西暦一九九九年四月△月
季節は『春の産声と真夜中の戦を告げる風』
偽りの満月と天に還った無数の魂が儚く輝く空。
静まり返った町。
人口の明かりが灯っているにも係わらず、人の気配が全く感じない町。
いや……一人だけ、たった一人だけが月光の下で駆けていた。
少年は逃げていた。
背後の暗闇の彼方から追いかけてくる物体から。
少年は混乱していた。
友達と遊んで帰る途中、人通りにいた大勢の人間が突然視界から消えたこと。
目の前で空間が斜めに裂け、その隙間からアレが出てきたこと。
「ハァハァ……も、もう駄目……」
足の筋力は限界を超え、全身を駆け巡っていた生命エネルギー(体力)は無情にも尽きてしまい、少年はその場で膝を折った。
元々体力が無く、運動が苦手であった少年は息を荒く吐きながら後ろを振り返った。
「な、なんとか逃げれた……のかな?」
だが、少年の願いは――叶うことが出来なかった。
『目標補足――』
「え……?」
頭上から差す巨大な影と機械仕掛けの合成声。
見上げた先に在るのは、
『リストNo.14『ノビノビタ』、危険人物ト確認。コレヨリ消去(デリート)スル』
縄文時代に出てくる土の芸術品『土偶』の形を象った、殺意しか持たない機械人形。
「あ、ああ……」
眼鏡の内側に隠れている瞳から涙が溢れ出し、少年は生まれて初めて『死』という恐怖を感じた。
そして土偶が腕を振り上げ、少年の頭目掛けて振り下ろされるその瞬間。
『!』
「うわ!」
二人の間に突然生じた光柱。
地面に描かれた複雑な文字で埋め尽くされた魔方陣。
『座標軸及び時空時間――若干のタイムラグを確認――識別コード『D』転送完了。タイムベルト機能停止』
光柱が徐々に消えていく。
そして、
「問おう――君が野比のび太君かい?」
それは静かで、鈴のような声色が、夜の空間に響音した。
少年の視界に映るのは。肩辺りで伸ばしている蒼の髪、細められた真紅の猫目、ボロボロの蒼のコートを纏い、首に鈴を下げている女性。
満月を背に立つその姿は……のび太は『月の女神』に見えた。
「は、はい」
「声紋、輪郭及び体格確認――OK、本人のようだね。じゃあ少し待ってて。すぐアレを片付けるから」
そっと右腕を少年の背中に回して、膨らんでいる胸の谷間にのび太の顔を押し付ける。
――待機モードから戦闘モードに移行。これより戦闘を開始する。
「検出開始(トレースオン)」
それは索的言語(キー)。
四次元空間に保管されている秘密道具を取り出すためのプログラム。
「――Iam the bone of my sword(我が道具は全てを貫く)」
更に続けられた言葉と共に、彼女の左腕が分子レベルまで分解され、『再構成』した。
一つの凶器と化した鉛色の光を放つ鋼鉄の腕を、コンマ0.3秒という世界の中で手首を下に折り畳み収納し――手首があった場所から覗く暗闇の穴を、出来損ないの土器に標準を合わせた。
そして引き金を引くのは、ただ一言――
「心(しん)穿つ真空の渦(空気砲)」
収束された大気から無限に沸く空気の水。
一般人の肉眼では捉えきれない、螺旋状に巻かれた見えない風の刃が、唸り声と雄叫びを上げて一直線に突き進んでいく。
障害物は無く。邪魔するものは無く。
主が狙い定めた獲物に向かって、無言の命令を遂行する為に。
『ギガっ!?』
グールの心の蔵に寸分違い無く突き刺さる風の鏃。
痛覚が無く、思考能力が無い筈の土器は、背筋にかかない筈の忘れていた汗が吹き上がるのを、確かに感じ取っていた。
――生前、生きた身体を持っていた時に感じた『恐怖』という感情を。
二度目の『死』に直面した木偶人形に、ドラえもんは最後の言葉を唇の隙間から紡ぎだした。
「圧縮解放(爆ぜろ)」
無理やり圧縮されていた空気の塊が、自分を閉じ込めていた檻から解き放たれ、いき留まっていた膨大なエネルギーが暴風と化して――土器の身体を、四肢を文字通りに吹き飛ばした。
その場に残ったのは、無という空間だけ。
それを最初から最後まで見ていたのび太は、自分を抱き締めている彼女の顔を恐る恐る見上げた。
「あ、貴女は、一体……」
子犬のように怯えているのび太にドラえもんは戦士の顔を綻ばせ、柔らかな微笑(え)みを魅せた。
「僕は二十二世紀の未来からやって来た猫型ロボット『D-Nomber01』――呼称名『ドラえもん』。
そして――」
左手を背中に、右手を頭に。恐怖で震えているのび太の身体を優しく、そして暖かく、抱きしめ――
「君を護る為に。狂わされた現在(いま)と未来(さき)を変える為に。僕は此処に召喚(や)って来た」
聖母の笑みを浮かばせていた。
〜つづく〜
あとがき♪
こんにちわ、そして初めまして♪
神無月といいますw
今回初めて小説を書いてみました。このお話はドラえもん(擬人化)+Fateネタを入れたものです。
まだまだ未熟な私ですが、皆様が楽しめるような物語を頑張ってつくっていきます!
もしよければ感想を書いて下さったら、かなり嬉しいです^^
では、失礼しますw