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▽レス始

「ローゼンとGS(ローゼンメイデン+GS)」

とどく (2005-10-09 21:20)


1.


「呪い人形ですか?」

 雇用主である美神から仕事内容を告げられた横島忠夫は、数歩後ずさった。

 何しろ、『人形』とか『お面』とかそれに類するもので、良い記憶はない。関わったら最後、勘弁してくれと言いたくなる結末へまっしぐらだ。それは美神も同様で、横島君一人で大丈夫よね、私たちはこちらの別の除霊を云々(うんぬん)と、逃げている。ならば依頼を受けなければいいのにと思うが、「2千万円なのよ」の一言で、美神的に言えば「依頼をうけざるをえなかった」と言っている。だってお金が大好きなのだから。

 ならば、自分で行けよと思ったりする。要するに手を汚すのは嫌だから「横島君行ってらっしゃい」と言ってるに過ぎない。シロが、「では、拙者が先生についていくでござるよ」と同行を申し出たが、「あんたはこっちの荷物持ち」と美神に襟首を引っ張られて行ってしまった。タマモが一緒に行こうかと自分から申し出ることはないし、ネクロマンサーの笛を使いこなすおキヌを美神が手放すはずもない。

 そんな理由で横島は単身、東京郊外にあるカソリック系列の病院へとやってきた。

 依頼主は、長者番付の常連とも言うべき株式トレーダー。被害者はその娘さん。娘さんは生まれつきの心臓疾患で、5歳まで生きられない、7歳まで生きられない、10歳までと常に死を宣告され続けて来た。それでも、奇跡的にどうにか生きながらえているという状況で、親としては子供の快復を願う心と、病苦に苦しむ娘をもう見ていたくないと言う苦しみに挟まれ疲れている。そのために仕事だ家庭だのを理由に、だんだんと病院に任せきりになってしまった。

 親の気持ちもわからなくはない。だが、それを子供がどう感じるか。

 壊れかけた自分の心臓。

 不意に襲いかかってくる苦痛。いつなくなるとも判らない自分の命。

 ただ永らえる為の対症療法。ベットから白い天井を眺めだけの毎日。

 今日一日生きた。明日はどうか。

 夜、目を閉じたら明日瞼をひらくことが出来るだろうか。

 物心ついてから十数年間。友達もなく、独り個室で人生を費やしていく。

「彼女はそんな状態にあるのです」

 出迎えた看護部総師長の言葉に、横島は「そこの美人看護師さん!」と視界に入った白衣の美女に声をかけることも忘れてしまった。

 目前の初老の域に入りつつある総師長も、年齢相応の美しさをたたえた凛とした女性である。この人と30年前に会いたかった、横島をしてそう思わせたほどだ。特別威儀を正すわけでもなく優しく、淡々と語られたそれは、多くの患者を看取ってきた総師長だからこそ代弁することが許される患者の心境だろう。

 だから呪い人形が取り憑いたとしてもおかしくない。総師長はそう言い切った。そして、家族からの依頼ということであれば致し方ないが、私はこの人形を祓うことがはたして患者にとってよいことかどうかわからない。患者の健康に害がないのなら、このまま見守りたいと思っていたと語った。

 意外に思われるかも知れないが医療関係者の多くは、科学とか医学を万能と思ってないし、心霊とか超常現象の類にも一定の理解がある。

『人体』というのは、物理や化学といった科学現象の集合体であるが、『生命』は科学では説明できないのだ。医者がさじを投げたような患者が奇跡的に回復し、大丈夫だろうと思った矢先に患者の命が突然絶えてしまう。死神が来て、今期のノルマを果たそうとしてやたらめったら鎌を振るったとしか思えないほどに、同じ時期に多くの患者が臨終を迎える、…という現象を日常的に見ていると、体験的に神秘的な何かがあることを悟っていくのだ。

 その人形は、自分で勝手に喋ったり、動き回ったり、あまつさえ黒い羽を持って飛んだりすると総師長は語る。そしてその人形が憑いてから、彼女は明らかに変わった。それが良いことかどうかはわからないが、とどまってるだけの彼女の人生が変化しはじめたと師長は表現した。

「よいことかどうかはわからないが…」

 師長が繰り返した言葉が妙に印象に残る。

 だが、横島にはなんとなく理解できた。

 魔族の娘三人に捕らわれ捕虜となった。そのことだけ考えればあきらかに良くないことだ。だが、一連の出来事を今ここから振り返ってみると、あの時パピリオにペット扱いで捕らわれたことが、悪いことだったとどうしても思えないのだ。迎えた結末の悲しさにあの時ああしていればこうしていればと、今でも思う。いまでも揺れ動いているのだ。これから十数年後、やっぱり悪いことだったと思うようになるかも知れない。あるいはいつか迎える臨終のその時に、やっぱしあれで良かったと思うかも知れない。それはその時になるまでわからない。うん、あれで良かったんだと思いつつ逝けたら幸せだろうなと思う。

 だから、横島は言った。

「何となく、わかります」

 師長はホントに?という表情で若い横島を見直した。そして、しばらく見直してから、目尻と頬の皺をほんのりと深くした。そして言う。

「貴方とは、30年早く会いたかったわね」


2.


 横島の報告を聞いて、美神は「ふざけんなっ!」と殴りつけた。こともあろうに除霊してこなかったからである。
 除霊しようとして失敗したのなら、まだわかる。だが除霊しようともしなかったと言うのだから怒った。クライエントにどう説明しろと言うのか。

「ちょっと、美神さん、話を聞いてくださいって」

「美神さん、話を聴きましょうよ」

 何か事情があったのかも知れませんという、おキヌの取りなしもあって美神は所長の椅子に腰を下ろした。そして、ジロリと睨みあげて「で…」と説明を続けるよう促した。

 横島は、少女の病室を訪ねたところから語りはじめた。


 少女の個室は病院の例に漏れず真っ白な壁と、真っ白な天井で、その部屋の真ん中に真っ白な寝具のベットが、たったひとつ置かれていた。それと床頭台。普通ならベットが4つぐらい入りそうな部屋のリノリウムの床には、生命を維持するための大きな機械が、部屋のあちこちに置かれていた痕跡が残っている。

 真っ白な病衣をまとった髪の長い少女がベットに座っていた。

 綺麗な娘だった。

 ずっと陽に当たらない生活をしていたのだろう。真っ白な肌をしている。

 漆髪の長い髪が肌を覆う。この黒が、彼女唯一の色彩と言っていい。

 虚空を漂う虚ろな視線に、これが呪い人形?と一瞬、思ってしまった。

「あなた誰?」

 気がつくと少女の視線が横島を捕らえていた。柿崎めぐ、それが少女の名前だ。

「俺?横島…GSさ」

「GS?」

「ゴーストスイーパー」

「何をする人?」

「妖怪とか、悪霊とか退治する人」

「今、ここには悪霊も妖怪もいないわ。いずれ私がなると思うけど……あっ、もしかして、私とっくの昔に死んでるのに、今でも生きてると思いこんでいるだけの自縛霊?」

「俺と同じで、君はまだ生きてるよ。君みたいな可愛い幽霊だったら、退治しないでずっと側に置くかな」

「そんなこともするの?」

「闇雲に退治したりしない。だから、そういう時もある」

「私の時は退治して。何もかも感じないように後腐れなく綺麗に抹消して欲しいな」

「それが依頼ならば」

「うん。今の内お願いしておくわ」

 横島を、少女から視線を逸らして部屋の内部を隅々まで見渡した。

 だが、呪い人形らしきものは見あたらない。

「何を探しているの?」

「自分で動いて、喋る人形がいると聞いてきたんだけど」

「人形じゃないわ、天使よ」

「天使?」

 少女「そう」と頷いた。そして、水銀燈はいま出かけていると告げた。

「すいぎんとう?」

「あの娘の名前よ。いつも、ふらっとどこかに行って、ふらっと帰ってくるの。いつ帰ってくるかなんてわからないわ」

「待たせて貰って良いかな?」

「いいけど、いつ帰ってくるかは本当にわからないわ」

 少女は言った。

 横島は、パイプ椅子を引き寄せると背もたれを前に向けて、それにもたれるようにして座る。言葉のやりとりを終えてしまうと、話すべき事がない。横島は少女を、少女は横島を見つめて、数刻の時間を黙って過ごした。

 少女は人形にでもなったかのように、黙っている。瞬きもしないで、ただじいっと横島を見つめていた。これはとても居心地がわるい。横島は呼吸を止められ出もしたかのように、苦しくなってきて、つい話のネタを探してしまった。


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