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「終わらない夜を唄おう(夜が来る!)」

娑羅刺那 (2005-08-09 20:18/2005-08-11 18:13)

「子供は誰でも、ひとりをのぞいて大きくなります」

 響香は唐突にそんな事を言った。

 部活の終わった帰り道。夕日に照らされた通学路をわざわざ待っていてくれた響香と一緒に帰るそのひと時が、涼子にはひそかな楽しみであった。

 化学の諸星教諭の悪口がひと段落付いた時に唐突に語りだしたつぶやきに、涼子は目をしばたかせた。

「なんだっけ、それ」

「ピーターパン、もちろん原作の方ね」

 したり顔で答える彼女はなんだか楽しそうだ。涼子はディズニーの映画の方を連想したのだが、それでは無いようだ。

「原作はね、ピーターパンとウェンディって言って、小学生の時の読書感想文で読んだことがあるのよ。生々しいっていうかアレな感じよ。推薦図書とかいって学校においてあったりするけど、あれを子供に読ませるのはどうかなぁって子供ながらに思っちゃった」

「ふぅん。で、そのピーターパンがどうしたの? 急に」

「あのね、涼子は最近噂になってるピーターパンの話って聞いた事無い?」

 唐突に真剣な表情を作ると涼子を見上げてきた。

 涼子の身長はかなり高い。170を軽く越した身長は女子の中では抜きん出ていたので、小柄なほうの響香が彼女と目をあわそうとすると自然見上げる形を取ってしまう。だが、涼子は身長の事をコンプレックスにしているので、普段であればこのような身長を意識させるようなことは響香はしないはずだった。

――つまり、それほど真剣な話か、もしくは追い詰められてる?

 ならばふざけた回答は出来ない。

 涼子はピーターパンから連想される過去の事柄を抜き出した。けれども、どれもこれもディズニーの映画か、もしくは劇でしかない。体を動かす事が好きなタイプであるため読書感想文など当然の如くサボッていて原作も読んでいない。

「ごめん、知らないや。どんなの?」

「えっとね、自分を変えたい人の前にピーターパンって名乗る人が現れて、魔法の粉をくれるの。それを飲むと何でも思いのままに出来る力が手に入るんだよ」

 噂話のはずなのに、その話をする響香の目はけしてそれがただの与太話でないことを物語っていた。本当にその話を信じているのか、それとも信じたいのか。

 響香とは小学校からの長い付き合いだ。彼女がどこか夢見がちで浮世離れした雰囲気を持っている事も知っていた、がこれほど、どこか危うい感じを漂わせた事などなかった。

 涼子は不安にかられた。

「響香、まさかそんな話信じてるの?」

 信じているのだろう。目を見ればわかる。それでも涼子は問いたかった。そして否定して欲しかった。

「信じてるも何も、来たもの。私の部屋に、昨日」

 強く睨む涼子の目に動じることなく、目を逸らさずにはっきりと響香はそう言った。

 涼子は背筋に怖気が走るのを感じた。いや、今ようやく気が付いた。

 どうして気づかなかったのか。響香は、昨日までの響香はこんなはっきり会話をする事などできなかったはずだ。仲の良い自分と話す時でさえ目を四方に走らせ、口を開いてもどもりがちで、声も小さく聞き取るのにいつも自分は身をかがめて耳を傾けなくてはいかなかったはずだ。

「あなた、誰」

 怖気、恐怖に声を震わすのをこらえることが出来なかった。

「なにを言っているの、涼子ちゃん? 私は私だよ。変な涼子ちゃん」

 くすくすと、本当におかしそうに笑う彼女は女の涼子でさえぞくりとする様な艶に溢れていた。

 ただね、と響香は続ける。

「私は、今まで隠れていた本当の私。鈴木響香っていう今までの殻を破った本当の私。それが今の私よ。ビックリするのは仕方ないけど、ちょっと傷ついたぞ、涼子ちゃん」

 頬を膨らませ背伸びをすると、めっと涼子の額を小突いてきた。

 冗談めかしたただのスキンシップ、ただそれだけの筈なのに、それが涼子にはたまらなく恐ろしい事のように感じられた。

「そんなにビクビクしちゃって、おっかしいの。まるで昨日までの私みたいだよ、涼子ちゃん。剣道部の若きエースの名が泣くよ?」

 怯える涼子の心をわかっているのか、涼子の瞳をじっと捕らえたままくすくすと笑い続ける。

 小突いたその手をそのまま涼子の髪の毛へと持っていくと、サラサラと撫でる。

「綺麗な黒髪だよね。真直ぐで、つやつやで。私癖っ毛だったからいつも憧れてたんだ」

 そのまま撫ぜる手を涼子の頬へ持っていく。

「つるつるの肌だよね。ゆで卵みたい。私ってさ、ソバカスだらけでいつも涼子ちゃんみたいなお肌になりたいって思ってたんだ」

 さらに落ちて首と肩を撫ぜてゆく。

「無駄がなくて、引き締まってるよね。涼子ちゃんの体って。女の子らしい女の子ってのは憧れるけど、涼子ちゃんみたいな元気一杯な体ってのもいいよね」

 その手はまるでナメクジに這われているかのようで、鳥肌が立つのを止められない。

「私ね、ずっと涼子ちゃんみたいになりたいって思ってたんだ。私の女の子の理想、それが涼子ちゃんだったんだよ。でもね、私ずっと我慢してた。私には絶対こんな風にかっこよくなれない。私はずっと地をはう芋虫で、涼子ちゃんは空を舞うちょうちょなんだって」

「ず、随分今日はポエマーチックよね」

「そう? そうかも。今日は色々願いがかなう日だからかな。芋虫からちょうちょへ、脱皮の時が来たからかも。もう我慢しなくてもいい。もう怯えなくてもいい。そう思うと、楽しくて楽しくてね」

 そう言って笑った響香の顔は、それだけは昔と変わらず慎ましやかだけれども可憐であった。

 それに、この上ない恐怖を感じてしまった。

 足が震える。手が動かない。動悸が早鐘を打つ。冷や汗が止まらない。

 ついには立っている事も出来なくなり、その場に腰を落としてしまった。

「どうしたの、涼子ちゃん。そんな所に座ると制服、汚れちゃうよ」

 くすくすと、にたにたと、げらげらと舌をクチビルに這わせながら響香がのしかかってくる。

「大丈夫だよ。涼子ちゃんのこと私、大好きだもの。食べちゃってもずうっと私と一緒だよ。心は常に私の隣にいるの。肉体は死んでも心は常に生きているの。私と一緒に永遠を生きるの。素敵でしょ? 怖い事なんて無いんだよ」

 人通りはこの時間でもある筈なのに、いや、部活帰りの生徒で賑わっているといってもいいはずの道なのに、この異様な少女と自分を誰も目に留めようとしない。誰も助けてくれない。ただ脇を通って何もないように進んで行く。

 タスケテ、と悲鳴をあげたかった。けれども恐怖に引きつった口は言葉を紡いではくれず、意味不明のうめき声が漏れるだけだった。

「助けを呼ぼうとしても無駄だよ。ここはね、今私と涼子ちゃんだけの世界なの。そういう風に作ったの」

 ついにはその笑顔を耳元まで広げた響香が、声だけはそのままに余裕たっぷりといった風情で語りかける。

「それじゃ、涼子ちゃん。ばいばい、それとこれからもよろしくね」

 響香が、その口を涼子一人くらい一飲みに出来るほど大きく開いた。

 今から食われるのだろう。蛇にのまれる卵のようにそのまま飲み込まれて、じわじわと消化されて、響香と一つに。それは大好きな親友と一緒になれる事。大好きな人と一生一緒にいられること。それはとても甘く涼子の体を支配して。

「って、はいそうですかって食われてたまるかぁっ!」

 やけくそ気味に怒鳴って自分を鼓舞すると、右手に持った竹刀袋をおもいっきり響香の側頭部に叩きつける。体勢が悪かったのでたいした力は入らなかった。それでも響香はごろごろと道路を転がって離れた。

 見た目は変わっても、その体重は大して変わっていないようだ。

 どうにかこうにか、ぐずる膝にはっぱをかけて立ち上がると、すでに起き上がっている響香を睨みつける。

「私が! おとなしく私を止めてやるわけないでしょ! そこんとこ、もう忘れたの!」

 目の前に立つ自分を狩る者に、心が負けないよう怒鳴り散らす。

「やっぱり、その方が涼子ちゃんらしいや。すんなり食べられるのもよかったんだけど、やっぱりこういう方が涼子ちゃんらしくていいね」

 こっちはこんなにも必死なのに、響香の顔からは余裕の笑みが消えない。当然だ。涼子がどんなに頑張った所で、この目の前の存在はそんなもの赤子の手を捻るより容易く退けてみせるのだろう。そう、本能が言っている。だが、だからってすんなりやられてやる、なんてのは涼子の矜持に反する。だから、立つ。立って剣をとり抵抗する。たとえ無駄な事だとわかっていても、心までは負けないように。

「で、そんな竹刀なんかで私をどうしようって言うのかな、涼子ちゃんは。無駄だよ。さっきは不意をつかれちゃったけど、私にそんなのは効かないんだから」

 すでに、昔の面影も見出せないほどの妖艶な笑みを浮かべる響香。

 彼女までの距離は5メートルも無い。涼子の踏み込みならばすでに射程距離内だ。

「無駄かどうか、試してみなきゃ納得できないんで、ねっ!」

 気合一線、一気に踏み込むと渾身の力を込めた面を放つ。親友の頭蓋を割るかも、という葛藤は無かった。そんな甘い考えでどうにかできる相手で無い事は先刻承知。

 狙いたがわず響香の頭頂部に当たるとおもわれた一撃を、響香は易々と手のひらで受け止める。が、そんな事は予想していた。一歩踏み込むと、竹刀を受け止める為にがら空きになった胴に回し蹴りを放つ。これにはガードが間に合わなかったのかまともに入る。が、それが決定打になるなんて思ってはいない。蹴りの間合いからさらに踏み込む。竹刀を振り上げ右の肘を鎖骨に叩き込む。これも綺麗に決まる。が、骨の折れた感触はない。挫けることなく両腕で響香の頭を抱えると、膝蹴りを腹部に叩き込む。受け止められた。そのまま信じられない力で膝を握ってくる。逃げる間もなかった。やけに鈍い音とともに膝頭の割れる音がした。

「い、ぎゃあああぁあ!」

 外聞も無く涼子は叫んだ。涙で前が見えない。涎で口から下がべとべとになる。

 響香は骨を砕いただけでは飽き足らず、そのまま指を肉にめり込ませてゆく。

「うわっ、涼子ちゃんの中あったかいねぇ。どくっどくって脈打ってるのが分かるよ。て、なんかHな事言ってるみたいだね」

 失敗失敗、なんて世間話をするような口調で言うとその手をようやく離した。

 涼子は耐え切れずその場に顔から倒れこんだ。

 涙に霞む瞳で見上げれば、血と肉のこびり付いた手を、さも美味そうに唇から舌を伸ばして舐めとっている響香がいた。

「美味しい。こんなに涼子ちゃんって美味しかったんだ。どうして今まで食べちゃわなかったんだろうね」

 陶然と、音を立てながら自分の指を舐め取っていく。足元に倒れている涼子に対して警戒するそぶりも見せない。実際、涼子の攻撃はことごとく彼女に対して効いている風には見えなかったから当然とも言えるが。

 効かなかった。自分の喧嘩の技術を全て出し切った一連の動作が無意味だった。が、そんなこと分かっていたはずだ。涼子は歯を食いしばり、痛みに呻くのを堪えた。

 響香を睨みつける。この程度では自分が折れる事などないのだと知らしめるために。その瞳に気付いた響香は、指を舐めるのを中断すると、やれやれといように肩をすくめる。

「涼子ちゃん、そういう所は涼子ちゃんのいい所だと思うけど、そこまで拒否されると私少し寂しいよ?」

「うっさい。お前なんか響香じゃない。響香を返せ!」

 寂しげに揺れる瞳に負けまいと、さらに瞳に力を込めて怒鳴る。

「昨日までの私を言ってるの? でもね、私は私。昨日までの私も、今の私も全て同じなのよ。私はもっとはっきり喋りたかったけど、その勇気がなかった。私は涼子ちゃんと一つになりたいと思っていたけど、それをする力がなかった。それが、ただ単に手に入っただけだよ」

 一層悲しげに言う響香に心を奪われそうになる。でも、そうだとしても、自分を食うなどという事を容認する事ができない。例えそれが親友の頼みであろうとも。

「その顔、やっぱり納得してくれてないんだね。しかたないな。痛くしたくなかったんだけど、無理やりになるからちょっと痛いよ?」

 そう言って響香が涼子の前に屈みこもうとした。と、突然びくりっと体を震わせると今まで見せたことのない、怯えの表情を露に道路の先を見つめる。涼子も何事かという興味に負けてそちらを窺う。

 何も無い。少なくとも涼子の瞳には何も写らない。何時もどおりの一本道の通学路。この先に涼子の家と響香の家へと別れるワイ字路があるはずだが、そこまでは見る事が出来ない。相変わらず自転車や車、帰宅途中の学生たちが見えるが彼らはこちらを見もしない。

「フック船長」

 恐怖の為か、震える声でもって響香た呟いた。

 フック船長とはなんであったか。涼子は記憶を探る。

 たしかピーターパンの中に出てくる悪役の名だ。たしかワニが苦手な間抜けな海賊だった筈。 

 と、何も無かったはずの通学路に滲み出るようにして人魂のようなものが二つ現れた。それは青、というより蒼と表現したほうがいいような、そんなくすんだ色をしていた。

「あいつは蒼と共にやってくる。我らを狩りにやってくる」

「なに?」

 がたがたと震える響香に、自然と話しかけてしまった。

「ピーターパンに教わったのよ。って言ってもフック船長ってのは私が勝手にそう言っているだけなんだけどね」

 視線を決して道路の先からは外さずにそう言って、震えながら響香は今までで初めて構えのような物を取る。

「そいつには決して近づくな。そいつには決して見つかるな。我らを狩り尽くす残虐非道な蒼い悪魔」

 唄うようにそう呟いくと、響香の爪がナイフを思わせるほど鋭く長く伸びた。

「その蒼の炎が見えたとき、我らの魂は永劫の闇に囚われる」

 響香が地を蹴る。爆発音じみた音を上げて二人が歩いてきた方へと駆け出す。つまり、逃げ出した。涼子を相手に余裕の表情を崩さず、捕食者であり続けた彼女が、脱兎の如く逃げ出した。が、数歩も行かずにつんのめると顔からアスファルトに突っ込む。見れば左足から黒い釘のようなものが生えている。

「どこだ」

 涼子の真後ろから幽鬼じみた声が降って来た。

 反射的に後ろを見ると、そこに夏だというのに黒のロングコートを羽織った男が立っていた。身長は涼子よりも随分と高い。2メートルに行くか行かないかというほど。その男は奇妙な棒のような物を持っていた。それを地面につき立て涼子の後ろに悠然と立っている。どうみても不審者然としたその出で立ち。が、そんな事より目を引いたのは男の瞳だった。

 蒼い。その瞳は人にあるまじき蒼い輝きを湛えていた。例えるなら、そう。蒼い炎。

「どこだ」

 男が再度、陰気な声をあげる。

「ひっ」

 響香が悲鳴じみた声を上げて再度逃走を図る。が、男はそれを許さなかった。

 男の手に持った棒が、蛇のようにのたうつと響香の肩を貫き、そのままアスファルトに縫いとめる。そこで気付いた。先ほど響香の足を貫いたのはこの棒だったのだと。どういう原理か知らないが、アスファルトの地面を掘削し、無防備な足元からの攻撃をその棒がなしたのだと涼子は納得した。

 痛みに振るえ、絶叫する響香に男は近づくとまた、どこだ、と繰り返した。

 涼子には何を言っているのかさえ分からないその問いは、しかし響香には通じたようだ。

「知らない、知らないよぉ。私、なんにも知らない。私、力を貰っただけ。他は何にも知らないよぉ。だから、殺さないで。殺さないで。お願い。殺さないで」

 恥も外聞も無く涙と涎、それに鼻水さえ垂れ流して命乞いをする響香を、男は無感動に見つめている。そして一言、そうか、と呟くと肩を貫いている棒を引き抜いた。

 ほっとしたのだろう。響香が表情を和らげたのが見えた。

 そして、障子紙を指で貫いた時と同じような音がした。

「ぎゃ、ひぎゃあああああああっ!」

 響香が叫んでいる。目を一杯に見開いて、手足を振り回して。

 響香の背中から黒い棒が生えている。否、響香に突き刺さっている。あの位置は、たぶん心臓。

「あ、ぎ、あぁ、ぐ、ぶぶぶうぶ」

 次第に叫び声が不明瞭になっていく。気付いたら、手足の末端から溶けて消えていっている。

 体は、自然に動いた。

「ちょっとあんた! なにしてんのよ!」

 叫びながら今まで離さなかった竹刀をおもいっきり男に投げつける。当たる、と思った瞬間、男の持っている棒がそれを叩き落とした。響香を貫いているのとは逆の方、つまり柄であろう部分が、だ。

 男は涼子の声など聞こえていないかのように、響香を貫くのを止めない。

 目頭が熱くなった。涙がまた溢れそうになった。それを下唇を噛むことで無理やり止めると、無事な両腕でもって男に近づく。

「あ、あんた、今すぐ、やめろ!」

 そこで、やっと男が此方の方に視線を向けた。口は動かない。ただ、その蒼がどうして、と問うているように感じた。

「その子は、私の、親友なのよ!」

 砕かれた膝の痛みに切れ切れになっても、言葉は自然にこぼれた。

 殺されそうになった。食われそうになった。膝だって完治は難しいほどに完全にぐちゃぐちゃにされた。それでも、やっぱり彼女は自分の親友だったのだ。それに気付いた。だから止める。彼女の命を消そうとするその行為を止めねばならない。

「私は、もう大丈夫だから。その子にちゃんといい聞かせるから。私を助けてくれたんなら、悪いけど、もういいから、止めてよ!」

 叫ぶ。そういえば今日はずっと叫んでいるな、などと考えながら。

 しかし、彼女の叫びは黙殺された。男は涼子への興味を失ったのか響香へと視線を戻す。棒は抜かれる気配がない。

 響香の体は、もう肩口、腰の辺りまでもが消え去ってしまっていた。

「やめろって、言ってんでしょ! このアンポンタンっ」

 叫びながら這い進む。響香の叫びはもう切れ切れになっていて、今にも止まってしまいそうだ。

 死んでしまう。響香が死んでしまう。もう、自分に笑いかけてくれない。自分の冗談を困った顔で受け止めてはくれない。そんな事、許せるはずがない。

「やめろぉおおっ!」

 瞬間、竹刀が動いた。男に弾かれ地に横たわっていた筈の竹刀が。

 それは涼子が投げつけた時以上の勢いで空を飛ぶと、男の喉に強烈な突きを放った。流石にこれは予想外だったようだ。当然だ。涼子でさえ予想外だったのだ。

 その一撃はまともに男の喉へ決まる。男はたまらずたたらを踏んで響香から離れた。棒も、抜かれている。

――やった!

 涼子は心の中で喝采した。何が起こったのかはわからない。それでも響香を救えた。

 男はいまだ宙を浮いている竹刀を見つめ、それから涼子の方へ視線をずらした。

 死んだ。

 と、唐突に思った。響香に見られているときなどとは比べようも無い。明確な死を、蒼の炎に感じた。指先が凍りつく。がちがちと鳴る音が何かと思ったら、歯の震える音だった。心臓さえ止まったと思えるほどの恐怖を、その男に感じた。

 男が此方を邪魔者として認識したのだ。排除するのに、殺すことにこの男はなにも感じはしないだろう。今、持っている棒を此方に向ければ。

 と、死を涼子が覚悟した時だ。男は唐突に表情を歪めると、その場から走り去った。

 なんなのだ、と思ったが涼子にはそれを確かめる術はない。度重なる緊張と恐怖、それから開放された涼子の意識は暗い淵へと落ちていく。

 意識が途切れる間際、数人の足音と女の甲高い叫びが聞こえた。

「亮っ!」

 と。

――続劇――

後書き

 どうも始めまして、駄文書きの娑羅刺那と申します。

 仕事中唐突に思い浮かんだネタを勢いで書いてしまって、さらに勢いで投稿してしまいました。元ネタがだいぶ前の作品である上、オリジナルキャラ主人公のある意味やっちゃった感が否めない物ですが、もし最後まで読んでくれた方がおられましたら幸いです。もし、読んでいただけたのなら、お手数ですが一言でも感想・批評をいただけると口から胃を出しながら喜びます。ええもう激しく。

 ちなみに響香と本編のヒロイン鏡花女史はまったくの別人です。いや、名前変えればいいんですが、なぜか愛着がわいてしまいまして。紛らわしくてすいません。


△記事頭

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