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▽レス始

「和樹と少女と少女達(まぶらほ、その他)」

殻葉面 (2006-02-11 20:44)


 葵学園近郊に建つ屋敷の居間にて。

「式森」
「ん?」

 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン、とそこまで派手な演出はない。式森和樹は地味な仕草で振り向いた。

「何? 凜ちゃん」
「これを……そ、そのう」

 振り返った先に佇むのは一人の少女、神城凜。何やら豪華な色彩の包装紙に覆われた、小さな紙の箱を両手に持って差し出している。。
 普段より若干頬に赤みがさしている少女の様子を訝しく思いつつ、和樹は訊ねる。

「その箱がどうかしたの?」
「つまりだな、今月は二月で、今日は十四日だろう?」
「それが?」
「き、キリスト教由来のとある特別な、あー、何だ、ある種の行事というヤツがあったろう?」
「…………?」
「バレンタインだ!! そんなことも知らないのかっ!!」
「うわっ、何いきなり。……ああ、バレンタイン? そういえばそんなのもあったね」
「それでその、バレンタインなわけだがな、いや、こういうのは礼儀の一環ともいえるわけだがゴニョゴニョ……」
「え、何?」

 モゴモゴと口の中で囁く凜。先程よりもさらに顔が赤くなっているように思えるのは気のせいだろうか。

「ふ、ふふふ、普段世話になっている人間に、感謝の気持ちを込めてチョコを送る日なわけだろう?」
「義理チョコってヤツだよね。うん。でもそれがどうかしたの?」
「いや、百パーセント義理というわけでもないのだが……ゴホン。その、私も定例にあやかって、チョコを作ってみたわけだ」
「お菓子会社の陰謀にはまったわけだね?」
「ひっかかる言い方だが、まあいいだろう。そこでだな、このチョコを……」
「渡すんでしょ、誰かに」
「まあそうなのだが、そこで問題が」
「ひょっとして、渡すのが恥ずかしいとか?」
「ばっ馬鹿を言うな! 義理チョコなんだぞ、義理チョコ! 本命ではあるまいし、恥ずかしいわけがないだろう!!」

 義理チョコ義理チョコとやたらめったら連呼する凜。
 そんな彼女の様子を眺め、和樹は素直に「そうか、義理チョコだもんね」と納得した。それでいいのか青少年。

「あ、そう?」
「あああ、ええいっ! ようするに! お前には普段世話になっているから、この義理チョコをやると言っているんだっ!!」

 もう我慢できぬとばかりに、噛みつかんばかりの勢いでそう叫ぶ凜。言った後、茹でた蛸の足のように顔を真っ赤にする。わあ、人間ってこんなに赤くなることができるんだ、と和樹は驚いた。宮間夕菜などを筆頭として、恋する少女達はいつだって男を驚嘆させるものなのだ。

「くれるの? 僕に?」
「そ、そう、だ」

 顔を俯かせ、小さな途切れ途切れの声で少女が答える。

「手作りのチョコを」
「かっ、勘違いするんじゃないぞ! べべべ、別に手作りであることに深い意味はない! ただ、そう、料理の練習もかねてだなあ!!」

 バッと顔を上げ、アタフタアタフタと腕を振り回した挙げ句、トチ狂ったのか刀を抜こうとする凜に、和樹は静かに告げた。

「ありがとう」

 場を静寂が支配する。

「今ここで食べてもいい?」
「あ、ああ」

 静かになった空間に、丁寧に包装紙を剥がす音が静かに響き、そして消えていく。

(和樹さん……)
(和樹……)

 どうにも邪魔したくてたまらないのだが、何となくぶち壊すことをためらわれる空間が形成されているため、夕菜と、そしてもう一人、風椿玖里子は、各々の手にチョコを包んだ箱を握って、物陰から和樹と凜の様子をうかがっている。

(式森……)

 少女達のそれぞれの思惑を乗せた視線の先で、和樹はパクリとチョコに口をつける。
 咀嚼し、そしてゴクリと飲み込むまでの時間が、異様に長く感じられた。

「「………………」」
「ど、どうだ……? 式森……」

 和樹が凜を、そしてチョコを見て、そして……

「……ぇ……」
「え?」

 手に持ったチョコを、床に叩きつけた。

「こいつはくせえッー!! ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーー!! こんなマズイもんは食ったことがねえほどなァーーっ!!! 鍋の使い方が下手だと? ちがうねっ!!!」

 ちょっと予想しなかったリアクションに色を変え、物陰に隠れていた二人の少女が部屋に足を踏み入れてくる。

「か、和樹さん……?」
「こいつは生まれついての料理下手だッ!! ジョースターさん早えとこ警察に突き出しちまいなぁっ!!」

 呆然とする凜に指を突きつけて叫ぶ和樹に対し、誰だよジョースターさんって、と誰もが疑問を抱いた。
 おそらくは英国スラム街から一躍、石油王としてのし上がったタフで熱いハートを胸に持つ元ゴロツキの御降臨だろう。貧弱っ貧弱ぅっ!!

「和樹…………」
「WWwRYYYYYYYYYYyyYyィィッ!!!」

 それはチョコの成分によるホルモン分泌促成の結果か、どっかの凄まじく真っ黄色なヴァンパイアみたいな咆吼を上げる和樹を眺め、ああ、いっそのことこのまま時が止まってくれればと願う半端な常識人、玖里子であった。


〜あとがき〜

 とある和樹の以下略の続きも書かず、フッと思いついてフッと書きました。自分ではギャグのつもり。
 オチがグダグダですが仕様と思ってください。
 お目汚しな作品ながら、感想、批評等書き込んでいただけたら幸いです。


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