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「よこしマホラ 第七話(GS×魔法先生ネギま)」

キウン (2007-01-28 18:17)
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 横島は突然襲いかかってきた学ランを着た少年を捕獲した。
 こんなこともあろうかと持ってきたロープで、身動きが取れないようにしっかりと手足を縛り付けた。

「こんな子どもまで襲いかかってくるとはな〜」

 手足のロープにゆるみがないかを点検し終え、休憩所の椅子に座って、気絶している少年を見る横島。
 ネギとさほど変わらない年齢に見えて……頭からは犬のような耳が生えていることが目を引いた。

 横島の傍らでは、少年に殴られてケガを負ったネギがアスナに介抱していた。
 額を切ってしまって顔に伝っている血を、アスナはハンカチで丁寧に拭き取っている。
 何も知らない人であれば、しっかり者の姉がやんちゃ坊主の世話を焼いているような光景だった。

 アスナとネギにはカモが、そして横島と少年にはちびせつなが近くにいる。
 ちびせつなは少年の耳を見て、少年の正体を見極めた。

「この子は狗族でしょう」
「狗族?」
「狼や狐の変化、つまり妖怪の類です」
「……うっわー……」

 横島にはそういった存在は身近だった。
 というよりか、務めている事務所には、人狼と妖孤が住んでいる。
 通りでどこか似た雰囲気を感じたのか、と一人納得していた。

 ちびせつなは、溜息をつくような横島の態度を見て、三頭身の大きな頭をぺこりとさげた。

「す……すみません……」
「あ、いや、別にちびせつなちゃんを責めたってわけじゃないよ。
 妖怪変化の類……それも半分人間が混じってたっつーことはわかってたけど、人狼だったのか」
「え? 横島さん、わかってたんですか?」

 ちびせつなに繋がる本体が、遠くの地でびくりと反応した。
 まさか、まさか、と思うが、横島の能力が、自分の正体を見極めていたら、と緊張する。

 そんなことは露知らず、横島はさらりと言ってのけた。

「俺はゴーストスイーパーだぜ。人相手にするよか妖怪変化の類の方が得意なんだ。
 魔力やら気なんかの気配を読むのは苦手だけど、霊感はこれでも結構ある。
 まあ、ゴーストスイーパーにしては鈍い方だって美神さんに言われてるけどな。
 なんつーか、こう、近づいたときにちりちりと指先がしびれるような感覚があったり。
 髪の毛の先が何もしないのに震えたりして、あやかしかどうかは見極める能力があるんだよ」

 ちびせつなは、唖然として横島を見た。
 横島が、見られていることに気付いて、見返すと、ちびせつなは慌てふためいた。
 本体の動揺が激しくなり、気を練ってちびせつなを維持することが困難になってくる。
 それでなくとも、ちびせつなをすぐさま横島の前から消し去りたい、と刹那本体は思い始めていた。

「ん? どした?」
「え、いや、わたし、その……もう危険は去ったようですし、このかお嬢様を、お守りしなければなりませんので!
 じゃ、じゃあ、無理をせずに頑張ってください!」
「あ、おい……」

 ちびせつなはぽんと音を立てて、紙型に戻ってしまった。
 横島はひらひらと落ちる紙型を手のひらの上でキャッチした。
 人の形をした紙型には丁寧な字で「桜咲刹那」と書かれている。

「あらら? なんか慌ててたみたいだけど、大丈夫かね?」

 横島は紙型を何気なくポケットにいれて、一旦ネギの様子を見た。
 冷やしたタオルで腫れた頬をおさえているが、それほど大きい傷はない。
 あまりにケガが酷かった場合は、横島も文珠を使う気でいたが、それもしなくてよさそうだった。

 横島は二人に声を掛けた。

「とにかく、なんとか一人敵を生け捕りにすることができたな。
 まあ、子どもっつーことがなんか良心に訴えかけるものがあったりするけど」
「あとは時間が経って、文珠で結界を解除するだけですね」
「いや、文珠で結界を解除せんでもいーだろ。捕虜に直接脱出方法を聞き出せばそれで済む」

 情報を引き出すだけならば、文珠は三つも四つも必要はない。
 たった一つで事足りる。
 実際にアスナが無理矢理横島の口を割らせた、あの文字を篭めるだけで少年は口を割るだろう。
 もし、少年が情報を漏らすことを危惧して、自害する危険性が気になるならば、気取られずに『覗』を使うだけでもいい。
 一番最良なのは、脅したりして文珠を使わずに情報を吐かせることだが、それは少年の様子を見る限り望みの薄い方法だった。

「あんまり酷いことをしちゃうのは……かわいそうですよ」

 ネギは横島の言い方に不穏なものがあると誤解していた。
 捕虜から情報を引き出す行為と言って一番最初に思い浮かんだものは拷問。
 ネギの魔法でも相手の心理を読むものはあるが、警戒されている相手には聞きづらいために、どうしても乱暴な手段をとらざるを得ないと思ったのだ。

 もちろん、横島は少年を痛めつける気など無い。
 文珠で無理矢理情報を引き出すことは乱暴な手段とも言えようが、状況が状況だった。
 敵にそこまで譲歩する気は流石に横島でも持ち合わせていない。

「そんなことはしねーよ。ただちょっと文珠でしゃべってもらうだけだ。
 さーて、そろそろ起きてもらおうかな」

 横島は気絶している少年の頬をぺちぺちと叩いた。
 少年は二度三度静かに唸り、ゆっくりと目を開いた。

 意識を取り戻し、瞳が横島の顔を捕らえると、間をおかず大声で喚き始める。

「おいこら! 卑怯やぞ! 俺はそこのチビ助に勝ったんや!
 後ろから襲いかかるなんて情けないことして恥ずかしくないんか?
 えぇい、こないなロープで俺を縛っておけると思うなーッ!」

 少年は力を込めてロープを引きちぎろうと試みた。
 狗族である彼には普通のロープであれば、引きちぎることは絶対に無理ということではない。
 しかし、ロープはぎしぎしと音を立てるだけで、切れる気配を小太郎に感じさせなかった。

「あー、無理無理。それ、ただのロープじゃないからな」

 小太郎を捕縛しているロープは、元々はただのロープだった。
 相手が純粋ではない人間であれば、ただのロープでは引きちぎられる可能性があることを横島は理解していたためにちょっとした細工を加えたのだ。
 アスナの髪の毛を数本もらい、それを自分の髪の毛の何本かと共にロープの中に入れて、霊力を篭めた。
 処女の髪の毛は単体だけでも魔除けの特性が備わっている。
 そこへ霊能力者である横島の髪の毛を加えて、霊力を流しこんだのだ。
 これで、ただのロープからちょっとした呪縛ロープになった。

 もちろん、横島の世界にある呪縛ロープにはその効能は及ばない。
 だが、弱っている狗族の少年を捕縛するくらいは可能である。

「くっ……気が散って、力が出んわ。クソッ!」
「いい子だから大人しくこの結界から出る方法を教えろ」
「はん、アホか兄ちゃん、俺がそんなこと言うわけないやろ」
「じゃあ、しょうがないな、俺もこんなことはしたくないんだが、しゃーない……」

 横島はもったいぶった口調で、ゆったりと文珠を取り出した。
 出来れば消耗品である文珠は使わずに情報を引き出したい。
 目の前の少年が、脅しに屈するようなタイプには見えなかったが、一応それらしく振る舞ってみた。

 当然、少年はほんの少し身を捩ったが、それだけでさして動じているわけではなかった。

「ネギせんせー!」

 横島が文珠に字を篭めようとしたそのとき、背後から声が聞こえてきた。
 敵かと思い、ハンズオブグローリーを出して振り返ると、そこには大きな本を抱えている女の子が立っている。
 横島の記憶にもその子の姿は微かに残っている。

 名前は思い出せなかったが、ネギの生徒であることはわかった。

「のどかさん!?」
「ほ、ほほほほ、本屋ちゃん!? 何でここに!?」

 ネギとアスナもその姿を確認して、驚いた。
 女の子は息を切らせて休憩所に走り寄ってくる。

「……あッ! あまりに急だったから逃げるの忘れてたッ!」

 横島は一拍遅れて、竹林の中に走り出した。
 もうここまで来てしまったならば、逃げ出す必要性もないのだが、ネギの生徒を見ると反射的に逃げる癖がついていた。

 あっという間に横島の姿は消え、見えなくなってしまった。
 ネギやアスナも呼び止めようとしたが、既に遅かった。
 しばらくすれば戻ってくるだろう、と二人は考える。

 のどかはものすごい勢いで走っていった横島に、少し驚いたが、すぐに落ち着いて口を開いた。

「あの、この……本にネギ先生のことが書いてあって……」

 のどかはネギに手に持っていた本を差し出した。
 本を開いて、ページをめくると、絵本のような絵柄で描かれた絵日記のようなページが現れる。
 そこには、現在のネギの心に思っていることが書かれていた。

「な、なんですか、これ!」
「えっと、ネギ先生とその……キキキキ、キスしたときに貰ったカードが、アデアットって言ったら、これになったんですー」
「なるほど、人間の心の表層を読むアーティファクトみたいだな。
 姐さんみたいな攻撃のためのアーティファクトじゃねぇが、こりゃ使いようによってはかなり強力なモンだぜ」
「カッ、カモ君!」

 ネギは一般人であるのどかの前で話すカモに声を掛けた。
 が、のどかは既に事情を知っている。
 オコジョが人間の言葉を話すことも、ネギが魔法使いであることも、アーティファクト『いどのえにっき』によって知っていた。

「あ、あの、ネギせんせー、私、大体何が起きてるか理解してますー」
「え? そ、そうなんですか……」
「兄貴! このアーティファクトがあれば、文珠を使わなくてもあいつから情報が引き出せるんじゃないっスか?」

 カモは思いつきを口にした。

「え、あ、はいー、多分、出来ると思いますけど……」
「ちょっとちょっと、勝手に話を進めるんじゃないわよ、エロガモ」

 そこへアスナが割り入った。
 カモがどんどん話を進めているが、このまま放っておいたらでは一般人を裏の世界へと引っ張り込むことになる。
 アスナ自身もネギを放っておけないという理由でかなり深入りしてしまっていたが、それにのどかを入れることに抵抗を覚えたのだ。

「本屋ちゃん、ここまではまだ無事みたいだけど、これから先は危険なの。
 あまり知りすぎると引き返せなくなるわよ」
「でも、私……ネギ先生の力になれるのなら、協力したいですー」
「……本当にいいの?
 本屋ちゃん、あんまり運動とか得意そうじゃないから、心配なんだけど……。
 後悔しない? とは聞かないけど、いいの?」
「はい」

 のどかはまっすぐアスナを見て頷いた。
 アスナはのどかの意思がわかり、自分では止められないものとわかった。

 ふぅ、と溜息を吐いて、口を開いた。

「じゃ、早速、あの子から情報を聞き出さないとね」

 アスナは縛られている少年を見た。
 少年は、見られたことに気付いて、アスナを睨み返した。

「俺は言わへんで!」
「言わなくてもいーのよ、こっちで勝手に見るから。
 さ、本屋ちゃん、あいつの心を読んじゃって」

 アスナはそういうと、のどかの背後に回った。
 が、のどかは困ったような声を出した。

「えっと、これはー、相手の名前がわからないと、使えないんです」
「……え?」

 アスナは止まった。
 使用方法がわからぬまま、のどかを当てにしてしまったのだ。
 しかも、名前がわからないと使えない、という情報を、みすみす少年に与えてしまった。
 その上で少年が名前を教えてくれるとは思えない。

「あ、あんた、名前教えなさいよ」
「アホか、姉ちゃん」

 ダメもとで聞いてみたら、アホと一蹴された。
 アスナは頭を抱える。
 結局、横島に頼らなければならないようになってしまった。
 バカレンジャーなどと呼ばれて何度も屈辱を受けてきたが、それでも今回ほど自分の浅はかさが嫌になったことはなかった。

 そこへ、横島が戻ってきた。

「逃げたのはいいけど、結局どこへ行けばいいのかわからんかったので、戻ってきました」

 衝動的に逃げてしまったことを恥じて、横島は軽く頭を下げて、明るい口調で言った。

「あ、おかえりなさい、横島さん。
 こっちの子は、ウチのクラスの宮崎のどかって子なの。
 もう魔法のことを知ってるから、大丈夫よ」

 アスナはのどかのことを紹介した。
 のどかは年上の男性に少し恐怖心を抱いているのか、アスナの影に隠れるようにぺこりと頭を下げた。

「本屋ちゃん、この人が横島さんで……」
「ネギ先生のお手伝いの人なんですよねー」
「うぃっす……ところで、のどかちゃん。君にお姉さんはいるかい?」
「え? い、いないですけどー……」

 突然の奇妙な質問にのどかは少し脅えて答えた。
 ノー、と言う言葉に、横島はがっくりと肩を落とした。
 のどかは中学生で横島のストライクゾーン外だが、とても可愛い顔をしていたからだ。

「横島さん、本屋ちゃんは気が弱い子なんですから、変なことをしたら許しませんよ」
「何かアスナちゃんいつも誤解しているみたいだけど、俺の守備範囲は高校生以上。
 いくら俺でも中学生には基本的には手を出さんって……」

 アスナは横島に釘を刺した。
 横島はそれに対して、いつも通りの説明をする。

「で、結局魔法バレしちゃった、っつーことでいーんだよね?」
「そうッス、この姉さんは、ネギの兄貴とパクティオーしたんスよ」
「パクティオー……? じゃ、じゃあ、何か!? ネギはこの子と、ち、チュウしたっちゅうことか!?」

 横島の遠慮のない言葉に、ネギとのどかは顔を赤らめた。
 同じタイミングで顔を伏せる。

「おいネギ! お前、自分の教え子に手ェ出して、それでも教師かァッ!」
「そ、そうですよね! パートナーを探さなきゃいけないって言っても、やっぱり先生と生徒という関係でキスしちゃうなんて……」
「こらエロガモ! 横島さんに余計なこと言ったら、また発作が起きちゃうでしょ!」
「ほ、発作ってなんやねん! 別にこれは発作じゃなくて、俺の善良なる心が正義を訴えているだけで……」

 アスナがハマノツルギで横島の頭をスパァンと叩いた。
 横島は近くにある竹に顔をぶつけて、ずるずると滑り落ちる。

「本屋ちゃんを脅しちゃダメって言ったじゃないですか、横島さん」
「う……す、スイマセン……」

 誰も止めるものがいなければ、ずっと暴走し続ける横島。
 元の世界ではストッパーは美神だったが、こっちの世界ではアスナだった。

 共通点が全くないとは言えないが、両者似ているとも言えない。

「あ、あのー、き、ききき、キスしちゃったのはー。
 その、あの、私が転んじゃって、たまたまネギ先生がいたというかー。
 わ、私が悪いので、ネギ先生のせいじゃないんですー」

 嫉妬の心に燃えて、ネギを弾劾していた横島に、のどかはおずおずと言った。
 ネギ、カモ、アスナ、横島の視線がのどかに一点に集中する。
 のどかは一斉に視線を向けられたことに顔を赤くして、胸の前あたりで手をもじもじと動かし始めた。

「くっ……え、ええこやな〜……」

 横島は思わず目から涙を流した。
 横島の言いがかりじみたことをも本気で受け止めて、ネギに迷惑をかけまいとする健気さが、横島の心にはまぶしかった。

「……」
「『かわいがってた弟が突然女を連れてきて複雑な心境の姉』……って顔だな、姐さ……」
「何か言ったかしら、エロガモ」

 アスナは余計なことを言ったカモの頬をつねり上げた。

「えっと、あの……その……」

 ネギはのどかと一緒に恥ずかしがってもじもじしていた。


「さてと、こんなところでじっとしていてもしゃーない。さっさと親書届けちまおうぜ。
 俺は、これ終わったら京都で色々やることがあるしな」

 やること、とはナンパのことである。
 初日、二日目、三日目……すなわち今日まで、横島はずっとナンパを我慢してきた。
 京都で素敵な一晩過ごすことを夢見て、けどその前に仕事を終わらせなければならないというジレンマ。

「と、ゆーことでちゃっちゃとこの結界から出る方法を教えろ」
「俺がそんなこと言うわけないやろ」
「じゃあまあ、しょうがないな、強硬手段に出るしかない」

 横島は文珠を取り出した。
 篭められた文字は『読』
 文字は、のどかの持つアーティファクトが心を『読』むものであることをヒントにして、関係のある情報だけを抜き出すには最適な字だと判断した。

 横島は自分で自分に文珠を使い、少年の思考を読み取った。

「ふむ……この先に行けば広場があるんだが、そこから六番目の鳥居の上左右三箇所をぶっ壊せば結界が解けるそーだ。楽勝だな」
「くっ……」

 少年は顔を伏せた。
 これほどまで呆気なく情報を盗られるとは思っていなかったのだ。
 敗北感と屈辱感に耐えているのか、下唇を噛んで、じっと黙りこくっている。

「なんとか、親書を届けられそうね、ちびせつ……あら? ちびせつなちゃんはどこに行ったのかしら?」
「ああ、ちびせつなちゃんなら、もう大丈夫だろうって言って、紙型に戻ったぞ」

 ほれ、といって横島は自分のポケットの中から紙型を出した。
 桜咲刹那、と紙型には綺麗な字で書かれている。

「そういや、なんかちょっと慌ててたみたいだったけど、向こうは大丈夫なのかな」
「どんな感じだったんスか?」

 カモが出てきて、横島に聞いた。

「いや、もっとこっちにいるかと思ったんだけど、急に顔色変えて、このかお嬢様を守らないととかなんとか言って消えちゃった」
「……ひょっとしたら、術力をこっちに回せなくなるくらい大変なことになっちゃったんじゃないッスかね?」

 ふと、横島はちびせつなが消えたときのことを思い出した。

 ちびせつなは唐突に顔色が変えて、消えてしまった。
 カモの言っている通りである可能性は十分に考えられる。

「まあ、とにかく結界を破壊しとこうぜ。ここから出ることが先決だろう」

 横島は少年を担ぎ、休憩所を出発した。
 のどかを加えたネギとアスナも、横島に従って後を追いかける。

 数分後、横島が少年の心を『読』んだ情報通り、広場が現れた。

「こっから六番目の鳥居の上左右三箇所だ」
「あ、それなら僕が壊します」
「そか、じゃ、ネギよろしく」

 ネギは光属性の魔法の射手を三本放った。
 狙い違わず、鳥居に命中すると、鳥居の内側の空間が微かに歪んで光が現れる。

「じゃ、ここは私が……」

 アスナがハマノツルギを振り下ろすと、歪んだ空間に裂け目が入った。
 裂け目が広がって無間方処の呪法が破られる。
 こうして、一行は通常空間へと戻った。

「刹那ちゃんのことも心配だが、先に関西呪術協会の本山に親書を届けておいた方がいいんじゃないか?」

 通常空間に戻るなり、横島は言った。
 続けて、ここで親書を奪われたりしたら今までの意味がなくなってしまう、と付け加える。
 ネギ達は横島の意見を受け入れて、先へと進んだ。

 魔法の存在を知ってはいるものの、親書や関西呪術協会に関して知らないのどかに、アスナとネギは説明をしながら歩いた。
 仲が良さそうな三人組を横目に見つつ、横島は人知れず歯を食いしばってネギのことを憎々しく思っていた。

「女の子を二人も同時に……クソッ……あの年で両手に花っつーことか!?
 神は理不尽だッ! 平等という言葉は死んだッ!」
「お、おい、兄ちゃん……俺が言うのもなんやけど、元気出せや」
「ぐっ、そうか、お前もか! お前もモテない男か! 俺とお前は敵同士だが、心の友なんやな〜」

 おーいおいおいと泣き出す横島。
 肩に担がれている少年は、弱り切っている横島にさりげなく言葉をかけてやったのだが、いつの間にか「心の友」認定されて戸惑っていた。

「あ、いや、別にそこまで言うてへん……けど……」
「名前はなんていうんだ、お前!」
「え? い、犬上小太郎や」
「小太郎か! 俺は横島忠夫! 故あって、タコ人間に雇われている身だが、何かあったら俺に頼れよ!
 きっと力になってやる! モテない男同士、体は二つだが心は一つ!」
「は、はあ……」

 なんだかよくわからないうちに同類と見なされてしまった少年――小太郎。
 小太郎の手足を縛り、肩に担ぎながら、横島は関西呪術協会の本山の敷居をまたいだ。

 その瞬間、小太郎は地面に放られた。
 心は一つやないんかい、と思いつつ、手足が不自由なのでごろごろと地面を転がった。

「いらっしゃいませ!」
「こんにちは、僕、横島! 東からやってきた平和の使者でーすッ!」

 広大な敷地の中に存在する、日本屋敷。
 広く大きく、建物の高さは低い。
 屋根は瓦で、主な建築材は木。
 中庭の至る所に桜が咲いている、神秘的な場所。

 そして何より横島の目を引いたのは、道の両脇で歓迎の意を表している、美人巫女達。
 肩に背負った小太郎を投げ出して、早速端っこの巫女から声を掛けまくる。

「東西の平和のために僕とあなたとで愛を紡ぎましょう!」
「え? いえ……あの……」


 横島がナンパをしているのを見て、アスナは溜息をついた。
 一瞬、この場所の厳かな雰囲気や大勢の人が歓迎を意を示してしていることに、少し引け腰になりかけたが、何も怖じけずにナンパをし始める横島を見て、脅えることがアホらしくなってやめた。

 ネギとのどかは感嘆の溜息を漏らして、あたりをきょろきょろ見回していた。

 そこへ、一人の巫女が近づいてきた。
 どうやら、道の端で列を成している巫女よりも上位に当たる存在のようで、ネギ達の目の前に来ると丁寧に頭を下げた。

「ネギ・スプリングフィールド様ですね?
 長がお待ちしております、どうぞこちらへいらしてください」
「あっ、はっ、はい!」

 声を掛けられて我に返ったのか、ネギも少々硬い動作で頭を下げた。
 釣られてのどかとアスナも礼を返す。

「あの……あちらのお連れ様はどういたしましょうか?」

 案内の巫女は、少し困ったような表情を浮かべて横島を指さした。
 もう五人目になる巫女さんの手を掴み、ナンパに励んでいる。

「あー、すいません、今連れてきますから……」

 アスナはハマノツルギを取り出して、横島に近寄り、ドツいた。
 地面に倒れた横島の襟を掴んで、ずるずると引っ張り、再び案内の巫女の前までやってくる。

「お見苦しいものを見せてしまって、本当に申し訳ありません」
「いやだー! 後生だから放してくれ! 今すごくいいところだったのに!
 あとちょっとで携帯電話の番号を教えてくれそうだったのにーッ!」

 いいんですか? と額に汗を浮かばせながら聞く案内の巫女に対し、いややー、と喚く横島を無視してアスナは、気にしないでください、一種の病気みたいなものですから、と返した。
 案内の巫女は微妙に引きつった表情をしながら、ネギ達を本殿へと連れて行った。
 その最中、横島はアスナに襟首を掴まれてずるずる引っ張られながら、泣きわめいていた。

 ちなみに小太郎は、縛られたまま巫女達に牢屋へと運ばれていった。

 本殿に上がる四人。
 本殿は今まで以上に張りつめた空気に満ちていた。
 物音を立ててはいけない、と思って、そっと足を進めていく。
 左右の障子の前には、笛や琴や太鼓で優雅な音をならして演奏している人が数人。
 正面の階段の両脇には、矢と弓を背負った人が静かに立っている。

 部屋の中央からやや奥寄りに円座が四つ置かれていた。
 ネギ達はそこに正座する。
 横島も、流石に状況が状況であるからネギ達にならって円座の上に座る。
 もちろん、目は周りにいる巫女達に注がれ、誰が一番美しいか、誰が一番胸が大きいか、などと不届きな視線を飛ばしている。

 案内の巫女は、まもなく長がここに来ることを告げて下がった。
 十秒も待たぬうちに、階段の上から、宮司の格好をした中年の男性が降りてきた。

「ようこそアスナ君、このかのお友達に、担任のネギ先生」

 この人こそ、関西呪術教会の長。
 近衛詠春。
 近衛近右衛門の義理の息子にして、近衛木乃香の実の父親。
 ネギの父親であるサウザンドマスター、ナギ・スプリングフィールドの盟友。
 幼い頃にアスナと面識を持つ男。

 アスナは詠春と出会ったことがあるのだが、故あってそのことを忘れている。

 ネギは円座から立ち上がると、大切にしまってあった親書を出した。

「東の長、麻帆良学園学園長近衛近右衛門から、西の長への親書です。お受け取り下さい」

 そういって、詠春に向かって、両手で親書を差し上げた。
 詠春はそれを受け取り、ネギに向かってねぎらいの言葉をかけた。
 親書の封を切り、中から関東魔法協会からの申し出と、義理の父親からの叱責の言葉が書かれた手紙を取り出した。

「……いいでしょう。
 東の長の意を汲み、私たちも東西の仲違いの解消に尽力するとお伝え下さい。
 任務ご苦労! ネギ・スプリングフィールド君」
「ハイ! あ、そうだ! あの、うちのクラスの生徒でまだ狙われている子がいるかもしれないんですけど……」

 ネギは木乃香のことを思い出した。
 横島が、ちびせつなが慌てて消えてしまった、と言っていたことも気になる。
 関西呪術協会の長が協力してくれるのならば、とても力強い。
 しかし、長は穏やかな笑みを浮かべて、ネギの言わんとしていたことを遮るように言った。

「それはこのかのことだね? 大丈夫、刹那君から連絡を受けてある。
 なんとか追っ手を撃退し、今こちらに向かっているそうだ。
 もうしばらくしたら、到着するだろう」
「あの……知ってたんですか?」
「ああ、もちろんだ。このかは私の娘だからね」
「え、えぇーッ!?」

 長の言葉にネギとアスナは驚愕した。
 このかが関西呪術協会の長の娘であると、学園長から何も伝えられていなかったからだ。
 のどかは道中簡単に説明されただけなので、まだいまいち状況を理解しておらず、横島は長の話よりも巫女さんのことに夢中になっていたためにネギ達ほど驚いてはいない。

「今から山を降りると、日が暮れてしまいます。今日は泊まっていくといいでしょう。
 歓迎の宴をご用意致しますよ」

 長が穏やかな表情で言った。
 ここで初めて、横島が長の言葉に反応した。

「かっ、歓迎の宴って本当ッスか!?
 あの、美人の巫女さん達と一緒に、料理食べたり、お話ししたり、ドンチャン騒ぎしたりできるんですか!?」

 横島はずずいっと長に詰め寄って、勢いよく早口で聞いた。
 長は相変わらず穏やかな表情で、横島の言葉を肯定する。

「君は、ネギ君の補佐をしてくれた横島君……だね。学園長から事情は聞いているよ。
 何か君の役に立てることがあるなら、いつでも協力させてもらうよ」
「うぉっしゃーッ! 宴もたけなわになったころ、騒ぎ疲れ、ほろ酔いになった巫女さんと俺は、一緒に星空を見つつ、愛を語ら……」

 長の話を全く聞かずに、想像を働かせる横島。
 アスナはそんな横島の頭を叩き、黙らせる。

「す、すいません……」

 アスナは恥ずかしく思って、横島を引きずりながら長に頭を下げた。
 その手際はとても手慣れたもので、アスナのアーティファクトはツッコミの入れすぎによって本格的にただのハリセンになりかかっていた。
 その反面、動じず相変わらず穏やかな表情で笑う長。
 アスナはそれを見て、なんとなく木乃香のあのぼんやりした性格が父親譲りであることを悟ったのだった。

「ハハハ、元気があって大変よろしい」


 夜。
 関西呪術協会の本山で、ネギ達を歓迎する宴が開かれた。
 豪勢な料理が振る舞われ、巫女が日の丸の扇子を持って舞いを踊っている。

 宴が開かれている建物から、少し離れた場所に何者かが動く影があった。
 その影は柱に縛り付けられ、そこから動けないようにされている。

「ち、チクショー! なんで刹那ちゃんは一般生徒連れてきちまったんだよーッ!
 バレちゃいかんから……宴にでられないなんて……そんな、そんなあんまりだぁああああああああ!!!」

 横島達が長に親書を渡した後、刹那が遅れて木乃香を連れてきた。
 刹那の話を聞くと、街中で月詠の襲撃にあい、太秦シネマ村へと逃げ込んだ。
 人の多い場所では襲われないと思っていたものの、演出と見せかけて月詠が決闘を申し込んだ。

 刹那はこのかを護って月詠と戦う。
 二刀使いの月詠は、刹那の苦手のする相手であり、苦戦してしまうはずだった。
 が、刹那にはアスナが横島から脅し取り、分けてくれた文珠があった。
 文珠を使い、自身を強化し、月詠を一瞬で撃退。
 続いて、呪符使い――長によると名前は天ヶ崎千草というらしいが、それと白髪の少年が襲いかかってきた。
 しかし、シネマ村にいる人が多すぎ、相手は派手な行動が取れなかったために、こちらも両方追い返すことができた。

 なんとか相手をしりぞけた刹那は、このかを連れて最も安全な場所……。
 木乃香の実家へと木乃香を連れて行ったのだった。

 ……その刹那の荷物にGPS携帯を忍び込ませた朝倉が、ハルナ、夕映と一緒に付いてきてしまったのが横島の不運。

「アスナちゃん……お、俺を普通のロープで縛っても直ぐ逃げられるってことを見破ってた……。
 だからって本山の術者が強化した呪縛ロープなんて使うんじゃねーよ!
 クソッ、これじゃあ文珠で縄抜けもできんッ!
 巫女さんパワーで、新しく三つも文珠を作れたのに……力をロープにとられて、念がこめられんッ!」

 建物の柱に縛られて、しくしくと泣く横島。
 本山は特殊な結界が張られており、全体的に暖かいので、風邪を引くことはない。
 遠くで聞こえる、宴の騒がしい音が聞こえてきた。

 ふと、そこへ誰かが近寄ってきた。
 巫女達は全員アスナに時間が来るまで横島を放してはダメだ、と言われているので説得も泣き落としも通用しない。

「……ふう」

 刹那だった。
 宴を抜け出し、外の空気を吸いに来ていたのだ。
 同時に静かなところに行きたくなって、横島が柱に縛られている場所まで来てしまった。
 刹那は横島に気付いていないのか、独り言を漏らし始めた。

「……このかお嬢様……」

 横島も、暗闇で近づいてきた人物が刹那だとはわからなかった。
 が、その声を聞いて、気付いた。

 巫女さんはいくら頼んでも放してくれなかったけれど、刹那なら願いを聞いてくれるかも。
 そんな思いに微かな望みを抱いて、横島は声を掛けた。

「刹那ちゃん! 俺だッ、横島だッ! 頼む、このロープをほどいてくれ!」
「よ、横島さん!?」
「そうだ、頼む、このままじゃ美人巫女さんととっても雅で風流な一夜が過ごせなくなるッ!
 今からなら遅くないかもしれない! 千年前の平安京で習得した、宴会芸を披露すればきっと……」

 刹那は顔を青ざめさせて、横島から逃げた。

「あーッ! そんな、酷いッ! このままじゃ本当に手遅れになるかもしれないんだーッ!」

 不自由な体を動かそうと暴れる横島。
 助けて、と自分にすがる叫び声が聞こえても、刹那は振り向かない。

 刹那は横島のことを恐れていた。
 彼は小太郎の正体を見破ることができる能力を持っていると言った。
 小太郎は狗族のハーフ……刹那は烏族のハーフ。
 事情があって、そのことを知るのは一部の人間だけで、他の人には知られてはいけないこと。
 特に木乃香に知られることを、刹那は何よりも恐れていた。

 刹那は木乃香のことが好きだった。
 一緒に遊んでいた幼い頃はもとより、影ながら護衛をすると決めた今も、好きだった。
 特に話などできなくても、敵の多い木乃香を守れればいい、守れるだけで少し心が痛むものの満足だった。

 しかし、もし自分が半分人間ではないものの血を引いていることを木乃香が知ったら。
 恐らく、木乃香は自分を嫌うだろう。
 近くに寄らせることも厭うだろう。
 そうなることを、刹那は恐れていた。

 幸い、今のところ木乃香にはバレていない。
 クラスメイトの幾人かは悟っているだろうが、自分からそのことを話すようなタイプではない。
 まず間違っても、木乃香の耳に届きはしないだろう、と。
 しかし、横島。
 横島はわからなかった。
 自分から言うことはないかもしれないが、何かのはずみでぽろっと言ってしまうかもしれない。
 たくさんの人にバレてしまったら、それだけ木乃香の耳に届く可能性が高い。

 何故か、口外しないでくれ、という頼みはしなかった。
 ただ逃げた。
 とことん横島の目に付かず、接触せず、ただ忘れ去られよう、とそういう考えでもって逃げた。

「くそーッ! お、俺は諦めへんぞッ! 絶対に抜け出して!
 巫女さんと一緒に日の丸扇子持って、踊っちゃるーッ!」

 横島は、血涙を流して再び脱出しようと藻掻き始めたのだった。


「……くそう……」

 横島は庭の隅でしくしくと縮こまって泣いていた。
 自力で縄抜けしたのはいいものの、宴は既に終わっていたのだ。
 宴の残り物をご馳走になったのはいいものの、一番の目当ての巫女は後かたづけを始めていた。
 バカ騒ぎが出来なかったせいで意気消沈し、アスナの目がないというのに声を掛けすらしなかった。

 桜の木の根本にうずくまり、石で木に文字を刻んでいた。

「俺も……巫女さん達と騒ぎまくって、遊びたかった……」

 期待が大きかった分、失望も大きい。
 石の先端で、桜の木に「ミコさん」といくつも刻んでいく。
 見咎められないように、気配を小さくし、建物からは見えない位置でうずくまっていた。

 逆に、横島の位置からも本山の建物は見ずらかった。
 そして、横島の失望があまりにも深かったため、建物内で起きていた異変に気付くのは少し時間を要した。

「きゃああああ!!」

 建物の中で女性の叫び声が響いた。

「な、何だ!?」

 流石の横島も手に持っていた石を放り投げ、叫び声がしたところへ走り寄った。
 手すりを飛び越え、建物の中に入る。

「ネギ!」

 同じく叫び声を聞きつけたのか、廊下を走るネギに会う。
 合流すると無言で現場に駆けつけた。

 悲鳴が聞こえてきた部屋の障子を開くと、そこには石像があった。

「こ……これは……!! 朝倉さん!? パルさん!! の……のどかさん!!」

 その石像は、ネギの生徒にとてもよく似ていた。
 いや、似ていたのではなく……。

「こ、こいつは高等魔術『石化(ペトリフェケーション)』!! 陰陽術にもあったのか!?」

 ネギの生徒が魔法によって石化させられていたのである。
 ネギは自分の生徒が石化していることに動揺し、横島もまた……。

「この子が石化してるっつーことは、他の部屋にいる巫女さん達もみんな石化してるということか!?
 んな馬鹿なッ! ということは俺と美人巫女さんが枕を共にするという予定がッ!
 おいネギ! お前はこれは治せるのか!?」
「い、いえ、僕には無理です……」
「じゃあ、あのおっさんだ! あのおっさんに知らせねーと!」

 横島はネギとともに一旦部屋に出た。
 ネギはそれと同時に、アスナのことを思い出した。
 アスナの安否が気になり、パクティオーカードを取り出して額に当てる。
 テレパシーとしてアスナに念話を飛ばすと、確かな感触がある。
 まだアスナは石化されていない。
 アスナもパクティオーカードを使って、ネギに向かって念話を飛ばして情報を交換した。

「何してんだ、ネギ!」
「今、アスナさんに連絡を取りました! アスナさんとこのかさんは無事です!
 一旦、お風呂で合流します」
「わ、わかった!」

 ネギと横島は風呂を目指した。
 横島は建物の位置を知らないために、先頭にネギが走る。
 呪文を唱えて、ネギは自分の杖を走りながら呼び寄せた。

 と、角を曲がろうとしたそのとき。
 刹那が夕凪を構えて飛び出してきた。
 ネギは咄嗟に杖を構える。
 両者、のど元に突きつけたところで、相手の姿を確認する。

「刹那さん!? お風呂にいたんじゃ!? アスナさんが話するって……」
「ただならぬ気配を感じて飛び出してきました。何があったんです!? お嬢様は……」

 ネギは杖を、刹那は夕凪を元に戻した。
 そこへ横島が口を挟む。

「敵の襲撃にあって、人が石になってる。
 あのお嬢ちゃんならまだ無事だ。これから風呂で合流することになってる!」

 刹那は横島がいることに一瞬反応した。
 が、今はそれどころではない、と気を引き締めた。

「ネギ君、刹那君……」

 そこへ、関西呪術協会の長が現れた。
 壁に手を当て、重い足取りで歩いている。

 その下半身は既に石になっていた。
 ぱきぱきと音を立てて、今も尚石化が進んでいる。

「文珠ッ!」

 横島は文珠を一個取り出して、『解』の文字を入れて長に使った。
 膝までしか石化は解けなかった。
 その上、石化の進行は止まらない。

「クソッ、二文字使わないとダメかッ! もう一個『解』で……」
「いえ、私には構わないでください。平和な時代が長く続いたせいでしょうか、不意を食らってこのザマです。
 かつてのサウザンドマスターの盟友が情けない……。
 白い髪の少年に気をつけなさい……格の違う相手だ。
 並の術者にならば本山の結界も、この私も易々と破られたりは……しない」

 長の石化の進行は早かった。
 もう胸辺りまで石になってしまっている。

「あなた達だけでは辛いかも知れません。学園長に連絡を……。
 すまない、このかを頼みます……」

 長はネギ達に自分の娘を頼んで、完全に石化してしまった。
 ネギ達はゆっくりと息を飲み、互いを見合わせる。
 警戒を怠らず、且つ全力で廊下を走って風呂を目指した。


 その途中、黒いものが三人の進路を遮った。

 犬上小太郎。

 本山に侵入した仲間が、結界の張った牢屋から解放したのだろう。
 まだ衰弱しているようだが、その目は闘争心に溢れていた。

「おい、お前ら、勝負……」
「ヨコシマパーンチ!」
「がふっ!」

 戦う気は満々だったが、つい先ほどまで結界によって気を散らされていた体では素早く動けなかった。
 さして気にとめられることもなく、横島に殴られて吹っ飛んで気絶した。
 体調が万全どころか最低であるのに戦いを挑もうとする闘争心だけでは、相手に勝つことはできなかった。

「よ、横島お兄ちゃん、今のは!?」
「右手に霊力をこめて殴った。
 GS免許取得試験のときに一回使ったことがあったんだが、技ですらないただのパンチだ」

 三人は小太郎を無視して、風呂についた。
 広い風呂場は静まっており、浴槽の脇に全裸のアスナが倒れていた。

「あッ、アスナさん!」
「アスナちゃん、だいじょ……って!」

 横島はアスナの姿を見るや否や壁に頭を打ち付けた。
 相手が中学生であっても……いや中学生であるから、横島は一瞬でもよぎった感情を否定しなければならなかったのだ。

 頭を血まみれにして欲望を振り払うと、Gジャンを脱いでアスナの上にかけた。

「どうしたんだ、アスナちゃん」
「よ、横島さん……服はありがたいんですが、まず頭の血を拭いてください」
「大丈夫か? え、エッチなこととかされたんじゃないだろうな!?
 ぬおーッ! 許せん! まだ年端のいかぬ女の子にアンナことやコンナことをするなんてーッ!」
「されてませんっ!」

 アスナのツッコミが横島の額に命中した。
 狙ってやったわけではないのだが、ちょうど傷口に手が命中する。
 横島は痛みの余りもんどりを打って転げ回った。

「ノォォォォォォォ!」
「あ、あわわわわ、ご、ごめんなさい! わざとじゃないんです!」

 わざとではないといえど、ケガをしている部位を叩いてしまったことをアスナは謝った。
 横島は横島で、一通り転げ回ると、すぐに復活し、アスナの横に膝を突いた。
 変わり身の早さに、少し調子を狂わされながらも、アスナは刹那に向かって、言った。

「ご……ごめん、刹那さん……このか、さらわれちゃった……。
 き、気をつけて、あいつ、まだ近くにいるかも……」
「ていうか、さっき元気にツッコミしてたのに、なんでそんな切れ切れにしゃべってるんだ?」
「よ、横島さんには言われたくありませんッ!」

 と、刹那の背後に白い髪の少年が突然、現れた。
 学ランを着て、足は地面についていない……宙に浮遊していた。

「刹那ちゃん、後ろッ!」

 刹那も気配を察していたのか、横島に声を掛けられる前に後ろに手を回した。
 徒手で攻撃しようとしていたのだが、白い髪の少年はその手を弾いた。

 そして、反対側の手に魔力を纏わせて、刹那に向かって攻撃をしかける。
 刹那も反対側の手で、ガードをしようと試みたが、失敗。
 腹を殴られて、吹き飛ばされた。

「ぐおっ!」

 直線上に横島がいた。
 殴り飛ばされた刹那を避けるわけにもはたき落とすこともできず、そのまま巻き込まれる。
 二人一緒に飛ばされて、風呂場の壁にぶつかった。
 横島がクッションになったため、刹那は殴られた部位以外に特にダメージはない。

「がっ……てて」
「よ、横島さん! す、すいません!」
「い、いいよ……汚れ役には慣れてるから……それよか、あいつを」
「はい!」

 刹那は夕凪を抜きはなち、白い髪の少年に斬りかかった。
 が、白い髪の少年は動きが速く、刹那の斬撃をかわす。

「こ、このかさんをどこにやったんですか!?」

 ネギが杖を構える。
 刹那は斬りつける。
 白い髪の少年は回避し、ネギを無言で睨み付けている。

「……みんなを石にして、刹那さんを殴って、このかさんをさらって、アスナさんにえっちなコトまでして……!
 先生として、友達として……僕は……僕は……許さないぞッ!
 ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」

 ネギは始動キーを唱え始めた。
 刹那はまだ夕凪を振るっている。しかし一撃も当たらない。
 今まで黙していた白い髪の少年がようやく口を開いた。

「……それでどうするんだい? ネギ・スプリングフィールド。
 僕を倒すのかい? ……やめた方がいい、今の君では無理だ」

 白い髪の少年はそれだけ言うと、足下の水たまりの中に姿を消した。
 カモがみずたまりに近づいて、消えた原因を考える。

「……水を利用した『扉(ゲート)』……瞬間移動だぜ、兄貴。
 かなりの高等魔術だ、浮遊術も使ってたし、かなりの使い手みてぇだ」

 木乃香を連れて行かれ、敵を逃がしてしまったことにネギは歯を食いしばって悔しがった。
 魔法を使って脱衣室からタオルを呼び寄せ、それをアスナにかける。
 前を見据え、覚悟を決めた声で、力強くアスナに言う。

「アスナさんはここで待っていてください。このかさんは僕が必ず助け出します」

 ネギの大人びた表情を見て、アスナは一瞬戸惑った。
 ふと、奈良公園での茶屋で聞いたのどかの言葉を思い出した。

『時々私たちより年上なんじゃないかなーって思うくらい、頼りがいのある大人びた顔をするんですー』

 確かに、ネギは頼りがいのある大人びた顔をしていた。
 アスナがネギに見ていた子供っぽさとは、また別な面。
 別段、胸がドキドキもしたりするようなことは全くなかったが、アスナには、ネギが大きく見えた。

「とにかく追いましょう、ネギ先生。気の跡をたどれば……ぐっ」

 刹那は、白い髪の少年に殴られた部位の痛みによって、顔をしかめる。

「刹那さん、大丈夫ですか!?」
「無理すんなよ、刹那ちゃん! あいつに殴られただろ」

 もっとも、横島は殴られて跳んだ刹那のクッション代わりになったのだが、こちらはピンピンしている。

「見せてください、軽い傷なら僕に治せます!」
「えっ……」

 ネギに言われるがまま、刹那はシャツを少しまくって、殴られた患部を見せた。
 赤くなった部位に、ネギが手を近づけると、ぽう、という音とともに淡い光が現れる。
 その光が、段々と刹那の傷を癒していった。

 完全に傷が治ると、ネギは手をひっこめ、立ち上がった。
 刹那も立ち上がると、二人は目を見て、頷いた。

「行きましょう、刹那さん!」
「はい、ネギ先生!」
「それじゃな、アスナちゃん! もう敵はいないと思うが、大人しく待ってるんだぞ」

 三人は敵の残していった気の跡を追おうとした。
 が、一人残されそうになったアスナが、慌てて声を掛けた。

「あ、待って! 私も行くって、もう大丈夫だし!
 今着替えを……あ、横島さん、Gジャンありがとうございました」

 アスナは横島に掛けられたGジャンを返して、頭を下げて返し、手早く着替えを済ませた。
 四人は木乃香を取り返すために、本山を抜けて、敵を追いかけた。

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