ココは純粋な乙女の園、リリアン女学園。その一角、マリア様の像を見通せる木の陰に、カメラを持ってアンブッシュしている少女がいる。←マテ
一人の生徒がマリア様に祈りを捧げ、立ち去ろうとした瞬間にそれは起こった。
「はわわわわわ〜〜〜〜〜」
スッテ〜〜〜〜〜〜〜〜ンッ!!
躓くようなものが一切ないようなところで、制服が捲れ上がり可愛らしい白の下着(ちなみに上下、だって制服ワンピース型なんだもん♪)が丸見えになるほど豪快に一回転して倒れ込む。ちょっと真似できないほど完璧(パーフェクト)な転がりっぷりであった。
制服が汚れることさえ気にすることなく、一心不乱に被写体を追い、シャッターを切り続ける。って普通盗撮って言わんか、ソレ(汗)。
カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ
余程良い写真が撮れたのであろう、ファインダーごしに会心の笑顔を見せる。
「ヤダも〜、わたしったらこんなところで…(真っ赤)」
左右を見回しながら真っ赤になってその生徒は立ち上がる。
「(キョロキョロ)誰も見てませんよね?見てなかったですよね?マリア様お騒がせしてすみません、これからは気をつけますから〜、もう祐巳ってばホントにドジなんだから(真っ赤)」
ブバッ!
カメラを構えたまま「萌え血」を吹き出す木陰でアンブッシュしていた少女。漢らしく萌え血をふき取ると何かをやり遂げた顔で身を起こす。
『やっぱり、祐巳さんはイイ!っていうか、サイコー?!』
丁度その時。
「「蔦子様…」」
ビクッ!!
突然呼びかけられ、一瞬シスターと思ったのか、カメラの少女は恐る恐る振り返る。
少女の名前は武嶋蔦子。リリアン女学園高等部2年生で写真部副部長、そして昨年「紅薔薇姉妹」の伝説的なリボン直しのシーン(タイトルは「躾(しつけ)」)を撮影・公開し、現在の「紅薔薇のつぼみ」福沢祐巳さんを表舞台に引き上げた張本人の一人である。
まったくの余談だが、授業中以外はカメラを持ち歩き隠し撮りまがいの撮影を敢行し、よくシスターに注意を受けたりしている以外は、どこにでもいるような、極普通の生徒である(ちなみにこの一文には多大な嘘が含まれていることを注意してほしい)。
振り返り声をかけた人影を一瞥すると、安堵のため息を付きながら、蔦子さんは聞いた。
「で、祐巳さんとこの『双子の怪獣』が何のご用?祐巳さんはさっき通り過ぎちゃったわよ?」
先週終わった学園祭までの大騒ぎの中、蔦子さんの友人である祐巳さんはリリアン女学園史上前代未聞の二人の妹を得たのだ。
寄ると触ると大騒ぎする、この双子(性格以外は全く似ていないが)の「紅薔薇のつぼみの妹」のことを蔦子さんがこう呼んだことで一気に通り名になってしまうのだが、それはまた別の話。
「「誰が双子ですか、誰が!?」」
こう言うときは気が合うのか、答えが完全にハモっているのがおかしい。と蔦子さんは思った。
『こりゃ〜祐巳さんが力任せに可愛がるはずだわ(微笑)』
そう、彼女たちの姉である祐巳さんは去年まで「白薔薇様(ロサ・ギガンティア)」佐藤聖様に自分がされていたように、積極的にスキンシップしまくるのだ…場所を選ばずに(汗)。
その犠牲者は主になったばかりの妹たちであるが、下級生と積極的にスキンシップしまくるその様子から、先代「白薔薇様(ロサ・ギガンティア)」佐藤聖様の二つ名だった「下級生殺し(スール・キラー)」と呼ぶものも出てきている。
そのセクハラぶりといったらもう、後ろから抱きつく(汗)、耳に息を吹きかける(冷汗)、抱き締めた後囁く(大汗)、いきなり腋の下を擽る(滝汗)など力任せの可愛がりっぷりで、リリアン女学園生徒の話題を独占しまくっていた。
その力任せの可愛がりように一年生や同級生はもとより、祐巳さんの姉で「紅薔薇様(ロサ・キネンシス)」小笠原祥子様が孫たちである「紅薔薇のつぼみの妹」に嫉妬してヒステリー全開で暴れ回るという、前代未聞の現象さえ起きている…。全く罪作りな…。
そう思ったが口には出さない。顔にも出さない。言ったら最後、巻き込まれて騒ぎの渦中の人になってしまう!
「それで?一応上級生でもある私に「ごきげんよう」の挨拶もなく、何の用?」
逆光が眼鏡に反射し、蔦子さんの目が見えない。先程までのアンブッシュのため埃で汚れた制服と構えられたカメラが視覚的な効果を倍増し、かなり怖い光景だろう。純粋培養の幼稚舎からのリリアンっ子の新入生なら涙ぐむかもしれない。っていうか、ぜってぇ泣く(キッパリ)。
しかし、目の前の「双子の怪獣」はそんなことはまったく気にしなかった。っていうか、姉である祐巳様以外は何者をも気にしていないって言うのが真相だと思うけど…。
「「私たちは双子ではありません!!」」
さっきの答えになっていないが、またもやハモっているのがおかしいので、それに免じて蔦子さんは聞き直すことにした。
「それで? あなたたちが姉である祐巳さんに声をかけず、物陰にいた私に声をかけたのはどうして?」
まだまだ文句を言いたそうだったが、気を取り直したのか背の高い髪の長い女の子が前に出た。一時期祐巳さんの熱烈的ストーカーだったという異色の経歴(←マテ、それだけかよ!)を持つ細川可南子さんは小声で話し始めた。
「そうですね、実は蔦子様に折り入ってご相談がありまして…」
何だろう?祐巳さんの(無断)撮影をやめろって言うんだろうか?しかし、祐巳さんは蔦子さんが生涯をかけて撮していきたい存在なのだ。それだけはカンベンしてほしい…と蔦子さんが思っていると、やっぱり双子の怪獣(の片割れ)期待を裏切らない(笑)。
「先ほど蔦子様がお撮りになられた、『マリア様の像の前の何もないところで、可愛らしくも清潔な白い下着が丸見えに(ポッ)なるほど豪快に転ばれ、起きあがるときに周りに誰もいないかと笑ってごまかされ、照れまくって去って行かれる祐巳様」』連続写真を是非とも譲って戴きたく…」
可南子さんがしゃべっていると我が意を得たりと、縦巻きロールな女の子・もう一人の「つぼみの妹」松平瞳子さんが加わってくる。
「そうそう、私と祥子お姉様の分もお願いしますわ♪………ってちっげぇわよ、可南子!!祐巳お姉様の無断撮影をやめてもらうんじゃなかったの?!」
「あら?そんなこと言ってましたっけ?」
記憶にありませんと可南子さんは瞳子さんに、どキッパリと言い切りやがりました。
「こ、この、腐れストーカーのノッポ=通称ジャンボは言うに事欠いて!」
「全くうるさいドリルですこと…チンクシャ(ポソッ)」
どんどん険悪になる雰囲気、声をかけておきながら、蔦子さんを無視してヒートアップしていく双子の怪獣(笑)。
「祐巳様に免じて黙っていれば、この「貞(ぴ〜:放送禁止音)」はとっととビデオテープか井戸に戻って一生籠もっていなさい!」
「…先日あった身体検査のデータを調べて祐巳お姉様のサイズを知って一人でヘラヘラしていたのはアナタでしょう!人のことは言えませんわよ、ドリルストーカー娘!!」
ピシッ!
お互いの額に無数の青筋が浮かぶ!
どこから出したのか、瞳子さんは2mほどもある西洋剣フランベルジュを片手で構え、可南子さんはこれもどこから出したのか幅広い直剣のような穂先をつけた槍(獣の槍?!)を構えて殺る気マンマン…。
あんまりな状況に、呆れて見ていた蔦子さんは完全に脱力して、双子の怪獣にこう仰いました。
「それで…結局のところ、この写真はいるの?いらないの?」
「「ください」」
どうやって戻ってきたのか、一瞬で蔦子さんの足元で二人して土下座する双子の怪獣(汗)←ちょっとマテや、オマエラ(笑)
『祐巳さん、私はマジであなたのことを尊敬するよ…。祥子様や聖様、由乃さん、志摩子さんの相手だけでも大変なのに、アンタ妹までこんなの選んでどうすんのよぉ(汗)。それも2匹も(大汗)。』
蔦子さんは盛大にため息を付きながら、級友に心で語りかけた。
P.S.
1週間後、メッサご機嫌なご様子の「紅薔薇様(ロサ・キネンシス)」と「紅薔薇のつぼみの妹たち」が、ルンルン気分(←ぜってぇ死語)で手帳を眺めながらニヤニヤするところが学校のいたるところで目撃されることになる。
さらに「紅薔薇のつぼみの妹たち」の通称として、「双子の怪獣」が広く認知されることになった。
「「納得いきません!何でコイツ(お互いがお互いを指さす)と双子なんですか!!」」
ちょっとマテ、オマエラ。怪獣は良いのか、怪獣は?(笑)。
終わる!!
ちょっち設定〜〜♪
【リリアン女学園・一般生徒】
武嶋蔦子(むとう つたこ)
(高等部2年、写真部副部長)
祐巳の級友で、祐巳が「紅薔薇のつぼみの妹」になるきっかけを作った。
現在も同じクラスで影に日向に祐巳をフォローする。かなりの世話好きでしっかり者。
いかなる時もカメラを手放さず、絶えずシャッターチャンスをねらっている。
前述の真美とともに祐巳を山百合会の外から支える有力なブレーン。
祐巳が祥子様にリボンを直されている写真「躾(しつけ)」は今現在も後もリリアンの姉妹(スール)関係の一種の理想とされている。
実はまったく関係ないが公表できないヤバい写真も多いらしい…なにがどうヤバいかは定かではないが(汗)。
彼女の最大の功績は目立たない存在だった福沢祐巳を表舞台に引き上げたことであろう。3年間撮り溜めた祐巳の写真は「福沢祐巳写真集 薔薇の天使〜「薔薇の中の薔薇」の3年間〜」として結実し、永遠にリリアン女学園史に語り継がれるであろう。まったく関係ないがNG集やカナリきわどいものを取りまとめた裏版の存在が絶えず噂されているが、蔦子本人は必死に否定している…まぁ祐巳には永遠に内緒の秘密であろう(笑)。