▽レス始▼レス末
「Night Talker開設御祝SS(GS)」赤野圭 (2004.08.19 18:15)
人生という複雑怪奇なシロモノを道にたとえるのは、洋の東西を問わないものらしい。
重荷を背負いて遠き道を行くが如し、と言ったのは徳川家康だった。
うまく言い当てたものだとは思うが、しかし心に余裕の無いときは気がめいってくる。
含蓄のある言葉も、時と場合によって使い分ける必要があるだろう。
今必要なのは、もっと別の、喜びにあふれたものではなかろうか?



曲がり角の向こうには



「うーん……」

気だるげなうめき声を一つあげ、美神はリビングのソファからゆっくり体を起こす。
残暑が残る八月の下旬、しかし室内は強すぎない程度の冷房で快適な環境を保っている。
三日かかると踏んだ仕事が二日目の午後には片付いたため、今日は完全にオフになっていた。
ふってわいた休みに、おキヌは大喜びで友だちと遊びに出かけた。
が、美神はそうはいかない。
GS以外にも、大切な仕事があるのだから。

”まだ平気ね”

壁の時計をちらっと見て、うーんとのびを一つする。
そうやって少し楽になった体を立ち上がらせ、すぐ隣のベビーベッドを覗き込む。
すやすやと眠る愛娘は、しばらくは起きないだろう。
おっぱいの時間もまだ先だし、おしめもさっき換えたばかりだ。
最初はパニック寸前だった母親業も、ある程度なれてくると要領がわかってくる。
つややかな黒髪の赤ん坊ににっこり微笑みかけると、美神は静かに部屋を出た。



10分もしないで戻ってきた美神は、右手に一冊の本を持ってきていた。
古いものの、丁寧に扱われたおかげで傷みの少ない文庫本は、美神にとっては思い入れの深い品だった。
小学生の頃から、何かあるとこれを読む。
たいていは、元気が欲しいとき。
それは今も昔も変わらない。



別に今に不満があるわけじゃない。
あるわけないじゃない。
かわいい娘の成長を見守って、仕事も順調。
おキヌちゃんや他のみんなもいろいろ助けてくれてるし。
これ以上を望んだら、バチが当るわ……




「横島クン……」

心の呟きとは逆に、口をついて出た呟きはやりきれないものだった。
自分が時空消滅液で過去へ送った少年。
馬鹿でスケベでどうしようもなかった丁稚。
そして……今すぐ目の前で眠る穂多流の父親。
かぶりをふって考えを振り払うと、美神はソファに腰掛け、手にした文庫本を開いた。



後悔してるわけじゃない。
それに不満がないってのも本当。
でも、時々、本当にときどき、あの馬鹿に文句を言いたくなるときがあるだけ。
それに、せめて私だけでもアイツのこと覚えててあげないと、かわいそうじゃない。
ただ、この気持ちはちょっと重たい。
うっかりすると、鬱に引きずり込まれそうになっちゃう。
だから、私は、読む。
過ぎ去った昨日ではなく、来るべき明日を見つめたいから。




ページを繰る手が止まる。
もう何回読んだだろう。
完全に暗記してしまっているところだが、それでもやっぱり、こうして本を開かずにはいられない。



……未来がまっすぐな一本道のように、目の前にどこまでものびているようだったわ。
どんなことが起こるか、先のほうまで見とおせるくらいだった。
でも、今その道には、曲がり角があるの。
曲がり角のむこうになにがあるか、今はわからないけど、
きっとすばらしいものが待っていると信じることにしたわ。
それに道が曲がっているというのも、またなかなかいいものよ……




「だからあんたたちも」

声に出して読んでいた美神が顔をあげる。

「大変だろうけど、前向きにいきなさい。確かに、夜華作家陣にとってはとてつもなく大きな曲がり角よ。でも、きっとその先には素晴らしいものが待っているわ。そう考えれば……」
「ほぎゃぁっ!!」
「あ、あら穂多流、よしよし……」

カメラ目線で主役を演じていた美神が、あわてて母親の顔に戻る。
その表情は、本当に、幸せいっぱいという言葉を絵で表しているかのようだった。






あとがき

HP開設おめでとうございます。
戯作者たるもの作品で語れ、ということで、この作品を御祝の言葉とさせてください。
夜華に掲載させていただいていた拙作「Another Epilogue of


△記事頭
  1. あとがきの続き

    夜華に掲載させていただいていた拙作「Another Epilogue of"Judgment Day!!" 〜別れも愛の一つだと〜」の世界観に基づいています。
    こちらを未見の方、お忘れの方には意味不明かと思います、すみません。
    夜華の全作品は削除されたようで(ついさっき気が付きました)、拙作をどうしようかは考慮中です。
    ひょっとしたらこちらに投稿させていただくかもしれません。
    そのときはよろしくお願いします。
    斜体部分はご存知の方も多いでしょう、”赤毛のアン”です。
    ……引用も、著作権的にはまずいのかな?
    赤野圭(2004.08.19 18:20)】
  2. 知ってます。時空消滅薬を耐性を持つ横島が飲めばゆっくり戻るから、ルシオラを助けられるタイミングで解毒すれば止まるんですよね。そして元の世界とは縁がなくなる・・・はずだった。けど横島の縁がある穂多流は生まれちゃうし美神にも記憶が残っちゃった。
    あのあとこんなふうになってたんですね。ここの神魔はひどく身勝手なんで嫌いです。原作どおりアシュ編以降は二度と関わりを持ってほしくない。
    にしても気になるのは、ルシオラが味方になったあたりがはっきりしなくなったことはどうなったのかとかですね。それとここの美神って例の「理性がきれてパワーアップ」ってのでなんとかなったから、人間界では最強でしょうね。
    九尾(2004.08.19 19:59)】
  3. 赤野さん、投稿ありがとうございます。
    あの名作の続きになっているのが憎い演出ですね。
    赤野さんの作品は非常にしっかりとしたプロットで感心していました。
    ひょっとしたらといわず、投稿、お待ちしておりますよ〜
    米田鷹雄(2004.08.20 03:16)】
  4. おお、赤野さんだ〜〜
    あれの続きでメッセージですか……ううむ、
    美神が幸せそうなんで不謹慎なんですが、
    >カメラ目線で主役を演じていた美神
    すいません、こっちのほうで笑ってしまいました。
    まだ主役やるんですかい、と。

    それから、私も赤野さんのを再読させていただきたいです。
    最新話の除霊委員会も面白かったですし……
    よろしくお願いします。
    (愛子の小ネタも再掲or投稿プリーズw)
    凍幻(2004.08.21 14:14)】

▲記事頭


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