インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「舞−HiME  運命を打ち砕く修羅 第三話(舞−HiME 運命の系統樹+真女神転生3)」

いよかん (2006-05-21 21:52)

朝の清涼な空気。

一息吸い込むだけで身体の中が綺麗になっていく気がする

この風華は俺が前にいた街よりも空気が澄んでいるのだろう。

昨日は気付けなかったが朝になると良く分かる。

だがその空気の中でも俺の気分はイマイチ晴れない

「昨日からこっち災難続きだな……」

昨日は変態扱いされて全力ビンタを食らい、銃を突きつけられ。

今朝は朔夜が俺の為に朝食を作ろうと居てくれたは良いが、朔夜は何をまかり間違ったのか台所を駄目にしてしまったのだ。

そのおかげで俺の朝飯はこのポケットに入っているいちご大福だ。

その騒動を起こした張本人は嵯峨野さんがその事を俺に言ったのが恥ずかしかったのか、逃げるようにして学校に行ってしまった。

出来ない事を恥じる必要は別段無いとは思うが、そこは朔夜も年頃の乙女だから色々と思うところがあるのだろう。

それに気になる事が一つ

朔夜の連れているあのツキヨミという生物。

アレは……本当にこの世で生まれた生物なのか?

腕時計をちらりと見ればノンビリ行けば遅刻になりそうな時間。

「ちょっと急ぐとしますか」

走ろうと思って足にグッと力を込めた時

「くんくん」

そんな気の抜ける声がした。


舞−HiME 運命を打ち砕く修羅 第3話「非日常にようこそ」


「くんくん」

また聞こえた。

俺の聞き違いでは無い様だ。

音の発信源は俺の耳がおかしくなっていないのならば……俺の足元?

ギギギと音を立てそうなくらいにぎこちなく首を動かす。

「腹……減った」

そこには案の定人が―――それも中学生らしき少女が座り込んでいた。

「あ……?」

言葉が出ない。

色々と人とは違った体験をしてきた俺ですが、こんな状況は初めてです。

こんな――見知らぬ少女が俺に顔を寄せて鼻をくんくん鳴らしているなんて状況。

「ここから好い匂いがするぞ」

全速で思考回復。

状況判断。

この少女が好い匂いと言ったのは何に対してか。

俺の体臭? 否、俺は香水の類は付けていない。

ならば何? 少女はポケット周辺だけをしきりに嗅いでいる。

ポケットの中身は……いちご大福か!!

ポケットからいちご大福を取り出すと少女の目が輝きだしそれに釘付けになる。

ビンゴか……

「……食うか?」

「くれるのか!?」

少女は俺の手からいちご大福を取るともぐもぐとそれはもう本当に、この世の幸福独り占めといった顔で食べ始めた。

「そんなに美味いか?」

「ああ、すごく美味いぞ!!」

一心不乱にいちご大福に齧り付く少女。

……欠食児童?

「そんなにうまいんならもう一つ食うか?」

「良いのか!? お前良い奴だな」

「俺はお前じゃない、俺は高村恭司。君は?」

「私は命。美袋命だ」

それから学園に向かう道すがら美袋の話を聞くと、美袋は昨日会った全力ビンタ娘――鴇羽のルームメイトらしい。

そして驚きの余り気付かなかったが美袋の背中には『ミロク』というらしい直刀が背負われている。

理由は『ヒメ』だからとか。俺には全く持って分からない理由だ。

この学園は一体何なんだろうな。銃を持つ玖珂に、刀を持ち歩く美袋。

まるで――――何かと戦う為に彼女達が居るかのようだ。

俺はその自らの考えを頭を振って追い払った。


美袋と別れ俺のこの学園内でのホームとなる社会科準備室へと向かう。

道中、生徒会室で生徒会長と副会長に出会ったが美男美女のコンビで何だか酷く落ち込ませてくれた。

さてそんな気分も入れ替えて、ガラリと準備室のドアを開ける。

机が並びいかにも職員室っぽい感じがする。

ここが俺のホームとなるのか……

「失礼します。今日からこちらで働く事になっている高村ですけど」

「やーやー。君が噂の朔夜ちゃんのお兄ちゃんかい?」

俺の挨拶に真っ先に手をあげて応えてきたのは、白いTシャツにGパンの軽装の女性……うむ、軽装の為に良く分かる。巨乳である。

それにしても噂になっているろは朔夜は俺の事を何と言い広めているのだろう?

「早速ですがまずは自己紹介と行きましょうか。あたしは杉浦碧。碧ちゃんって呼んでね……ちなみにじゅうななさいよ。よろしくね恭司くん」

「はい? ……じゅうななさい? それに恭司くんって……」

何を言ってるのだろうこの人は。

その俺の疑問に自称碧ちゃんは

「あたしは碧ちゃん、だから君は恭司くん。簡単でしょ?」

なんて答えた。

俺が対応に困っていると助け舟が入った。

「はっはっは。碧先生、高村先生が困ってるじゃありませんか。おっと私も自己紹介しなくてはなりませんね、私は迫水と言います。碧先生はいつもあの調子なのでノットツリーですよ」

そう言ってきた声の主は良く言えば恰幅のいい、悪くいえば中年太りの特徴的な髪型……アフロの男性。

「ノットツリー?」

どういう意味だ?

「多分気にしないってことじゃないの?」

「流石は碧先生、正解です。いやーー分かりづらかったですか?」

何そのオヤジギャグ。

ノットツリーだったら木ではないの意味じゃないのか?

「場も冷め切ったところで、じゃあ次は恭司君の自己紹介ターイム」

おいおい、こっちに振ってきたよこの人

ゴホンと一つ咳をして、身を正す。

「高村恭司24歳 担当教科は古典で専門は考古学です。趣味は身体を鍛える事とフィールドワークです。これからよろしくお願いします」

「へーー。私と趣味一緒かぁ。これから楽しくなりそうじゃん」

にししと猫のような笑みをうかべる碧先生(みどりちゃんとは呼べません)

「そうですね。土掘りが趣味なんて変わり者が碧先生の他にもいるとは思いませんでしたよ。……ところで高村先生その腰の後ろにあるのは何ですか?」

迫水先生が俺を指差す。

俺を迫水先生の指の先の銅剣を抜き出して二人の前に出す。

「これですか? これは実家に伝わる家宝みたいなもんで、子供の頃倉に転がってるのを無理言ってもらったんです。それからこれを振って鍛錬とかしてたんで刃も無い儀式用ですから、不届きですけど護身用になるんじゃないかと持ち歩いてます」

何時いかなる時に何が有るか分からない。

少々奇抜に思われるだろうが、それを嫌というほど体験した俺故の行動だと思う。

「へーー。ちょっと見せてね」

碧先生が俺から銅剣を奪い去る。

迫水先生も碧先生と一緒になって眺めている。

「ほうほう……弥生の前期……いや後期かな?」

「その時期ならばこの装飾は随分と……」

俺をそっちのけに議論に夢中になっている。

時計に目をやれば……ヤバイ、あと少しで授業が始まるじゃないか。

「すいません!! もうHR行かないといけないんで返してもらいますよ」

「ありゃ? もうそんな時間? ごめんごめん恭司君」

全然悪びれていない調子の碧先生。

「悪いと思ってるんなら早く返してくださいよ碧先生」

「むっ! 碧ちゃんって呼ばないと返してあげ……ごめん。謝るからそんな怖い顔しないでおくれーー」

碧先生の手からもぎ取った銅剣を腰に挿し、急いでHRの準備をして飛び出すようにして俺は社会科準備室を出る。

最初から遅刻なんてしたら第一印象最悪だ。

俺の担当するクラスである一年三組の教室に向けて俺は全力で駆け出した。


「えっと……天河教授の示していた裏山へは……ここから行けそうだな」

無事に一年三組の生徒との顔合わせも終わり、授業も終え放課後になり俺は媛伝説の調査へと向かっている。

一年三組には昨日会った鴇羽に玖珂に深優の三人が居て鴇羽に玖珂は少々驚いていたが、俺は事前の名簿で知っていたので特に驚く事も無く、普通に自己紹介した。

俺が歩く度にザクザクと未舗装の地面がが音を立てる。

森の中には未舗装ではあるがきちんと道があり、手入れもされているようだ。

天河教授のメモによるとこの道をもう少し行けば……あれか?

道が横に別れ、分かれた道の先に神社らしき建造物が見える。

そこに足を向けると先客が居た。

女生徒が何か熱心に祈ってるようだ……邪魔しちゃ悪いな。

そう思って神社の周りから調べようと足を動かすと玉砂利が音を鳴らす。

その音に祈っていた女生徒がこちらを振り向く。

「あれ……先生?」

「鴇羽か?」

祈っていたのはどうやら鴇羽のようだ。

「何熱心に祈ってたんだ?」

「別にちょっとした事よ。それより先生は何でここに?」

「俺はここに調べたい事が有って来ただけだ。……そうだ。鴇羽はこの神社に何の神が祭られてるか知らないか?」

鴇羽は思い出そうとしているのか、目を閉じ額に手をやる。

「んーー。ちょっと分かんない。私もここに結構来てるんだけど宮司さんとか見たことないし」

ふむ……祭られている神器を見ればヒントぐらいにはなるか。

「ちょっとちょっと先生何しようとしてんの!?」

靴を脱ぎ、社へと入ろうとした俺を鴇羽が慌てて止める。

「何って中を調べようとしてるんだが?」

「それって拙いんじゃないの? やっぱ神社の人に断わって入らないと」

「別に鴇羽が黙っててくれればそれで済むと思うが……鴇羽も気にならないか? 自分の祈ってた神がどんな神様か」

「うう……気になるといえば言えば気になるけど」

考え込んでいる鴇羽。

俺はそれを放っておいて社へと入った。

「ちょっと先生!!」

鴇羽も慌てた様子で俺に続いた。

「暗い……」

中は今の時刻が夕方であるのも影響してか中々に暗かった。

さて神器は何処かな?

「先生……あれ」

鴇羽の声

俺はそれに反応して鴇羽の指差す方に目を向ける。

暗くて良く見えないが、段々と闇に目が慣れてきて見え始めてきた。

あれは……壁画?

もっとはっきり見ようと一歩を踏み出しかけたとき

――――山が揺れた

「きゃあっっ!! 何!?」

「地震だ!! 鴇羽逃げるぞ!!」

鴇羽の手を取り転がるようにして外に出る。

しかし、揺れに耐え切れず俺と鴇羽は外に出たところで倒れこんでしまった。

「くっ……」

それでも何とか身体を起こそうと踏ん張っているうちに次第に揺れが収まってくる。

「大丈夫か鴇羽?」

「うん……」

完全に揺れが収まってもなお座り込んでいた鴇羽に手を貸して立たせる。

そこで身体に伝わる振動に気付いた。

地震で気付かなかったが銅剣が震えている?

――ガサリ

木陰から物音――それも何か生き物が蠢いているかのような。

俺と鴇羽が同時にそちらを向く。

二人の目線の先には

鴇羽には見慣れぬであろう

俺は過去において見慣れた

――異形が其処に

目の見当たらない頭、ぬらぬらとした体表、巨大な体躯、そしてその口に並ぶ獰猛な牙。

明らかにこちらに対して友好的な存在ではないだろう。

形状としては蛇に似通っているがあれはそんなモノではない。

「ひっ!」

鴇羽が叫び声をあげる。

異形は自らの存在を見せ付けるかのように雄叫びを上げ、その声に一層鴇羽は恐慌状態に陥った。

「いや! いや!! いやああああああぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」

「落ち着け鴇羽!!」

鴇羽の身体を揺さぶる、すると鴇羽の目に正気の光が戻ってくる。

「何よ……何よアレ?」

「分からんがとにかく逃げるぞ!!」

異形とは反対側に鴇羽の手を引いて逃げる。

背後からはしゅるしゅると地面を這う音がかなりの速度で追ってくる。

「きゃあっっ」

やはり逃げるために仕方無いとはいえ俺が引っ張るようにして無理やりに走らせて無理が出たのか鴇羽が躓いて転んでしまう。

全力で走っている俺は急には止まれず止まった鴇羽との間には距離が出来る。

やっとの事で止まってふち向いた俺の目には

鴇羽に今まさにその牙を突き立てんとする異形が映った

「鴇羽ぁーー!!」

時が止まったかのような感覚。

異形の唾液のしたたりも怯える鴇羽の表情の全てまでもが見える。

しかし俺の脚は俺の動こうとする意志に反して動かない。

だが。

次の瞬間異形は逆に吹き飛ばされ樹に叩きつけられていた。

止まった時が戻り俺の脚がようやく動き出し鴇羽の元に駆け寄る。

「鴇羽。無事か!?」

「先生……今……私何を?」

鴇羽にもあの異形が吹き飛ばされ原因は分かっていないらしい。

俺は鴇羽の手に何か腕輪のような物が見えた気がしたが……

樹に叩きつけられた異形が再びその体躯を持ち上げて俺たちの前に立ちはだかる。

しかしその気配には何か警戒心のような物が感じられる。

それは俺たちにとってはプラス要因とはなりえない。

先ほどまでの何処と無く余裕を見せていた異形ならば兎も角、今この場では逃げようとしてヤツに後ろを見せただけで食いちぎられる事となるだろう。

鴇羽もそれが分かっているのか異形から目を逸らそうとしない。

ながれる沈黙。

どちらも動けない。

俺たちは異形の牙を、異形は己の身体を弾き飛ばした不思議な力をお互いに警戒しあっている。

その沈黙を打ち破ったのは向こうからだった。

こちらから仕掛けてこないことに痺れをきらせた異形は鎌首をもたげ頭上から食いついてきた。

鴇羽を突き飛ばして俺はその反対側へと跳んだ。

「ぎぃっっ!!」

灼熱感と何かが流れ出していく喪失感。

どうやら左肩を牙に切り裂かれたようだ。

爆音と砂塵を出して異形の頭が地面にめり込む。

「今だ、逃げるぞ!!」

その隙に俺たちは異形から遠く離れようと駆け出した。

「はぁっはぁっ」

息が切れる。

アイツが下山する道を塞いでいたが為に俺たちは山を登る形になっている。

怪我をしているとはいえ身体を鍛えている俺でもこの状態、女の子の鴇羽はなおさらに体力に限界が迫っているだろう。

「ここまできたら大丈夫じゃあ……?」

疲れて足の止まった鴇羽が些か安心した様子でそう声を発した。

だが世界はそこまで優しくは無かった。

「え?」

しゅるん

鴇羽の身体が糸のようなもので包まれる。

その糸が飛んでいた先に居たのは見らずとも分かる……ヤツだ。

脅威に思っていたのであろう鴇羽の動きを封じた事に余裕でも感じたのかゆっくりとゆっくりとこちらに近づいてくる。

「鴇羽! くそ……取れん」

鴇羽に絡みつく糸は硬くしなやかで俺の力ではどうしようもない。

「先生……もういいよ。私のことはいいからもう逃げてよ!!」

「馬鹿を言え。たとえ臨時講師といえども俺はお前の先生だ。誰が生徒を見捨てるか!!」

鴇羽の糸が取れないと分かった以上覚悟は決まった。

腰の後ろの銅剣を抜く。

今までに無くぴたりと手に吸い付く。

それを正眼に構え意識を集中する。

俺ならできる。

「アイツを倒す。俺を信じろ鴇羽」

背後には守るべき生徒が居る。

こんな相手くらいならば勝てるはずだ。

何故なら俺は――――修羅だったんだから。

異形は俺の事を不審に思ったのかその移動を止めている。

左肩の出血はまだあるが気にするレベルの物じゃあない

そう判断して俺は

「はああああああぁぁっぁぁぁーーー!!!!」

思いっきり突っ込んだ。

世界が色を失う。

極限の集中の世界。

ピクリとほんの僅かに異形の尾が動いた。

反射的に身を屈めたすぐ上を人を死に至らしめるには十分すぎる質量と速度を持った尾が通り過ぎる。

尾を振るった事で異形の頭の位置は下がっている。

地面を全力で踏みしめて更に加速。

尾を避けられた事に驚いているのか、その後の反応が鈍い。

返すようにして繰り出された尾は当たらない。

何故ならその時には俺は異形の丸太のごとき身体を蹴って宙を舞っているのだから。

俺は重力に任せて異形の頭に手に持つ銅剣を突き刺した。

そして世界に色が戻る。

突き刺した銅剣を抜くとビシャリと黒い血ではないものが撒き散らされた。

「先生凄い……」

「先生の事見直したか?」

鴇羽に纏わりつく糸を何とかしようと歩み寄ろうとした。

――ぞわり

全身が粟立つ。

「先生!! 後ろ!!」

回避――――間に合わなかった。

「ごふっっ」

腹部から背中に突き抜けるような衝撃。

気がつくと俺は地面にみっともなく転がされていた。

衝撃で頭がくらくらする。

だがまだ生きているだけでも幸運、俺の一撃で相当に弱っているらしい。

目の前の異形は頭を此方に向けている。

もしもその顔に瞳があればさぞかし憎悪にまみれた瞳となっているだろう。

痛む身体を無理やりに立たせる。

「来いよ……今度は動けなくなるまで刺してやるよ」

奴も俺も痛手を負っているという条件は同じ。

ここで俺が倒れれば鴇羽はコイツに食われるかもしれない。

絶対に負けてなるものか!!

銅剣を強く握り締めた

ジリリとお互いににらみ合いが続く。

持久戦になれば先ほどの一撃で肩の傷が広がってしまった俺のほうが不利。

先に仕掛ける!

だが俺の仕掛けようとした瞬間。

逆に異形が俺に襲い掛かってきた。

出鼻をくじかれる形になってしまった俺は歯を食いしばり襲い掛かる顎をサイドステップで回避する。

そして着地した俺を尾が叩き潰そうと何度も何度も上空から振り下ろされる。

俺は左に右にと必死で逃げる。

筋肉がミチミチと悲鳴を立てる。

俺は防戦一方、このままだとジリ貧だ。

再び振り下ろされる巨大な尾

それを今度は右に跳んで回避

大きな質量がが地面に叩きつけられて轟音が――――しない?

「しまっ……」

再び身に走る衝撃。

まさか……振り下ろす途中で止めてなぎ払いに変えるとは。

「ひっ」

地面に転がる俺の姿の姿に満足したのか今度は異形が鴇羽に襲い掛からんと移動し始める。

「待てよ……まだ俺は生きてるぞ……?」

木を支えにしてやっとの事で立ち上がる。

「先生……」

だが奴は俺の事など振り向きもしない。

「鴇羽から離れろ!!」

脚を引きずるようにして俺は異形の元へと向かう。

先ほどの一撃で銅剣も手から離れ、遠くに転がっていて俺に出来る事はない。

だがそれでも俺は足掻き続ける。

異形の頭がちらりと此方を向く。

「がはっ!」

邪魔だと言わんばかりの一撃

「まだ……だ……」

もう痛みの限界を通り越して痛みを感じない。

それでも俺は立ち上がった。

「やめてよ……もう立たなくていいから、私のことはいいから!!」

泣きそうな鴇羽の声が聞こえる。

そうだ、そうだよ。

俺は先生なんだ。

だから……生徒を守らなくちゃ

またも俺の身体が吹き飛ばされる。

地面に大の字に転がされる。

「きゃああああ!」

鴇羽の悲鳴

だが俺の身体はもうどれだけ力を振り絞っても指一本だって動かない。

こんな所で倒れている場合じゃない。

立ち上がって助けないと。

もう二度と――――俺の目の前で命を奪わせないって決めたんじゃないか

体中の血管を熱が駆け巡る。

全身に力が戻ってくる。

身体が軽い。

これなら――――――

力を取り戻した俺は勢い良く立ち上がった。

そして

辺りにとどろく銃声

異形の身体に火花が散る。

「え?」

「来て見たと思ったら貴様らは一体何をやっている……」

後ろを振り返れば其処には銃を構えた玖珂が立っていた。

「く……が?」

「退いていろ。ソイツは私が片付ける」

「ちょっと待ってくれ。鴇羽が捕まってるんだ何とかならないか?」

玖珂はちっ、と舌打ち一つ。

「デュラン!!」

そう叫んだ。

空気が冷え込み目も開けられないくらい光で視界が染まる。

「ケルベロス……?」

光が収まりそこにいたのは白銀の硬質な獣

その遠吠えに異形は怯えるかのように身を震わせる。

「デュラン、頼む」

玖珂の優しげな声に答えてデュランと呼ばれたその獣が鴇羽を包む糸に爪を一閃難なく切り裂いた。

急に解放された鴇羽が倒れかけるのを慌てて駆け寄り抱きかかえるようにして支える。

「大丈夫か?」

「大丈夫だけど……って先生は大丈夫なの!?」

「大丈夫……って訳じゃないが平気だよ」

先ほどの熱が駆け巡った際に幾分か傷は癒えていた。

「俺の身体よりも……今はアイツへの対処が先だ」

俺の視線の先では玖珂が銃を撃ち、白銀の獣デュランがその俊敏さをもって異形を翻弄していた。

「デュラン!! ロード・クロームマテリア、てぇっ!」

デュランから弾丸が放たれる。

弾丸は異形の身体をいとも簡単に貫き……異形は地面に倒れこんだ。

「なつき……アレは何なの? それになつきの連れてるソイツは何なの?」

「答える気は無い……今日の事は忘れろ、二度ここに近づくな」

取り付く島も無い玖珂の言葉。

「ちょっとどういう「止めろ鴇羽。言ってはいけない事情があるんだろう」……ッ! 先生だって巻き込まれたんだよ。気にならないの!?」

気にならない訳はない。

だがここで玖珂に聞いても無駄だろうから俺は止めたに過ぎない。

「行こうか鴇羽。玖珂……今日の事は忘れる。それでいいんだろう?」

「ああ。物分りが良くて助かる」

鴇羽がまだ何かぐちぐちと言っているがそれを放っておいて転がっていた銅剣を拾い上げる。

……!?

まだ震えてる?

「気をつけろ! まださっきの奴が……」

言いかけて止まった。

なぜなら顔を上げた俺の眼に鴇羽に襲い掛かるぼろぼろの異形の姿を捉えたから。

「嫌あぁっ!!」

本能的に鴇羽が両手を突き出して自分を守ろうとする。

鴇羽にその牙がつきたたらんとした瞬間

炎が走った

鴇羽の腕に腕輪が現れそこから発生した炎の大蛇が異形の大蛇を飲み込んでいく。

「え? え? 何これ?」

不思議そうな鴇羽。

自分の意思で出しているのでは無さそうだ。

炎が消えたときそこにはもう異形の原型は無くただの黒い塊があるだけだった。

「貴様……今何をした?」

鴇羽に詰め寄る玖珂。

その言葉には『何をした』ではなく、『何故お前が』のようなニュアンスが感じられる。

とにかく仲裁に入ろうと踏み出しかけて足がふらついた。

「あれ?」

力が抜けていく。

緊張が解けて……疲労が一気に出たか……

「ちょっと先生!?」

そんな鴇羽の声を聞きながら俺の意識は暗転した。


あとがき

いよかん参上!
はい。今回は命に碧ちゃんの初登場です…………短いですが
次回以降の活躍にご期待ください。
ところで最近脳内の神様が「ツンデレ奈緒ちゃんを書くのだ……」とか言ってくるのです。
どうしよう……書いていいのかな?
書いて欲しい人がいたら頑張って祈ってください。
そうしたら神様を通じて自分の所に指令が来るはずですから。


>ななし様

大・正・解
賞品としてあなたには私の中に眠る萌え心を半分贈呈します。
萌え狂ってください。

>蓮葉 零士様

改訂版を次々出す。それが曲芸クオリティ
どーせ修羅もその内コンシューマー機で出ますよ。
それまでじっくりと待ちましょうか。
愕天大王……出してみようかしら(何
漫画版乙−HiMEの方では出そうな感じがしますけどね。

それではどんな感想でもお待ちしております。


△記事頭

▲記事頭

e[NECir Yahoo yV LINEf[^[z500~`I
z[y[W NWbgJ[h COiq@COsI COze