薄暗い闇の中、一人の少年が横たわっている。
ピクリとも動かず、生きているのか死んでいるのかも解らない。
そこへ何処からともなく声が聞こえてきた。
(お目覚めください・・・)
(お目覚めください・・・)
「うっ・・・。」
その声に反応するように、今までまったく動かなかった少年が始めて言葉を発した。
(お目覚めください・・・白銀武)
「うっくっ・・・俺を呼ぶのは誰だ?」
少年、白金武というらしい。その彼が目をさまし回りを見渡す、だが誰も居ない。
「ここは・・・俺はいったい?」
(目覚めましたね・・・白銀武・・・)
目を覚まし立ち上がった武にまたどこからともなく声がかけられる。
「な!何処に居るんだ?!あんたはいったい?!」
(落ち着いてください・・・私はあなたの目の前に・・・)
「え?」
起き上がり周りを見渡しながら叫んだ武に、そう再び声が呼びかかると同時に目の前に誰かが現れる。
それは確かに人間、そう人の形をしていた。
だがそれは男性とも女性ともとれない、なんと言うべきか、まるで複数の人間がまったく同じ場所に同じ位置に立っているような感じを与えてくる。
それに聞こえてくる声もまるで何人もの人が同時にまったく同じタイミングで発しているように聞こえる。
「あんたは?俺はなんでここに居るんだ?俺は死んだはずじゃあ。」
彼、白銀武は死んだ。彼の居た世界で(もっとも其処も彼が渡った世界なのだが)重要な作戦が失敗しその作戦中に大切な仲間を庇いBETAの攻撃をその機体に受けて・・・。
「それが何故?」
じっと目の前の何かを見つめながら問いかける武に・・・声が答えた。
(いいえ。あなたは死んではいません。あの時私が介入しあなたを助けました。)
「介入?あの世界に?どうやって?そもそもあんたはいったい・・・。」
訳が解らないのだろう顔を片手で抑え頭を振りつつぶつぶつと呟く武、
(まずは落ち着いてください。順を追って説明いたしますので。)
「ああ・・・少し待ってくれ。何が何だか・・・。」
(はい。)
5分ほどたったであろうか顔を抑えたまま下を向きぶつぶつと呟き続けていた武が顔を上げた。
「悪かった。一応・・・落ち着いたよ。まだ多少混乱してるけどさ。それで、あなたはいったい?」
その口から出た言葉は先ほどよりも確かにかなり落ち着いているように聞こえる。それに言葉づかいも丁寧になっている。
(ではまず私の紹介から、私は『OVERS System』人が悪しきゆめに苦しめられる人々を、救うために作られたプログラム。人を助ける夢を作るためのプログラム。)
「プログラム?あなたが?それに悪しき夢?夢が人を助ける?」
夢が人をくるしめ人を助けるそんな事が現実にあるのだろうか?
(はい。私を作った方々はこう言っていました。
『ゆめが人をくるしめるのなら
ゆめが人をたすけることもできるはずだ。
ゆえにわれわれはこのプログラムを建造する。
力のかぎり。われわれがわれわれたるために。』
と、ですから私は建造されて以来ある存在を生成し続けてきました。)
「ある・・・存在・・・」
(はい。それは決戦存在。ヒーロー・英雄。人が子供の頃初めて夢見る存在。
どこからともなく現れて、人にとっての脅威を排除し人を救っていく存在。)
彼・彼女(面倒なのでこれより彼等で統一します)の言葉はすぐには理解できない事ばかりだった。その中で最後の彼女の言葉がもっとも彼に白銀武に衝撃を与えた。
「ヒーロー・英雄を作る?!そんな事が可能なのか?!」
(はい。といっても今私が言った言葉とは大分違いますが、私はその決戦存在になりえる者を作る。あるいは選び出す事ができるだけです。
最初からそのような力を持つ者は作れません。そこまで都合よくは出来ていないのです。)
「そうか・・・そうだよな、そんな都合のいい物があるはずが無いよな。」
答えられた質問に落胆する武、だが、
(しかし私の作った。あるいは選んだ存在はかならず最後にはそうなります。)
「え?そうなる?」
(はい。私の選んだ存在は決して諦めません。
そういう存在を選ぶのですから。
誰かに何かに負ければ負けなくなるまで、何処までも強くなり。
たとえ死してもその存在が諦めないのならば、また同一の存在として其処と同じか遡った時間に甦り死ななくなるまで戦う。
ヒーローとはただ強いからヒーローなのではない。諦めないから何処までも強く負けなくなるまで強くなっていくからヒーローなのだ。
これはある世界のある女性の受け売りですが。)
確かにそんな存在がいればまさしくそれはヒーロー、最強の存在だろう。いずれは誰にも何にも負けないまでに成長するという事なのだから。
「確かにその通りかもな・・・英雄は最初から英雄なわけじゃない。そうなりたいと思ってそうなったから英雄なんだもんな。」
彼も納得したようだ。
「ん?でもそのシステムが俺に何の用なんだ?」
いつの間にか話がそれ完全に脱線していたようだ。一通り納得すると一番気になっている事を聞く。
(簡単ですあなたにそうなって欲しいのです。)
「そうって・・・俺が英雄に?なれるのか?!」
(はい。こことは別の平行世界ではそうなったあなたも沢山いますし、そうなれるよう私がサポートもします。)
その言葉を聞き感動しているのか、動きが止まってしまう武、
(あの?「ぜひそうしてくれ!」あ、はい。)
その様子を心配したのだろうか?彼等が声をかけると勢い良くそう武が叫んだ。
「これで彼女達を地球を皆を救える!」
感動に涙をこらえ切れず握り拳を握りしめたまま泣く武、しかし、
(確かにいずれは救えるでしょうが・・・あなたの言う『彼女達』を救うのは不可能だと思います。)
そう無慈悲にも彼等はそう彼に伝える。
「な!?なんでだ!?俺はそうなりえるんだろう?!英雄にヒーローに?!」
(忘れてはいませんか?いずれそうなれるだけで今すぐなれる訳では無い事を今すぐあの世界にあなたを戻しても何も変わらない。
今のあなたにはそんな力は無いのだから。彼女達を救うのは不可能です。)
「そうか・・・。そういえばそうだったな・・・。」
激昂し怒鳴り尋ねる武に淡々と事実をのべる彼等、その事実に絶望に彼は打ちのめされる。
だが・・・続けられた言葉に
(彼女達をすぐに助けるのは不可能でしょう。しかし、いづれ必ず彼女等だけではなく、
あの時までに死んでしまったすべての人を助ける事も可能になるかもしれません。)
希望が、
(私はあなたをあの世界の過去に送ります。そしてある時期、もしくはあなたが死んだ時。)
そう・・・希望が、
(私はあなたに尋ねましょう。『満足か?』と。その時あなたがNOと答えるなら、その時の力を持ったまま、またあなたを過去に送りましょう。)
白金武に見え始めた。
(もっとも・・・戻った過去の彼女達は、あなたにとって同じ容姿・同じ性格・同じ名前の別人、と言うことになるのかもしれませんが。)
「それでもいい。救えるなら。それでも。」
そうきっぱりと言い切った彼の瞳には光が強い意思の光が宿っていた。
(おそらく・・・なんども死や仲間を失う苦しみに合いますよ?そう何度も。)
「かまわない。いつか皆、全員助けて、皆で笑えるように、笑ってすごせるようになるまで耐えてみせる。」
(解りました。あなたを過去に送りましょう。ちょうど、あなたがあの基地に初めて戻ったあの日に。)
「ありがとう・・・。」
そう言葉を交わし、最後に彼が喋り終えた次の瞬間には其処にはもう誰も居なかった。
(行きましたか・・・。がんばってください・・・あなた方のあの地球には悲しい結末が多すぎる・・・。)
そう呟く人影がバラけ・・・数人の人の姿に変わる。
(この介入が良き夢を運ぶよう。)
男性が、
(悪しき夢が退くよう。)
女性が、
(悲しみが少しでもへるように。)
子供が、
(希望が増え、絶望が減るように。)
老人が、
((((私達は願います。))))
全員が祈る。
〜つづく?〜
〜後書き〜
初めまして。
マブラブオルタネイティブ・・・プレーしました。
ストーリー・・・エンディング・・・確かによかった。
でも人が死にすぎです。
戦争なのだからそれで普通なのかも正しいのかもしれませんが、やっぱり納得できません。
そんな思いからこのSSを書きました。
この後の展開も一応考えてはいますが次は何時書けるか解りません^^;
時間の都合で申し訳ありません。
よければ感想などいただけると嬉しいです。
では、また。