「あの子ったら・・・。」
朝も早くから、美智恵は深く溜め息を吐きながら歩いている。その原因は勿論、自分の娘である美神令子のことである。第三者の目からは、どう見ても横島に惚れているのは一目瞭然なのに頑なに認めようとはしない。その事についても、つい先日言い合いをしたばかりである。
「・・・あんな良い子なんて、もう二度とあんたの前になんて現われないだろうに、何で認めようとしないのかしら。」
ブツブツと呟きながら歩く美智恵の行く先は横島のマンション。少し前に自分の娘と横島の中を縮める為に娘を脅し・・・説得して横島の給与を働きに見合ったモノへと変えさせたのだ。そのおかげでそれなりの生活も出来るようになったのだ。今まで使った事のないぐらいの金額に横島はトイレ風呂付きのマンションに引っ越すぐらいの事しか出来てはいないのだが。
「令子の方は兎も角、横島君の方もキチンとフォローしとかなくっちゃ。」
横島の方も、色々と手を回さなくてはならない事があるようだ。まぁ、つまりはそういう事である。
そんなこんなで、横島の部屋の前。チャイムをならすと意外な人が出て来た。
「は〜い、どなた?」
出て来たのは美神令子その人。美智恵は驚きながらも訊ねた。
「何で、あんたがここにいるの!」
「・・・今日の仕事が午前中からで、横島君を迎えに来ていたのよ。今から直行するところなの。それより!ママこそこんなに朝早くから、横島君にいったい何の用だってのよ!もしかして、この前の話の関連じゃないでしょうね!!」
この前の話とは先日の言い合いの事。図星を付かれ、しかも喧嘩腰の物言いに美智恵も声を荒げて食って掛かる。
「だったらどうだって言うの!!あなたもいい加減にしっかり自覚をして、行動したらどうなの!!」
「何度言ったら解るのよ!私は違うって言ったでしょ!」
「何が違うんですか!端から見ても、バレバレなくらいじゃない!」
「何よ!!!」
「何ですか!!!」
「・・・・・・・・・!!!!!!!」
「・・・・・・・・・!!!!!!!」
「・・・・・・・・・!!!!!!!」
「・・・・・・・・・!!!!!!!」
延々と横島の部屋の前で言い合いを再開する二人。部屋の主である横島も美神の後ろでオロオロしているのが美神の肩ごしに、チラチラと見える。
しかし、朝も早くからマンションの部屋の前でそんな言い合いをすれば、
「・・・うるさいわね〜、朝早くから迷惑よ。」
と、隣の主婦であろうおばちゃんが、扉から顔を出しながらそ訴える。当然である。その声に気が付いた美智恵は
「とにかく!私は諦めませんからね!!」
そう捨て台詞を残し、去って行く。その背中に美神は
「いい加減にしてよ!!」
と浴びせながら、扉を少々乱暴に閉めた。・・・・・・横島にとって不幸だったのは隣の主婦が聞き取れた会話がそれだけだった事だ。その日から暫くは、そのマンションの住人の視線が、痛く感じてしまう日が続くのだ。まぁ、つまりはそういう事である。
そして、美智恵も美神と玄関で言い合いをしている時、いつもの冷静さが少しでもあれば、その決定的な証拠を目にしていただろう。扉に隠れていた美神の体に纏われていた物が、男物のYシャツのみであった事に。美神の体からわずかに男の汗の匂いがしていた事に。そして、美神の後ろでウロウロしていた横島の上半身が裸であった事に。
まぁ、つまりはそういう事である。
「なんで、そんなに隠そうとするんですか。」
「だって・・・・・・」
「はぁ〜。まぁ、つまりは・・・」
「そういう事なのよ。」
どう言う事?
完
後書き
暫くパソコンに触らずに生活を続けていて、ようやく解禁になった矢先の出来事。謹んで御冥福をお祈り申し上げます。
お久し振りでございます、callmanです。突然ですが、パソコンがクラッシュして中のデータが無くなってしまいました。それで、今作品が手始めと言う事で何も考えずに、チャッチャと作ってみました。御意見、御感想お待ちしております。