ゴッドハンド・エルルゥ(うたわれるもの短編。グロ注意)
「これは・・・手術しかありませんね」
エルルゥがしかつめらしく宣告した。
「えぇえ?!」
ムントが絶句する。
その驚愕と恐怖の目は、夜中の便所でエルンガーの襲撃でも受けたかのようにエルルゥを凝視していた。
エルンガーが頷いた。
「盲腸です。薬で散らせる段階ではないようなので、切ります」
危なかったですね。もう少し遅かったら手遅れだったかもしれません、とエルンガー。
「すぐ済みますよ。さっそく用意しますね」
腕まくりして彼女の薬房に入っていく。
「ちょ、ちょっと、薬、薬でなんとかなりませんか?」
ムントの哀れっぽい質問を背中で跳ね返す辺境の女・エルルゥ。
診療所はエルルゥの城であり、城の中では彼女は皇であった。
「大丈夫ですよ〜。痛くないですから〜」
と言う声と共に、ごそごそと何かを漁る音がし、ややあってよく判らない草の束と粉薬の包みをワンサカ抱えてエルルゥ再登場。
だが問題はその草やら薬やらではなく、一緒に抱えられてる刺身包丁である。
「・・・め、メスは使わんのですかの・・・?」
紙のように蒼白になったムントがダメと知りつつ確認する。
「やっぱり使い慣れてるものが一番! 私こう見えてもお魚捌くの得意なんですよ? ハクオロさんも感心してくださいました」
得意そうにヒュンヒュンと包丁を回転させる。
「・・・と言っても、包丁はおなかを開く所までで・・・」
そう言って、となりの棚の上から鋏を取り出す。
ムントの記憶によれば、たしか機織の糸を切るために使っていたものだ。
「患部の摘出はこの鋏で行います。チョキンと」
なんというインフォームドコンセント。
ムントは生きた心地もしなかった。
「まずは麻酔ですね」
持ってきた草をゴリゴリやり始める。
「・・・信じてますぞ」
麻酔を。ムントはまかり間違って手術中に目覚める事がないように神に祈った。
こう見えても、ムントはエルルゥの腕を信頼している。ただ、その豪快な手術方法を知るが故に、絶叫マシンに乗るときにも似た恐怖があるだけである。
亡きトゥスクルを越えたと全国の医師に認められるエルルゥの医術であるが、その実、彼女の元に勉強に来る人たちはもっぱら検診法や薬学方面のみである。
まかり間違って手術を勉強にきた医師たちは、顔を真っ青にして帰るのが常であった。
その理由は、成功率100%・平均執刀時間5分という彼女の手術法の、余りのダイナミックさにあった。
「ハイ100から順に1ずつ減らして数えてくださーい。99・・・98・・・」
「よんじゅう・・・さん・・・よんじゅ・・・」
「・・・はい。かかりましたねー。かかってなかったら言ってくださーい」
ムントが意識を失ったのを確認して、エルルゥはムントの服をまくり上げ、だいたいの位置を触診で探り当てると、躊躇なく包丁でムントの腹を掻っ捌いた。
動脈も静脈もお構いなしの見事な一閃であった。
ダクダクと流れ出し、腹腔に満ちる血液に構わず腹に手を突っ込み、盲腸を探り当てると鋏でパッチンパッチンと大きく切り取った。
もはやその光景はグロ満載のスプラッタムービーそのものである。
「患部切除完了〜と」
ふぅ、といい笑顔で、摘出した盲腸を隣の皿に移す。
・・・それは患部と呼ぶには余りに大きすぎた。大きく分厚く重たく大雑把すぎた。それはまさに肉塊だった。
血に弱い人が見たら心臓麻痺を起こしかねない光景であった。
「さて・・・」
明らかに致命傷とおぼしき術野に手をかざす。
「痛いの痛いの飛んでけ〜」
エルルゥの両手が温かい光に満ちた。
患部を含むとおぼしき部分は丸ごと切除し、その傷をヒーリングで癒す。
『病気』はやっかいだが、『傷』でさえあれば瀕死の重傷であろうと一発で完治させるエルルゥのヒーリング能力。
その特性を最大限に活用した、余人には模倣不能の手術がそこにあった。
本日の執刀時間・1分30秒。
トゥスクルのゴッドハンド・エルルゥの手術に細かい技術は一切ない。
「はい、次の人〜・・・ああ、これは肺結核ですね。多分。切りましょう」
「マジで?!」(←オボロ)
ゴッドハンド・エルルゥ-了-
あとがき:
お初にお目にかかります。
・・・で、初の投稿がコレ・・・
エルルゥファンの方々、ごめんなさい。