「そんな……!!」
おキヌが搾り出すような声をあげれたのは、奇跡といえただろう。
祥子をつれた幽壱(横島ボディ)が、まずはじめにしたことは、元オーナー──美神令子を筆頭にした事務所メンバーに、(性交渉を除いて)真実を説明することだった。
令子、おキヌ、シロ、タマモ……
メンバーは呆然となる。
「な、なんでそんな事してるのよ、あの丁稚!」
そんな令子の台詞も涙を流しながらでは、いつもの調子を装うことすらできていない。
だが、この一言を皮切りに、メンバーたちの口が開きはじめる。
「なんで、拙者を追いていってしまったんでござるか、先生ーっ!」
「横島さん……私には死ぬなって言ってたじゃないですか……」
「もう。これじゃ、また、来世になっちゃうじゃない!」
何をいっても、今更、詮無きことだ。
だからというべきか、矛先は次第に祥子と幽壱に向かっていく。
それが虚しいものだと頭ではわかっていても感情が止まらない。
「これは俺が望んだことなんですから、そのへんにしてやって下さいよ」
「うるさいわね。黙ってなさい、横島!」
・・・・は?
「横島!?」「横島さんっ!」「先生!!」「ヨコシマ??」
それは幽壱から発せられたものではない、確かに横島のものだ。
「どこにいるの!?」
「どこにって……ここですよ、この館自身ですよ」
「はあっ!?」
つまり、横島は人工幽霊壱号と入れ替わりで、館付幽霊になってしまったということらしい。ただし、今度は本当に魂だけだが。
「どういうことよ。あんた、魂が消滅したんじゃないの?」
「いやー、俺はそのつもりだったんですけど……」
横島自身にもわからないという風だ。
と、突然、部屋に複数の女性が出現した。
「それは、私から説明するのねー」
「ヒャクメ! 、それに小竜姫、ワルキューレまで?」
彼女たちがテレポートしてきたのである。
「横島さんの一大事ですから、駆けつけたんです」
「よくわかったわね」
「もちろんです。横島さんは私達の愛す……」
言いかけた小竜姫がワルキューレにどつかれた。
「ゴホン。横島は重要人物だからな。監視していたんだ」
「ふーん」
冷たい令子の視線。
が、とにかく、彼女達の説明によると、あまりに突然かつ変則的だった横島の魂の“消失”は、霊界側でも対応できなかったということになるらしい。
そのため、最も手近なところであった霊的安定点──この事務所に魂が固定してしまったということだ。
「それに、もう一つの作用も発生しました」
「え? まだなにか問題があるんですか?」
おキヌの問いに、小竜姫は少し複雑な表情を浮かべた。
「問題というわけではないんですが……」
「論より証拠だな」
ワルキューレが話を引き取る。
「ルシオラ、返事をしろ。いるんだろ!」
「……あっ、わかっちゃいました」
これには再び事務所の一同が呆然となる。
祥子と幽壱を分離したのが、横島の魂自身にも作用したらしい。横島とルシオラは分離した上で、両者の魂ともこの館付で安定したということらしい。
「これも横島さんの魂が、うまく成仏できなかった理由の一つなのね。一つの魂としては質量が不足しているから、寄り代を求めてしまったということになるのね」
ともあれ、当面、魂はこのまま固定されるということだ。
「よかったでござる。先生が生きていてくれたでござるよ!」
「いやいや、死んではいるんだってばさ」
おいおいと泣くシロに冷静に突っ込みいれる横島魂。
が、ヒャクメが意外なことを言う。
「でも、成仏してないから、完全に死んだとも言い難いのねー。新しい身体を手に入れられれば、事実上、生き返ることも可能なのね」
「新しい身体たってなー」
「あら、ヨコシマ。私が世界征服のために収集してた情報の中には、魂のないホムンクルスの生成方法がある、っていう話もあったわよ」
このルシオラの情報に、俄然、一同が色めき立つ。
「ルシオラ、本当なの!?」
「ええ。今では、手法は散逸しちゃったらしいけど、全く手がかりが残っていないわけでもない、ってなってたわよ」
一同、視線を交わして頷く。
「じゃあ、それを探しましょう!」
「いや、悪いですよ、小竜姫様。このままでも、俺は結構、面白いかなー、なんて……」
「「「「「ダメです!」」」」」」
「……すいません」
既に横島の発言権はないようだ。
「新たな身体を2つ入手して、人工幽霊壱号とルシオラの魂をそこにうつす。そして、横島の魂を元の身体に戻す。これいいわね、みんな!」
「おおーっ!!」
盛り上がる一同。
もちろん、その“一同”には幽壱もまじっていることはいうまでもない。
ちなみに、彼女達の心の中では……
(思い出には勝てないけど、実体のルシオラ相手なら勝機はある!)
……恐ろしい。
この後、情報を求めて世界中を駆け回ったり、それぞれ出し抜こうとしたり、魂だけなのにイチャつく横島とルシオラに美神がキレて館を破壊しそうになるなど、様々な事件が発生するのだが、それはまた別のお話。
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あとがき
というわけで、『カモナ マイ 魂の牢獄』の後日談です。
悲恋から一気にシフトチェンジしてみました(笑)
多少、強引なところもありますが、シフトチェンジの幅が大きかったためということでご容赦くださいませ(^^;