「うわあああぁぁぁ!!」
最終決戦。
アスランのジャスティスと戦い。
言葉巧みにシンを惑わすアスランの言葉。
シンは実力を発揮することなく敗れた。
機体を切り裂かれ、惑星へと叩きつけられた。
「シンっ!!」
ルナマリアのインパルスがデスティニーに接近するが……
一筋の流れ弾が……
デスティニーを貫き、シンの意識は闇に落ちていった。
「……ぅぅぅ、うあ。」
静かな空間に響き渡る彼の呻き声。
「あれ……? 俺は…………確か、流れ弾に当たって……ここはどこだ?」
自分の周囲を見渡すシン。
シンにとって見慣れた風景。
「コックピット? デスティニーは爆散したはず……「ぅぅぅぅぅ」─誰だ?」
自分しかいないはずのコックピット。
それなのに自分以外の呻き声が聞こえてきた。
声のした方へ視線を向ける。
シンの足元だ。
「ス、ステラッ!?」
太陽のような光り輝くような金髪。
病人の衣服を着ている。
苦しげに声を上げ、顔色は悪い。
「ステラっ! 俺だよ、シンだよ!!」
「……怖い、怖いのいやぁ。」
何故死んだはずの彼女がここにいるのかなど、どうでもいい。
今、ここに生きている喜びを感じていたい。
彼女の体を抱きしめ、持ち上げる。
足と背中の裏に手を回し、抱き上げる。
「大丈夫だよ、ステラ。怖いものなんてない。俺が守るから……今度こそ守るから。」
「……シ…ン?」
「そうだよ、シンだよ。」
「シン、…………シン!!」
ステラはシンの首に手を回し、自分から抱きついた。
「ごほっごほっ!! シン……怖い。」
「ステラッ!? ま、まさかあの時と同じ…………」
ステラが顔を顰め、シンを掴む手に力が篭る。
『連合がコーディネイターに対抗するために作り上げた生きた兵器。それが強化人間よ(エクステンデット)』
ステラは幼い頃よりある施設で育てられ、普通の人間よりも遥かに高い能力を有している。
薬や様々な方法で強化された人間。
遺伝子操作を嫌うブルーコスモスによって作られた強化人間(エクステンデット)。
定期的にある治療をしなければ、身体機能を維持できないのだ。
ステラはその被験者の一人。
「ステラッ! もうちょっと頑張って!!」
シンはデスティニーのOSを起動し、機体のチェックを開始した。
「……異常がない? そんな……いや、今はそんなことどうでもいい。急がないと!!」
シンに寄りかかるステラの温もりを感じながら、デスティニーは空へと駆けた。
「ここはどこだ!? 連合でもオーブでもかまわない。早くしないと。」
コックピットのモニターに移る景色は荒れ果てた大地。
現在地を検索するがERRORと表示されている。
「………あれは。」
デスティニーのモニターに何かが映し出される。
拡大表示され映し出されるのは…………
「あれは……、基地か? 連合…?いや、そんなことはどうでもいい。」
連合の基地ならば間違いなくシンは捕らえられデスティニーは奪われるだろう。
だが、今のシンにとって優先しなければならないのはステラ。
一度は守れなかった少女を守るチャンスが巡って来た。
今度こそは破りはしないと誓うシン。
「な、なんだよ!?」
デスティニーの警報音が鳴り響く。
周囲を確認するとモビルスーツが数十体確認できた。
「あれは……新型か? 照合結果は……なしか。」
正体不明のモビルスーツはライフルのようなものをデスティニーに発砲するが……
「うわっ! いきなり撃ってくるってことはやっぱり連合か? でも…新型にしては弱すぎる。何か特殊な装備でもつけているのか?」
相手のモビルスーツを確認するとライフル銃と大型の剣しか確認できない。
旧式のジンと似たような装備。
ビーム兵器を全く装備していない。
はっきり言ってしまえばデスティニーの敵ではない。
機動力は高いようだが、それでもデスティニーには及ばない。
「ちょっと待ってくれ! 俺に戦闘する意思はない。頼む、話を聞いてくれ!!」
シンは全通信チャンネルに繋げ、自分の意思を告げる。
デスティニーはザフトの主力機。
相手が連合ならば、すでに確認済みだろう。
だからこそ、迎撃しようとしているとシンは判断した。
「問答無用かよ!? 仕方ない……」
シンはデスティニーの翼型高推力スラスターを展開し、高速移動に入る。
モビルスーツの銃弾を回避しつつ、ビームライフルでメインカメラと思われる頭部を破壊していく。
撃破してしまえば、相手は余計に自分の言葉を聞き入れない。
戦闘不能にしてから、交渉を試みる強攻策にでたのだ。
「頼む、聞こえているなら応答してくれ。こちらに戦闘の意思はない。病人がいるんだ!!」
頭部を撃破しながら、訴える。
敵、モビルスーツはデスティニーに接近し大型の剣で斬撃を放つが……
「ちくしょー! 話を聞けぇーーー!!」
斬撃をかわし、隠し武装であるMMI-X340 "パルマ フィオキーナ" 掌部ビーム砲を頭部へと叩き込んだ。
頭部を破壊され、落下するモビルスーツ。
最後の一機を戦闘不能に追い込んだときに反応があった。
『聞こえるかしら? 私は横浜基地の副司令、香月よ。』
「通じた!? 頼む! 病人がいるんだ。助けてくれ!!」
ステラの容態が悪化していく一方で焦るシン。
相手が反応してくれたことによる嬉しさもあったのだろう。
伝えたいことが伝わらない。
『これだけ横浜基地の戦術機を撃破しておきながら言うことはそれだけかしら?』
「戦術機? モビルスーツのことか? 撃破はしていない、メインカメラを潰しただけだ。」
『それでもこちらには大きな損傷よ。それでそっちの要望だけ貫こうなんて馬鹿な話だと思わない?』
「…………何が言いたいんだよ?先に仕掛けてきたのはそっちだろ!」
『まあ、いいわ。とりあえずこちらの基地へ降りてきてくれるかしら?』
「ステラの安全と治療が条件だ。彼女は病人なんだ!頼む!!」
『ステラ?病人の名前かしら?…………まあ、いいわ。それくらいならのんで上げる。』
信じられなかった。
こんなことが現実に起こりえるのか?
A-01部隊の隊長、伊隅は正体不明の戦術機に畏怖の念を感じていた。
この日、A-01部隊は正体不明の戦術機の出現により、捕獲もしくは撃破の命令を受けた。
正体不明の戦術機は空を駆け、我々の攻撃を楽に回避。
見たこともない兵器で戦術機のメインカメラのみを破壊した。
彼女達は数多くの衛士より選ばれたエリート部隊。
それがものの五分で全滅?
こんな馬鹿な話はない。
彼女達のプライドなど砕け散っただろう。
幸い負傷者は誰も出ていない。
あの戦術機の衛士の能力がずば抜けている事が簡単に分かる。
「………ヴァルキリー1から各機、基地へ帰還する。速やかに後退しろ。」
全員からの返事は小さな声だった。
シンは横浜基地内の倉庫へと来ていた。
「なんでこんなモビルスーツ量産してるんだよ……」
シンが初めに感じたことだった。
大した戦闘力もないものを量産したところで意味はない。
さきほどの感触からすれば、あれは旧式のジンにも満たない戦闘力だった。
連合だとしても不自然すぎる。
『聞こえてる? まずはその機体から降りてもらえる? 安心して近づけもしないわ。』
夕呼からの指示を受け適当な場所へデスティニーを止め、ステラを抱きながらラダーで下降するシン。
下まで辿り着くと銃を構えた兵士達がなだれ込み、シンを取り囲んでいた。
「やっと安心して話ができるわね。」
機体から降り、シンを無力化したことでようやく安心した夕呼が現れた。
「待ってくれ! アンタ達が俺を捕らえようとするのはわかる。だけどステラは治療してやってくれ!」
「アンタが抱いている彼女のことね? いいわ、こちらに渡しなさい。 でも、念のために彼女と貴方には拘束させてもらうから。」
そういうと周りの兵士がシンの両腕を後ろで縛る。
そのまま銃を突きつけられたまま、連れて行かれた。
その後、シンは牢屋へと入れられステラとは別々になった。
「ステラ大丈夫かな…? 今度こそ無事だったらいいけど……」
牢屋に入れられて半日が過ぎた頃、彼女はやってきた。
「暇してるかしら?」
「あんたは……」
「ちょっとアンタに聞きたいことがあるけどいいかしら?」
シンの言葉を聞き入れることもなく、話し出す夕呼。
その表情は真剣だった。
「あなたは何者? 調べさせてもらったけど…あの機体……ありえないわ。」
「自己紹介はさっきした、俺がザフト軍ってことぐらいわかるだろ。」
無愛想に答えるシン。
夕呼はハァとため息をついて尋ね返す。
「あのねぇ、それが分かれば苦労しないわよ。それにシン・アスカという人間は存在していないわ。偽名かしら?」
「…………はぁ!? 俺の名前はシン・アスカだ。偽名なんかじゃねぇよ!」
「……あなたの知ってることを簡単に説明してもらえるかしら?」
何か話の食い違いを感じた夕呼。
シンが嘘をついているとも思えず、彼の知っていることを聞くことにした。
「ロゴスを撃つためにねぇ…………残念だけど私はあなたの言ってる8割は知らないわ。」
「どういうことだよ……世界で知らない奴は絶対にいないはず…………」
「……一つだけ私に分かることがあるわ。」
「……なんだよ?」
牢屋の柵越しに視線を合わす二人。
「あなたはこの世界の人間ではないのよ。」
「……………………はぁ?何言ってるんだ?」
「まぁ、いいわ。聞きなさい。」
夕呼はこの世界について説明を始めた。
この世界にはナチュラル、コーディネイターという違いはない。
宇宙から侵略してくるBETAという存在がいるということ。
今、人類は彼らとの戦いのため全力を注いでいるということ。
人類が劣勢であるということ…………
「……それは本当なのか?」
「ええ、紛れもない事実よ。」
「あんたは俺が違う世界の人間だと信じるのか?」
「ええ、はっきりいってこの世界にあれだけの機体を作れる技術はないわ。あの機体がアンタがこの世界の人間ではないということを説明してるわ。」
ZGMF-X42S、デスティニー
武装の一つ一つがこの世界の技術では不可能に近い。
あれだけの技術の結晶を世界に発表すれば、震撼するだろう。
近~遠距離全てのレンジに対応可能な複数の武装と新開発の翼型高推力スラスターを標準装備しており、
VPS装甲とビームシールド「ソリドゥス フルゴール」による鉄壁の防御力を備え、
従来型デュートリオンと核動力のハイブリット機関を備え、エネルギー切れの心配もない。
現代の戦術機では傷すらつけることができないのだ。
「それと彼女の件もあるわ。」
「え…………?ステラに?まてよ!ステラに何かあったのか!?」
シンは牢屋の格子を潰すといわんばかりの勢いで喰いかかった。
「落ち着きなさい、彼女は今鎮静剤を打って眠っているわ。 ただ、普通の人間ではありえないバイタルデータよ。どういうことかしら? あれがコーディネイターということなの?」
「…………彼女は」
シンはステラについて自分の知っている全てを説明した。
彼女の経緯を……
「……なるほどね、強化人間(エクステンデット)か。馬鹿の考えそうなことね。」
「それでステラは大丈夫なのか!?」
「完全に治療することは無理ね。 でも、症状を抑えて普通に生活できることはできるわ。」
その言葉を聞いてほっとするシン。
だが……
「アンタ何か勘違いしてない?」
「なにがだよ……」
「私は治療を続けるとは言ってないわ。ただ、治療は可能だと言ったのよ。」
「アンタ……! 人が苦しんでるのに見捨てるのかよっ!?それに治療するって言ったじゃねぇか!!」
手に握る格子がギシギシと軋む音を発する。
表情が歪み、燃えるような紅い瞳は夕呼を睨みつけていた。
「治療したわよ。でも、それは今日の分。今後も継続的に治療を続ける義理なんて私にはないわ。」
「……なんで、アン─「条件次第では続けてもいいわ。」─タ……えっ?」
シンの罵声を途中で夕呼が遮った。
「なんだよ……条件っていうのは。」
「アンタ、さっき聞いた話によると、ザフト軍のフェイスといったかしら?エリート部隊に所属していたのよね?」
「ああ、それがなんだよ。」
「高い権限を持つ──それだけの力、判断力を有していたと判断してもいいのかしら?」
「俺は……一度最強といわれていたモビルスーツを撃った。その功績が認められてフェイスになったんだ。」
ZGMF-X1OA、フリーダム
過去の大戦を終戦に持ち込んだ英雄とされている。
シンは一度とはいえフリーダムを撃ったのだ。
「十分よ、私の条件はアンタが私直属の兵として動いてくれれば、彼女の治療は続けるわ。」
「わかった……その条件を飲む。」
夕呼はその言葉を聞くと牢屋の鍵を開けシンに出てくるように促す。
シンがの彼女の横を通り過ぎようとした時…………
「だけど──」
「まだ、なにかあるの?」
シンが彼女の耳元で告げる。
「俺はアンタを信用しない! ステラを助けるためにしているだけだからな!!」
シンの言葉を聞き、夕呼は呆然とした。
だが、数秒後……
「あははっは、十分よ。私は彼女の治療を続け、あなたはその力を提供し続ける、等価交換のようなものよ。」
信用しない。
まさか夕呼も面持って言われると思わなかったのだろう。
呆れることを通り越して笑っていた。
何かを企み、夕呼に近づいたのならこんなことは言わないだろう。
夕呼は正直なところ、シンがどこかのスパイだとも考えていた。
機体の説明はつかないが、まずそう考えるほうが普通。
だが、あれだけの戦闘力。
例え、スパイだとしても利用しない手はない。
だからこそステラを利用し、彼を取り込もうとしていたのだ。
シンは不満そうな顔をしていたが、黙っている。
シンは夕呼についてくるように言われ彼女のあとについていった。
「さあ、これが貴方のセキュリティパスになるわ。」
夕呼はシンにカードと衣服を渡す。
「俺は普段どうしてしてればいいんだ?」
「あなたの好きにしなさい。彼女と一緒にいるのも良し。基地内をまわってもかまわないわ。それだけの権限を与えてるから。」
大尉。
それがシンに与えられた階級だった。
「いいのかよ?外部から来た俺にそんな権限与えても。」
「ええ、かまわないわ。彼女のことがある限り、あなたはここを離れられないんだから。」
グッという声と共にシンの表情が険しくなる。
悔しいがその通りなのだ。
未だ彼女の治療法は確立していない。
今、夕呼を裏切ることは彼女を裏切ることに繋がるのだから……
「それにはっきり言えば、あなたにはその位でも低いくらいよ。」
「はぁ……なんでだよ?」
「あなたはこの基地のエリート部隊をあっさりと蹴散らしたのよ? それもメインカメラだけを狙うという荒業をこなしながらね。」
「エリート部隊……? あれがっ!?」
シンは夕呼の言葉を聞いて驚愕した。
ジンと同レベルの強さの機体がエリート?
信じられない……
元の世界にはあれを上回る機体は大量にあるというのに……
「そうよ、悔しいけどアンタの操縦者としてのレベルは高すぎるわ。それに機体の性能もね。」
「……………………」
言葉もでない。
まさに今のシンはその状態であった。
「ただし、これだけは絶対よ。私の命令には必ず従ってもらうわ。」
「……だけど、ステラに害がおよぶような命令だけは聞かないからな。」
「ええ、肝に銘じておくわ。」
その後、ステラの居場所を聞き彼女の部屋へと訪れていた。
なんとステラとシンは同室。
何かと問題があるかも知れないが、不思議とシンは冷静だった。
「……すぅ…………すぅ。」
安らかな寝息を立てて、彼女は眠っていた。
苦しげな様子はない。
目の下のクマもなくなり、綺麗な顔をしていた。
「ステラ……」
シンは彼女の頬にそっと触れ、優しく撫で上げる。
まるで彼女がそこにいることを確かめるように……
「今度こそ……守るから。」
静かに……ステラにしか聞こえない声で囁いた。
「何があっても必ず君を……守るから。例え……他を切り捨てることになっても。」
自分では気づいていないが、ステラの前だけでは心が落ち着いている。
表情も穏かなものになり、シンは自然と微笑んでいた。
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あとがき
どうも~^-^
書かずにはいられなかった私の妄想ですw
SEED-Dとマブラブオルタのクロス。
ちなみにデスティニーの機体については原作であやふやな部分がありますが
私の解釈でいきますのでよろしくお願いします。