俺、藤倉冬麻が通う高校、特に冬麻のクラスでは、ある噂が話題の中心となっていた。
当然ではあるが噂と言うのは尾ひれがつきものである。
元々の噂は「転校生が来るらしい」というありきたりのものが次第に「すごい美人らしい」となり、果ては「家が大金持ちのお嬢様らしい」まで行き着いた。
当然こうなってくると「俺が恋人候補一番乗りだ!」などと何の根拠の無い宣言から始まり、やれ「抜け駆けは許さん」やら「この隙に俺がお嬢様をゲットだ」などとのたまう通称『もてない男共』によって、クラスは喧々囂々の様相となる。
そんなこんなな奴らだが担任が教室に入ってくれば速攻でその体裁を取り繕って席に着く。
担任の山センがやたら緊張した面持ちで教壇に立った。いつもはしないような咳払いを一発かまして出席をとっていく。
かくいう冬麻、何げに入学から皆勤である。実はここにも真霜の男児にしか宿らない異能が関係していたりする。冬麻自身そのことに気付いていたりするが、それはまた別の話である。
ちなみに冬麻としては皆勤賞を目指しているわけではないのだが、さぼったりして義父や義母、義妹の琴ちゃんに心配かけない為である。
閑話休題、それはともかく山センが出席をとり終えた。となると話はいよいよ転校生の話題である。
「んあー、皆ももう知ってるとは思うがー、えー、今日からうちのクラスの新しい仲間を紹介する」
よほど緊張しているらしい…とはいえ『今日からうちのクラスの新しい仲間を紹介する』っていくら何でも国語教師のする間違え方ではないよなぁ。
まあこれほど教師が緊張することを考えると美少女とかお嬢様とか言う噂も眉唾ではなさそうだ。
「巫城君――」
と山センの言葉を合図に、転校生は姿を表した。
ごくり、と
男女にかかわらずほぼ全ての生徒が息を飲んだ。
美人、これに間違いはない。むしろ、絶世の、などと修飾しても間違いはないだろう。
前の学校の制服と思われる黒を基調とした服に身を包み、それ以上に黒く艶やかなその髪、彼女自身のその白い肌と相まって、一枚の絵画の様だ、と言えば良いだろうか。
だがそれ以上に彼女の纏う雰囲気が違うのだ。それこそ庶民とかお嬢様とかそんな次元では説明できない何かが。
教室が静まり返っている。そんな中彼女が初めて口を開いた。
「巫城都(みしろ みやこ)です。本当に短い間ですが、よろしくお願いします」
静寂を破る彼女の声。そして深々と一礼、その短い動作ですら決まって見える。
が、彼女の言った『本当に短い間』という言葉にどれだけの人が違和感を持つことができたてあろうか。現在、高二の五月、クラス替えの後一月しかたってないのを考えると余りに不自然な言葉である。
そこまで考えたところで冬麻は思考を止め顔を上げた。
そして
目が合った
彼女は微笑んだ
そして、自分の中の最もつらい記憶がフラッシュバックする
彼女の微笑みが、母の最後の笑みに重なった気がして…
いつのまにか彼女は俺の目の前に来ていた
「――貴方、名前は?」 彼女の言葉に俺はなんとか返答した。
「藤倉、藤倉冬真…」
それだけ返すのが精一杯だった。彼女と目が合った時から、彼女の声、仕草、全てが俺の心と記憶の琴線を刺激する。
良い意味でも
悪い意味でも
続けて質問してくる。「姓がかわったことは?」
一番触れて欲しくないところにずばりと来た。
それでなくとも、先程のフラッシュバックの所為で、いろんな意味で暴走しそうだってのに
「別に…あんたに答えなきゃならない事じゃないだろう…」
それが限界だった。これ以上は、本当に暴走しそうだった。とにかく自分の持つ精神力の全てを、自制に向けたため、この後のことは何と無く程度にしか覚えていない。
なんとか覚えていたのは、彼女とは違う女の子が現われて、その子が俺に近づいたと思ったら、首の後ろのあたりにちくりとして…これ以上は覚えてない事からして、ここで意識を失ったのだろう。
そして目を覚ましたとき、そこは俺の部屋でもなく、学校の保健室でもない、俺の全く知らない部屋だった
あとがき
はじめまして、嗄琶綺といいます。
初めての投稿、しかも長編予定、しかも富士見ミステリーの『さよならトロイメライ』というかなりくせが強い原作を選んだこと、正直無謀です。はっきりいってプロローグ書いてた時点で挫けそうになりました。
とはいえ投稿した以上やり遂げたいと思います。皆様、誤字脱字、読みづらい点などありましたら、私が傷つかない程度にズバズバ言ってください。
それでは今回はこれくらいで、今後も皆様宜しくおねがいします。
P.S.果たして原作はどの程度の知名度を持っているのだろうか?