@最初に
これは試作品です。続篇希望者が多いようなら続き書こうかと
希望が少ないようなら読みきりになります。ご了承下さい
『WILD JOKER(前編)』
ある日の出来事だった。
本当に唐突な……あのアシュタロス事件から僅か一年足らず。
ようやく平穏な日々が戻ってきたと思われたそんな折……事件は起きた。それはごく普通に……朝のニュースで流れ……一部に激震を引き起こす事になった。問題はそれが世界だけでなく神魔すら含めたトップの場所で起きた事。
『昨日殺人事件が発生しました。被害者は横島忠夫さん(17)、及び美神ひのめさん(2)で……』
「どういうこった!」
美神除霊事務所。そこには常になく大勢の人間が詰め掛けていた。
事務所の主である美神令子、事務所の人間であるおキヌにシロ、タマモ。更に事件の関係者である所の美神美智恵とその部下にして弟子である西条、師匠の唐巣神父とその弟子のハーフバンパイアのピート、その同級生でありたった今声を張り上げた雪之丞とタイガーにエミ、更に六道関係者達(六道親子に鬼道、弓や一文字)や小鳩らなど。さすがに集まった事情が事情であり皆明るい雰囲気とは程遠い状況である。
「そうね……私も事情を知りたいわ」
消沈している様子ではあるが、それでも意地と気合で常を保ちおそらくこの中で一番事情に詳しいであろう母親と西条に美神令子は尋ねた。ちなみにこのメンバーの中で一番呆然としているのはおキヌとシロで、おキヌには弓と一文字が、シロにはタマモがついている。
「……そうね、まず原因とも言える部分から説明していくわね…」
愛娘を失い、何時もの鋭さも影を潜めてはいたが、これは自分が説明するべき事と判断したのか……説明していった。
今回の事件、その原因はアシュタロス戦役にあったのは間違いない。
だが、その原因の一端は美神美智恵にあった。
今回二人が命を落とす原因となったのは……あの横島裏切り事件だったのだ。
「ちょっと待て、ありゃあ横島がスパイをしてたって事で片がついたんじゃねえのか?」
それを聞くなり、雪之丞が言う。確かに、あの事件は実はスパイとして潜り込んでいたのだった、と後に訂正されたはずだった。
「ええ……でも…」
実はこの事件、日本のマスコミの報道姿勢に理由があった。
日本のマスコミは視聴率命、ある事ない事週刊誌なりに載せ、その責任は取らない。売れそうな記事には飛びつくが、それが間違いと分かってもその謝罪記事など滅多に出てくるものではない……それが売れそうな話でもない限り。
そして今回の場合、裏切ったという話はアシュタロス陣営を騙す為にも大規模に協力を求めて行われたが、その後のスパイだった報道に関しては小さな扱いに過ぎなかった。これで横島が活躍したという話でもあれば、大々的に報道されたかもしれないが、生憎ルシオラを結果的に犠牲として生き延びたと感じた横島が英雄扱いされるのを嫌った事もあり、殆ど彼の活躍に関しては表に出てこなかった。当然、記事にならないと判断され、横島に関する記事はちろっと出てきたにすぎない。
そして……。
あの混乱の中、中には記事を見なかった人もいたのだ。或いは見落とした人も。そうした中の一人が今回の事件の犯人だった。
あの事件で我が子を失った母親が……嘗てテレビで見た裏切り者として映っていた少年の姿を見て、そしてその手の中で笑う赤ん坊の姿を見て……その中で何かがきれた。
『何故人類の裏切り者なんて言われてた奴が我が子を抱けて、私の子供は……』
そしてあの事件へと繋がる事になった。
横島も、まさか面識のないごく一般の若い女性からいきなり刺されるとは想像していなかったのだろう。ひのめを抱いていた事も災いし、庇う事を優先した結果、どうしようもなく対処が遅れた。
その女性はそのまま、横島と、そしてひのめを滅多刺しにし……そして暴走したひのめの炎に焼かれた。こうした事情は自縛霊と化した女性の喚く言葉から判明した事である。
「……まさかこんな事になるなんて、ね……私の自業自得よ……」
美智恵の顔に何時もの剛さはなかった。事実、自分の命令で行わせた事が回り巡って我が子の未来を奪う事になったのだから正に誰のせいでもなく、自分のせいである。その事実が彼女を打ちのめしていた。
そして……誰も何も言えなかった。
あの時、誰も反対する者はおらず、そして横島の功績を隠蔽する事に協力したのも事実だったのだ。それが例え彼の希望を叶える為であったとしても……。
結局、この後美神美智恵は全ての職を辞し、姿を消した。夫の元へと戻っていったのである。
そして……美神令子には予想外の事態が降りかかる事になった。ある意味最も影響を受けたのは彼女であったかもしれない。
妹を永遠に失い、母が姿を消し……次に姿を消す事になったのはシロであった。
外見こそ成長したとはいえ、まだ彼女は本来幼いのである。その心に大きな傷を負い、彼女は……夢遊病というか精神の病へと陥った。ふらふらと街を彷徨い、『せんせえはどこでござる?』と事務所でごく普通に尋ねる……『横島は死んだのだ』と事実を告げれば『嘘でござる!先生が死ぬはずがないでござる!』と叫び、耳を塞ぎ、頭を振り……憔悴する彼女を見かね、タマモの提案でシロは人狼の里へと戻される事になった。
続いて姿を消したのはそのタマモ……一枚の手紙のみを残し、姿を消した。
曰く、『横島もシロもいなくなったし、眠るわ』。足取りは殺生石で途絶えていた……横島も喧嘩友達とも言えるシロもいなくなり、事務所は暗い雰囲気が漂う……美智恵が姿を消したオカルトGメンの力は以前に比べ明らかに落ち、そこに自分が入る居場所はない……そう考え、再び眠りについたものだと判断された。
更におキヌも事務所を離れる事となった。
結局、二人だけとなった事務所、そして思い出のたっぷり詰まったそこではふと気まずい空気が流れる事が多かったのだ……少しのいがみ合いも今では止める者は誰もいない。そう……馬鹿をやって停滞した空気をかき混ぜる横島も、無邪気さで周囲を和ませるシロも、クールさで締めるタマモも……誰もいない。
何時しか、おキヌは事務所を出て一人暮らしをするようになっていった。
その後、美神令子は西条輝彦と結婚、GSを引退し、案外家庭的だった彼女は以後主婦と母親として過ごした。
この後、世界は正式に横島忠夫の功績を公表。世界を救った英雄として大々的に祭り上げた。この裏には色々と駆け引きなどもあったようだが、最終的にローマ教会が横島を聖人に列するに至る。
さて……時は遡り、横島は……。
「……さて、ここはどこだ?」
真っ暗な場所で一人途方に暮れていた。