―――それは、普通の小学生に訪れた小さな事件。
―――誰か、気づいて………
耳にその声が届いたことは、果たして偶然だったのか。
―――力を、貸して……僕、だけじゃ………
霧のように幻のように、不確かなその声に導かれて―――
―――出逢ってしまった。
「兄貴ーっ!母さーんっ!美由希ーっ!ねずみ拾ったーっ!!」
―――高町名葉(なのは)、通称なのすけ。
御歳九歳にならんとしている、やんちゃ盛りな高町家末っ子の『次男』である。
放課後エンカウンター!
―――幽かな声に導かれて出逢った、傷だらけの異邦者。
「どうして、魔力を持たない君に声が届いたのかはわからない……けど、こうして出逢えたことにはきっと意味が―――ってちょっとどこ触ってるんだよ!」
「え?どっかにマイクとかがあって誰か喋ってんじゃないのか?……あれ、お前メスだったんだ」
「わーっ!!わーっ!!見るな触るなーっ!!」
……もとい、天然の過ぎる救い主に振り回される哀れな『少女』、ユーノ・スクライア。
そんな彼女に導かれ、始まるのはちょっと不思議な探し物の日々。
「うあっ!?ユーノ、お前人間だったんだ!?」
「今更驚くなぁぁぁぁっ!!」
日常において殆ど動物扱いで『色々』されちゃったらしく、麦色の髪の少女は半泣きで叫ぶ。
「へー、可愛いなこのフェレット。名前まだならなのすけに因んで『チュー介』ってのはどうだ?」
「……将来おさるは子供生んだとしても絶対名付け親にだけはなったらあかんなー。ちゅーわけでイマジネーション貧困なおさるに代わってうちが―――」
「何だとミドリガメ―――っ!!」
―――姉同然である高町家二大料理長、城島晶と鳳 蓮飛。
「フェレットか・・・・いや、飼うこと自体に異論はないが、肝に銘じておいた方がいいぞ、名葉?フェレットはその昔古代火星人の肉食愛玩動物の末裔とされているという伝説があり、その名残から飼い主の首筋にチップを埋め込むという特殊な技が」
「はいはい恭ちゃんそこまでにしとこうねー」
「それはそうと名葉?飼うなら飼うで餌のお世話はちゃんとしてあげなさいね?」
真面目なようでいてお茶目な兄や、家族の中では唯一名前で呼び捨てにされるちょっと威厳の足りない姉、美味しいお菓子を皆に提供する若々しい母。
その他様々な人々に囲まれつつ、秘密の探し物は着々と進む。
「―――名葉。名葉はもし願い事か叶うとしたら、どうしたい?」
「んー。そんなのいっぱいあるぞ。レンと晶に野球で勝てるようになりたいとか、エイプリルフールで兄貴を騙せるようになりたいとか……」
「……いや、そういうのじゃなくてさ、何ていうか……―――ううん、そういうのも名葉らしいよね」
微笑む少女は、願い事を語る少年に何を思うのか。
けれど、そんな時。物語は急展開を迎える―――
「……これは渡せないっ……!アリシアを蘇らせる為だもの……!」
―――黒衣の少女はその譲れない願いが為にふたりの前へと立ちはだかり―――
「ここから先は君の出る幕じゃない―――遊び半分のつもりならタダじゃ済まないぞ」
―――頑なな瞳に決意を宿した少年は、杖を突きつけて冷酷に告げる。
「わかんねぇ、わかんねぇけど―――でも、俺はまだフェイトやクロノに何も聞いてない!わかんないまま嫌いになりたくないんだ!」
何も知らないけれど、何の力も無いけれど、でも真っ直ぐに言葉をぶつけてくる少年に、魔法使い達の心は揺れる。
「―――馬鹿なのよ、私もあの子も」
「ふざけないでっ!クロノを―――私の息子をどこへやったんです!」
「―――なのは、大好き……」
「名葉くんは、きっとそのままでいいんじゃないかな」
すれ違う絆と想い、無情に加速していく事態。
「―――な、のは………」
「―――ッユーノ――――ッ!!」
―――魔法なんて使えない、それは正しくただの『お手伝い』に過ぎなかった。
嵐に立ち向かう術を持たない無力な少年は、独り空を仰いで遠く離れてしまった彼女を想う。
無垢であること、無知であること。
ただ心のままに突き進んできた少年は、もう無垢なままではいられない。
―――それでも―――
少年は、歩き出すのだ。
いくら傷つき倒れても、大切な友達と再び逢う為に―――
(あとがき)
後悔は、ない(きっぱり)。
本編のなのはが『女の子らしい女の子』かつ小学校中学年位には思えない
思考をしていたので、こちらの『なのは』は『男の子らしい男の子』かつ『小学三年生らしい少年』にしてみました。因みに男の子になったら魔法バトルはただの少年漫画的世界になってしまうと思ったので、『リリちゃ』版に近い世界観でやってみようと思いました。いつか血迷ったら連載なぞしてしまうかも知れません。