大人のようで子供ような人だった、いつの間にか”依存”してしまったのかもしれない。
家族には弱音は吐けず……いい子でいないといけない自分が唯一心を許せる人。
愚痴を言いつつも、やる事もないからと、お店の手伝いもしてくれるようになり。
家の人間も彼を家族の一員と扱うように、みんなはボクが知らないと思ってるけど”女の人”とのそういうのが、えっと
多いのはわかってるけど、ボクとランスちゃんは約束したんだから大丈夫。
だいじょうぶ。
○
「おう、今帰ったぜッ!!」
ガラガラ、戸を開ける……純和風なその建物は、正直テレビや歴史の教科書でしか見たことが無いようなもの。
行きかう人々は純粋な人間のようなものから、まったく見たことの無いような…正直化け物のような人も。
ここがオレの故郷で…家っていきなり言われても、実感なんてさらさら無いわけで。
「帰るのがおせぇぇぇぇ!仕事がたまってるんじゃぁあ、ボケぇえええ!」
猫が…いや、純粋な猫ではなくて、猫のような尻尾と耳を生やした人間が飛び出てきた。
巨大な算盤で皐月の頭をどつくそいつは、暫くそうした後に、訝しそうにオレへと眼を向ける。
椎はおもしろそうに、皐月は気絶、ランスさんは、何処か面白くなさそうに耳をほじってる。
「おい澪、腹が減った……俺様は飯食ってクソして寝る……そこの馬鹿に説明してやれ」
バサッといつの間にか羽織っていたマントをなびかせて、ズンズンと蟹股歩きで店の奥へと。
澪と言われたほうは…皐月のときと違って、嬉しそうに尻尾をふっている…何かさっきのキャラと違うんですけど。
「くそっ、ランスの兄貴にだけ媚びやがって、飼い猫じゃねーの」
「うっさいわッ!テメェ達がいないでどれだけの損失……あん?そこのガキ誰だ?」
指差される、どう答えたものかと……うーん、すると椎がおもしろそうにひとさし指を立てて。
「陸だよ」
○
「よく帰ってきました陸、この家『ひよこや』はゲンロクの都で三代続く万屋……この店のことは全て血縁で扱っております、わたしは番頭の澪……先代の従姉妹です……ああん、テメエら!その眼は喧嘩売ってんのか!?」
「いや、改めて女のわりには凶暴だなーって、関心してただけだぜ」
「僕は何も☆」
皐月と椎の言葉にちっと、舌打ちをしてこちらに向き直る澪……やっぱ猫被ってたんだ……この家の力関係が僅かに分かる瞬間。
何だか、大変な家族だなー、少しだけ気が重くなる……オレ、本当にこいつらと血縁関係があるのかな?
「そして陸の家族、次男の双葉、四男の椎に、五男で陸と同い歳の皐月、従姉妹の木花……そして長女の陸に、今はおられないが、長男で店を仕切る若旦那の『壱也』……そして、先ほどの居候兼用心棒の『ランスさま』……このメンバーにて店を仕切っております」
…双葉、兎の耳が生えた褐色肌の男の子…こ、これで次男?そして軽薄そうな言葉と裏腹に賢そうな空気を持つ椎…銀髪眼帯で見た目ふりょーな皐月。
さらにウサ耳の小さな活発そうな女の子の木花に……この無茶苦茶な家族を仕切るまだ見ぬ壱也さん…そしてさっきの凶悪そうなランスさん。
ちなみに婚約者云々は怖くて聞けなかったり☆
「あ、ちなみに先ほどの障子は一部のウサ耳族のみが使える転移魔法です、ここ数十年で異界…日本への行き来も出来るようになり」
いつでも日本へと帰れるとわかった瞬間に肩の力が抜ける…帰れるのかぁ、一安心。
キョロキョロと陳列された向こうの世界では見たことも無いような商品に興味をひかれて店内を歩いてみる…コンビ二より少し大きい感じかな?
「澪、そういえば……ランスさんって、家族じゃないんだよな?……どうしてこの店にいるんだ?」
「それを陸が言いますか……ふんっ、私が何年も思っても届かないというのに、どうなんだその疑問」
急に不機嫌になる澪、何だろう……こいつ、他のみんなには高圧的なのにランスさんに関してだけは急に態度を変える。
むーっ、そうゆうの何か嫌いだな。
「なあなあ、外出歩きたいんだけど……オレが昔、どんな場所で暮らしてたか興味あるし」
「だったら、俺様が”特別”に”仕方なく””暇だったから案内してやる、ついて来い」
急に出現した彼に、腕を掴まれて、皆が何かを言う前に連れ出されてしまった……つかさ、何処で聞いてたわけ?
○
「いや〜〜〜ん、ランスちゃん、最近店に来てくれないじゃなぁい」
「がははははははは、また今度なっ、大体だな、俺様が遊びに行ってやってるのに金を取るとは何事だ!むしろ本来ならばお前達が金を出すべきで…」
さっきまでは見せたことの無いような、馬鹿な笑いをしながら道行く女性に何度も話しかけられるランスさん……何だか気に食わない。
オレを案内してくれるって行ったのに、無視してドカドカと道を歩いてゆくだけ、たまに『あれは城だ』…どんな説明だよ。
初めて感じるイライラした気持ちと、もやもやした何か…何なんだよこの人ッ!
「なあ、なあってば!なんでオレのことを無視するわけ?…おいってば!」
肩を掴む、不機嫌そうな金色の瞳がオレの眼に絡む、本気で……怒ってる?
「ふんっ、はなせ、お前は俺様のことを忘れたんだろう?……何て馬鹿な奴だ」
「なっ、何だよソレッ!オレだって好きで記憶を無くしたわけじゃないし!そもそも昔のオレと一緒にしないでくれる?あんたの事を婚約者だったなんて」
その言葉に、眉をひそめて、金色が揺れる、言ったら駄目な言葉だとわかってるのに、思考がとまらない、口が開く。
「オレは認めないからな!」
その言葉に、大きな声に道行く人々が何人か振り返る、ランスさんの、金色の瞳が揺れる。
揺れる。
「ああ、そうか………がはははははは、俺様は別にそんな事を言われても、まったく気にせん」
少しだけ、顔が引きつったのがわかる、オレ…こんな風に誰かに怒れたんだと感心すると同時に、謝らないと。
謝らないと?……何で?……だってオレ、悪いこと、何にもしてないし……でも、彼を傷つけた。
気分が急に悪くなる、悪くなる……左目が痛い、痛い痛い、急に熱を持ったように、涙が大量に零れ落ちる。
どうしちゃったんだオレ?
「ん?………どうした陸?」
彼の……ランスさんの心配そうな声を聞きながら暗転。
○
「ねえ、ランスちゃん……ボクって、このお店の役にたっているかな?」
「役に立っている?…ふんっ、そんな考えはしたことがないからわからん、むしろ、俺様以外の奴らが俺様のために役に立つべきだ」
布団の横で、何をするわけでもなくこの人はいてくれる、安心……家族の誰よりも、正直心許せる。
下品で、がさつで、凶悪で、とても優しい人……僕だけの太陽……これだけは誰にも譲れない。
「だったら、ボクはランスちゃんの役に立ってる?」
腕に甘える…この人は風のような人だってわかっている……掴んでないとすぐに消えてしまうような人。
あの時、あの場所で、偶然に出会えたのは神様が与えてくれた奇跡なんだと正直に思える。
「ん?……そんな事は知らん、だが…お前がウハウハの美人に育つまでは、近くにいてやっても良いぞ…な、何だ、笑うんじゃないッ!」
「……ありがとう」
過去が過ぎる。