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「ミカえもん(GS+ドラえもん+オリジナル)」

臥蘭堂 (2006-05-05 13:44)

 少年期と呼ばれる時間は、男子の一生において、あまりに短い。だが、それが何時終わるかは、人によってまちまちだ。その終わりを告げるのは、決して口にするのがはばかられる場所に、他とはちょっと違った体毛が生える――と言うような事ではない。まして、異性と性行為に及ぶという事でもない。それは。

「はー……しっかし毎日毎日、お前もあきねーなあ」
「んー、そうは言われてもなー。やっぱし、こうさ、目の前にスカートあったら、めくりたくなるもんと違うか?」
「そーいうのはタダオ君だけの気がしますがノー……」

 それは――目の前の異性を、明らかな異性と認識した瞬間。肉欲とも、恋愛とも、そのどちらともつかず、どちらでもありうる感情を抱いた瞬間。それこそが――少年期と呼ばれる時代の「終わりの始まり」なのだ。

「ウソつけー?! お前等だって興味あるやろー?! あのふわっとしたスカートの下に、一体どんな秘密が隠されてるのか、気にならんとは言わせへんぞー?!」
「いや……普通にパンツがあるだけじゃねーの?」
「パンツ以外のものがあってもいやですノー」

 だから、今学校からの帰り道、愚にもつかぬ事を語り合う彼等三人の小学生男子もまた――殊に、額にバンダナを巻いた少年もまた――今正に、その「終わりの始まり」を迎えつつあった。

「まあ、たいがいにしとけよ。まかり間違って六道のスカートなんぞめくった日にゃあ……ツルカメツルカメ」
 三人の中で、一番目つきが悪い少年は、年に似合わぬ言葉を口にして怖気を振り払う。伊達雪之丞――腕っ節はクラス1のガキ大将ながら、中々男気に溢れた好漢でもある。もっともそれは、彼が心から敬愛し、かつ畏怖する彼の母親の教育の賜物でもあるのだが。

「生きて朝日を拝めるとは思えませんノー……」
 小学生とは思えぬ巨体を縮こまらせて青い顔で言うのは、タイガー寅吉。どっちが名前でどっちが名字か、実は担任も把握していないんじゃないかと言われるのは、小さな秘密。ちょっとした中学生如きは簡単に凌駕する体格と腕力の持ち主だが、小心なのが玉に瑕。

「う……まあ、流石にな。しかし、冥子ちゃん自身はあんだけほにゃーっとしてて可愛いんだから、チャレンジしてみたくも……うーん」
 そして、クラス1の美少女を護衛する12人の屈強なボディガードをいかに出し抜くか算段するこの少年――名を、横島タダオ。クラス1のスケベ。クラス1のやんちゃ者。そしてまた同時に――なぜかクラスの中心人物。
 額に巻いたバンダナがトレードマークの12歳である。成績は中の下、運動は上々、ミニ四レースを始めとした遊びの天才でもある。

 ズッコケ三人組とか三バカ大将とか色々言われる彼等ではあるが、それなりに、楽しいメンツではあるせいか、何のかんの言ってクラスの人気者ではあったりする。

「さて、そんじゃ俺は帰ってママの手伝いしねーとまたぶっ飛ばされるから」
「おう、死なない程度に頑張れよー」
「ワッシも帰って勉強せんと、いい加減宿題忘れて唐巣先生のお説教くらうのはカンベンですしノー。母ちゃんにどやされるの嫌じゃし」
「そっか。じゃなー」

 手を振り、家路を急ぐ二人を見送って――ふと、タダオは小さく息をついた。

「ママに、母ちゃんか……」

 かすかな呟きを振り払うように首を振り、タダオも家路を辿る――その先に、少年の時代が終わった事を告げる者が、待ち受けているとも知らずに。

−−−−−
ミカえもん

#01 机の中からコンニチハ
−−−−−

「ただいまー……」

 住宅街のど真ん中、少し古びてこじんまりとした洋館に辿りついたタダオは、玄関ではなく勝手口の鍵を自分で開けると、呟きにも近い挨拶をして、靴を脱いだ。

「挨拶しても、魔鈴さんはまだ帰ってるはずもなし……と。ん?」

 黒猫が、タダオの足元に来て頭をすりつけたていた。

「おー、クロ、お前がいたっけな。ただいま」

 にゃあ、とクロは一啼きし、座り込んだ。タダオは、その頭を撫でると、用意されていたエサを皿にあけ、クロの前においた。
 ここは、タダオの家と言うわけではない。そもそも、タダオが今一緒に住んでいる相手は、両親ですらない。この洋館の主は、魔鈴めぐみ。タダオの母親の、遠縁にあたる人物である。
 タダオの両親は、仕事の都合で外国に夫婦揃って赴任中、小学生を治安の不安な南米の国まで連れて行くのもどうかと思った両親は、親戚一同でも一番のしっかり者と名高いめぐみにタダオを預ける事にしたのだ。

「ん……と、夕方には帰ってくるってさ」
「にゃあ」

 めぐみの書置きを見て言う言葉に、クロは目を細めて啼いた。その声が、まるで「そんな落ち込みなさんな」と言われているように感じられて、タダオは小さく微笑んだ。

 台所を後にして、階段を上り自分にあてがわれた部屋の扉を開ける。ランドセルを下ろして、机に向かう。本当は、宿題があるのだが、どうも、手をつける気になれなかった。

「母ちゃん……か」

 小さな、小さなため息が漏れる。どれだけはしゃいでいても、やっぱり小学生では、まだ家族と離れ離れと言うのは、流石につらいのだ。
 決して、今の同居人であるめぐみが嫌いと言う訳ではない。むしろ、好きだと言っていいだろう。基本的に、優しい女性であるし、何より美人だ。少々口うるさくはあるが、それも、自分の事を思ってくれているからだろうと考えるぐらいの事は出来る。

 そして、何よりも――めぐみは、スキンシップが大好きなのだ。ちょっと落ち込んでる時など、ぎゅっと抱きしめてくれたりする。熱っぽい時などは体温計も出さずおでこをこつんと合わせてくれる。と言うか、体温計と言うものをこの家に来てから見た事がない。
 流石に風呂を一緒に入ろうとか、夜一緒に寝ようと言うのは、いい加減思春期を迎えつつあるタダオにとって、嬉しい反面おっかないというか照れるというか。
 抱きつかれた時のあの豊かな胸の感触を思い出すだけで、なんだかもやもやしてくるの困るやら嬉しいやら。
 机に肘をついて、ぼうっとそんな事を考えていると――ごとごとと、机の引き出しがうごめいた。

「ん? な……何だ?」

 机から身を離して見ると、確かに引き出しが揺れている。まるで、そこだけ地震でも起きているかのようで、気味が悪い事この上ない。
 とっさに、壁に立てかけてあった金属バットを手にして身構える。

「こ、恐くなんかないぞー、こりゃー!」

 勇んでみるが、微妙に腰が引けているのはご愛嬌。そして――引き出しが一気に飛び出した。

「ひぃっ!!」
「ぱんぱかぱーん!」

 素っ頓狂な声と共に、引き出しから現れたのは――なんとも、表現に困る物体であった。
 よっこいせと引き出しから出てくるその体は、大体タダオと同じぐらいの背丈。ただ、その頭がでかい。めちゃくちゃでかい。体型は、でっかい丸が縦に2つ並んだ状態、完全な2頭身だ。

「やー。やっと出てこれたわー。あー狭かった」

 そのでかい頭の真ん中には、なんとも可愛らしい顔があった。丸い頭は被り物か何かなのか、大きな全体に比して、顔の部分は小さめで、どうにも丸くくりぬいた所から顔を出しているように見える。額の辺りから、二房ほどオレンジ色の前髪が流れている。ちょっと頬がぷっくりしてツヤツヤしてるあたり、まるで赤ん坊のようでもある。

「ん? どしたのかしら。おーい、タダオくーん」

 声は、すこしお姉さんっぽい感じだが、目の前でひらひら振られる手は、冗談のようなまん丸だった。

 全体の印象をまとめて言うならば――

「青ダヌキの着ぐるみ?」
「誰が美の化身かーっ!!」

 すぱーんと見事なタイミングでハリセンが閃いた。

「誰も言ってねー?! てか何だよお前! どーやって俺の机に?!」
「ふふーん、そりゃあ遥かな未来のオカルト技術、出来ない事なんかありゃしないわ」
「うわー。すげーツッコミてー。てか、だから何なんだよ、お前は?!」
「アタシの名前はミカえもん。君を助けるために、23世紀の未来からやって来たのよ!」

 うさんくささ120%。どんな悪球打ちの達人だろうと見逃しそうなボール球。と言うより、すでにビーンボールと言って良いだろう言い草だった。それに対してタダオに出来たのは。

「………………はあ」

 半眼で、力なくため息をつく事だけだった。

「何よ、信じてないの?」
「あのなー。そんな与太話今時幼稚園児だって信じないぞ。23世紀って、タイムマシンでも使ったってのか?」
「残念賞ー。タイムマシンとはちょーっと違うのよね。何しろ、オカルト技術だし」
「うさんくせー……」

 ますます目つきが悪くなるタダオに、ミカえもんと名乗った青ダヌキは両手を振り上げて見せた。どうも、怒っているらしい。

「何よー! 人がせっかく君の為に来てあげたってのにー!」
「いや、お前人なのか?」
「もうっ! 訂正しなさいよ!」

 ぴょんぴょん飛びはね抗議するミカえもん。でも、何だかちっとも恐くない。却って微笑ましくさえあったりして、妙におかしくなってきた。

「あーあー解った解った。はいはいスゴイねー」
「あーもう! ホントなんだからー!!」
「って、おい、そんな暴れるなって……うわっ!」

 ぶんぶん腕をふりまわし、ぽてぽて駆けて来るミカえもん、タダオの目の前で見事に転んで倒れこんできた。
「キャッ!」
「だぁっ!」

 もんどりうって二人揃ってくんずほつれつ、気がつけば――

「いててて……って、うわ」

 タダオの上に、ミカえもんが馬乗りした状態になっていた。上手い具合と言うか、何と言うか、タダオの両手はミカえもんにしっかりホールドされていた。

「ちょっ……ど、どいてよ」
「…………うわあ」

 身をよじって懇願してみるが、ミカえもんは何だかつやつやほっぺを紅潮させて、目をきらきらと――何だかちょっぴりギラギラと――光らせるばかりだった。

「わ……悪かったよ。なあ、どいてってば」
「うわー……うわー……」
「ミ……ミカえもん」

 ミカえもんの顔が間近に迫る。二頭身ではあるが、顔の面積自体は決して大きい訳ではない。ついでに言えば、顔自体の造作は、可愛いと言って良いだろう。と言うか、こんな素っ頓狂な格好をしていなかったら、タダオにとって魅力溢れると言って良い。
 そんなミカえもんに間近に見詰められると、タダオは顔に血がのぼるのを抑えられなかった。まるで、めぐみに抱きしめられた時のように、何だか胸の内がもやもや不思議な感覚が芽生えてくる。
 ミカえもんは、そんなタダオに魅入られたように、ますます目を光らせて顔を近づけてくる。

「ねえ、タダオ君?」
「な、何さ」
「アタシが何の為に来たのか、知りたいよね?」
「う……うん」

 くすっと、ミカえもんが微笑んだ。可愛いと言うか、綺麗と言うか、でもそこはかとなく恐いような。そう言えば、めぐみもたまに同じような笑い方をする事がある。

「良いわ……教えて、あ・げ・る……」
「あう……」

 ますます顔が近づき、ミカえもんの桜色の唇がタダオのそれに重なろうとした、その時――

「ちょおおおおっと待ったぁぁぁああああっ!!」

 破らんばかりの勢いでドアが開けられた。そこには。

「ま……魔鈴さん?!」
「ちっ! 思ったより早い?!」

 栗色の長髪を三つ編みにして長くたらした髪型。黒を基調にしたシックなワンピース。そして、そのワンピースに包まれた思いのほか豊かな曲線。普段は慈愛に溢れた顔――は、今鬼神の形相と化していた。
 魔鈴めぐみ。タダオの、現保護者であった。

「横島タダオ救済プロジェクト最大の敵性存在、魔鈴めぐみ……」
「て、てきせい? ちょっと、ミカえもん」

 何だか穏やかならぬ言葉に、タダオは背筋が震えた。言葉だけではない。ミカえもんの表情が恐かった。のしかかられていた時の顔は、あれも確かにどこか恐かったが、どちらかと言えば見入ってしまうような恐さだった。だが。

「敵性――ですか。その言葉、宣戦布告と認識しますよ。いいえ、タダオ君にそんなまねをしている時点で、充分にあなたは敵ですけどね」
「ふん。魔鈴めぐみ、中世暗黒時代に失われた筈の魔法を21世紀に蘇らせた、真の魔女。23世紀の資料にあった通りの食わせ物みたいね」

 唐突に始まった対立もうそうだが、ミカえもんの言葉に、タダオは混乱を覚えた。

「魔女? 魔法? って、え? 誰が? 魔鈴さんが?」
「そうよ、タダオ君。魔鈴めぐみ、表向きはレストランのオーナーシェフ、しかしてまたの名を『魔道の女帝』『最後の魔女』。オカルト技術興隆の端緒となった重要人物――とは言え、こればっかりは引けないわ!」
「くっ……よりによってタダオ君の前で!」

 めぐみは軽くのけぞるようにひるみかけたが、まなじりを決してミカえもん――と、相変わらずミカえもんにのしかかられたままのタダオ――をにらみつけた。

「あなた一体……?! まあ、良いです。聞きたい事は色々あるけど……まずは、完全に無力化してからですね!」

 めぐみが右手を頭上にまっすぐ伸ばすと、その指先から赤い光が溢れ、めぐみの全身を包む光の円錐が浮かび上がった。光は風圧すら備えるのか、部屋の中はめぐみを中心とした小さな竜巻の様相を呈していた。

「くっ……『魔女の帽子』を一瞬で?! 流石ね! でも!!」
「おちっ おっ 落ち着いてっ 魔鈴さーん!」

 あわてるタダオをよそに、ミカえもんは右手を腹のところにある半円形のポケットにつっこんでごそごそと探り、なにやら青く光る小さな塊を取り出した。

「せーいーれーいーせーきー!」
「なっ?! そんなモノをどうして!」
「ちょっと待って、ちょっと待って! 何だかものごっつヤバイ匂いがするんだけどー?!」

 ぱぱらぱっぱぱーと、どこからともなく奇妙なファンファーレが響きわたる。一体「せいれいせき」とやらが何であるか全く解らないタダオだったが、それでもめぐみの慌てぶりから相当ヤバそうである事は見当がつく。

「ちょっと、魔鈴さんもミカえもんも落ち着いてくれーっ!!」

 だから、そう叫んではみるものの。

「イーア! イオ! イーア! 森の奥に潜む角男、赤い眼の大鹿よ!」
「極楽に行かせてあげるわーっ!」

 二人とも、聞いちゃあくれなかった。

「「くらえーっ!!」」
「カンベンしてくれーっ!!」

 閃光と轟音が、夕暮れの住宅街に響き渡った。

−−−−−

「あー……二人とも、落ち着いた?」
「うう……足しびれたー」
「何で私まで……」

 あの後――二人の放った攻撃が収まった後、壊れたベッドやら本棚やらの残骸に埋もれたタダオの姿に正気を取り戻したミカえもんと魔鈴は、あわててタダオを発掘、介抱をした。
 幸いと言うか、奇跡的と言うか、タダオは怪我一つしていなかった。まあ、髪がこげたりはしていたが。

 意識を取り戻したタダオの冷たい視線に耐えかね、無言で部屋を片付けた二人は、タダオの前に正座していた。もっとも、ミカえもんの場合は足が短い為、正座なのか何なのか今ひとつ解らなかったが。

「ミカえもんはともかく、魔鈴さんまであんな事……」
「ともかくって何よー。ぶーぶー」
「まあ、結局は普段の行いと言うか、イメージの問題ですよね」

 口を尖らせて不満をのべるミカえもんと、そっぽを向いて笑いを漏らすめぐみだったが、タダオの視線にしゅんと俯いた。

「ともかく……ミカえもん、俺を守るためとか言ってたけどさ、何なのさ?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」

 言ってねえ。思いっきり首を縦に振るタダオに、えへへと笑って頭をかくミカえもんだった。

「私も知りたいですね。一体何者なんですか? 私の秘密まで知っていたようですが」
「ま、良いわ。隠し立てする事じゃないし。教えたげるわ。さっきも言ったけど、アタシは23世紀の未来から来たの。これは良いわね?」

 タダオとめぐみがうなずくのに、ミカえもんは腕を組んで立ち上がった。座っているのとそんなに高さが変わらないのだが。

「23世紀の未来ではね、タダオ君の子孫が、ほとんど残っていないの。と言うか、横島家はほぼ全滅状態。何でか解る?」

 いきなり聞かれても、解るわけがない。

「解らないわよね。それはね……タダオ君の煩悩、性欲が抑えこまれてしまったからなのよ!」


 ガーンと音が響く。三人が窓の外を見ると、ピアノを載せたトラックが電柱にぶつかっていた。


「えーと……何だったっけ」
「あ、そろそろ夕食の準備をしないと」
「だーかーらー! 聞きなさいよー! 良い?! タダオ君の煩悩が抑えこまれ過ぎて、タダオ君はまともに結婚もできずやっと40過ぎになってから結婚! どうにか子供には恵まれたものの、今度はタダオ君の教育があまりに厳しすぎて子供もやっぱりタダオ君と同じ状態! とうとう孫の代には結婚さえ出来ず一人さびしい独居老人! それもこれも……全部そこの魔女のせいなのよ!」
「って、何で私のせいなんですか?!」
「決まってるでしょ。アンタがやたらタダオ君を抑え付けちゃったからよ。やれ清く正しくだー、やれやらしい事しちゃダメだー、そんな風に抑えつけたせいで、タダオ君が歪んで成長しちゃったのよ」

 ミカえもんの言葉に、めぐみは立ち上がって答えた。

「なっ……そんなの当たり前じゃないですか! 良いですか?! 私はタダオ君のご両親から信頼されてタダオ君をお預かりしたんです! それに、そうでなくてもタダオ君は磨けば光る素材なんです! きちんとした紳士に育って欲しいと思うのが当たり前じゃないですか!」
「はーん、とか言いつつ日々タダオ君を誘惑するような真似してたってのも、お見通しなんだから」
「ゆっゆっゆっ……ゆーわくとは何ですか! 私はタダオ君が寂しがったりしないようにスキンシップを!」
「はた目に見たら誘惑以外の何ものでもないじゃない! この少年趣味!」
「きーっ!」
「きーっ!」

 ああ、これはもうダメなんだなあ。

 何か、この数時間で諦念と言うスキルを身に付けたタダオは、つくづくとこうべを垂れて、ため息をついた。
「と……ともかく、それで私がこの時代に派遣されて来たのよ。23世紀の未来では、オカルト技術が発展していてね。色々オカルト技術を利用したアイテムがあるの。それを使ってタダオ君に正しい男女の知識を教えてやってくれって、タダオ君の孫に頼まれたの」
「つ……つまり、『おとなのオモチャ』の通信販売みたいなもんじゃないですか。なんていかがわしい。そんなアイテム頼りでまともな教育なんて出来るわけないでしょう」

 肩で息をしながらも、二人はまだにらみ合っていた。が、めぐみの言葉を受けて、ミカえもんはふふんと不敵な笑みを漏らした。

「解ってないわねえ。そんな当たり前の事、考慮してない訳ないでしょ? だから、アタシが派遣されたって言ったでしょ?」

 存在しない後髪を払うような仕草でポーズを取るミカえもん。まあ、可愛らしい事は可愛いのだが。

「ぷっ……青ダヌキがどうやって? 笑わせるんじゃありません!」

 こちらはきちんと存在する三つ編みの髪を払い、対抗するようにポーズを取る。流石に見事なプロポーションに、つい見とれてしまうタダオだった。と言うか、服のあちこちがこげて破れてほのかな色気が漂う姿は、目を離せるものではない。

 到底、身長1メートル10センチ程度の2頭身青ダヌキでは、太刀打ち出来ようものではない。だが。

「ふっ……これでもかしら?」

 かくん、と。ミカえもんの両腕が垂れる。何やらごそごそと背中がうごめき、やがて。

「なっ?!」
「え……ええぇぇぇぇえっ?!」

 ぱっかりとミカえもんの背中が割れ、そこから光と共に白く長い腕が伸びる。腕だけではない。亜麻色の長い髪が溢れ、ストッキングに包まれた見事な張りと絶妙な太さのフトモモが漏れる。そして。ずるりと、脱ぎ捨てるかのように、ミカえもんの体がくずおれた後には。

「そ……そんな反則な!」
「はぇー……」

 長い亜麻色の髪をオールバック気味に流し、めぐみに勝るとも決して劣らぬ豊かな肢体の美女が、立っていた。着ているのは、青と白のツートンカラーになった、エナメル地のようなツヤを持ったボディコンミニだった。
 どこかしら、ミカえもんを彷彿とさせるそのミニの裾からはガーターベルトが伸び、脚を包む白いストッキングを吊るしている。

「ふぅ……どうかしら、タダオ君?」

 そう言って微笑む顔は、確かにミカえもんのそれにそっくりだった。ミカえもんよりずっと大人びているが。ぱちっ片目を閉じてウィンクしつつ向けられた微笑に、タダオは、頬を染めて見入る事しか出来なかった。

「そっ……何ですかそれは?! 一体どうやって入ってたんですか?! エスパー伊藤じゃあるまいし!」
「言ったでしょう? オカルト技術を流用したアイテムがあるって。このスーツもそうよ。高いサバイバビリティを持ったこの万能スーツがあれば、大概の面倒事からタダオ君を守る事だって出来るし」

 さっき死にかけましたが――とツッこむ事も、タダオには出来なかった。それぐらい、ミカえもんに見とれていたのだ。

「くっ……」
「どう? タダオ君もアタシを気に入ってくれたみたいよ?」
「認められません……認めません! 何ですかその痴女みたいな格好は! 今時ボディコンなんていかがわしいビデオにしか出てきませんよ!」
「言うに事かいて痴女とは何よ! いたいけな少年のリビドーあおるだけあおって何もさせないアンタの方がよっぽどいかがわしいわよ!」
「キーッ!」
「キーッ!」

 またも始まった口論に、意識を平常に戻したタダオに出来たのは、やはり、更にスキルアップした諦念でもって、深々とため息をつく事だけだった。

「俺、これからどうなっちゃうんだろ……」

 そのため息は、タダオの少年期の終わりと、男への階段を上り始める輝かしい時間の始まり、その双方を告げる鐘だったのかもしれない。

 ちょっぴり切ないけれど。

――了――


――後記
 皆様、はじめまして。臥蘭堂と申します。以後、お見知りおきの程を。
 さて、今回の作品ですが、元になりましたのは、たかすさんがお描きになられたイラストでして。ドラえもんスーツを着込んだ令子のあまりの可愛らしさについついと。
 筆者としては久々のコメディでしたので、中々笑える出来になったか心配ではありますが、余暇の友とでもしてお楽しみいただけましたら幸いです。


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