親子・・・（ＧＳ）

『ああ、何から話そう。

あまりにも物事が複雑すぎて何を最初に持ってくればいいのか解らない。

そうだ、まずはもともとの原因となったことから話そう。

そうすればきっと伝わると思うから・・・』

横島忠夫のある日の回想録より抜粋。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　親子・・・

親父がニューヨーク支社へ異動となった。

何でもナルニアでの仕事が認められての栄転らしい、誇らしげに電話口で語った親父の声が懐かしい。

ついでだからお前もニューヨークに来ないかと誘われたが断った。

バイトも高校もあるし、何より英語を喋れない自分にはアメリカなど宇宙人の住処とそう変わらない。

バイトは止めればいいし、高校は編入すればいい。

英語なんか喋れなくても問題ない、ジェスチャーと１００にも満たない単語だけでも十分生活には困らない。

お袋にはそう説得されたが、それでも嫌なものは嫌だ。半ば無理やりに電話を切りうやむやにした。

ただ親父からのボインボインのパッキンギャルが山ほどいるぞ！！という言葉には揺らぐものがあったが。

それが一週間前のこと。

珍しくバイトを休んで高校へ行った。

さすがにこれ以上休むと進学は厳しいと言われれば、さすがの俺も行かざるを得ない。

何せ一週間ほど前にアメリカ行きを断ったばかりだ、ここで留年でもしたら何を言われるか解らない。

俺には理解不能なことを延々喋り続ける物理教師。

眠い目をこすりながら必死に黒板の文字を取る。

その文字がどういう意味かはさっぱりだが、一応とっておいた方がしないよりマシだろう。

そんな時だった。

「横島、ちょっと・・・」

授業中にもかかわらず担任から呼び出されたのは。

廊下に出た俺にしきりに担任が落ち着いて聞いてくれと言ってくる。

慌ててんのはアンタだろ、と言ってやりたかったが、担任があまりにも真剣な顔をしていたのですんでのところで飲み込む。

俺が落ち着いているのを見て取った担任がゴクリと唾を一飲みして言葉を発す。

「君のお父さんが入院した。今日明日がヤマだそうだ・・・」

・・・・・・・・・・・・音が、消えた。

その後のことは実ははっきり覚えていない。

「とりあえず君のお母さんからすぐに来てくれとのことだ。空港には会社の人がいるからその人からニューヨーク行きの切符をもらって・・・」

目の前の人間が何を言っているか解らない。

親父が入院？

今日明日がヤマ？

・・・・・・ハッ、冗談にしても酷過ぎる。

あの親父だぞ？殺したって死ぬタマかよ。

どうせどっかで『ドッキリ』とかの看板があるんだろ？

しかし事態はそんな逃避を許してくれない。

高校側が呼んでくれたタクシーに乗って成田へ。

バイト先へは携帯で連絡を取る。

電話口のおキヌちゃんが俺を励ましてくれていた気がする・・・が、覚えてない。

ただ、最後に『きっと無事です！！だって横島さんのお父さんですから！！！』と言ってくれたことだけは覚えていた。

その言葉で少しは落ち着けたから・・・。

成田に着いた俺を出迎えたのは眼鏡をかけた有能そうな男だった。

「横島　忠夫さんですね？」

「はい」

「私はクロサキという者です。では早速ですがこれが横島部長が入院されている病院の住所です。下に書かれているのは百合子様の携帯の番号、さらにその下が私の番号です。何かありましたらどちらかに連絡を。そしてこれがニューヨークまでのチケットです。それとお金を持っていないのは問題ですのでとりあえず１千ドルほどお渡ししておきます」

「ど、どうも・・・」

テキパキと作業を終わらすクロサキさんに何故か圧倒される。

「ゲートは１７番です。ではお二人をよろしくお願いします」

クロサキさんペコリとお辞儀をして、その場で俺を見送る。

そして俺は機上の人となった。

ニューヨークについたのは午前中だった。

止まってるタクシーに、病院の住所を見せる。

気を利かせてくれたのだろう、病院の住所はしっかりと英語で書いてあった。

程なくして病院に到着。

「How　much？」

「$15.23」

覚束ない手つきで払い、足早に病院へ入る。

受付で片言ながら『横島に見舞いに来た』と伝えると部屋の番号を教えられる。

半ば駆け足で病室へと向かう。

　　　　　　　　　　　　　　コンコン

ドアをノックし、返事が返る前に荒々しく開ける。

そして俺がその部屋で見たものとは・・・

ベッドに横になり―――

顔に白い布を被せられた―――

親父の姿だった―――

「お・・・や・・・じ・・・・・・？」

―――信じられなかった。

そんなことはありえないと必死に自分に言い聞かせてきた。

だが目の前の現実が全てを否定する。

俺の親父、横島　大樹は死――――――

「あら、忠夫。意外に早かったわね」

「お袋！？」

「ほら、そんなところに立ってられると邪魔じゃない。早く中に入りなさいよ」

花瓶を持ったお袋がシッシッと手を振る。

その落ち着きように、俺はとにかく腹が立った。

「お袋！何そんなに落ち着いてんだよ！！？」

「お前こそ何そんなに熱くなってんだい」

「何って、親父が死んだんだぞ！？落ち着いてる方がどうかしてるだろ！！！」

「へ？あなた、死んだの？」

「いや、生きてるぞ」

「はい？」

お袋の問いかけに死んだはずの人間から答えが返ってくる。

「よっと・・・」

ムクリとベッドから身体を起こす親父。

「な、何で生きてんだよ！！？」

「生きてちゃ悪いのか？」

「いや、悪くはないけど・・・って、何で顔に白い布張り付けてんだよ？」

起き上がっても変わらず白い布が乗ったままの大樹の顔。

「ああ、それは驚かせないためよ」

「驚かせないため？」

首を捻る俺に、お袋が楽しそうに笑いながら言う。

「気絶しても知らないわよ？」

パラッと捲ったその顔は・・・人間じゃなかった。

「・・・・・・・・・だ、誰？っていうより、何？」

「親の顔に向かって何てこと言うんだ、お前は！！」

「いや、だって・・・」

これは仕方がないと思う。

何てったって親父の顔がもうボコボコのボロボロで原形を留めてないのだ。

人の顔というよりも素人が作った饅頭と言う方が正しい気がする。

「で、いったい何がどうなってんだよ？」

もう何がなんだか解らない俺にお袋が事の顛末を説明してくれた。

ニューヨークに来てから一週間。

その一週間の間に親父は１０人と浮気した。

懲りない親父・・・。

まあそれはともかく、何が悪かったかというとその１０人との浮気が一気にばれたことだった。

当然夜叉と化したお袋が親父をボコボコにする。

それは今までにもないほど激しかったらしく、いつもは数分で復活するはずの親父がいつまでたっても意識を取り戻さなかったらしい。

これはやばいとお袋が病院に連絡、返ってきた答えが『今日明日がヤマ』だったそうだ。

もちろん親父が死なないと１００％考えていたお袋はこれを使って俺をニューヨークに呼び出す計画を立てたということらしい。

そして俺は見事にそれに嵌ってしまったというわけだ。

「アホか！！俺は帰るぞ！！！」

「残念ね。もうアパートは解約、アルバイトには辞表を出しておいたし、高校の編入届けも出してあるわよ」

「いつの間に！！？」

さすがに若い頃は会社一の切れ者だったお袋だ、すでに俺の退路はふさがれていた。

「久しぶりに家族で暮らせるわねー。まさか文句はないでしょうね？あ、それとあなた？今度浮気したら・・・その命ないものと思いなさい」

後半部分、まるで地獄の底から響くような声音に・・・俺たち親子は首を縦に振るしかなかった。

あとがき　どうもこのサイトでははじめまして、操り人形という者です。覚えている方いますでしょうか？（＾＾；；；
夜華がなくなって以来、何となく気が抜けてしまって全然SSを書いていなかったのですが、今日やっと書く気になりまして、気が抜けている間に考えたネタを書いてみました。一種の引っ掛けみたいなものだったんですが・・・いかがでしたでしょうか？
とりあえずまだまだ完結させていない作品が山ほどありますし、これからも頑張っていこうと思います。
ではでは。

記入例	表示サンプル
＜｜＄Ｂ｜＞太文字＜＞	太文字
＜｜＆Ｓ｜＞打消し線＜＞	打消し線
＜｜％Ｓ｜＞小文字＜＞	小文字
＜｜％Ｌ｜＞大文字＜＞	大文字

記入例

表示サンプル

＜｜＄Ｂ｜＞太文字＜＞

太文字

＜｜＆Ｓ｜＞打消し線＜＞

打消し線

＜｜％Ｓ｜＞小文字＜＞

小文字

＜｜％Ｌ｜＞大文字＜＞

大文字