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「魔を宿す者(まぶらほ+エクソシスト)」

タケ (2006-04-28 23:56/2006-07-14 20:21)

この世界は、魔法の存在する世界。

誰もが空を飛ぶ事も、炎を召還して気に入らないものを焼き尽くす事も可能である。
理論上は。

しかし、あるものがそれを阻む。
それは生涯魔法回数。一生の内に何回魔法が使えるかを表す回数だ。
この回数分の魔法を使用すると、使用者は塵となって消えてしまう。
基本的に例外は無い。

この回数には個人差があり、遺伝と言う形で子や孫へと伝わっていく。

長い歴史の中で、人々は大きく2つの存在に分かれた。
即ち回数を気にせずに使える者達と、1回使うだけで消滅の危険に怯える者達に分かれる。

家系という形で、エリートとそれ以外が生まれる。生まれてしまう。

魔法、厳密には生涯魔法回数と言う絶対的なアドバンテージが、強者と弱者を分類する。

ここは、そんな世界。


だが、あらゆる並行世界においても、下層にある者は上を目指す。
虐げられた者は反逆する。

これは共通の思考と言っても良いだろう。

しかし、魔法回数を増やす方法は無い。この事実は覆らない。
仮に高い魔力を持っていても、回数が少なければ、使えなければ意味は無い。
それがこの世界の常識。

それでも這い上がろうとする者達は、ある道に辿り着いた。
それは禁忌。魂と引き換えに強大な力を得る方法。
悪魔との契約、いわゆる「悪魔に魂を売る」と言う方法である。

だが、その試みは失敗といっても良いだろう。
人の心は悪魔の存在に耐えられなかった。
魂を売った者達は、元がどんなに高潔な人間であっても、
深層意識に眠っていた僅かな欲望すら引き摺り出され、力に魅せられて堕ちて行った。

多くの人間が狂い、様々な悲劇を生み出した。


しかし、例外は常に存在する。これはその例外の物語。

その例外とは、式森和樹という少年。
絶大な魔力を持ちながらも、生涯魔法回数は8回という少年。
原作では、3人の美少女達に理不尽な暴力を与えられながらも、優しさを貫く稀有な少年。

あの最悪な出会いを受け入れたのは、世界遺産級の優しさがあってこそ。
世界遺産級のお人よしとも言えるが。

だが、出会いの時、3人の美少女達の理不尽に耐えられなかったら?
理不尽に対し、断固たる思いで対応したら?それだけの力があったら?

これは、そんなIFの物語。世界と同じく救いの無い物語。愚者が踏みにじられる物語。


 まぶらほ  魔を宿す者

 プロローグ1. 全ての始まり


――― お前の名は?

(和樹、式森和樹。)

――― では、和樹。・・・力が欲しいか?

不意に耳に聞こえてきた声に、僕は躊躇う事無く頷いた。

今、僕の前には、両親だったモノが転がっている。

殺されたのだ。奪われたのだ。

あいつらに。

あいつらは僕達をモルモットにする為に、家族ごと誘拐した。
僕の家、式森家には世界中の有名な魔術師の血が混じっているらしい。
その血を調べて、高い魔法回数と魔力を持つ人間を作り出したいらしい。

その為に、そんなくだらない事の為に、僕の両親は殺された。
散々いかれた実験に付き合わされ、命までも奪われた。
最後まで僕だけでも助けてくれと訴えていた。

それを見て、あいつらは笑っていた。そう、おかしそうに笑っていた。

そして、今度は僕を実験に使う気らしい。
あいつらは毒々しい色の薬が入った注射器を持って、
猿轡を噛まされ、鎖で拘束された僕の方に歩いてきた。

怖くは無かった。感情が一部麻痺していたのかもしれない。
あるのは怒りだけだった。憎悪を通り越した純粋な怒りだけだった。

その時、声が聞こえたのだ。


――― どんな力が欲しい?
――― その魂と引き換えに望みをかなえてやろう。
――― そいつらを八つ裂きにしたいか?

(どんな願いでもいいの?)

――― 言ってみるがよい。お前は何が望みだ?

(・・・あらゆる理不尽に反逆する力が欲しい。)

――― どういう意味だ?

(そのままだよ。誰であろうと、それが神様でも理不尽な事は認めたくない。その為の力が欲しい)

――― その為なら、何でもできるか?

(何でもするよ。)

――― 人殺しもか?

(そいつが理不尽を押し付ける者ならば。)

――― 神にも反逆するのか?

(神様は祈っても何もしてくれない。)

――― 面白い奴だ。良かろう、我は『傲慢』なり。
――― 我が力を受け入れよ、和樹・・・。


それからの事は今でもよく覚えている。おそらく一生忘れないだろう。

僕の体から膨大な魔力が放出された。8回しかない魔法回数を1回使ったと言う事だ。
右手の甲に奇妙な感覚が走った。痛いような、痒いような、気持ちいいような不思議な感覚。
その瞬間、僕を拘束していた物が全て塵となった。猿轡も鎖も形を失った。
それと同時に、気分がすっきりした。
肉体的にも、精神的にも、様々な物から開放されたと解った。

ふと右手を見てみると、右手の甲に逆五芒星の紋様が紅く描かれていた。
この時は知らなかったが、今なら解る。
これは悪魔との契約の証。悪魔に魂を売った証。

その紋様が輝き、熱をもった。
気が付くと、僕は右手に大きな黒い鎌を握り締めていた。
白熊の首さえも切り落とせそうな大きな鎌だが、まるでモップを振り回しているように軽い。

父さんの身長よりも長い大鎌の柄を両手で握り、あいつらを見据えた。

呆れた。

さっきまで偉そうにしていたのに。僕の両親を嬲り者にしていたのに。
あいつらは僕に怯えていた。
僕の右手の紋様に。握り締めた大鎌に。そして、僕が放つ純粋な殺意に。

無造作に大鎌を振るう。

大した手ごたえも無く、目の前の相手が腰から2つに分かれた。
豚のような悲鳴を上げて、悶えている。

五月蝿い。そして、うっとうしい。

更に大鎌を振り回す。あっという間にバラバラになった。
僕の前に大きな血溜まりが出来、その中に肉片が転がっている。
まるで真っ赤なシチューを零したみたいだ。

すると大鎌が紅く輝いた。

その時、僕の目には見えた。そして聞こえた。
今、バラバラにした奴と同じ顔の半透明な何かが、紅い光に吸い込まれていくのを。
その時、その何かが苦悶の叫びを上げていた事を。

今なら解る。
その何かが、そいつの魂だった事を。そいつの魂が悪魔に喰われた事を。

その後は簡単だった。あいつらは逃げ出そうともしなかった。
腰が抜けたように座り込み、命乞いをしていた。

それを無視して、大鎌をあいつらへと振り回す。何度も何度も。

振るう度に血溜まりと肉塊が増えていく。そして紅い光に魂が喰われていく。
初めは耳障りだった声も直ぐ耳に慣れた。
最後まで、心地良いとは思えなかったが。


どのくらい経っただろう。気が付くと、もう動く者は居なかった。

――― 満足したか?

「とりあえずは、ね。ところで、この赤いスープを片付ける事は出来るかい?」

――― 安心しろ。血肉も我の好物なのでな。残しはしない。

「それは良かった。でも父さんと母さんは食べちゃ駄目だからね。」

――― どうするのだ?

「お墓を作って、埋めるんだよ。」

――― あれだけ人を殺しておいて、墓の心配とは可笑しな事よ。

「せめて父さんと母さんくらいは天国に行って欲しいから。・・・それと、何で僕を食べないんだい?」

――― 本当に可笑しな奴だ。何故、お前を喰らう必要がある?

「だって、力を貸してくれたのは、そういう約束だからだろう?」

――― お前の望みがこいつらを八つ裂きにする事ならばな。
――― だが、お前の望みは違う。お前の望みは理不尽に反逆する事。
――― その想いを諦めぬ限りは、契約は続く。
――― それとも、もう満足したか?

何となく、その声には期待が込められていた気がした。

「ねえ、世界には理不尽な事は沢山あるのかい?」

――― この程度の事など軽いものだ、食事前のスープにも成らぬ程にな。
――― メインディッシュには程遠いぞ。

「それじゃ、まだ駄目だね。まだ諦めたくない。・・・でも、君はそれでいいの?」

――― 我は、お前が気に入った。
――― その身を血に染めても犯されぬ、その魂が。
――― そして、その膨大な魔力もな。

「ありがとう。」

――― 悪魔に礼を言うとは、益々面白い。
――― もっと、力が欲しいか?

「今でも充分凄いと思うけど。まだ先があるの?」

――― 我の同胞と更なる契約を交わせば良い。
――― お前の魔力なら、魔法1回で契約できる。
――― そして、契約を増やすほど、得られる力は大きくなる。

「でも、君が得する理由が無いんじゃない?」

――― 悪魔とは、穢れた人間の血肉と魂が欲しいのだ。
――― お前との契約なら、我々は穢れた人間を存分に喰らう事ができる。
――― それに、お前の1回分の魔力は、それだけで元が取れるほど素晴らしい。

「今はまだいいや。ゆっくり考えてからで。でも君って随分と親切だね。とても悪魔とは思えないや。」

――― くっくっく。『傲慢』たる我が親切とは、やはりお前は面白い。
――― 今までの雑魚供と違い、当分退屈しないで済みそうだ。

「そう言えば、君の事はなんと呼べばいいのかな?」

――― 好きに呼ぶがいい。

「それじゃ・・・」


コレは、僕が7歳の時の出来事。16才になった今でも、忘れた事は無い。
初めて人を殺した事。その血肉を、魂までも、悪魔に捧げた事を。

この時、僕は第2の人生への1歩を踏み出した。


 まぶらほ  魔を宿す者

プロローグ2. 望まぬ出会い


あの事件から3ヵ月後の夏の日。
僕、式森和樹は旅先で立ち寄った町を散策していた。

「雲一つ無い青空。気持ちがいいねえ。」

――― やはり、人間界は良い。魔界に青空は無いしな。
――― 腹も膨れたことだし、昼寝でもするか?

「デスって本当に人間みたいだね。たまに人間の方が悪魔に思えるよ。さっきの奴らを見ると特にね。」

――― そいつは傑作だ。そう言えば、旅費は大丈夫か?

「あいつら結構溜め込んでいたから。半分は警察のおじさんに渡したし、
 残りは銀行のおじさんにお願いして、貯金したよ。」

――― 手持ちはいくらある?

「諭吉さんが50枚。この眼を使えば、子供の僕でもホテルに泊まれるしね。」

あの事件から、僕は相棒となった悪魔のデスと共に旅を始めた。

デスと言う名前は、狩りをする時の大鎌から取ったもの。
あの武器の名前は難しい発音で聞き取れなかったけど、あの形状の武器を「デス・サイズ」と言うらしい。
それから名づけたんだけど、特に文句を言ってこないから、気に入ってくれたのかな?

旅を続けて解ったんだけど、本当に世界は理不尽だ。

今までも、力の無い子供を魔法が使える子供達が一方的に嬲る光景や、
魔法の巻き添えにしておいて、知らん振りする大人達を見てきた。

彼らはそれを当然と思っている。注意したら、逆ギレして魔法を撃ってきた。
本当に理不尽だ。

だから、デスの提案を受け入れて、もう一体の悪魔と契約した。
あんな奴等に殺されたくないしね。

新たに呼び出した彼は『貪欲』と名乗った。
デスは僕の身体能力を飛躍的に高めてくれるらしいが、彼は他人の心に干渉できるそうだ。
その力は僕の眼に宿り、「イビル・アイ」と呼ばれるらしい。
相手に幻を見せたり、記憶を操作したりできるので、非常に便利だ。
尤も最初の契約以来、1度も声をかけてこない。とりあえず名前はビルにしたけど。

デスに聞いたら、複数の悪魔が憑いた場合は最初の悪魔が最も支配権が高くなり、
次以降の悪魔は最初の悪魔に従うらしい。
デス曰く、手足が頭に文句を言わないだろう、だそうだ。

ところで契約したら、もう一つ紋様が右腕に現れた。
デスの紋様だけなら手袋していればいいけど、これじゃあ半袖の服は着れない。
紋様は手から腕、肩という順で浮かび上がるらしい。

まだ言ってなかったけど、この紋様って衣類で隠す以外ないんだよね。
過去に6体の悪魔と契約した人が居たらしいけど、その人は肩まで紋様があったそうだ。
だからいつも長袖の服だったんだって。


ぶらぶらと散歩を続けていると、女の子の泣き声が聞こえた。
何となく、そっちに歩いていく。
すると空き地があり、僕と同い年くらいの女の子が一人しゃがみ込み、
両手に顔を当てて泣いているのが見えた。

「どうしたの?」

迷子だろうか?交番の場所なら解るけど。

僕が話しかけると、少女が泣き止み、顔を上げた。

「・・・だれ?」

「僕は和樹。通りすがりの旅の少年・・・かな?迷子だったら、お巡りさんの所に案内するけど。」

「私、夕菜。迷子じゃないもん。」

「それじゃ、どうして泣いていたの?」

夕菜と言う子はしばらく下を向いていたけど、顔を上げて話しかけてきた。

「うん。私、この町に来たばっかりなのに、またお引越しをしなければいけないの。
 もう、お引越しなんかしたくないのに・・・。」

夕菜は堰を切ったかのように、次々と自分の思いを話し続ける。

彼女の家は何処かの大きな家らしく、両親共々忙しい身であるらしいとか・・・。
それで、一箇所に留まることが余りなく、殆ど転々と引越しを続けているらしい・・・。
そして、今度の引越し場所は外国だとか・・・。

「私、もうどこにも行きたくない。ずっとここにいたい。友達だって作りたい。
 もう、お引越しなんて、嫌。」

そう言って、また泣き出した。

父さんと母さんか・・・。2人とも最後まで僕を心配していた。
子供を泣かせて喜ぶ親は居ないと思う。
きっとこの子の両親も仕事で仕方なく引っ越すのだろうし。
可哀想だけど我慢してもらうしかないね。

「ねえ、旅人さん。あなた、魔法使って何とかできたりしない?御伽噺みたいに。」

「例え魔法使いでも、そんな事は無理じゃないかな?それに僕は魔法使いじゃないもん。」

「役に立たないのね。男の子なら女の子が泣いているのを助けようと思わないの!?」

無茶を言う子だなあ。

「迷子だったら、助けようと思ってきたけど。平気そうだね。それじゃ。」

「待ちなさいよ!!」

立ち去ろうとしたら、火の玉が飛んで来た。軽く地面を蹴ってかわす。

「何するんだよ!?」

「泣いている女の子をほっといて、どこかに行っちゃうなんて許せない!お仕置きよ!!」

「何でさ・・・。」

子供なのに随分強力な魔法だ。僕が只の子供だったら入院するところだよ。

――― どうする?殺るか?

(確かに理不尽だけど・・・。僕も声をかけなければ良かったかもしれないし。今日は見送ろう。)

――― ふふ、流石に同年の女の子は抵抗があるか?

(今日の事は教訓とするよ。・・・次があれば殺る。今は適当に誤魔化して逃げよう。)

1度くらい選択の機会を与えてもいいだろう。
もう二度と会わないだろうけど、これ以上理不尽にならない忠告を込めて。

「人の痛みを考えられるようになれば、きっと友達は出来るよ!」

僕の声に振り向いた少女に視線を合わせる。

(イビル・アイの1つ・・・ファントム!!)

眼を合わせた者に1分間の夢を見させる力。多人数相手にも使える、撹乱にはもってこいの術だ。
彼女の周りに雪が舞い降る風景をイメージする。頭を冷やしてくれる事を信じて。

「雪よ!舞い降りよ!」

言葉にする事で、イメージは更に鮮明となる。不意に彼女は周りを見回す。
きっと、空から雪が降ってくるように見えるのだろう。

表情が柔らかくなった!チャンス!

僕は足を強化して塀に飛び上がり、それを足場に屋根へと飛び移る。
それから屋根伝いに全速力で逃走した。

町を出た所で、休息をとる。

・・・・・・疲れた。

――― 身体強化にも随分慣れたようだな。良い逃げっぷりだった。

「それはどうも。・・・ふう、無視すれば良かったよ。」

――― 好奇心、猫を殺す、と言う言葉がある。理解できただろう?

「しっかりとね。」 

――― まあ、勉強したのだと思うのだな。いい加減、宿を探しに行くか?

「うん。」 


それからしばらくは日本各地を回り、色々な物を見て、色々な人を見た。
多くの理不尽を知ったが、同時に素晴らしい物もある事を知った。
だからこそ、理不尽を押し付ける連中が許せなくなった。

そして1年後、僕は海外に渡る事にした。
世界は広いのだ、とデスが言ったのがきっかけだ。
力を身に付ける為に、使いこなす為に、後悔しない為に。
知識とは何よりも大きな力だから。

そして、7年後。僕は再び日本に戻り、ある高校に入学した。
その学校の名は、葵学園。


 まぶらほ  魔を宿す者

1. 日常から非日常へ


ジリリリリリリリリリ……カチッ

ゆっくりと、目覚ましを片手に持った少年がベッドから身を起こした。
中肉中背の特に特徴のない少年だが、
その動作や呼吸に何の澱みもなく武術の達人に通じたものを感じさせる。
が、そのことを緩んだ目と柔和な表情で感じさせない。
ただ、その右手の甲に見える紅い紋様が違和感を醸し出す。

ここは、葵学園彩雲寮の212号室で、表札には「式森」と書かれてある。
中は2人部屋を1人で使っているので広く、冷蔵庫と本棚と机とベッドがある、ごく普通の部屋になっている。
妙な所は、ベッドの傍に布を入れた籠が置かれている事と枕元の包帯くらいか。
しかも何かが寝ているし。

「もう朝か。お腹空いたな。」

――― うむ。朝食は取らねばいかんぞ、和樹。

「デス、おはよう。」 

式森和樹は自分の中の相棒に挨拶すると、八時をさしている時計を置き、籠の中の何かを揺り起こす。

「起きろ、リリム。」

「んー、もう朝ー?」

すると、可愛らしい声が聞こえてきた。少女の声である。
尤も籠は人間の少女が眠れるサイズではない。

「直ぐ、朝食を作るから、着替えときな。」

「はーい。」

和樹は滑るような動作でベッドから出ると、パジャマを脱ぎ、
枕元にあった包帯で露出した右腕を覆っていく。
右の手首から肩の手前まで満遍なく巻きつけると、今度は学校の制服に着替える。
今の季節は夏だが、和樹は何故か長袖の制服を身につける。右腕の包帯を隠す為だ。

制服の上にエプロンをつけ、部屋に取り付けの小さなキッチンに向かう。
フライパンに火をかけ、冷蔵庫から薄切りのベーコン2枚と卵2個を取り出し、ベーコンをフライパンで焼く。
ベーコンから充分に油が出たのを見計らい、卵を落とす。
ふたをした後、食パンを2枚取り出し、トースターにセットして、焼き始める。
冷蔵庫から牛乳パックを取り出し、コップに注ぐ。
そして産地直送の高級な蜂蜜を取り出し、お猪口のようなマグカップに入れる。

「おはよー、和樹ー。」

少女の声に振り向くと、フェアリーとかピクシーと呼ばれるであろう少女が飛んでくるのが見えた。

翡翠の色の髪にサファイアの瞳をもつ、美少女である。
ショーウィンドウーに飾れば、道行く人は全て足を止めるだろう。
身長は30cmくらいだろうか。背中の開いた水色のドレスを纏っている。
だが、何よりも眼を引くのが背中の羽である。身長ほども有る蝶の羽は、黒い絹の様だ。

彼女はリリム。1年前に召還した彼の使い魔、というかなんというか。
実は彼女は妖精ではないが・・・説明は今は省かせてもらおう。

彼女の召還はデスの要請で、和樹に宿る悪魔の魔力を行使した為、魔法回数は消費していない。
その代わり、面倒な儀式を時間をかけて行う必要があったが。
また余程強い魔力を持たない限り、彼女の姿を見る事も声を聞く事も出来ない。

「おはよう、リリム。準備は出来てるよ。食べよ。」

「いただきまーす。・・・うん。やっぱり、ここの蜂蜜が最高ねー。」

「今日もまあまあの出来だな。」


食事を終えて、洗い物を済ませる。鞄の中身を点検し終わると、丁度いい時間だ。
制服の袖が手首まで完全に隠しているのを確認して、薄い黒の手袋を両手に嵌める。

「リリム、僕は学校行くけど、君はどうする?」

「うーん、今日はいいや。何か家に居た方がいい気がするしー。」

「解った。何かあったら、念話で連絡してね。じゃ、行って来る。」

「いってらっしゃーい。」

ここ1年ぐらいの変わらない日常。
こうゆう平凡な日々こそが素晴らしいのだと気付いたのは何時の頃か。
10年近く日本を離れていた所為か、僕の血筋を狙う奴らがやって来ることは無かった。

だが、平和な日々が崩れるのは、いつもあっという間であった。
実に理不尽だ。


時間には余裕があるので、のんびりと学園へと向かう。

――― そういえば、今日は魔力診断の日だったな。

唐突にデスが和樹に告げる。

「そうだったっけ?めんどくさいな。どうせ残りの魔力は3回なのに。」

――― では、サボるか?

「いや、受けるよ。早引きしたら内申に響くしね。せっかく今まで猫かぶってきたのに目立ちたくないよ。」 

――― 猫、か・・・。フフ、虎が言う言葉ではないな。
――― いや、龍と言うべきか?

デスが可笑しそうに笑う。

葵学園は魔法のエリートとなるであろう生徒が集められているが、
その生徒全員が束になっても和樹には敵わない。
それが解っているからこそ、可笑しい。

そんな話をしている内に学校の校門が見えてきた。


授業中、和樹の自称親友である仲丸由紀彦が授業をサボって保健室を覗いていたのがばれて、
クラスメートで同類の松田和美に魔法で制裁を受けたのは、いつもの事と言えるので描写は割愛する。

魔術師養成のエリート校と呼ばれる葵学園でも、
学力・体力・魔法回数等が特に優秀な生徒が集まっていながら、
葵学園始まって以来の問題クラスでもある、この2年B組では日常とすら言える出来事に過ぎない。
金儲けと他人を蹴落とすことに全ての情熱を注いだ連中しか居ないのだ。
色々な意味で和樹は例外である。
彼らが文化祭の標語として、『人の不幸は蜜の味、人の幸福砒素の味』を掲げたのは、
あまりにも有名な話である。


昼休みB組の教室

「ったく、なんで俺が校舎の修理なんかしなくちゃいけなんねえんだ!!俺の貴重な魔法回数を!!」

仲丸は和樹とともに昼食を取りながら愚痴をこぼす。
彼等は窓側の自分達の席をくっつけて、みんなで仲良く食事をする。
よくある学校風景である。

二人のほかにクラスメートの浮氣光洋と御厨真吾もいる。
ちなみに浮氣は窓に腰を下ろして食事を取り、御厨は怪しげな本を読んでいるが。

「自業自得じゃない?」

和樹は買って来た紙パックのジュースを飲みながら、あっさりと言う。

「なんだと!俺のせいだというのか!!」

「そうだと思うけど、違うの?」

「違う!!断じて俺のせいじゃない!!あのまま松田が邪魔さえしなければ風椿玖里子は俺のものに!!
生徒会から学校の理事まで操る影の実力者、風椿玖里子の、あられもない姿を掴んで脅せた筈なのに!!」

拳を握り締め怒りをあらわにする。
しかしあのままでも成功する可能性はかなり低い。

「無理だと思うけどな。」

またも和樹は淡白に答える。

「式森!お前には目標ってもんがないのか!?」

「ほほ〜、アンタの目標ってあの痴漢行為?」

「げっ、松田!」

いつの間にか仲丸の背後に松田が立っていた。仲丸は心底嫌そうな顔をする。

「俺なら目標は向こうかな。」

浮氣は窓の外を見ながら言う。
そこには葵学園の制服ではなく、巫女のような服を着て、何故か刀を持っている少女がいた。

余談だが、この世界にも銃刀法違反は存在する。

「一年の神城凛。なかなかの美形だと思うけど。」

和樹もそれにつられて窓の外を見る。
確かに見た限りでは美形だが、どうも刺々しいものを感じる。

「ふ〜ん。まあ、うちの学校ってかわいい子多いからね。」

「式森には関係ない話だろうけどな。」

浮氣が少し嫌みったらしく言う。

「・・・・・・まっ、そうかもね。」

和樹は別段気にもしないであっさりと答える。

自分のことは自分が一番よく知っている。
魔法が後3回しか使えないので、魔術師としては落ちこぼれ。顔に関しては平凡以下(本人談)。
学年トップを軽く取れる頭脳と、今すぐオリンピック記録を塗り替えられる運動能力は、
面倒臭いので隠している。
どこから見ても目立たない男子生徒、それが自分だ。
卒業したら、すぐに忘れられてしまうだろう。

だが内包する魔力は世界有数。
この身には日本や世界を問わず、歴史に名の残る偉人達の血が脈々と流れている。
尤もその事は彼に何の恩恵も与えない。彼にとっては百害あって一利無しである。

「浮氣、それはいくらなんでもかわいそうだ。例え魔法が後3回でも男だ。憧れくらい持たせてやれよ。」

「午後の魔法診断が終われば、嫌でも現実と向き合うんだからね。」

仲丸と松田が現実を見据えた意見を言う。

「二人とも結構ひどいこと言うな。まっ、仕方がないけど。」

和樹は一人ジュースを飲みながら、空を見上げる。

(魔力診断・・・めんどくさいな。あの変人の顔も見たくないよ。)

和樹の右腕については、大火傷で見られたものではない、という事で通している。
「人に見られたくは無い」という事で、養護教諭の紅尉だけに見せて、納得させた。
イビル・アイで大火傷に見えるように暗示をかけたのだ。

この世界の紅尉は只の変人なので問題は無かった。
ただし、魔力の強さは誤魔化さなかったので、興味をそそってしまったようだが。

「魔力診断、楽しみだな〜。」

「自らに秘められた力を知る貴重な機会だもんね。」

「そうだな。」

和樹以外は実に楽しそうだ。
このクラスは学園内でも魔力が高く、魔法回数が多い生徒が多い。
そのため自分に絶対の自信を持っているのだ。愚かである。

(ま、仕方ないか・・・)

和樹は溜息をついて立ち上がり、教室を出て行く。

「どこ行くんだ?」

「屋上。」

仲丸の言葉に和樹は完結に答える。

「さぼるのか、受けといたほうがいいと思うぞ。」

「なんかの弾みで魔法使ってるかもしれないし。なんたってあと3回しかないんだしな。」

「3回使ったら塵になっておしまいなんでしょ。」

「その若さで死にたくないだろ。」

「判ってるよ。気分転換に昼寝するだけさ。時間には戻るよ。」

等と友人らしい言葉をくれるが、和樹にとっては大きなお世話だ。
馬鹿にしているようにしか聞こえないし。

尤も、大して気にも留めない。彼らなど和樹にとっては路傍の石と変わらないのだから。
それに彼らは悪人と言うより、只の馬鹿共である。
自分に害を与えなければ、まだ放っておいていい。

だが、平和な日常はもうじき終わりを告げる。退屈な時間はお仕舞いだ。
この後自分の部屋で起こる騒動を神ならぬ彼はまだ気づいていなかった。


同時刻

薄暗い、理科室のような教室の中で一人の美少女が、耳に手を当て誰かと話をしている。
だがそれは携帯電話ではない。『念話』と呼ばれる特殊な会話方法である。
しかもその少女の手には日本刀が握られている。

「そんな・・・・・・。」

『すべては神城家の為だ。必ず使命を果たせ。』

「なぜ、私が・・・。」

『反論は許さん。急がねばならんからこそ、盗聴を覚悟で『念話』で伝えておるのだ。いいな、凛。』

その言葉を聞き、凛と呼ばれた女性は、ぎゅっと刀を握り締める。
そこで念話は終了した。

「・・・・・・」

その後、凛は刀を抜き出し自分の目の前に構える。

「式森、和樹・・・。」

凛は忌々しそうな声で、その名を呟くのだった。


同じ頃、葵学園のある一室でも・・・

「玖里子様、お電話です。」

メイドのような女性が、いまどき珍しい旧式の電話機を持ってきていた。
そしてその前に立つのはこの学園の影の支配者、風椿玖里子である。

「あら、いまどき電話なんて珍しいじゃないの。」

『はい、これは魔法を使う会話や電波を使う携帯より、セキュリティが確かなので。』

このような手段を使うということは、盗聴される可能性を危惧していることだ。
つまりそれほどこの会話は重要であるということを指している。

「へ〜、何かあったの?」

興味深げに玖里子は電話の相手に向かい話をする。

『はい、実は・・・。』

玖里子は電話の相手の話を真剣に聞く。

「ふうん・・・・・・神城がねえ?」

その言葉を聞いたあと、彼女は学校の二年生の生徒がのる名簿を見る。
開かれたページには一人の男子生徒の写真とそのプロフィールが乗っていた。

「式森和樹、か・・・」

彼女は興味深そうにその少年の名を呟き、その写真をじっと見るのだった。


 まぶらほ  魔を宿す者

2. やって来た3人娘


和樹が魔力診断を受けている頃、和樹の住まいである彩雲寮では・・・。

「・・・・・・」

「ふ〜んふ〜ん、ふふふ・・・。」

和樹の部屋で、特徴的な髪型のピンク色の髪の美少女が料理と掃除をしていた。
しかも鼻歌交じりに楽しそうに。

そんな中でリリムは、呆然とその光景を眺めている。

彼女は和樹が出かけた後、少しだけ部屋をあけていた。
天気がいいので、近所に散策に行っていたのだ。
それで帰ってきてみると、この少女がいた。

和樹が鍵を閉めた筈だ。リリムは壁抜けできるから、鍵を開ける必要は無い。
だが帰ってきてみると鍵が開いていて、
少女がまるで新婚夫婦の奥さんのように、この部屋に陣取っていたのだ。
これで驚かない方がどうかしている。

「何なの、こいつ。私と和樹の部屋に勝手に上がりこんで。・・・和樹に伝えとかなくちゃ。」

朝とは打って変わって、冷たい表情となっている。そこに朝の愛らしさは欠片も無い。
その瞳を覗き込んだら魂までも凍らされそうな程に・・・。

だが、これが普通なのだ。リリムは和樹以外に笑顔を見せる事は無い。
そう、初めて喚ばれた時からずっと・・・。

(和樹ー、聞こえるー?)

(何?)

(今、何処?)

(学校。帰りの支度をしてるとこ。後15分程で帰るよ。)

(今、私達の部屋に変な女が居るのー。)

(・・・リリム、大丈夫?怪我とかしてない?)

(平気ー。)

(良かった、すぐ戻るよ。ドアの前で待っていて。)


それから10分後、自分の部屋の前に和樹は立っていた。
陸上部が自棄酒に溺れそうな速さで走ってきたのに、息一つ乱れていない。
傍には、リリムが寄り添うように飛んでいる。

「僕の部屋に女、それも同年代の女となると、多分血筋がばれたかな。」

「どうするのー?」

「話し合いで済むなら、さっさと帰ってもらう。出なければ追い返す。それで駄目なら・・・。」

――― 消えてもらえばいい、そうだろ?

「そうならない事を願うよ。・・・じゃ、開けるよ?」

ゆっくりとドアを開け、キョロキョロと中を見回す。そこには少女が・・・・・・いた。
その少女は和樹に気づいたのか、正座をし、三つ指を床につけ深々と頭を下げてくる。

「お帰りなさい、和樹さん」

「・・・た、ただいま」

ついうっかり返事をしてしまった。

「お疲れでしょう。お風呂にしますか、それともお食事?そ、それとも・・・・・・きゃっ」

彼女は頬を朱に染めて、悶えている。それを無視して部屋の中を見回す。
部屋は掃除され、食事の用意までされている。まるで新婚夫婦の住まいのようである。

「あの、和樹さん?」

「・・・ああ、ごめん。少し考え事をしていた。って、僕のこと知ってるの?」

「はい。それはもう、ずっと前から。」

「・・・・・・君は誰?何で僕の部屋にいるの?」

「私、宮間夕菜と申します。葵学園に転校してきました。
 今日から和樹さんの妻として、し、寝食を共にさせてもらいます。」

少女、宮間夕菜は少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら言う。

「つ、妻!?って、僕、結婚なんかしてないのに!?」

「確かに私と和樹さんは結婚できる年齢ではありません。
 でも、気持ちだけは夫婦の方が良いじゃないですか!」

「・・・・・・君、宮間って言ってたな。宮間って、あの宮間かい?」

宮間家とはかつて江戸時代末期のペリー来航後の開国時に、
いち早く欧米の魔法理論を取り入れた名家である。
一時期はその名を知らぬ者は無しと言うほどのものだったが、
最近ではほかの家々も欧米魔法の理論を取り入れ始めたため、その力は急速に衰え始めている。

その宮間の一族の人間なのだろうか。
しかしその一族の人間が何故、和樹の元へとやってきたのか。

(やはり式森の血・・・世界中の有名な魔術師の血が流れている事が洩れたか?)

そう考えるのが自然だろう。
この少女はおそらく、家の命令で彼を宮間家に取り込むように言われてきたのだ。

(厄介だな。)

今まで隠し通してきた秘密が露呈した。宮間だけでなく、他の家も動く可能性がある。
また面倒事が起きるのだろうか?

(デス・・・狩りを始める。)

――― 判っている。バラした奴を突き止め・・・存在を消す。そう言う事だろう?

(その通り。でも、もう少し情報が欲しいな。多分どこかの探魔士だろうけど。)


「和樹ー、また女が来たよー。・・・あ、今度は合格だねー!」

リリムの言葉に、和樹はドアの方に向かう。すると、

「わっ!」

和樹は入り口にたどり着く前に、何かにぶつかった。
それはとても柔らかい何かで、暖かく、さらに弾力がある。
夢でいつも感じている、心地よい感触だ。

「あ〜ら〜、案外積極的なのね。」

「え、な、何?」

和樹が顔を上げると、金髪の美女が彼の腕を掴んでいた。
そして、先程自分の顔が埋まっているのが、女性の豊満な胸であることを確認する。

(極上・・・って、そうじゃない!)

「じゃあ、早速しましょう。」

「あんた・・・風椿、先輩?」

彼女の事は葵学園の生徒なら誰でも知っている。
葵学園を裏から支配すると言われる現生徒会副会長。風椿玖里子、その人であった。

「あらっ、あたしを知ってるの?じゃあ、話しは早いわ。」

そう言うと、彼女は和樹を押し倒そうとする。
しかし、和樹は軽くかわした。

「い、いきなり何を?」

「もう、すぐ済むから大人しくしててよね。」

そう言うと彼女は再び近づいてくる。
それだけではなく、服を脱がそうとする。

(なんだ、こいつ。電波の次は色キチかよ!?)

和樹は頭が痛くなってきた。

(一応、手加減するか・・・。)

そう思いながら腕を握る。
ちなみに和樹が本気で握れば、まず間違いなく相手の骨ごと握り潰してしまう。

「やめてください!人を呼びますよ!!」

「それは女の子の台詞よ。」

「こんなことされたら男でも叫びます!」

彼にとってはたまったものじゃない。
しかしそんな和樹の言葉も虚しく玖里子は妖艶な笑みを浮かべる。

「いいじゃない。気持ち良いわよ。さっ、この手を放してね。」

「絶対に嫌です!!」

「今は嫌でもすぐによくなるから。」

「いい加減にしてくれ!」

「もう、わがまま。あっ、じゃあ、奥さんになってあげる。それなら良いでしょ?」

「よくない!それにそういう問題じゃねえ!!」

和樹の言い分は最もである。しかも真昼間から、それもほかに人がいる状態で・・・。

(そう言えば?)

和樹はふと思い立ち、先ほどまで自分と話をしていた少女の方を見る。
すると・・・更に危険な光景が目に入ってきた。

「和樹さんの妻は私です!!」

彼女は大量の水を、いや、水の精霊であるウンディーネを召喚していたのだ。
流石は精霊術の宮間・・・強力な魔法だ。
断言するが、決して突っ込みに使っていい物ではない。

「げっ!」

これにはさすがに和樹も焦る。だが玖里子はかなり余裕そうだ。

「もう、少し待ってなさいよ。」

そう言うと彼女は懐から一枚の霊符を取り出す。
それと同時に夕菜はウンディーネを解き放った。

「はっ!」

また玖里子も霊符を投げつける。それは全くの互角だった。
お互いに消滅しつくし、綺麗さっぱり消えてなくなる。

――― 二人とも、なかなかの魔力だな。

それまで傍観していたデスがことも何気に言う。

「うん、二人ともかなりの魔術師だよー。でも、こんな所で魔法を使うなんて非常識ー。」

(全くだ。)

和樹も二人を見ながらそう思った。
彼女達が使った魔法はかなりの高等魔法である。
そんな事に、あっさりと使って良いものではない。

「あの金髪の娘、顔も体も合格ねー。私、欲しいなー。」

――― あの精霊使いの小娘、魂がいい具合に染まっている。美味そうだ。

暢気なようで、物騒な感想だ。

「・・・えいっ。」

いい加減疲れたか、和樹は玖里子を夕菜の方に突き飛ばす。
まあ、大した力も使っていないので2人とも怪我等は無いが。

「「きゃっ!」」

「もう止めてくれません?迷惑なんですよ。」

しかし玖里子はそんなことではへこたれなかった。
と言うか、ますますやる気をだしたようだ。

「やったわね!こうなれば力ずくで!」

「今までも十分力ずくだったじゃないか!!」

「問答無用よ!さあ、覚悟しなさい!!」

「ちょっと待て!!」

再び和樹に襲い掛かろうとする玖里子。あわてて身をかわす。

「別にいいじゃない。一回くらい。」

「絶対にだめです!!許しません。」

と、そこに怒声が響く。
それは言うまでも無く夕菜であった。凄まじい形相で玖里子を睨んでいる。

「いいじゃない。あたしの次にさせてあげるわよ。」

「変なこといわないでください!こういうことは、その・・・もっと純粋なもので・・・、
 心の底から好きな男の人と・・・。」

「別に、愛が無くてもできるわよ。」

しどろもどろに答える夕菜に玖里子はさらりと爆弾発言である。

「そんなの許しません!!」


「そうだ・・・・・・許せん。」

今度もまた部屋の入り口から、違う声が聞こえる。
それはまたしても女の子の声だった。

(なんかまた非常に嫌な予感が・・・。)

この時の和樹の予想は正しかった。
和樹は扉の向こうに一人の女の子を見た。

彼女の乱入が、更なる事態を引き起こす事になる。


 まぶらほ  魔を宿す者

3. 和樹の人間試験


和樹達が扉に目を向けると、巫女さんのような服を着て日本刀を持った一人の女の子が立っていた。
前髪をきれいに切り揃えた日本人形みたいな女の子と表現するのがぴったりだ。
大人しくしていれば、愛らしい少女だろう。しかし何故か和樹に殺気を向けている。

「・・・君は確か一年の神城凛ちゃん?なんでこんな所に?」

「気安く呼ぶな。虫唾が走る。」

和樹に自分の名前を呼ばれたことが気に入らなかったのか、彼女は和樹に刀を向ける。
さらにズカズカと部屋の中に入ってくる。

「不法侵入の上に、酷い言われ様だね。僕が君に何かした?」

「・・・・・・お前の、お前のせいで、私は・・・。」

何か深い事情がありそうだが、和樹自身にはまったく身に覚えが無い。
彼女と話をするのは今日がはじめてだし、彼女に何かをしたと言う記憶も無い。

「・・・・・・お前のことは我が夫と成るゆえに調べさせてもらった。」

「・・・またなの?て言うか、勝手に決めないでよ。妻って一体、何?」

しかしそんな和樹の言葉を無視し、彼女は話を続ける。
しかも刀を握る手が怒りのあまり震えている。

「調べて驚いた。成績と運動はそこそこだが・・・・・・取柄や趣味は皆無。更に覗きまで・・・。」

(・・・そんなこと調べないで欲しいな。て言うか、覗きは僕じゃないよ。)

和樹は苦笑いしながら思う。

本来の和樹の成績は一般の修士課程卒業レベル、運動神経は葵学園どころか世界でもトップクラスだ。
だが普段学校では、それを発揮する事はない。
今の平穏な日常を楽しむには、目立つのは好ましくないのだ。
すでに魔法回数が少ない時点で落ちこぼれとして目立ってはいるが、これ以上目立つのは避けたかった。

(けど、なんで刀を向けられるの?僕、この子に何かしたかな?)

自分が刃を向けられる理由がまったく分からない。
しかも覗きは自分がしたのではないというのに。

「覗きは僕がしたわけじゃ無いんだけど・・・それで刃を向けてるの?」

「違う!私はお前のような男を生涯の伴侶にしなければいけないからだ!!何という屈辱!!」

かなり激しく激昂しながら凛は言う。
しかし和樹にとってはいい迷惑だ。

「いや、そんなの僕初めて聞いたんだけど。それに僕が決めたことじゃないし。
あと言わせて貰えば、僕は君を生涯の伴侶にするつもりも、させる気もないんだけど・・・。」

それは全く理不尽な話だった。

いきなり押しかけてきて自分が全く知らない話をする。
しかもそれが気に食わないからと自分に刀を向ける。
非常識極まりない話だ。実に理不尽だ。

(本当に今日は最悪だな・・・。)

学校から帰ったと思ったら、電波に色キチ、人斬りがやって来て、訳の判らないことを垂れ流す。
いい加減にこの状況が鬱陶しくなって来た。

(あ〜、こいつら全員『不合格』でいいよな!?)

危険な考えをめぐらす和樹にお構い無しに、目の前の少女は刀を構える。

「問答無用!この場で死んでもらうぞ!式森和樹!!」

「何でそうなるんだよ!」

和樹はわめきながら凛の攻撃を回避する。
この程度の斬撃を避けるのは簡単だが、相手にするのが鬱陶しい。

(殺るか?)

「そうはさせません!」

と、そんなことを考えている時、再び夕菜が立ちはだかった。

「やはり宮間家とは貴方の事ですか。そこをどいてください。」

どうも彼女は夕菜と知り合いらしい。

「いやです。和樹さんを傷つけたら許しませんからっ!」

「どかないなら女とて容赦しませんよ。」

「妻の私を倒してからにしてください!」

「いいでしょう。あなたに恨みはありませんが、少し眠ってもらいます。覚悟!」

凛は刀の切っ先を変え、夕菜に狙いを定めた。

(・・・何時から彼女は僕の妻になったんだ?それになぜ僕がこんな目に・・・。)

凛の日本刀の刀身が輝きだした。それは明らかに魔法を使っているということだ。

「剣鎧護法ですね。しかも刀に取り憑かせて使役するなんて・・・」

夕菜が小さく呟く。

護法とは修験者の技であり、鬼の一種を呼び出して使役するものだ。
剣鎧護法は本来病魔退治に使うが、凛はそれを剣術に応用しているのだ。

「神城家八百年の歴史が生み出した技です。」

(その割りにしょぼいな・・・。)

「ならば!」

夕菜が右手を天井に向けた。

「古き神々、世界を司る全ての精霊たちよ、盟約によりて、我が命に従え。水精霊(ウンディーネ)!」

彼女の手の周りに霧のようなものが現れた。
そしてそれはどんどん大きくなりやがて水滴となる。
そしてそれは彼女の腕を中心に水の渦巻きが形成された。

(おいこら!?そんなのぶつけ合ったら僕の部屋が!!)

明らかに彼女達の力は強すぎる。
こんな狭い空間で使用すれば、どうなるかは火を見るよりも明らかだ。

「宮間の精霊術、ご覧にいれます!」

「くっ、この西洋かぶれが!」

凛が勢いよく夕菜に切りかかる。だが夕菜は水を鞭の様に操り刀に絡みつかせる。
それにより刀の勢いが鈍ったが、逆に水も大量にはじけ飛ぶ。

「ほいっ!」

和樹は余裕で回避するが、普通の人間なら命が危ない。

(デス!すぐに部屋全体に防御結界を!!)

――― うむ。

手袋で隠れた和樹の右手が薄く光ったと思うと、部屋全体にそれと同じ光が宿る。
だがそれはかなりの薄さ。よく目を凝らしてみなければ、絶対にわからない。
勿論、3人娘は誰も気付かない。


凛はさらに攻勢をかけるが夕菜は水を盾にしてその攻撃を防ぐ。
また凛のその続けざまの攻撃を夕菜は巧みに水を操り、ことごとく防ぐ。

「やりますね!」

「まだです!」

今度は夕菜が攻撃に移った。両手を頭上にかざし大量の水を作り出す。

(げっ!あんな魔法使ったら!?)

だが和樹がそう思った時にはすでに遅かった。
彼が止める前に彼女はそれを解き放った。
水が流れ、それが2つに分かれたかと思うと、両脇から凛を狙い迫った。

「眠りなさい!」

凛の体を包み込もうとする水流。だが凛はそれをぎりぎりまで引き付け・・・

「破っ!」

ものすごいスピードで剣を振りその水流を同時に引き裂く。
力を失った水は天井に激突すると部屋中に降り注いだ。
一瞬にして部屋がスコールに見舞われ、大量の水が部屋の物を全て洗い流そうとする。

尤も部屋の物は結界で守られており、傷は付かないが、衝撃を受ければ物は倒れるのだ。
一体誰が片付けると思っているのだろう。

「とうっ!」

二人はなおも激しくぶつかり合う。
ここが和樹の部屋だろうとなんだろうとお構い無しに。

そして隙を見つけたのか、いきなり玖里子が和樹を押し倒しにかかる。

「こうなったらこの寮もお終いね。だからしましょう!」

「何でそうなるの!?まったく関係ないでしょうが!!」

「こう言うのって燃えるでしょ?」

「全然燃えません!!やめてください!!」

(意志の疎通もできやしねえ!もう嫌!何もかもがもう嫌!!神よ、そんなに僕が憎いかよ!?)

「あーっ!何してるんですか!!」

夕菜が叫び声をあげる。もみ合う2人に気づいたのだ。

「やめてくださいったら!」

夕菜は水流を2つ作り、一つを凛に、そしてもう一つを玖里子に向けて放つ。

「おおっと!」

玖里子は胸ポケットから紙片を数枚取り出した。
そしてそれを扇状に広げると、ぱっと空中へばら撒いた。
『此水呑水』と書かれた紙片に水流が防がれる。
すべての水を吸収しているのだ。

「霊符!?」

夕菜が驚愕する。玖里子はさらに紙片を取り出すと、夕菜に投げつけてきた。

「剪紙成兵!」

それは玖里子の掛け声で人の形となり、だんだん大きくなっていく。
その紙人形はこれまた紙で出来た剣を持って、夕菜に襲い掛かる。

「させません!」

夕菜は新しい水を発生させそれを再び鞭の様に使い、
紙人形の斬撃を防ぎ逆に締め付け胴体を真っ二つにする。

「和樹さんに手を出さないでください!」

「あーら、男の独り占めはよくないわよ。」

「その男を倒さなければ気がすまん!」

(もういいや。こいつらは駄目だ・・・全員『不合格』。痕跡も残さずに消してやるよ。)

三人は三者三様の考えで争いを繰り返す。
だから気付かなかった。和樹が『人間試験』で合否判定を下した事に。

理不尽は認めない、それはあの時からの誓い。
だが、殲滅の頻度は減少していた。
殺すのは簡単だが、更生の機会を与えてやる事も視野に入れる事にしたのだ。
その判断を称して『人間試験』。
『合格』なら記憶操作して追い返すつもりだったが、生憎判定は全員『不合格』!

すでに和樹の中では殲滅が決定していた。


和樹は制服の上着を脱ぎ、半袖シャツ1枚となった。
かなり鍛えられた上半身が確認できる。そして、右腕に巻きつけた包帯も。

次に両手の手袋を外し、右腕を上へと上げる。
右手の甲に覗くは逆五芒星の紋様、悪魔との契約の証。

「あーあ、これで終わりだねー。」

――― いい声で啼いてくれ、小娘共。耳障りのいい声で、な。

「我が身に宿る者・・・『傲慢』『貪欲』『嫉妬』『飽食』『怠惰』の名の下に、
 我は世界を構築せん。デビルズ・サンクチュアリ!」

巻き付けた包帯が瞬時に千切れ飛ぶ!

露になった右腕には、右手の甲から肩にかけて連なる紅い逆五芒星の紋様。
その数は5つ。

その瞬間、この空間は変容する。
この部屋は誰も気付かないままに、彼の意思に従うセカイへと再構築される。

その結果はすぐに現れた。
まず、夕菜が放った水流が急に制御を離れ、反逆するかのように彼女へ襲い掛かる。

「きゃああああ!!!」

予想もしない攻撃をまともに食らい、衝撃で壁に叩き付けられた。

「みぎゃ!!」

次に玖里子が構えていた紙片が全て燃え尽きて、灰になる。

「アチッ!・・・って、どういう事!」

凛の持つ日本刀が半ばからへし折れ、取り憑かせていた鬼が消え失せる。
反動が衝撃となって、彼女の体を襲う。

「何っ!・・・ぐわっ!!」

異常事態に混乱した彼女達だったが、漸く凄まじい力が解放されているのに気付いた。
思わずそちらに振り向く!

「えっ!!」
「な、何!!」
「あ、あれは!!」

そこには式森和樹が立っていた。だが、今までとは別人のような雰囲気を纏っている。
話に聞いた気弱な様子は欠片も見い出せず、他者を圧倒する威厳が満ち溢れていた。

その眼は彼女達を見ている。だが、その眼には何の感情も浮かんでいない。
ガラスのように無機質な、瞳。

そして、何よりも驚かせたのが、その右腕に浮かぶ5つの紅い紋様。
彼女達も見るのは初めてである。御伽噺か、魔道書にしか見られないモノ。

悪魔に魂を打った証。

「最早慈悲は無い。救いも無い。神に祈っても届かない。お前達には絶望をくれてやる。」

そこにいるのは背徳者。世界の理に反逆する者。


 まぶらほ  魔を宿す者

4. 絶望の宴


「・・・まず、聞いておきたい事がある。」

和樹はイビル・アイの一つ、ジャスティスを発動させ、玖里子に問い掛ける。
この呪縛に捕らえられた者は、偽りを答える事は許されない。

「な、なによ?」

「君達が僕の所に来た理由。式森の遺伝子が目的か?」

日本、世界を問わず、多くの有名魔術師の血を脈々と伝える家系。
今は魔力が大きく魔法使用回数が少ない状態だが、
和樹から生まれてくる子供は大魔術師となる可能性が有る。
力を求める者からすれば、喉から手が出るほどに式森の遺伝子が欲しいのだろう。

「そっ、その通りよ。ある探魔士が葵学園のサーバに侵入してね、魔力データを地下世界にばら撒いたのよ。
 そこにあんたの情報も混ざってて、少し調べてみたら判明したって訳。
 あんたの血には世界中の有名な魔術師の血がギュッと詰まってるってのがね。
 式森の家系って有名な魔術師はいないでしょ?その分、全部あんたに濃縮されてるって訳。
 生涯魔法回数8回のあんたが名門である葵学園に入学できたのは、その潜在能力のおかげだって事よ。
 あたしの家って成り上がりだから睨みを利かせる何かが欲しいって事になって。
 それであんたの遺伝子でも、ちょこっと・・・。」

「ちょこっとって、常識的に可笑しいと思わないんかね。」

その言葉に和樹は思いっきり呆れる。

愛してもいない人間との間にできた子供など、その子に失礼だ。
命を冒涜しているとしか思えない。

「で、お前は?」

次は未だに刀を握り締める凛に問い掛ける。
その身を震わせながらも、逆らう事はできずに答える。

「本家の親族会議で新しい血を入れる事になったらしい。・・・私の婿に連れて来いと言われた。」

「連れて来いって・・・僕の意思は関係ないのか。」

憮然として答える凛の言葉に和樹は苦笑いする。

結婚と言うものは両者の意思があってはじめて成り立つ。
家の為の戦略結婚等、この時代にはナンセンスだ。
更にこっちには何の連絡も寄越さず、いきなり婿になれとは・・・正直頭がおかしいのではないか。

(さて、あとの一人はどうかな?)

和樹は最後の一人である夕菜の方を見る。

「確か宮間家も今じゃ落ち目だったね?それで僕の血が必要になったのか?」

「違います!!確かにお母様達はそう考えてましたが、
 私は子供の頃にあなたと交わした約束を守る為に来たんです!」

「約束した覚えなんて無いけど?」

「雪を降らせてくれたら、お嫁さんになってあげるって約束したじゃないですか!!」

「・・・・・・は?」

思わず、目が点になる和樹。ここまで予想外の返答は想像していなかった。

というか、誰がそんな事を言ったんだ?

だが、用は済んだので、とりあえず全員の呪縛を解いてやる。

「・・・・・・そんな事はどうでもいい!貴様!悪魔に魂を売ったのだな!!」

「見ての通りだ。これで結婚云々は無理だと判ったろ?」

呪縛から開放された瞬間に発せられた凛の糾弾に、涼しい声で答える和樹。

悪魔と契約したのがばれれば、問答無用で死刑、というか即時抹殺決定である。
そんな人間と結婚できるわけは無い。

「・・・き、聞いてないわよ!!!」

「そりゃ、言うわけないだろ。」

漸く事態を把握したのか、震えながら玖里子が叫ぶが、和樹は軽く流す。

だが彼女達はまだ気付かない。何故、和樹が自分から秘密を明かしたのか?

「裏切ったんですね!騙したんですね、和樹さん!!!」

そう叫びながら、夕菜が火球を撃ち放つ。実に彼女らしい反応だ。
しかし、当たれば間違いなく蒸発する熱量を秘めた火球は、和樹の眼前で消失した。

「「「なっ!!!!」」」

「この空間は僕が構築した世界。即ち僕がルールを設定できる。ここで魔法は意味を成さない。
 そして、逃げる事もできない。」

その言葉を聞いて、慌てて魔法を唱える玖里子と凛だが、その行動は無駄に終わった。

「そんな・・・。」

「ばかな・・・。」

項垂れる2人。夕菜は未だ呆然としている。
その様子を見ながら、和樹は呪文を唱える。
この電波娘から一番凶悪な魔力を感じる。それに相応しき対応をしなければ。

「来たれ、呪われしモノ。闇より出でて、喰らい尽くすモノよ。シャドウ・イーター!」

瞬間、和樹の足元から伸びる影が、彼を中心とした漆黒の大きな円へと形を変える。
そして、影から抜け出すように、何か大きくて長いモノが姿を現す。
それは大蛇。成人男性すら一飲みにしそうな、影よりもなお黒い漆黒の大蛇であった。

その無機質な紅い眼が夕菜を見据える。
そのまま鎌首を持ち上げて、夕菜の方へと体を伸ばす。
そして、呆然とする夕菜の目の前で口を開くと・・・そのまま頭から喰らいついた。

大蛇の口から覗く彼女の足は激しくばたついて抵抗していたが、
大蛇はその生きの良さを楽しむように一気に飲み込んだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!!」

声は聞こえなかった。セカイは沈黙したままだった。
だが、確かに聞こえたのだ。大蛇に飲み込まれた夕菜の、人間とは思えぬ絶叫が。
あるいは空気を震わせて届いたのではなく、魂に響き渡ったのかもしれないが。

夕菜を飲み込んだ大蛇の喉は、卵を飲み込んだように膨れていた。
だが、その膨らみが下に移動するに連れて、小さくなっていき、やがて元の太さに戻ってしまった。

大蛇はそのまま影の中に沈んでいった。そして、影も元通りの姿に戻る。
夕菜という少女が居た痕跡は、もう何処にも見出す事ができなかった。

「・・・・・・あの時の女の子か。僕の忠告は通じなかったんだね・・・。」

――― お前の魔力ほどではないが、極上の魔力だ。
――― しかも混じっていたな。力が漲るようだぞ。

「うわー、凄い魔力・・・。これだけ回復したなら、『器』さえあれば本来の姿に戻れるわ!」


「な、何て事を!!!」

どのくらいの時間が過ぎたのか。
正気に返った凛が、溜息をつく和樹を怒鳴りつける。

「ゆ、夕菜ちゃんを何処にやったのよ!!!」

怒りか恐怖か判らないが、震える体を押さえて、玖里子が叫ぶ。

「見たままですよ。魂ごと喰らい尽くしました。消滅した、と言えば解ります?」

何事も無かったように和樹が言葉を返す。

「貴様!!人を殺しておいて、何とも思わないのか!!」

「僕は君達にちゃんと言葉で何度も断ったし、余計な危害は加えていなかった。
 それをいい事に、攻撃魔法をぶつけるは切りかかるは、随分理不尽な行動をとってくれたね。
 君達の方が加害者じゃないか。それなのに突然被害者ぶるのかい?」

「悪魔に魂を売った分際で何を言うか!!」

「確かに認められない行為だよ。だけど、この世界の理は魔法が使えない者を守ってくれなかった。
 理不尽を押し付けてきた。無理を押し付ける者達に対し、コッチも無理を使った。
 それだけだよ。それに・・・君も同類じゃないか?」

「何!!」

「家から理不尽を押し付けられたからって、関係ない僕に理不尽を押し付けた。
 殺そうとした。何処も変わらない。」

「う・・・。」

「・・・次は君の番だ。」

和樹は凛に向かって、その禍々しい右腕を振るう。

凛は折れた刀を握り締め、切り掛かろうとしたが・・・そのまま倒れ伏した。
急いで立ち上がろうとするが、体が全く言う事をきかない。

(なぜ動けない!?)

「・・・・・・凛、あなた・・・・・・手足が落ちてる・・・・・・。」

呆然とした玖里子の言葉に何とか後ろを振り向くと、
2本の腕と脚がマネキンのように転がっており、赤い液体を垂れ流していた。

痛みは感じないが、例えようもない無力感と絶望に苛まれる。
自分はこんなに弱かったのか?

「手も足も出ないと言うか、無いんだけどね。本来だったら、君と僕の立場は丁度逆だったのにね。」

凛が床から顔を上に向けると、両手に大鎌を握り締めた和樹が、すぐ傍に立っていた。

「さよなら」

背中に衝撃を感じた。熱いと思った瞬間、凛の視界がブラックアウトして・・・。

・・・気がつくと、凛は宙に浮かんでいた。

(いつの間に私は魔法を使用したのだ?)

疑問に思いつつ周りを見ると、風椿玖里子が何処か虚ろな眼をして、立ちすくんでいた。
そこからちょっと離れた所に、式森和樹が右手に紅く輝きを放つ大きな鎌を持って、ナニカを見つめていた。

思わず愛刀を構えようとして、自分が何も持っていない事に気づいた。
下を見ると、折れた刀が落ちている。それと同時におかしな事に気付いた。

(長い黒髪の女性が背中を真っ赤に染めて倒れている・・・見覚えのある姿だな?
 しかも手足が切り落とされている?)

混乱した頭を整理していると、突然、襟を掴まれた。
いや襟だけではなく、手や足も掴まれている。
あわてて振り向くと、いくつもの黒い手が自分を掴み、何処かに引き摺って行くのが見えた。

その先には、紅い輝きがあった。
自分はその中に吸い込まれようとしているのだ。
脱出しようとするが、力が入らない。
だが、アソコに行ってはいけないと本能が警鐘を鳴らす。

紅い輝きに包まれた瞬間、先程倒れていた女性は自分自身である事、自分が殺された事を漸く思い出した。
そして、文字通り全身を引き千切られる激痛と共に、凛の意識は遠退いていった。


 まぶらほ  魔を宿す者

 5. リリム顕現


玖里子は呆然としていた。

こんな筈ではなかったのに。適当に済まされる、簡単な仕事だった筈なのに。

彼女は、この話を命じてきた姉を今回ほど憎く思った事はなかった。

よく知りもせぬ年下の男子生徒の遺伝子を取って来い、という馬鹿げた命令だった。
勿論拒絶した。人権を無視した意見であるし、第一自分はまだ未経験だった。
こんな事で純潔を奪われたくは無かった。

しかし、数時間に及ぶ口論の果て、彼女は渋々承諾したのだった。
口で姉に勝てるのなら、もっと毎日が楽しいはずだ。

尤も次善策で手を打った。
要はその男子生徒、式森和樹を風椿家に従属させればいいだけの事である。
わざわざ自分が犠牲にならずとも、人工授精という手もあるのだし。
姉に頼んで、誓約書を用意させた。サインすれば、呪いに縛られる強力なものを。

後は適当に誘惑して、サインさせるだけだ。
資料を見る限り、女性と付き合った経験は無い、平凡な男子。
ミスコンでも優勝した自分の美貌には自信がある。
ちょっと迫れば、すぐ堕ちる筈。そう、疑っていなかった。

だが、その目論見は完全に打ち砕かれた。

式森和樹は、自分の美貌に全く関心を持たなかった。
何よりも驚いた事に、悪魔に魂を売った契約者だったのだ。

情報を持ってきた探魔士を八つ裂きにしたいくらいだ。

この時点で自分達の企みは崩壊した。
悪魔契約者を身内に入れれば、その家は滅ぼされる。それは過去の歴史が証明している。
社会は魔女狩りの如く、風椿の傍系ですら駆り立てることになるだろう。

なんとしても、逃げ出さねばならなかった。

しかし、体は恐怖で動かす事ができず、動かせたとしても結界からは逃げられない。
契約者を殺さぬ限り出られないが、自分の霊符は誓約書ごと燃え尽きた。
既に攻撃手段は封じられている。

一緒にいた宮間夕菜は式森和樹の影から出てきた大蛇に飲み込まれた。

神城凛は四肢を一瞬で両断されたかと思うと、
何時の間にか式森和樹の手に握られた大鎌で背中から心臓を一刺し。
そして、見る見るうちにその体は崩れて、ピンク色の灰になってしまった。

和樹の眼がこちらを見つめる。次は自分の番だ。

恐怖と絶望感が再度全身を襲い、壁を背にして座り込んでしまった。
下半身に力が入らない。腰が抜けたのだろう。
同時にスカートと下着が濡れているのに気付いた。
どうやら失禁してしまったらしい。既に今更だが。

その時、小さな影が目に入った。


「後はあいつだけだ。」

――― 美味であった・・・。この傲慢さは実に我好みだ。
――― 先程の小娘は嫉妬に染まっていたが、あれも良かったな。次のはどうだろうか?

「ねえ、和樹。ちょっと待ってくれない?」

「どうしたの、リリム?」

「さっきの小娘達、魔力が大きい上に処女だったから、貴方とリンクした私にも凄い魔力が流れてきたわ。
 『器』さえあれば、顕現出来るの。しかも私好みの贄が丁度そこにいるのよ。」

「・・・了解、まかせるよ。いつまでも夢の中だけ、ってのもね。」

――― 『本体』へは充分な魔力が流れている。
――― それにリリムの顕現は我も望んでいた事であるしな。

和樹に宿る悪魔は本体ではない。彼らは本体の端末である。
この世界は異質すぎて、彼らの本体が顕現するには制約が大きすぎるのだ。
それは、デス達の本体が高位の悪魔である為である。
そこらの雑魚悪魔なら簡単に顕現できるが、『大罪』クラスは難しいのだ。

和樹を媒介に喰らった血肉と魔力は、端末を通して悪魔本体に送られる。
その需要に合わせて、和樹に『力』が供給されるのだ。
また、端末の意識は本体と共有されている。
つまり、和樹は悪魔本体にも気に入られているのだ。その想いも力も全て。

尤も数十万回の大魔術師でも、『大罪』の端末を宿した瞬間に耐え切れず暴走し、
辺りを破壊しつくした後、魂ごと消滅する。

魔法回数が数十回の常人では、雑魚悪魔との契約が精々。それでやっとB組連中レベルなのだ。
それも大抵、契約した悪魔に意識を取り込まれ、破壊の果てに死を迎える。

『大罪』の5体と契約した和樹が存在外なだけである。

「それじゃ、あの娘を私の『器』にするわね。」


玖里子の目の前に、美しい妖精の少女が居た。もう、驚く気にもならないが。

「先程の2人は魂ごと消滅したけど、貴方もそうなりたい?」

あわてて首を振る。死にたくない。その為なら何でもしよう。

「じゃあ、ココから出してあげる。貴方の体には傷一つ無くね。魂にも傷をつけないで解放してあげるわ。」

「・・・どうして?」

「貴方を気に入ったから。和樹を説得したの。和樹も貴方を傷つけないと約束してくれたわ。」

「本当に?信じていいの?」

「誓ってもいいわ。『私達は貴方の体にも魂にも傷つけずに、ココから開放してあげる。』
 私達は誓いは守るわ。」

その言葉が玖里子の耳に入ると、徐々に意識が戻ってきた。
安堵感に思わず涙が零れる。
余程怖かったのか、普段の彼女とは思えないほどにリラックスしていた。

故に忘れていた。悪魔との約束は知恵比べである、という事実を。
リリムの言葉の裏を読まなかったのだ。

リリムは玖里子の胸元に移動すると、そのまま胸に飛び込み、溶け込んでいった・・・。

玖里子の脳裏に今まで出会った人達や懐かしい思い出が次々と浮かび、消えていく。
家族も友人の姿も浮かんでは消えていく。頭の中が段々真っ白になっていく。
だが、それと共に今までの悩み事や不満も消えていった為、特に抵抗しようとはしなかった。

段々眠くなってきた。玖里子はその心地良さに意識をまかせてしまった。
思い出、即ち彼女を構成していた記憶が消えていく・・・。

最後にふと頭をよぎったのは、素朴な疑問。自分の名前は何と言ったか、であった・・・。


「上手くいったね。」

和樹の前には翡翠の色の髪にサファイアの瞳をもつ、二十歳ぐらいの美女が立っていた。
その姿はサイズこそ違うが、リリムそのものである。
だが、かつての愛らしさに変わって、妖艶さが滲み出ていた。
街中を歩けば、独り身の男が蹲りそうな色香を発している。

「ええ。これで何の問題も無く、貴方と共に居られるわ。いつか貴方と共に還る時まで・・・。
 ・・・私は偉大なる母、リリスより生まれし淫魔、リリム。
 我が真名******に誓いて、身も心も和樹に、貴方に捧げます。」

「嬉しいよ。『傲慢』『貪欲』『嫉妬』『飽食』『怠惰』の名にかけて。
 決して離さないよ、******。」

和樹とリリムは熱い抱擁を交わす。

ある程度高位の悪魔が、この世界に肉体を得るのは困難である。
存在を固定する為に、膨大な魔力と受け入れる『器』が必要なのだ。
リリムは仮初たる妖精の姿で召還され、和樹の魂とリンクする事で、
この世界に存在する為の魔力を貰っていた。
その為、和樹に迷惑はかけないが、益にもならない半端な存在であったのだ。

しかし夕菜と凛という存在を喰らう事でリリムも充分な存在力を確保できたので、後は『器』の問題だった。
元の自分に近く、充分な魔力と魔法回数を持つ存在。
夕菜と凛は物足りなかった。匂い立つ色香に欠けていた。

そこで選ばれたのが玖里子である。

ショックで自我が希薄になった玖里子と一体化し、魂から彼女を構成する記憶を全て奪い取った。
無垢となった魂は肉体を離れる。

そして、玖里子の記憶を取り込んだリリムのアストラル体(精神体)を、玖里子の肉体は受け入れた。
完全に同化する為に魔法回数を10万回分取り込む。これにより、受肉は完了した。

玖里子の肉体には傷1つ無い。当たり前だ、傷つけなどせずに変質させたのだから。
玖里子の魂にも傷1つ無い。当たり前だ、無垢となった魂はそのまま転生の輪に加わるのだから。

つまり、リリムは誓いを破ってはいないが、
結果的に玖里子という存在が消え、リリムが完全な姿で顕現した。
全てはリリムの望むままに事は運んだのだ。

「それじゃ、まずは私を貴方の『女』にして頂戴。『この体』では初めてだから・・・優しくしてね?」

「了解。」


 まぶらほ  魔を宿す者

 6. そして、繰り返される日常


ジリリリリリリリリリ……カチッ

ゆっくりと、目覚ましを片手に持った少年、式森和樹はベッドから身を起こした。
因みに服は着ていない。

「もう朝か。お腹空いたな。」

――― それはそうであろう。毎晩毎晩、淫魔を相手にしているのだからな。
――― しかも完勝と来ている。

「デス、おはよう。」 

隣で寝ているリリムを起こさぬ様に滑るような動作でベッドから出ると、シャワーを浴びにいく。
体にリリムの匂いが染み込んだ状態で、外に出るわけにはいかないのだ。

しばらくして体を拭きながら出てきた和樹は、ベットで寝ているリリムを優しく揺り起こす。
彼女も全裸である。

「おはよう、和樹。」

「おはよう、リリム。」

気だるそうに身を起こしたリリムは、そのまま和樹に抱きつく。
目覚めのキスを少々ディープに交わした後、機嫌良く浴室へ消えていく。

それを見送ると、和樹は枕元にあった包帯で露出する右腕を覆っていく。
右の手首から肩の手前まで満遍なく巻きつけ、学校の制服に着替える。

制服の上にエプロンをつけ、部屋に取り付けの小さなキッチンに向かう。
2人分の食事を作っていると、
今朝は藍色のドレスに着替えたリリムがエプロンを付けつつ来たので、交代。
しばらくして出来上がった朝食を2人で仲良く食べ始める。

B組連中が見れば、ぶち切れそうな光景だが、簡易結界により外には判らないようになっているのだ。

食事が終わって、洗い物を済ませる。
鞄の中身を点検し終わると、丁度いい時間だ。
制服の袖が手首まで完全に隠しているのを確認して、薄い黒の手袋を両手に嵌める。

「じゃあ、行くよ。リリム。」

「はーい。」

和樹が声をかけると、リリムはその姿を黒猫へと変えた。
そのまま、和樹の左肩に飛び上がる。
その重みを気にする事無く、和樹は学校へ向かって歩き出す。
また戻ってきた、変わらない日常。その喜びを噛み締めながら。


あの3人娘の来襲から、2週間が過ぎていた。

風椿玖里子と神城凛の失踪に対し、葵学園は蜂の巣を叩いた様な騒ぎとなった。
転校して来る筈だった宮間夕菜の失踪も教師陣は大騒ぎであったが、
面識の無い分、2人ほどは騒がれなかった。
勿論三家とも、名家の力を惜しまず利用して調査を行なったが、失踪した彼女達の痕跡は追えなかった。

当然和樹の所にも三家の代表が質問に来たが、和樹は終始「知らない」と主張した。

「風椿先輩と神城さんは学園でも有名人なので顔は知っていますが、
 彼女達が何の取り柄も無い僕に会いに来るわけは無いじゃないですか。」

「宮間夕菜さん?その名前は初めて聞きました。
 子供の頃出会ったと言っても、そんな昔の事を覚えていませんし。」

「遺伝子?生憎両親は早くに死んでしまいまして。それに僕は生涯魔法回数8回の落ちこぼれですよ?
 それに僕の子供が大魔術師になるなんて、どうして判るんです?誰が保障してくれたのですか?根拠は?」

「いくら名家だからって、そんなゴリ押しを押し付けられれば怒りますよ。
 それが失踪の原因じゃないですか?」

職員室で教師陣の立会いの下で正論を言われては、
体面的に種馬になれ等と強要も出来ず、三家とも引き下がるを得なかった。
また、丁度いい年頃の女性は三家とも既に居なかった。
彼らも駒無しでは動けまい。

式森の情報を流した探魔士は玖里子の記憶を元に調べ上げ、その記憶を完全に破壊した。
これ以上の流出は無い筈だ。

ついでに人に頼んで、「あの探魔士は心を病んでいたので、情報の信憑性が薄い」という偽情報を流した。

探魔士は2度と病院から出られない。所有していたデータも全て破壊した。
とりあえず大丈夫だろう。

そして、3人娘に命令した人間も調査中だ。
大元を断たねば、また繰り返される可能性がある。
風椿麻衣香の名前は既に掴んだ。もう少し事件が落ち着いてから、始末する。
それ以外の名前も直に解るだろう。


授業中にもかかわらず、B組連中が騒動を起こすのを横目で見ながら、和樹は一時の平穏な日常を楽しむ。
3人の美少女が消えてしまった事は、このクラスでは既に話題性が薄れてきた。
この連中は金儲けの話の方が大事だし。

猫に変化したリリムが、和樹の膝の上で転寝をしている。
認識阻害の魔法を使用している為、誰も異常とは思わない。
教師が周囲の騒ぎに渋い顔をしている以外は実に平和だ。

ふと、和樹は右手を見つめる。

この身に宿る力、それを無闇に使う気は無い。
だが、相手が理不尽を押し付けてくれば、存在ごと消滅させる。
そして、理不尽な存在も見逃す気にはならない。
自分のような人間を増やしたくは無いから。

数年前に、デスが言っていた。
僕が18歳になり、肉体が成長のピークを迎えた時に、僕は不老長寿の体となる。
年を取る事無く300年は生きる事になるそうだ。
これは契約の反動。既に僕は『普通』ではないのだ。
卒業したら、また放浪するつもりだ。今の平穏は束の間の夢。

自分のやっている事は、本当は無駄な事かもしれない。只の自己満足かもしれない。
人の欲望に限りが無いのは、1番初めから身に染みて解っているのだから。
でも、あの時の誓いは嘘ではない。いつか零になるのを信じて、抗い続ける。

決して信じていない神様にもそんなことを祈りたくなり、和樹はつい笑ってしまった。

「あはは・・・」

「こら、式森!お前はこいつらとは違うと信じていたのに・・・。
 私の授業中に笑い出すとは何事だ!ん、丁度いい。この問題の答えを言ってみろ!」

「あ、すみません。えっと・・・。」

どうか、この穏やかな日々が長く続きますように・・・。


Fin


こんにちは。タケといいます。初投稿です。
かなり原作に喧嘩を売っています。
話は暗いですが、まぶらほが嫌いなわけではないです。
ただ、電波が来たんです。
次があれば、もう少し万人ウケができる物を書きたいです。
少しでも受け入れられる事を願います。


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