あるときを境に、式森和樹の平穏な日々は終わりを告げた。そう、例の三人の少女達が彼の部屋へやって来たその日に。
「あんた、自分の祖先にイギリス貴族出身の考古学者がいること、知ってる?」
「ひょっとしてジョナサン曾祖父さんのことか?」
動き出す運命、和樹に忍び寄る魔の手!
「私は人間をやめるぞ、式森ぃぃぃっ!!」
唸る日本刀、鮮血に反応して輝く石仮面!
「ルン! ルン! ルン!」
「でぇへへへぇ〜」
「血ぃぃ吸ったらいいだろうなぁぁ!!」
吸血ゾンビの巣窟と化す2−B! しかし何故か、素行(周囲への迷惑度)は普段とあんまり変わらなかったり。
「ブァカ者がァアアアア、風椿の科学力はぁ、世界一ィイイイ!!」
陰の薄さを苦にし、自らをサイボ−グ化する令嬢!!
「頂点は、常に一つ!」
フンドシ一丁でぶっちゃける保健医!!
全世界を包み込む災悪の渦の中心で、新たなる力に目醒めた和樹と仲間達は困難をどう切り抜けるか!? 壮大なバトル・ファンタジ−が幕を開ける!!
「やれやれだぜ」
華麗に決める和樹。もはや原作の原型ナッシング。
「いやぁあぁぁぁあぁっ!!!」
とりあえず悪夢を振り払って絶叫し、宮間夕菜は長い昏睡から目覚めた。
とある和樹の恋 第三話
というわけで、「和樹さんの受けでも攻めでもオッケ−なショタ好み癒し系ビジュアルが、目的に向かって真っ直ぐ迷いなく突き進む濃ゆい漢の貌にぃ−−っ!!」とかなんとか取り乱しはしたもののその後落ち着き、ナ−スコ−ルを押した夕菜。
その後の看護婦の計らいで連絡が届き、今はこうして四人の人物が彼女の病室を訪れているというわけである。
「知らない天井です……」
「そういう寒いボケは一人のときにやってちょうだい、夕菜ちゃん」
「確かに」
「まったくです」
「この雌豚が」
三者三様ならぬ四者四様の冷たい反応。でも気持ちはわかる。ちょっとリアクションに困るもんね、そういうの。
「ていうか、最後のは誰ですかっ!?」
雌豚という台詞はさすがに聞き捨てならなかったのだろう、ベッドから上半身を起こし、夕菜が叫ぶ。
それに応えたのはただひたすら刺々しい空気を身に纏った、頭にバンダナを巻いた少女であった。
「私だ。この大莫迦女」
蛇如来斬斬子である。さすがに竹刀は持っていないが、和樹の傍らで、彼を夕菜の視界から遮るようにして立っている。
「? 貴女は……??」
「都合の悪いことは忘れる。つくづく呆れた雌豚だな、お前は」
「言い過ぎだよ斬ちゃん。一応みんな無事だったんだから……」
斬斬子の攻撃的かつ非友好的な物言いをなだめる和樹。
この場に何故舞穂がいないのか、そして何故見ず知らずの少女にここまでボロクソに罵られるのか考えるより、和樹の口から飛び出した「斬ちゃん」という単語に反応する夕菜。
「……和樹さんの、知り合いの方ですか?」
「知り合いっていうか……」
「姉弟だ」
一瞬、場が静まり返った。
姉弟。それはつまり身内ってことで親類ってことで、とりあえずは一番近しい人間ってことで、ここで媚びれば好感度アップってことで、
「あ、義姉上!!」
「お義姉さん!!」
直情タイプの夕菜と凛が、張り合うようにして叫んだ。
「……愛されてるな、和樹」
「?????」
何故夕菜と凛がそんな行動に出るのか理解できず、首を傾げる和樹。この鈍感さん!
そんな彼と二人の少女達を見比べ、面白そうな面白くなさそうな複雑な表情を浮かべて斬斬子は苦笑した。
「悪いな、冗談だ。私はコイツの姉じゃない」
「「なっ!!?」」
「妹のほうだ」
「いや、真顔で嘘を言うのはやめようよ斬ちゃん」
「わかった、本当のことを言おう。実は母親だ」
「いや、だから……」
「姪だ」
〜省略〜
「娘の式森斬斬子だ。なあ和樹。いやさ、父上」
「斬ちゃん、いい加減に……」
「嘘よっ! 和樹、そんなの嘘よねっ!!?」
「私というものがありながら、どこの馬の骨にかどわかされたんですか和樹さん!!」
「式森、貴様ぁ!! やはり貴様は女の敵だっ!!」
信じてるし。しかも玖里子さんまで。
「恋は盲目というヤツだな、和樹?」
「意味不明なこと言わないでよ」
この鈍感さん!!
結局、病室内で散々暴れたものだから、その日のうちに夕菜は退院させられた。損害賠償は宮間家と風椿家、それに神城家それぞれで負担することになったらしい。
病院側は大迷惑である。が、不幸中の幸いとして死人は出なかった。奇跡的に。
病院から追い出された後、五人は場所を変え、近所の公園に足を向けた。
「台風のように凄まじい奴らだな、お前ら三人は」
「アンタが暴れさせたんでしょうが……」
怨みがましい表情で斬斬子を睨む玖里子。まあ、あんな嘘を信じるほうもどうかと思うが。
「結局のところ、貴女と式森はどういう関係なのです?」
今度は嘘抜きでお願いしますよと念を押し、凛が斬斬子と和樹のほうを向いて訊ねた。
「長い話になるぞ?」
「構いません」
「あ、長くなるなら、その前にちょっといいですか?」
「何よ? 夕菜ちゃん」
「私、なんで入院してたんですか?」
………………………………
「呆れたな……本当に忘れているのか?」
「え?」
「あれだけやっといて……」
「え? え?」
「式森も私達も死にかけたというのに……」
「え? え? え?」
「まあいいだろう、教えてやる。私が殴って気絶させたんだ。危険な攻撃魔法を使おうとしていたからな」
「そうなんですか?」
キョトンとする夕菜。全然覚えてないらしい。
「まったく、いい性格したヤツだな……」
苦笑する斬斬子に、和樹が小声で話しかけた。
「斬ちゃん、斬ちゃん」
「ん?」
「斬ちゃんあのとき、たしか夕菜の頭を殴ったんだよね?」
「そうだったな。で?」
「ひょっとして、そのせいで記憶が飛んじゃったとか」
「「……………」」
「どうかしたんですか? 和樹さん」
「いや、何でもないよ? アハハ」
とりあえず笑って誤魔化す和樹だった。
〜後書き〜
しっちゃかめっちゃかになってしまったかも。
とりあえず、次回の話で斬斬子さんと和樹くんの関係が判明する予定です。感想いただけたら感激もの。それでは。
〜返レス〜
紅さん
ありがとうございます。でも、たしかに短いですね。今後長く書くよう、努力します。
記事機能のことですが、修正した後で気づきました。ああ、やっちまったって感じです。
ルージュさん
結局呼び名は「斬ちゃん」で固定しちゃいましたが、これから変わるかもしれません。いい呼び名募集中です。
A・Hさん
偉そうだなんてとんでもない。意見をいただけてとても嬉しいです。というか、自分でも短いと思うし。少しずつですが長く書けるよう努力していくつもりです。
幻覚キャベツさん
正真正銘竹刀一本です。しかも、後の話で明らかになると思いますが、凛のように魔力を付与しているわけではありません。
昔なじみ、具体的にどんな関係なのかは次回わかると思います。多分。
Dさん
シャッフルは見てませんが、たしかに。しかも年齢差がないぶん、光源氏より理想的というか効率的というか。ただし、物理的危険度は上がりますが。
ただ、私の作品内の和樹はどちらかといえば「受け」側ですので、立場が通常とは逆である可能性は大です。