序幕:ありえない闘士!!
学生たちが血で血を洗い互いの骨を砕きあう戦乱の地、関東・・・・・
そこでは、名だたる高校が天下を我が物にせんがため、覇権を争っていた!!
すなわち、洛陽高校、南陽学院、許昌学院、揚州学園、予州学院、成都学園、涼州高校の実力七校!!
彼ら、千八百年にも上る悠久の因果を継承し強者共・・・・・
人、これを【闘士】という・・・・・
朝霧の庭園に、一人の少年が立っていた。
赤いバンダナを紐代わりにして長い髪を束ね、左耳に翠色の勾玉をピアスのようにつけている。
無駄なく鍛え上げられた鋼のような肉体からは、白い湯気が煙のように上り激しい鍛錬の後であることを感じさせる。
少年はおもむろに、池に拳を軽く振り下ろした。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
ただそれだけなのに、美しい波紋が広がったかと思うと間欠泉のように10メートル以上の水柱が立った。
それはおそらく、1キロ以上離れた場所からでも確認することができるだろう。
「誰でもいい・・・・もっと強い奴と戦いたい!!」
横島忠夫、16歳・心からの叫びであった。
「忠夫・・・この前の株の売買、いくら儲けた?」
「――ん〜と、一時的な高騰を目処に一気に全部売りさばいて、だいたい800万ぐらいかな?」
「ほな、母さんたちがナルニアに行っても生活は大丈夫やな」
これが今朝の食卓における、息子と母親の会話である。
忠夫の両親は商社に勤めている。二人ともやり手の商社マンと呼ばれているが、その中でも母・横島百合子(旧姓・紅)はその昔、【紅の百合】とあだ名されたほどの株取引のプロだ。
その英才教育の賜物である忠夫も、自分のこずかいを稼ぎ出したりするぐらいはわけないことだったりする。ちなみに父・横島大樹が、忠夫に武術を教えた師である。
ひとつ付け加えておくと、浮気したのがバレて折檻されたばかりのためここに出てこられない。
今回の海外赴任、実は上司の陰謀らしく行けども行けども密林地帯しかないようなところだ。大樹は怒りのあまり、つい先月その上司が購入したばかりのクレスタを廃車にしてしまった。
本来は父親だけが行けばいいのだが、彼の浮気を見張るために百合子も必然的についていくことになったのだ。
そうなると息子である忠夫もついていくのが普通だが、彼はこれに対して猛然と抗議した。
闘士として強い相手と戦いたいというもの理由の一つだが、一番の理由は美人でナイスバディのお姉さまたちと愛を深めることだ。かわいいのはもちろんだが、自分と同じくらいの強者かそれ以上でないと話にならない。
一人思い当たる人物がいるが、その子は天然ボケの上に従兄弟の幼馴染なのでいかんともしがたい。もったいないが、ここは涙をこらえて辞退するのが漢の中の漢というものだ。
涙の叫びが通じたのか、忠夫は関東に残ってもいいことになった。
生活費を自分で稼ぐという条件で。それが株の売買による今朝の800万だ。
「よろしい、ほなこの屋敷は忠夫が自由にしていいわ。ただし!!宿六のような節操なしには・・・・」
「サァ!!イエッサァァ!!」
あまりにも恐ろしい笑顔に、忠夫は直立不動の姿勢でかっこよく敬礼した。普段は優しい百合子だが、一度本気になればそれこそ地を揺るがさんばかりに大暴れする。その被害状況は想像にお任せするとしよう。
「ふむ、あら急がないと遅刻するわよ?」
「げっ!!んじゃ、おかんもおとんも元気でな!!行ってきまぁぁぁぁぁぁぁぁす!!」
長いドップラー音を残して、忠夫は早馬のごときスピードで出かけたのであった。その走る姿は、赤兎馬だってひっくり返るに違いない。
その後ろ姿を遠目に、窓から百合子は優しく微笑んだ。
『ふふ・・・あんなに大人っぽくなって。それに忠夫がこの乱世に巻き込まれることは・・・』
――ガタン!! ドタン!!
背後で何かが落ちる音がして、百合子は思わず振り返った。見るとそこには、自分の卒業証書が入った額縁があった。
第5045号 卒業証書:紅百合子 成都学園
とたんに百合子は不吉な予感に襲われた。当たって欲しくない、忠夫はまだ出てくるはずのない闘士だ。何も知らないまま、息子には青春を謳歌して欲しい。そう願いながら、大樹と二人で大切に育ててきた・・・なのに、歴史は忠夫を巨大なうねりに飲み込もうとしている!!
震える肩に優しく手がのせられた。
大樹が少しぎこちなさそうな笑みを浮かべていた。そのまま百合子を優しく抱きしめる。
「大丈夫・・・・忠夫はこんなことに負けたりしない!!あいつを信じてやれ・・・・」
「あなた・・・・」
セミがミンミンとうるさく鳴いていた。
転校先の学校まであと少しというところまで来て、忠夫はある学園の校門前で心がざわめくのを感じた。
闘士の本能、おもわず中を覗いてみると校庭の中ほどに大きな人だかりができている。騒ぎの原因はそこの中心でやっているらしい。ここまで来ればもう大丈夫と、忠夫はやじ馬に入っていった。
ここで30分ほど時間をさかのぼってみよう。
このやじ馬の原因となった人物、爆乳女子高生闘士こと孫策伯符は、呉栄ママの言いつけでこの関東最弱と言われる南陽学院を訪れた。『第一印象が肝心、まずは30人ぐらい叩きのめして学校シメちゃいなさいな♪』なんて提案をする母親がいけないのか、それとも彼女の有り余る闘争心が引き起こしたのか、29人をあっさりとぶっ飛ばしてしまった。
これを見た幼馴染の公瑾は頭を抱えた。昔から無茶をする少女ではあったが、ここまで考えなしだとは思いもよらない。
とにかく孫策は、昔からアクティブティだった。
背の高い松の木にいとも簡単に木登りし、三輪車で富士山往復を企てたこともある。その度に巻き込まれたり、連れ戻したりするのは自分と忠夫だった。
周家に生まれ、公瑾の名と勾玉を受け継いだ者として彼女を守るのが義務と教えられてきた。しかし、ここまでされるとその自信も霧散しそうになる。
もっとも、あのノンキーズで平和な親子に同調できるほうがおかしいのかもしれない。ということは、きっと自分は正常な人間に違いないって今はそんなことを考えているときではない!!
いいかげん止めに入ろうとしたそのとき、すぐ横を背の高い男が割り込んでさきに前に出た。
闘士ランクB:楽就。南陽四天王の一人である。
「俺を蹴ってみろ・・・・」
「へ?」
楽就の言葉に、伯符は首をかしげた。
「いいから、俺を蹴ってみろ・・・」
「蹴れって、も、もしかして・・・あんた、マゾ?!」
「ぐっ!!違う!!」
だが、いきなりそんなことを言われたらそうとしか考えられないだろう。それに、無抵抗の人間に暴力を振るうのは、いかに闘士と言えどあまりやりたいことではない。
「でもさ、無防備な相手に蹴り入れるってのはなんとなくさ・・・・・」
「ガタガタ言わずに、さっさと蹴ってみろーーーーっ!!」
本人はよほど蹴られたいらしい。そこまで言われては、伯符とて黙っているわけにはいかない。
身体中のエネルギーを集中し、全力で蹴撃を放った。
スパァァァァァァァァァァァァン!!
しかし、その蹴りは左側頭部の手前で簡単に防がれていた。しかも、人差し指一本によって・・・・
楽就は溜息をつきながら、つまらなそうに伯符を見下ろした。
「やはりな・・・・なんだこれは、蹴りのつもりか?」
そう言うと受け止めた指を元に戻した。
それだけだというのに、伯符は紙のようにおもいっきり吹っ飛ばされた。
このまま行けば壁に直撃する!!
公瑾は伯符を受け止めようと、壁まで全速力で走り出した。が、そのとき先に彼女の背後に現れた人物がうまく受け止めた。さっきまでやじ馬になっていた忠夫である。
「あいかわらず無茶してんなぁ、伯符」
「んあ・・・・もしかして、忠夫ちゃん?!えっ!!ついでに公瑾もぉ!!」
「僕はついでかい?だけど、忠夫がどうしてここに来てるのさ?!」 \(◎o◎)/!
「いや、学校に行くつもりが遅刻しちまってな?間に合いそうだから走るのやめたら、伯符がぶっ飛ばされてるし・・・・・つーかさ、あの老けたゴリラ弱くねぇ?」
そのあまりにも馬鹿にしたような物言いに、公瑾はおもわず忠夫の口を押さえた。
これがもし本人に聞こえていたりしたら、ケガをするどころではすまない!!最悪、死に至る事だって十分にありえる。
「な、何言ってんのさ!!楽就さんは南陽四天王の一人に入るほどの実力者なんだよ?!」
「へぇ・・・・それにしちゃ、伯符の攻撃がわかってないみたいだけどなぁ」
「え?」
「内功・朱砂掌、こいつは気づかないうちに気功拳法を使用してんだよ。歩き方がなんとなく不自然だろ?さて、お前にもいろいろと文句はあるが、それはあとにしよう・・・・・来るぞ」
――聞こえていたらしい。老けたゴリラが振り向いて戻ってきた・・・・・
「キサマ・・・・俺が弱いだと?」
「へぇ・・・・脳みそまで筋肉じゃなかったみたいだな?」
二人は互いに向かい合い、楽就はいつでも攻撃に出られるように構えた。反対に忠夫は何もせず、自然体で立っているだけだ。
空気が震えだし緊迫した時間が流れていく。数分しかたっていないのに、何時間もすぎたようなきがしてならない。
先に動いたのは、楽就だった。地面を後ろ足で蹴り、強烈な右ストレートを忠夫に叩きこむ。
だが、それが本人にダメージを与えることはできなかった。
ドガァァァァァァァァァァァ!!
それよりも早く、忠夫の飛び膝蹴りが楽就の顔面にヒットしていたのだ。しかも、空中で体勢を立て直しそのまま強烈なソバットをお見舞いしたものだから、楽就は吹っ飛ばされて背後のガラス窓を突き破り教室にぶち込まれたのであった。
「おいおい・・・お終いか?四天王なんだろ、ならもっと楽しませてくれよ・・・・」
誰が見てもすでに勝負はついている。それなのに、忠夫はまだ戦えと言っているのだ。それに答えようというのか、楽就は気力を振り絞って立ち上がろうとするがとても迎え撃つような状態ではない。背中にはガラスの破片が突き刺さり、肋骨や靭帯も損傷しているに違いない。
公瑾が今度こそ止めに入ろうとしたとき、またも先に出てきた者がいた。
左目を眼帯で隠した、ショートカットの女子。あきらかに楽就とはレベルが違う、静かな殺気を放ちながら忠夫を見ている。
「おまえは、誰?」
「他人に名前を聞くときには、先に自分から名乗るもんだ」
「そうね、私は呂蒙子明。さあ、お前は誰?」
「横島忠夫、ただの平凡な高校男子。ただいま彼女熱烈募集中・・・・ってなんで手錠を出してる?!微笑みが素敵なサドでキレイなお姉さまですかぁぁっ!!」
「あら、わかってるじゃない♪」
「のぉぉぉぉぉぉぉぉお!!闘士の女子に健全なお方は皆無なのかっ!!理不尽だぁぁぁぁぁ!!」
と、呂蒙はとたんに鋭い目つきになって攻撃を仕掛けてきた。
もちろん忠夫には見切れる速度、簡単に避けられる。
「お前も闘士だな、本当の名前は何?」
「これは本名だよ、何も前世の名前が絶対なわけじゃないだろう・・・・ってお願いですから殺気を放たないでください!!教えますから!!」
「前世の名前は?」
「馬・・・なんとか・・・思い出した!!だから、また殺気を放たない!!馬超孟起!!それが俺の前世の名前だ!!」
「なっ!!馬超孟起って・・・・嘘よ!!ありえない!!こんなところに現れるなんて・・・いや、まだ現れるわけが!!」
この瞬間から、すべての歴史は狂いだしていた。それを止めることは、例え紙であっても不可能だろう。
戦場において、最も残酷で、もっとも秀麗優美な武将の華麗なる戦い(?)が、始まろうとしていた。
こんにちは!!皆様始めまして、神無月です。今回初めてSSを投稿するというのに、GSと一騎当千のクロスを書いてみるという暴飲暴食をやってしまいました。じつをいうと小説など物語を書いたことがあまりないので、至らないところや表現が他の作品に似ているということもあると思います。
そこで今回は試験的な投稿ということにして、皆様の反応や感想をお待ちすることにしました。それによって続編を書くかどうか決めたいと思いますので、どうかよろしくお願いします!!