〜 Night Talker 10萬HIT達成記念!ならびに
「カモナ マイ魂の牢獄」続編企画参加SS〜
「横島が幽壱を助けるためにその魂を犠牲にした」その事件は関係者に大きな衝撃を与えた。ある者は気が狂ったかのように泣き、ある者は部屋に引きこもってしまった。美神除霊事務所でもその影響は大きく、辛うじて平静でいられたのは、これまでの人生経験で人の世の無常を嫌というほど見てきたタマモくらいであった。
結局横島と言う核を失ったメンバーはこれまでどうりではいられず、シロは人狼の里に戻ってしまい。タマモも美智恵の保護下という条件で、事務所を出ていった。おキヌは六道女学院を卒業後GS免許を取得し、独立して実家の氷室神社で事務所を開いた。
事件の原因となってしまった幽壱は、そのまま事務所に留まる事など出来るはずもなく、美智恵の薦めでドクター・カオスにあずけられた。特殊な生体となってしまった幽壱をケアできるのは最早カオスだけだったのだ。
美神令子は一時のショックから落ち着きを取り戻してからは、まるで最初から横島などいなかったかのように仕事をこなしていった。『薄情な冷血女』と陰口を言うような人間もいたが、親しい人達はかえって心配になった。
それから・・・・・・・長い。長い年月がたった・・・・・・・・・・・・・・
ある病院の一室。ここで今、一人の人間の生涯が終わろうとしていた。その人の名は美神令子。かつて「世界最高のGS」と言われた女性である。そんな彼女も今や90歳を過ぎており、横島がいた頃の仲間達のほとんどがすでにもうこの世にはいなかった。
彼女は結局この歳まで独りだった。今この病室にいるのは氷室キヌと歳の離れた妹、美神ひのめの2人だけである。2人はお見舞いに来たのではなく令子の最後を看取るために来ていた。
3日前に急変した令子の容態は今は小康状態になっており、静かな病室では心電図の音だけが規則正しく自己主張している。延命装置はもうはずしてあり、残された時間はもう少なかった。
おキヌはあの強くて美しく、自分の憧れだった美神が、今このような姿でベットに横たわっているのが何だか信じられなかった。彼女も令子と同じく現在まで独り身である。縁談を進めてくる人もいたが断り続けた。
(美神さんも私と同じ様に、横島さんが忘れられなかったのかしら・・・・?)
かつて横島を巡るライバルだった令子のこれまでの人生を考え、思いふけってしまう。だが何故か横島がいた頃の、あの楽しかった思い出だけが思い浮かんでしまう。
「美神さん・・・横島さん・・・・・・」
と、その時。その静寂を突然破る大きな音で、ドアが開かれた。
「おお!、美神令子。まだカンオケには入っておらんかったか?」
そしてここが病院とは思えない様な、不謹慎なセリフを吐く人間が入ってきた。
「あ、あなたは・・・カオスさん!!?」
そう。入ってきたのはドクター・カオスだった。そして後ろにはマリアと横島、の姿をしたカオスにあずけられた幽壱の姿があった。
「遅いのよ・・・・・・・・・・・・・このバカ・・・・・・・・・・・・・」
「えぇ!お姉ちゃん!?」
「み、美神さん!」
おキヌとひのめは驚いて振り向いた。ここ数日一度も意識を取り戻さなかった令子が、突然声を発したのだ。
「おお、すまんのー。ちーとばかり遅くなってしまったようじゃな。じゃが死ぬまでには間に合ったじゃろう?」
カオスは今にも死にそうな人間に対して。とんでもない事を平気で言い出した。それに対して令子も苦笑を浮かべる。
「・・まったくあんたに・・・・・・・このあたしがいくら払ったと思ってるのよ・・・・・・・・それでどうなのよ・・・・・・?」
「おおバッチリじゃ。このヨーロッパの魔王。ドクター・カオスに不可能の文字はない!しかしあれじゃな。死んで霊界にいる者を探し出す方法を考えろとわな。まったくとんでもない事を考えるもんじゃ!」
2人の間に交わされる会話は、おキヌ達にはまったく理解不能だった。そんな彼女達に幽壱が説明をしてくれた。
「美神さんは横島さんの魂が現世に戻る事はないと分かってから色々考えていました。そして転生しても同じ時代に来世がある保証はないですし、前世の記憶がなくなる可能性もあるので、自分の死後、霊界にいる横島さんに会いに行く事を考えました。そしてそのための研究をドクター・カオスに依頼して、多額の資金援助をしていたのです。」
おキヌは驚いた。あの事件以後一切横島の事は話さず、彼の墓参りなどにも一度も参加しなかったのに、こんな大それた事を独りでずっと考えていたのである。これが驚かずにいられるだろうか。
カオス達は医者が止めるのも無視して、魔方陣の書かれたマットを敷きそこに令子を寝かせた。そして何やら機械を令子と幽壱に取りつけ始める。
「私の体と魂は横島さんの魂とまだ繋がりがあります。おそらく私が存在する限り、横島さんは転生できないでしょう。この体と魂を媒体にして横島さんの魂を探し出します。」
「で、でもそれじゃあ・・・幽壱さんは・・・・」
それでは令子が横島を探すために、犠牲になってしまう。と言おうとするおキヌを幽壱は笑顔で止めた。
「良いのです。私はまだ生きられますが、人としての生涯は十分に味わいました。それに・・・美神さんが私の魂も一緒に、横島さんの所に連れて行ってくれるそうです。そちらの方が楽しみです」
おキヌは驚きを飛び越えて、最早あきれてしまった。この人達は長い間この日の為に、準備を進めてきたのである。周りには隠して。自分にも知らせず。こんなに素晴らしい事を!
全ての準備が整い、カオスの発明した機械にスイッチが入れられる。魔方陣が光りだし令子と幽壱をその光りが包み込む。
「おキヌちゃん・・・・・・」
「は、はい!」
おキヌは魔方陣の側までかけ寄り、おそらく令子の最後になるであろう言葉を聞きに行く。
「どうせあのバカは・・・・あの世でルシオラとよろしくやってんのよ・・・。私が首根っこ捕まえてでもあいつを転生させないから・・・・・・だからおキヌちゃん、ゆっくりこっちへいらっしゃい・・・そして3人で一緒に転生しましょう?」
「み、美神さん・・・・・」
おキヌの目は令子の言葉で涙が止まらなくなっている。
「もう時間がきたみたい・・・・・・それじゃあ、またね、おキヌちゃん・・・」
令子は穏やかな笑顔で一時の別れを告げた。おキヌも零れ落ちる涙をハンカチで拭くと、同じ様に笑顔で言葉をかえす。
「ええ、美神さん。私ももう少し生きたら・・・・そちらに行きますから。横島さんの事よろしくおねがいしますね!」
カオスの装置はラストスパートであるかのように唸りをあげる。魔方陣の発光はさらに強くなり、最後には目も開けられないほど強烈な光りを放った・・・・・・・。
そして・・・・・・・・・・・・・・・・
美神令子はその生涯を閉じ、横島のいる世界へと旅立った・・・・・・・・・・