ポアアアア
横島の発動させた『彩』の文珠。
色取り取りの光が溢れ、デジャヴーランドのイルミネーションより格段と美しいそれが展開される。
横島は、思う、思う。
彼女を救い、且つ彼女の中の彼女を助ける方法がある。
限定された万能の霊能力『文珠』
これを駆使した方法・・・・もっともそれにおける犠牲は多大なものであるが、確かに存在する。
「なあ、人工幽霊・・・・お前が産まれてきた理由ってなんだと思う?」
聞かなずもがな。
少なくとも、彼は・・・・この屋敷の歴史・・・・彼女でさせ知り得ぬことを知っている彼には、そんなことはとっくに理解しているはず。
「・・・・我が主、『渋鮫男爵』の・・・・亡き恋人の身代わりです」
抱きしめられた幽壱は、今享受している愛に深く包まれ、嘗て無い幸福感に酔いしれながらも、まだそのことを口に出して言うのには抵抗があるのか、少し震えた声で答える。
「いいや、違うね。 もしかしたら、産まれてくる前はそうだったかもしれない。 けど、産まれてきてからは違う」
「・・・・ふふ、嬉しいです」
ありきたりなラブストーリー。
男が、女に甘言を囁き、女は、男に甘える。
しかし、この男の目には深い悲しみが湛えられ。
「・・・・あの、もしよろしければ・・・・私を抱いて・・・・くれ・・・・ませんか?」
そのことに気付いてか気付かないでか、女は男を誘う。
幸せに浸った者は、たとえ読心術の一流の使い手であろうと、得てして他人の心の深層を読み取ることは不可能だ。
そして、男は静かに頷いた。
何年の孤独、何年の苦しみに浸されていた彼女にとって、例え世界全てと選べと言われたら、こちらを選んでいよう。
・・・・彼が苦心して、世界を選んだことも知らずに。
「ん・・・・く・・・はぁぁぁ」
二度目の接吻。
相変わらず、愛も変わらず、2人を包むのは、チリやホコリが舞った空気と、濃密な愛。
男は女を深く知り、女は男を深く知る。
たった2回のキスだけで、相手の全てを知ることをできたような感覚が、恋というものはどんな麻薬よりも勝るものと語っている。
「キス・・・・上手いですね、横島さん」
「お前はまだ2回しかしていないじゃないか。 対比するのはまだ早いよ」
「フフ。 じゃ、もっともっとしてください」
「勿論」
嘗て、彼は雰囲気を読めないととある女性からいわれたことがあった。
その教訓が生きたのか、それともただたんに成長しただけなのか、はたまた愛する者への贔屓目なのか、今、この瞬間はたった1秒であっても、彼女にとって数十カラットの珠玉のダイヤモンドより勝れるものであると感じる。
「ん・・・・も、もういいですよ・・・・次のことしてください」
キスに酔いしれすぎたのかフラフラとした足もとの覚束ない足取りで、牢獄の中の簡素なベットへと男を導く。
彼女の来ていた純白の服ははだけ、自然とずり落ちる。
ついに、人の目にさらされる彼女の裸。
全体的に細さが残るボディーライン、そこからはおもいもつかぬ大きさの胸・・・・といっても、大体人間の平均値ぐらいではあるが。
白い肌は、もう真っ赤に染まり、足の付け根付近は某所から溢れた粘液に濡れている。
ところどころ煤がたまっているものの、空気を清浄化させる機械の完備は、太陽の光も届かぬ地下室という場所特有の圧迫感をやや和らげてくれた。
さきほどの『彩』の文珠の効果は続いている。
赤、青、緑の光の三原色と、それの組み合わせによって出来る色・・・・その効果範囲にいるものであれば、誰でもあまりの美しさに自分が異世界に居ると思ってしまうだろう。
「あ・・・・あの・・・・」
愉悦のためか、瞳に今にも溢れそうなほどの涙を溜め、覆い被さろうとする横島を見上げる幽壱。
「ん? なんだ? やっぱり止めるとか」
「い、いえッ。 全然、全ッくそんなことはないんですけど・・・・私、あの・・・その純潔の印が無いんですけど」
いくら渋鮫男爵が天才であろうと、死体から作り上げた肉体が完璧であることはありえない。
ベースになるものがなければ、当然処女の証は無いのだ。
しかし、そんなことは横島にとってはほんの些細なこと。
勿論、渋鮫の記憶を見たからそのことは知っていたのだが、別に知っていても大して不快感は覚えなかっただろう。
「そんなことは気にするな。 別に俺は綺麗なねーちゃんとヤれるだけで満腹なんだからな」
自然にいれるフォロー。
それに、幽壱も少し緊張がほぐれ。
「来て・・・・ください」
しとどに濡れた秘所。
先ほどのキスが副産物を産んだのだろうか、別段前戯など必要では無さそうだった。
それに、相手を求めてやまない幽壱に前戯などただもどかしいだけなのかもしれない。
腕を横島の首に回し、再びキスする形に引っ張り、彼の体を自分の体の上にかぶせる。
「ちょ、ちょっと急ぎすぎ。 まだズボンも脱いでねぇってのに・・・・」
衣服の着脱は彼の得意技。
目にも止まらぬ早業で、首を掴まれたまま下半身を露出させる。
彼女は、やはり怖くて見れないのだろうか、彼の下半身に目を移すことはなかったが、彼の下半身は痛いほど怒張していた。
やはり、色欲が強い彼は、その一物も逸物ということだろうか。
「さぁ・・・・」
幽壱は目を閉じ、想い人との念願の交わりで与えられる最高の快楽を最大限に受けとめる準備をする。
「じゃ・・・・行くぞ」
「は・・・・いぃぃぃん」
前述通り、彼女は処女膜はない。
もっとも男性経験がない彼女は処女ではあるが、それでも痛みという障害を及ぼすものがないのだ。
始めての性交で、少し戸惑いはあるものの、それでも感覚を全てストレートに快感に変換させることが可能である。
強引にねじ込むわけでも、躊躇いながらゆっくり挿入られるわけでもない。
クイックリィに、かつソフトリィに・・・・他人に触れられるということを長い間されていなかった幽壱に、強すぎる刺激はそのショックで失神させる可能性がある。
それでも、十分に感じる。
「うぅぅん、よこしま、さぁああん!! うっく、うっく・・・・」
「おいおい、泣くなよ。 痛いのか? 一旦抜くか?」
「そうじゃないの。 そうじゃなくて・・・・やっと一つになれたから嬉しいの・・・・」
そう言って、涙を流す幽壱。
どのくらいの間、このようになることを望んだだろうか?
それがまさか叶うなどとは思っていなかった。
ただ・・・・横島の周りに居る女性が彼に飛び掛られているのを、羨ましげに脳が感じていただけ。
「泣くなって・・・・やっとお前の呪縛が解かれるんだ。 笑ってくれよ、さあ」
ペロリと舐めた、涙。
それをされた幽壱は、面白いほど真っ赤な体を更に真っ赤にする。
「うっ・・・・あはは、今一瞬、締まったなぁ。 なるほどなるほど、幽壱は涙を舐められるのが弱いのか」
「ひ、酷いですぅ。 横島さん。 だって・・・・」
「ま、俺は涙を舐めて締められるのに弱いけどな」
ウインク。
「ふふ。 でも、もうやっちゃダメですよ」
「え? ダメなの?」
「ダメですって」
「ま、いっか。 幽壱の笑顔も見れたことだし・・・・な」
言葉通り、彼女の顔には自然と笑顔が浮かんでいた。
それは、幸福に満ち溢れ、見るものをも幸せに出来るほどの・・・・
「・・・・んぅ、動いていいですよ。 だいぶ慣れましたから・・・・」
「ああ、じゃあゆっくり・・・・」
男と女の交わりは、昼間で続いた。
情熱的に、野性的に、官能的に。
「ふぅ・・・・寝ちゃったか・・・・」
カワイイ寝息を立て、安心した顔で寝ている幽壱を、優しい瞳で見る横島。
あたりには、2人の愛し合った残滓がありありと残り、2人とも汗にまみれていた。
「・・・・ゴメンな、人工幽霊壱号・・・・折角会えたっていうのに、もうお別れだからな」
服をちゃんと着衣し、彼女にも汚れを綺麗に拭き取ったあと服を着せる。
「お前の魂が強くなってしまった今じゃ・・・・これくらいの方法を使わなければ祥子さんを助けられないんだよ」
彼の手が淡く光る。
そして、次の瞬間現れたのは二つの文珠『混』と『合』
「けど心配するな。 俺はいつもお前と一緒に生きている。 いつまでも・・・・永遠に・・・・」
彼にとって彼女とはいかほどの価値を有していたのだろうか?
それは彼自身にしかわからないことだが、恐らく自らの命を投げ捨てることに値するほどではなかったのだろうか。
『慈善』なんていう言葉では足りない・・・・そんな優しい光に彼は・・・・自らを投じた。
なんだろう、嫌な予感がする。
彼女が起きた時、最初に思ったのはそれだった。
汗が止まらない。
たしか、自分は横島と思いをとげ、2人で古いベットに寝ていたのではなかったか。
それだけなら良い。
が、自分が失神をしたとき、たしかこっち側の壁を見ていただろうか?
ただ、横島が自分の寝ている最中に動かしたのならば、別に問題がないが、気になってしょうがない。
後ろを振り向けば、横島の寝顔があるはず。
背中に感じる体温がそう告げている。
だが、振り向けない。
自分の脳に最悪のシナリオが展開され、直ぐに打ち消すも、その不安まで拭い切れなかった。
硬直状態が続く。
あまりの緊張に流れた汗が額に流れるのを、手で拭う。
「・・・・!?」
目の前にあるのは、愛しの人の手。
たしかに、自分に繋がっている手のはずなのに、自分以外の手。
考えたくなかった結論が、電撃的に脳に流れ、確認させる要因が彼女を絶望させる。
「わあああああああッ!!!!」
服は着ていた。
愛しの人の来ている服を。
牢獄のトビラをぶち破り、階段を駆け登り、外へと出る。
「あああああ!!」
あれほど望んでいた外の情景なぞ無視し、嘗て自分の管理していた建物の中へと駆けいる。
途中、元オーナーと妖狐、人狼と会い、何か言っているのを無視して、洗面所へと向う。
「・・・・・・・・」
鏡に映っていたのは、まごうことなき、愛しの人。
次の瞬間、鏡を自らの手で砕いてしまったが、一瞬の光景が目に焼き付いて離れない。
「そんな・・・・なんで?」
鏡の破片が手に突き刺さり、出血が止まらない。
けれども、そんなことよりも、心の痛みの方がつらい。
涙を流し、その場でへたり込む。
相変わらず、手から血が流れ、足に破片が突き刺さっているが、もう何も感じない。
外は・・・・一片、二片と降る雪だった。
「ん・・・・んぅ? どこ、ここ?」
「ここは嘗ての魂の牢獄、その名の通り魂を幽閉し、惹きとめていた場所」
そして、私がいれば良かった場所。
もし、私が彼を呼ばなかったら・・・・こんなことにはならなかったのに・・・・
「・・・・! 渋鮫さんは!? 地震のとき一緒に逃げていた渋鮫さんは無事なのッ!?」
「彼は死んだよ。 もう数十年前に・・・・君を生き返らせようと必死だったけど・・・・死んだ」
「そんなッ!!」
目に涙を溜め、こちらを鋭く睨んでくる彼女・・・・祥子さん。
私に課せられたロールは・・・・
「彼の冥福、慎ましくも祈らせていただきます。 また、故き父の・・・・いや故人『達』の意思を継ぎ、あなたは私・・・・横島 忠夫がお世話致します」
「彼が死んだっていうのは、ほんとう・・・・なの?」
どうやら、私の言っていることは耳に入ってないようだった。
2歩、3歩歩みより、彼女の眼前に体を傾け。
「・・・・本当です」
頷く。
「う、う・・・・うわぁあああああああん。 そんな!! 一人で逝ってしまうなんて酷いッ!! なんで私も連れていってくれなかったの!?」
「全くです。 アナタに対して彼もそう思っていたでしょうな」
そして、忠夫さんに対して私も・・・・
・・・・彼女が私に体重を寄せ、胸により掛かって泣き始める。
・・・・彼はこういう風な感じで私を感じていたんだ・・・・
祥子さんが上着を濡らす。
そして、私も頬を濡らす。
・・・・愛しきものをなくしてしまったものの涙で・・・・
魂の牢獄は、破られた。
何から何まで、破られた。
繋ぎとめる鉄格子はもうない。
繋ぎとめる鎖はもうない。
繋ぎとめられた魂さえ、もはやない。
ただ、残るは悲しみのみ。
彼女は彼に恋をした。
彼は彼女に恋をした。
邪魔するものはもうない。
心を隔てるものはもうない。
2人の体さえ、もはやない。
ただ、残るは・・・・
〜カモナ マイ 魂の牢獄〜
スタッフロール
リレー作者様
初話:zokuto(へたれ)
弐話:ひでよし様(キャラ確立)
参話:翔様(良設定作成)
泗話:ノ定様(激甘場面構成)
伍話:仙台人様(細密心理描写)
終話:zokuto(へたれ)
キャスト
メインキャスト
主人公:横島 忠夫
ヒロイン:人工幽霊壱号(幽壱)
サブキャスト
渋鮫男爵
祥子
美神 令子
氷室 キヌ
シロ
玉藻前
スペシャルサンクス
米田鷹雄様を筆頭にするNighttalkerチャットメンバー様
各作品にレスポンスをつけてくださった方達
少しでも読んで下さった読者様達
本当に有難うございました!
< 立つ鳥が残した濁り(所謂後書き) >
まずは、スタッフロールに名前が記載しておりました方々へ。
本当にありがとうございました。
数々の良作が生産・・・・いや『誕生』し、多くに人々に感動を与えることが出来たのも、須らく皆様のおかげでございます。
思えば、最初はほんの戯れから発生したこのリレー小説ですが、遂に完結してしまいました。
誠に不甲斐ないことに、愚にもつかない出来の1話を書かせていただき、さぞ作者様達にご苦労をお掛けいたしました。
更にチャットでの失礼も多かったのでありますけれども、それでも最後まで付いてきてくださった皆様の心の深さに感激を覚えさせていただきました。
原作より出典の『人工幽霊壱号』(正式名称は渋鮫人工幽霊一号)を擬人化。
非常に魅力的(今風に言うと萌え)なキャラクターに変貌し、横島クンと想いを遂げる。
・・・・まぁ、zokutoがそれも悲恋に終えてしまった訳ですが。
これだけ皆様に愛され、キャラクター達も皆幸せでしょう。
とと、真面目な話しはここまでにして、ここからはフランクな形で。
今回の話しは中々難産でありました。
本来ならば、この回はチャットメンバーであるinfarmさんが書くはずだったのですが、infarmさんはリアルの事情でご多忙ということなので、変わりに取りを自分が務めさせていただきました。
レスポンスでピンク、ピンクと希望していた手前、自らが緑を書くわけにもいかず、初めてのピンク色作品。
しかも、愛のあるHでしたので、尚初めての事が多く、お見苦しいところも多かったと思いますがどうかご容赦下さいませ。
このリレー小説企画で、このHP『Nighttalker』の発展に協力出来たのならば、非常に嬉しいです。
ナイトトーカーのチャットは良いところですよ。
親切な人も居るし、面白い人や個性的な人がたくさん居ます。
メンバーは『魔界の門』と呼称していますが、本当に居心地の良いところなので、まだ作者様も読者様もROMな方も是非、来て下さいませ。
そのときは、メンバー全員で歓迎致しますので。
さてと、では、リレー小説企画も幕を閉じました。
そこで、先日チャットで話しをしていました、新たなる企画を立ち上げようかと思います。
その名も・・・・
『カモナ マイ 魂の牢獄』after stories祭り!!!
この企画は、このリレー小説がこの度無事完結致しましたので、その後日談を募集する企画です。
ルールは簡単。
各作者様が、自由にこの後日談を創作し、ここの小ネタ板に投稿。
読者様が、複数の作品を読み比べ、「これが一番の『グッド バイ 魂の牢獄』だ」というのに投票していただくというコンテスト形式の企画です。
期限はまだ検討中ですが、なるべく急かさないように設けたいと思います。
今回はチャットメンバーだけでなく、普通のSS作者様も参加出来るように、参加希望の方はここに参加する旨をレスポンスしてください。
尚、参加人数が5人に満たなかった場合、この企画はなかったことになりますので、皆様奮ってご応募下さいませ。
ちなみに、zokutoも参加しますよぃ♪
追記
今回、作品名を指定させていただきましたが、本日、その指定を撤去致しました。
何故ならば、タイトルを指定することにより、より自由な発想や展開が一部規制されてしまう恐れがあったことに気付いたからです。
どうもお騒がせ致しました、ここに深くお詫び申し上げます。