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「終わらない夜を唄おう2(夜が来る!)」

娑羅刺那 (2005-08-10 19:56/2005-08-11 18:17)

「00、こちら02。協力者は目標の殲滅に失敗。損害は無し。送れ」

 男、今は202と呼ばれている男は、黒塗りのミニバンの中で無線機に向かって任務の結果だけを簡潔に報告する。

 詳細は今は必要ない。任務の成否、および協力者の状態だけが今必要とされる情報だ。

「00了」

 数秒のタイムラグの後、簡潔明瞭を絵に書いたようなソプラノが無線機越しに返ってくる。

 これで202の仕事はあらかた終わった。後は協力者の送迎と本部での書類製作のみである。同僚の中には書類の製作こそが面倒な仕事だとして嫌う者もいるが、202はそう苦痛に感じない。元はそっちの畑で食っていたのだから。

 そういえば、ここに配属されてもうどれだけの時間が過ぎただろう。妻や娘には異動、とだけ言ってこの世界に足を踏み入れた。詳しい内容を話すことは、家族でさえ規定違反、などという明らかにまともでない仕事をなぜ自分が行っているのか。たまに202は自問自答をする。そうする事が何度も自分を助けてきたし、なによりいい暇つぶしになる。

――面白いからだろうな

 そう何時ものように決定付ける。この答えはここ数ヶ月変わった事はない。

 毎日決まった時間に起きて、朝食、出社、仕事、退社、帰宅、就寝。たまの休日は家族サービスに精を出す理想的な父親。そうあった自分に不満は無かったはずだ。しかし、いったんこの世界に足を踏み入れてしまってからは、そんな日常が酷く霞がかった物に感じられてしまった。

 死ぬかもしれない。そう感じた事など両手両足の指では足らない。そんな生活を酷く楽しんでいる自分がいることを自覚してしまったのだ。

――変態だな

 と、埒も無い事を考えているといつの間にか、バックミラーに映る後部座席に長身の男の姿があった。ドアーの音も、また身動きする気配すら感じさせずに後ろを取られるという事実に、配属された当初は小便を漏らしてしまうほどに驚愕したものだ。しかし、今は慣れたもの。

 多い時は日に3、4回、少なくとも1回、202はこの幽鬼じみた男と車中を共にしている。驚愕を片眉を上げる事だけに押しとどめ、ステアリングを握りなおすと車を静かに出す。

「どうした?」

 閑静な住宅街が窓を流れていくのを横目に、202は独白じみた唐突さで話しかけた。

 車中の沈黙を202はあまり得意としない。それはこの男に対する当初の苦手意識よりも強い。だから、組み始めた時から決まって202は男に話しかける。

「昔の仲間に会った」

 主語が絶望的に抜け落ちた会話にも男は嫌々ながらも正確に読み取り答えてくれた。これが、202の数少ない誇りであったりする。

 同僚に恐れられ忌避されているこの男が、実は自分よりも2回り近く幼い青年なのだと202は識っていた。もちろん同僚たちも書類上では知っているだろう。それでも、彼の人間とは思えない身体能力、判断力、残虐とも取れる行動に皆彼を人間とは見ようとしない。

 人は異端を恐れる、とは誰の言葉だったろうか。

 202は、しかし、そこに恐怖は感じなかった。むしろ、その歳ならば大学に通い馬鹿騒ぎをしているであろうに、こんな血なまぐさい世界の一線を張っている青年に興味を持った。202は粘り強く、野良猫を手なずけるよりよほど丁寧に、彼と接触を持ち続け今のような関係を築き上げた。

「で?」

 端的に答える彼に、先を促す。

 バックミラーに映る彼は表情は変えないが、それでも嫌々とわかるほどの間を空け口を開く。

「面倒そうだと思った。また付きまとわれるのはごめんだと思った。だから、逃げてきた」

「そうか」

 本心では無いだろう事は容易にわかった。これが歳の功と言うものだろうか、などと苦笑する。

 とにかく、彼がそう言うのならば、これ以上は踏み込めないと言う事だ。

「庁舎の近くにな、美味い蕎麦屋が出来たんだ。寄ってくぞ」

 誘いでは無く、決定事項。どうせ本当に嫌ならば走行中でもこの場から逃げ出せる事をわかっているのだから。

 後部座席から届く聞こえよがしな溜息に、202は口元を歪ませてやる事で答えるとステアリングを切った。


 目を覚ませばいつもとは違う天井、匂い、肌に触れる上掛けの感触。

 涼子は常ならばすぐに覚醒するはずの頭が、酷くぐずって起き出さないのを忌々しく感じながら上体を起こした。

「ここは」

 呆然とした声を上げてしまう。

 何度見回しても自分の部屋ではない。どこかの会議室のような作り。長机がコの字型に置かれ、折りたたみ椅子が長机にそれぞれ3脚置かれている。

 自分と対角線上にある隅に本棚があるが、並んでいる物までは判別できない。

 そこかしこに望遠鏡や、用途不明の道具が散らばっているが現在の自分の状況を説明してくれる物のようには思えない。

 自分がいる位置といえば、部屋の隅に置かれた黒いソファーの上だ。と、視線を自分の位置にまで戻して息を飲む。自分の膝の上に女性が覆いかぶさるように倒れているのだ。

――膝の、上?

 何かが引っかかったが、とりあえず状況を理解することが先と、その女性を観察してみる。

 呼吸は深くゆっくりと、顔色は多少優れない所は見えるが特に異常とは見られない。どうやらただ単に眠っているだけのようだ。ただ、なぜ自分の上で眠っているのかは女性の寝姿からはどうやっても想像できなかった。

 とりあえず起こすのも悪いと思い、そのまま女性を観察してみることにする。

 シャギーの入ったセミロングの茶髪は、だいぶ手入れに余念がないと見え綺麗に纏まっている。

 髪に半ば隠れるようにして見える顔を盗み見れば、華美でない程度、しかし自分の魅力を引き出す事を知っている化粧の仕方だと思った。涼子とて化粧くらいはするが、ここまでの技術はない。

 視線を体に移す。全体を枯れ草色に統一した服装、ロングスカートにシャツといった簡単な物だったが決して年寄り臭さはなく、落ち着いた大人の女性を感じさせた。ふっくらとした体つきの女性らしい体型だ。が、そこにどこか自分と同じ、いやそれ以上の力強さを感じた。只者ではない。顔つきも、寝ている姿もどうみてもただの女子大生じみた物なのだが。

 油断のならない相手かもしれない、と涼子は判断した。

 と、そこまで観察するのを待っていたかのように部屋に唯一ある扉が開いた。

 そこから現れたのは涼子より小さい、たぶん170は無いだろう身長の男だった。少なくとも涼子よりは小さい。

――この男も、何かかじっている

 小柄ながらもバランスよく発達している筋肉、その足運び、この男もまた只者ではないようだ。自分はいったいどんなビックリハウスに迷い込んでしまったのか。眩暈すら感じながら涼子はさらに男を観察する。

 涼子と同じ桜水台の学生服、見た所3年のようだ。短く刈り上げた黒髪、全体的に丸く小さい顔は中性的な雰囲気さえあるのだが、その無駄に鋭すぎる瞳が全てを台無しにしている。

 取りあえず上級生には挨拶を、と口を開こうとしたが、その男が人差し指を口にあてがうのを見て口を閉じる。膝の上の女性を起こすな、という配慮らしい。男とは互いに黙礼でもって挨拶を済ませると、目でどういう事なのかと問う。

「別に小声程度ならかまわないぜ。疲れてるみたいだし、このくらいじゃ多分おきねぇよ」

 疲れている、というのは膝の上の女性の事を言ったのだろう。

 男はどこからともなく毛布を取り出すと、女性の肩にかけてやる。それから長机の方から椅子を持って来ると、涼子の枕元に腰を下ろした。

 軽い自己紹介を済ませ、早々に涼子は現状の説明を求めた。だが、男――百瀬壮一と言うらしい――はそれは今は話せないの一点張りで、どう聞き出そうとしても頑なに口を閉ざすのだった。

 このままでは埒が明かないと、なぜ話せないのかと問えば、自分にはそれを判断する権限がない、と言う。ならば誰ならば話せるのかと、半ば問い詰めるように詰め寄ると黙って涼子の膝の上で寝ている女性を指差した。

「彼女が?」

「俺たちの実質的な部長ってことになってる」

 どうみても女子大生にしか見えない彼女が、今だ学園生であったことに軽い驚きを覚えた。

「ああ、違う違う。いずみさん、って彼女の名前なんだけど、とにかく、いずみさんはもうこの学園を卒業してる。ただ俺たちが彼女以外の部長を認めていないだけだ」

 涼子の勘違いに気づいたのか、フォローを百瀬が入れるが、どうも彼と自分の部長という言葉にズレがあるように感じる。

 まぁ名誉部長みたいなものか、と適当に相槌を打つ。

「部長って、そういえばここは何部なんですか?」

 只者でないであろう男女が2人もいる時点で、ある程度の目星はついていたのだが。

「ああ、いってなかったか? ここは天文部だ。星を見るあれな」

 そんな、ありえないこと答えが返ってきた。

 てっきり柔道部や空手部などの格闘系の部活を想像していただけに、しばし思考が停止する。

「あ、やっぱ驚いたな」

 百瀬はいたずら小僧のようにニタニタと笑う。からかわれたのかと思ったが、そこかしこにある望遠鏡は確かに本格的な物のように見えるし、大体自分を謀った所で得られるメリットが思いつかない。

「それで、なんで天文部の皆さんが私の膝を治療して尚且つそれを隠してるんですか?」

「え、お前、起きてたのか!?」

 馬脚現る。

 涼子自身、自信はなかったのだが、百瀬の反応を見る限りどうやら自分の考えは当たったようだ。

 膝に、痛みはない。重すぎる傷の為による痛覚の遮断とは違う。健常である証拠に毛布の感触、その上から感じる女性の体温までも感じる。

 響香の変貌、食われかけた事、膝の怪我、蒼の男、重傷の響香。それらの事柄がぐるぐると頭を回っていて未だに整理は付いていない。それでも、それらは夢ではなかったのだ。

 響香が心配だった。それでも考えなしに突っ込む事は危険すぎる。この2人が何者なのかもわかっていない。冷静に自分の立場、相手の立場を見つめて状況の整理を試みる。喧嘩の師に教わった事だ。頭が悪いのならば、少しでも冷静になれと常日ごろ説いてくれた。

 百瀬はすぐに自分がはめられた事に気づいたのか、あちゃーと呟き額を叩く。

「もういいよ、モモちゃん。後は私が話すから」

 と、今まで膝の上で寝ていた女性が声を上げながら起き上がる。そして、深々と頭を下げる。

「初めまして。私は火倉いずみ。早乙女涼子さん、突然の話でもうしわけないのだけど、あなたにお願いがあるの」

「狸寝入り、してましたね」

「ごめんさい、私たちにも色々あって。あなたを少し観察させてもらったの」

 顔を上げると、澄んだ瞳で真直ぐ見つめられた。

 その瞳の色は真紅。底無しに澄んで燃え盛る焔が、瞳に宿っていた。

「で、お願いって」

 瞳に飲まれそうなのを誤魔化そうと、話を振る。声の震えを悟られまいか、心配になる。

「私たちと一緒に、戦って欲しいの」

 その一言に、何故かどくりと心臓が脈打った。


――あとがき――

 短い、しかも意味不明・・・我ながら仕事明けのテンションは意味不明でありますはい。

 と、とりあえず天文部の面子に主人公をあわそうと思ったのですが、さっぱりさっぱり話が進まない・・・はぁーさっぱりさっぱり

 取りあえずこんな状態で出すのもはばかられたのですが、できるだけ一日一話投稿などと阿呆な誓いを立ててしまいまして、しかももう仕事の時間だったりで投稿させていただく次第であります。嗚呼、やめて石投げないで!

えふ様>感想ありがとうございます! いやもう、あんなん全部読んで、かつ感想をいただけるとは夢にも思ってなかったので凄く嬉しいです。胃が逆流するくらい。

 嗚呼でも、せっかく期待していただいたのに、こんなどうしようもない物を出してしまってすいません;; 明日はもう少しまともな物を書けるよう頑張りますので見捨てないでぇ!


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