣れているのか、被害の及ばない場所で手招きしている。どうやら黄薔薇姉妹や白薔薇姉妹はすでに避難済みらしい。・・・でも慣れているって、祐巳さんと双子の妹たちが姉妹(スール)になったのは先月くらい…。まだ1ヶ月経っていない。ま〜さか毎日この状況なのだろうか?
顔中にハテナマークを張り付けている真美さんを引っ張って、席につけると優雅な手付きで紅茶を入れてくれた。気を効かせてくれたのか、若干以上温めのソレを(リリアンの生徒にあるまじきことだが)一気に飲み干すと、祐巳さんに聞いてみた。
「ま、まさかいつもああなの?紅薔薇様とつぼみの妹たちって…(絶句)」
「え?そうでもないよ。大体週に3回くらいかな?3人とも仲が良すぎてね♪私を置き去りにしちゃうんだもん(プンプン)」
『ぜってぇちげぇよ!アンタを取り合ってるんだよ!間違いなく!!』と声を大にして言いたいところだったが、後ろの方で聞こえる、「紅薔薇様(ロサ・キネンシス)」小笠原祥子様のお聞きしたことのないような鋭い怒声と、何かを刺したり斬ったりする破砕音が怖くて言い出せない。
(「いい加減になさい、私は祐巳の姉よ、今回は譲りなさい!!」「「ずるいです!昨日もそうやってお二人で帰られたじゃないですか!!」」「姉ですもの、当然でしょう!」「「祐巳お姉様は私にとってもお姉様です!二人きりで…(ハッ!)」」「く、邪魔よ可南子さん!喰らいなさい!零式防衛術『因果!!』」「笑止!祐巳様と帰るのは私ですわ!この『獣の槍』で切り裂いてあげますわぁ!!」ズドドドドドドドドドドドドッ)
何でこんな状況で落ち着いていられるんだ、祐巳さんは!!
思考が堂々巡りし始めた真美さんを横目で見た祐巳さんは、ため息を付くとちょっと大きなお声で注意した…言うまでもなく彼女の姉と妹たちに。
「ちょっと!お姉様、瞳子ちゃん、可南子ちゃん!せっかく新聞部の真美さんが取材に来てくださっているのに、いつまで騒いでいるんです!!(バーーーーーンッ:机を叩きながら)」
ピタッ(ギクリッ)
シーーーーーーーーン(笑)
あっと言う間に静まり返る部屋…。
「ゆ、祐巳?これはネ、え〜〜とネ……(汗)」
「ゆ、祐巳様?こ、コレには海より深く山より高いわけが…(冷汗)」
「ゆ、祐巳お姉様ぁ、ごめんなさぁい(泣)」
「言い訳は良いです…。後、瞳子ちゃん?」
「は、はい…(ドキドキ)」
「ちゃんとお姉様って言いなさい?(ニッコリ)」
「「「………(ポッ)」」」
注意された時点で若干一名はすでに泣き声である。何気なく3人共直立不動になっているのがおかしいと言えばおかしい。
この瞬間、山百合会の本当の支配者が誰なのか、真美さんはわかった気がした。写真部の武嶋蔦子さんが何故あれほど祐巳さんを尊敬しているのかすごくよくわかる…今となっては(汗)。よくこんな騒ぎを簡単に鎮められるものだ。まさに祐巳ミラクルだ!!
「お姉様、取材を受けますからテーブルをかたずけてください。瞳子ちゃん、人数分の紅茶を用意して。確かこの前持ってきたアールグレイがあるから。お湯はキャトルを火にかけているからすぐに沸くと思うから気をつけてね。可南子ちゃん、怒ってないから手伝ってね。今日はチーズケーキを焼いてきてくれたんでしょう?切り分けてね。」
「わ、わかったわ、急ぐわね。」
「はい、祐巳お姉様。(アセアセ)」
「グスッ、ゆ、祐巳お姉様、わかりましたぁ」
た、頼もしい。なんて頼もしいんだろう。1年前蔦子さんとフォローしてた頃が懐かしい。
最近、由乃さんや志摩子さんがインタビューで祐巳さんのことばかり話していたのは、山百合会の中心が祐巳さんだから…。
一生懸命、インタビューのセッティングをする4人の紅薔薇ファミリーを見ながら、真美さんはそう思った。
インタビューは若干時間をオーバーしたが、実りのある時間だった。真美さんはコレを特ダネにするべく、新聞部の部室へと向かうのであった。
しかし、真美さんは知らなかった。数時間前物理的に行動を阻止した自分の姉が拘束を自力で解いて部室で待ちかまえていることを!その額には青筋が立ちまくっている…。
その情報を知っていて、忠告してくれるはずの友人が「紅薔薇ファミリー」の撮影のため、会うことができないことを!
そして、クラブ館から絹を切り裂くような悲鳴が聞こえたとか、聞こえないとか(合掌)。
最新号の「リリアン瓦版」は過去最高の発行数となり、好評につき3度に渡って復刻されることになる。どころか、初等部、中等部、大学部からも引き合いがきて嬉しい悲鳴が木霊したらしい。真美さんが記事の中で「薔薇の中の薔薇」と祐巳さんを評したことで、その呼び名はその後祐巳さんの代名詞となるのだが、ソレはまた別の話。
P.S.
あまり生徒が訪れることの少ない、古い温室。ここは紅薔薇ファミリーにとっては大切な場所…。そう、四季咲きである「紅薔薇(ロサ・キネンシス)」が咲く温室なのだ。
そこに紅薔薇ファミリー4人は祥子様を中心にその後ろに祐巳さん、左右に瞳子さんと可南子さん…。リリアンの生徒なら失神モノの「紅薔薇ファミリー」の1ショット、写すのは当然祐巳さん専属カメラマン(?!)武嶋蔦子さんである。
紅薔薇のつぼみの会心の笑顔が写ったその写真は、リリアン瓦版の他、パネルとして写真部の定期展示会で大評判になるのであった。
「蔦子さん、今度は私と祐巳の『ツーショット写真』をおねがいしますわ♪」
「「ずるいですわ!祥子お姉様(紅薔薇様)私たちも祐巳お姉様との『ツーショット写真』をお願いします!!」」
ギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャア
双子の怪獣相手に一歩も引かず、同じ次元で相争う祥子様…。
ふぅ、やれやれだぜ?蔦子さんと祐巳さんは顔を見合わせると、一緒に肩をすくめた…。
終わる!
ちょっち設定〜〜♪
【リリアン女学園・一般生徒】
山口真美(やまぐち まみ)
(高等部2年、新聞部部長)
後述の築山三奈子の妹で、現在新聞部部長=リリアンかわら版編集長を勤める、七三分けのお嬢さん。
暴走しまくる姉の火消しに大忙しな、リリアン有数の苦労人。
祐巳の友人として山百合会の外側から祐巳をフォローする。山百合会を含めて支える人材の多さは祐巳の(自分では気づいていない)人望だろう…。その極一部(とは言えないほど多いけど)萌え狂ってたり、ラブってるのがいるとは言え(大汗)。
築山三奈子(つきやま みなこ)
(高等部3年、新聞部前部長)
一言で言うとリリアン女学園の一人「東スポ」。補足するなら一人「女性自身」(笑)。
過去何度も筆禍事件を起こしながらも、有り余るヴァイタリティと強引にネタを仕入れる幸運の箒と塵取りでグイグイ事件を引き寄せ、1の事件を10の記事にしたりしている(笑)。