ああ、知ってるよ。ロトの末裔だろ？
ちょくちょく町に来てその辺歩いてたよ、素っ裸で。
珍説ドラゴンクエスト～裸の王様～
だから裸だよ、は・だ・か。下着一枚着けずに素っ裸で歩き回ってたんだよ。
嘘なもんかい、歳喰ってそうなのに聞き回ってみろよ。当時から住んでる奴ならみんな知ってるぜ。
いや初めて見た時ゃびびったね、アレは。隠しもしねぇで堂々と歩いてるんだもんな。町中みんな唖然として…………いや、一人だけ例外がいたっけか。
例外ったってなぁ。あの女も良識の敵みたいなもんだし……
ああ、いわゆるところの痴女って奴でな。名前は確か…………ダメだ、思い出せねえ。
いきなりフルチンの男に声掛けられた女が、普段通りの対応なんか出来るか？普通の女が往来で男の股間見続けて「貴方ちょっと素敵ね」とか言うか？
変態だろ、どう考えても……っと、ずれ過ぎたか？
ともかく、裸で彷徨いてるそいつに俺は言ってやったんだ。男の象徴なんざぶらぶら揺らして往来歩くもんじゃねぇ、てな。
ところがだ。やけに素直に頷いたそいつが、何をしたと思う？
ふらっと道具屋に入って行ったかと思ったら…………薬草一枚、股間に貼っ付けて出て来やがった。当然、それ以外は入る前と変わり無しだぜ。
脱力したねあれは。もうなぁんも言う気なくしちまった。
それ以来、ずっと葉っぱ一枚だ。いつ来ても、いつ見ても、股間に一枚葉っぱを貼った姿なんだぜ。基本的にな。
ああ、そうだ。基本的には、だ。一回も休まずそうだった訳じゃない。
一時期、服を着てた事も有ったんだけどな。
いや、普通の服だよ。布製の、何処にでも有る服。
次に見た時にゃ、ズタボロになってたけどな。
そういや安っぽい剣とか重そうな盾なんかも持ってた事が有ったな…………いつの間にか見なくなったけど、やっぱり使い潰したのかねぇ？
ん？何、もう行くのかい？ 今度来る時ゃ何か買っていってくれよ
見たよー、葉っぱの男ー。
うん、見た～。
見たねェ、葉っぱの男ォ。
みたみたぁ。
竜王様がねー、殴られてたのー。
赤い人がね～、蹴られてたの～。
黄色い人がねェ、投げられてたのォ。
おひめさまがねぇ、だっこされてたのぉ。
うん、僕がAでー。
ぼくがび～だよ～。
ボクがしィだからァ。
ぼくはねぇ、でぇなのぉ。
だからァ、ボクがえェでェ。
ぼくはびぃだからぁ。
僕がCでー。
ぼくがで～なんだ～………………………………………………あれ～？
竜王様がねー、殴られてたのー。
殴られてね～、大きくなったの～。
大きくなってもねー、殴られてたのー。
殴られてね～、寝ちゃったの～。
寝ちゃってねー、起きてこないのー。
ず～っとね～、起きてこないの～。
ねー～？
お姫様がねェ、抱っこされてたのォ。
はっぱのおとこにねぇ、だっこされてたのぉ。
抱っこされてねェ、入っちゃったのォ。
おしろにねぇ、はいっちゃったのぉ。
ねェぇ？
行くの～？
行っちゃうのォ？
いっちゃうんだぁ。
バーーーーーイバーーーーーーーーーーーーイ！
戯けェっ！
あの様な馬の骨について語る事など何一つ有りはせぬわ！消え失せい！
全くあの変態男め、思い出すだけではらわたが煮えくり返るっ。
由緒正しきラダトームの王城を事も有ろうか、す、す、素っ裸でのし歩きおって！何度も何度も、何度もッ
大体あの男何百回死んで何千回生き返れば気が済むのじゃ、毎回毎回見苦しいものを公の場に晒しおって！ええい憎らしい！竜王などという痴れ者にさえ姫様を攫われていなければ重しを付けて海の底に沈めてやったものを！
大体陛下も陛下じゃ！あの様な何処の馬の骨とも知れぬ者を気に入った、跡継ぎにするなどと仰せになって！栄光有るラダトームの権威が危うく溝鼠の糞まみれになるところじゃったわい！
おお姫様、姫様は何故にあの様な変態男について行かれたのか…………おいたわしや、きっと今頃あの男に死ぬ程恥を掻かされているのではないか…………
っく～～～～～、儂が姫様に相応しい三国一の花婿をお選びしてさえおれば………………………………
ぬ？まだ居ったのか貴様！とっとと失せぬかァ！
ああ、時々いらっしゃるだ。んだ、素っ裸でだ。
何なさっとるっちゅわれてもな～。何にもしちゃおられねぇべ。
ぼけーーーっと突っ立っていなさったり、そこいら辺をぶらりぶらりと歩いていらっしゃったり、ホレ、そこの湖に飛び込んで日がな一日浮いてらっしゃる事もあるだ。
うんにゃ、泳いでんじゃね。浮いてんだ。ちぃっとも動かねぇのに、泳いでるとは言わねぇべ？
ご政道？悪かないんでねぇかな。贅沢は出来ねぇけど、明日食う飯に困る事ぁ少ねぇからなぁ…………
噂じゃあ、即位式の時に大演説をぶったとか何とか…………又聞きの又聞きで良く覚えちゃいねぇんだけど、「裸の心を持つべし」ってのは、なんか、良かったな。やっぱし人間、自然で素直が一番だ。だからって体まで裸になる事ぁねぇと思うけんどよ……………………
うん？帰る？この近所で泊まって行かねぇのか？
今日中に帰るなら急いだ方がいいべ。この辺はあっちゅうまに暗くなっからな
そう言われましてもねぇ……私から話す事など特に有りませんよ？
今まで色々な方に聞いてこられたなら、そろそろ分かっているんじゃないですか？陛下がどの様なお方か…………そのまんまの性格なさってますよ、あの人。
裏？とんでもない。そんなものが有るなら、我々もあんなに苦労しませんよ。
裸の心？ああ、これはまた…………
建国・即位式の直後、陛下が初めて出された勅令ですよ。煩瑣な礼式や派手派手しい装飾品といった実用に意味を為さないもの、無駄に巨大な倉庫や豪邸といった、下らない私欲を呼び起こす様な建物の建造……それらを強く規制すると仰せになったのです。
財産・地位・名誉・家柄…………余計なもので身を飾ろうとするから人は単純な事実さえ見えなくなるのだ、と。
尤も、人は裸でも何ら不自由無く生きていけると、庶民の着ている質素な服ですら身を飾る余計な物とお考えになられているお方ですからね。
我々が止めていなければ、危うく王位につかれて初めての勅令が「服飾を廃す」になる所でしたよ。まったく、臣民全員裸の国なんて誰が好き好んで住み着くとお思いだったのか………………
統治者として向いていたのかどうか……私としても未だに答えが出せないのですが、あの愚直さが無ければこの国が存在しなかったのもまた事実。
私としても、やりがいが有りましたからねぇ。全く支え甲斐のある君主でしたよ。
いえいえ、今や気楽な隠居の身。またいつでも、お気軽に立ち寄って下さい
～Fin～
お邪魔致しますどうも。
いまだに未達成の素っ裸プレイクリア後のお話、という或る意味ドリーム小説をば。
念の為、読み切りですので。