不“良”少年
【Seedを育む者】
〜プロローグ “デッドライン”を作りし者
C.E.70 2月14日
この日、農業プラントに一発の核ミサイルが打ち込まれ、一瞬にして24万3720名の命が失われた。
その、『血のバレンタイン』の悲劇によって、地球、プラント間の緊張は一気に本格的武力衝突へと発展した。
・・・・誰もが疑わなかった、数で勝る地球軍の勝利。・・・・が、当初の予測は大きく裏切られることになっていった。
2月22日
地球連合軍の月への橋頭堡であるL1<世界樹>攻防戦。
地球連合軍は、第1〜第3艦隊を投入し、激戦となる。
ザフト軍は、この際、核分裂抑止能力を持つ<ニュートロン・ジャマー>を試験投入。
有効性が実証されるが、戦闘そのものは双方が拮抗していた。
しかしいくらコーディネイターの質が優れていても、モビルスーツの戦力が高くても、数は相手が圧倒的だったはず・・・・何故ザフトは拮抗できたのか?
それは、この情勢下で驚異の働きを見せる者がザフト軍に二人、存在していたからだ。
一人は名を"ラウ・ル・クルーぜ"といい、仮面を被った誰がどう見ても怪しい存在ではあるが、すでにMA30機、戦艦5隻を轟沈しているほどの強さを誇っていた。
そしてもう一人は・・・・・
「・・・・ふっ!」
息を一瞬吸い、まるで気を入れるかのごとく一機のMAを足蹴にして吹き飛ばしたジンがいた。
いや、塗装が多少違う。全体の色は深い紺だったが、肩口から斜めに対照的なまでの真紅の斜線が入っている。
それはザフトの誇る量産型MS、ZGMF−1017<ジン>であったが、なんと武装は標準装備のMA−M3重斬刀とMMI−M8A3・76mm重突撃機銃のみでオプション装備の特火重粒子砲や500mm無反動砲などは一切装備していなかった。
あえて持っているとするならば、銃突撃機銃のカートリッジが複数個、だろうか。
しかし、彼はなんと先ほどのとあわせてMAを98機撃墜。戦艦、駆逐艦などを合わせて24機轟沈していた。
正に恐るべき戦果といえよう。
ラウ・ル・クルーゼがかわいく見える。
蹴り飛ばされたMAは爆発四散せず、放電を発しながら一隻の戦艦めがけて突っ込んでいった。
「う、うわぁぁぁああ!!」
「なにをやっているっ! “あれ”を撃ち落せ!!」
CICは慌てて向かってくるMAに艦の照準を合わせるが、時すでに遅く、MAは機関部に突っ込んだ。
・・・が、幸いにも誘爆は免れたらしく、艦の乗員乗組員はホッと息を吐く。
しかし、まるでそれがわかっていたかのように、そのジンはひしゃげたMAを寸分たがわず撃ち抜き爆発させ、艦のエンジン部に誘爆させた。
逃げ場のない艦内で逃げ惑う乗組員たち・・・そんな中一人、艦長はうつろな瞳をして何事か呟く、さながらそれは・・・正気を逸した狂人の様であった。
「・・・だったんだ・・・やつを怒らせては・・・奴は・・・死線の・・・悪魔・・だ―――」
ズッ・・・ズゥゥゥンン・・・・
撃沈。
一連の行動が全て計算尽くで行われていたとしたら、正に狂気の沙汰である。
≪敵艦の撃沈を確認。中途スコア・・・MA98機、敵艦25隻・・・≫
「了解。こちらでも確認した。引き続き戦闘を続行する。周囲の索敵は厳にしとけよ、・・・・それと、戦局が安定してきた。脳内加速<ブースト>を"レベル1"まで落とすからな」
≪了解しました。マイ・マスター・・・・しかしよろしいので?≫
「けっ! 俺を誰だと思ってやがる、ああ?」
≪失礼いたしました≫
機体内に響く、硬質だが幼さを残した少年の声。
そして機械的で無感動な女性の声。しかし、機体の中には少年一人しか存在してはいなかった。
先程のでどうやら撃ち尽くした様で舌打ちを小さくし、流れるような動作で新たなカートリッジを差し込み、更なる獲物を求め飛ぶ紺のジン。
彼の後ろには無傷の仲間、そして彼の前には残骸のみ。
「・・・奴を境目に、死と生が分かれてやがる・・・!
さながら奴は、『デッドライン(死の境界線)』というわけか―――」
ザフト軍の一人の指揮官は空恐ろしげに遠ざかっていくジンを見つめ呟いた。
結局そのジンの活躍もあり、ザフト軍の被害は比較的小さく済んだ。
そして、最終的に<世界樹>は崩壊し、デブリ・ベルトの塵となる。
その攻防戦において、"ラウ・ル・クルーゼ"はジンにてMA37機、戦艦6隻を轟沈し、ネビュラ勲章を受章。
紺のジンのパイロットは傭兵ではあったが、その驚異的な戦功を讃えられ、最高位の勲章を受章されるがそれを拒否。
変わりに莫大の恩賞金と搭乗していたジンを貰い受ける。
しかし彼は人前に姿を現すことなく、正体は不明、とされた。
だからこそザフト、地球連合両軍は彼を恐れた。
ザフトは彼を死と生を分ける境界線と例え、『デッドライン』と呼び、地球連合軍は真紅の斜線が死を連想させることから、『死線の悪魔』という通り名をつけ、恐れ慄いた。
その後、彼はザフト、地球、どちらの陣営にも組せず、傭兵としてただただ戦った。
だが、そんな絶大な戦闘力を持つ彼は4月2日のカーペンタリア制圧戦を期にぴたりと活動を止め、人々の目から隠れることになる。
傭兵を止めたのか、戦えぬ事情が生まれたのか、それとも・・・死んだのか。様々な憶測が両軍に飛び交ったが、激化していく戦火の前に彼の話をするものもいなくなり、『デッドライン』は死んだのだ、という話が通説となっていった。
それから約7ヵ月後、歯車は回り始める。
あとがき
どうも〜〜!
不“良”少年、SEED編のプロローグが出来上がりました。
何度か練り直しをした作品ですが、自分結構浮気性なもんで更新は不定期になるやも・・・・・(汗
では、また次回にお会いしましょう。
カメ?でした。