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「たとえ出会った時代が違ったとしても 第一話(火魅子伝)」

湊柴舟 (2005-06-13 02:11)


 ああ、朝目が覚めたら味噌汁の香りがするのっていいなあ。


 そんな感慨に耽りながら俺は食卓に着いた。
 うん、やっぱり朝は白米と味噌汁だな。俺、根っからの和食派だし……中華とかも好きだけど。
 さて、旨そうな食事を頂く前に、
 「おはよう、紅玉さん、香蘭」
 俺は『家族』に朝の挨拶をした。


 九峪雅比古。
 それが俺の名前だ。
 で、今俺の前に「はい」と鮭の切り身を差し出してくれたのが俺の母親である紅玉さん。
 既に朝食を終えて、俺の横で何が楽しいのかニコニコ微笑んでいるのが妹の香蘭。
 ―――家族、とはいっても俺と二人には血の繋がりは無い。

 紅玉さんは大陸の出身だが、日本人と結婚してコッチに籍ごと移ったらしい。(そうなると、当然彼女達の娘の香蘭はハーフということになる)
 が、何でも正式に結婚したのは香蘭が8歳になってからだそうで。
 そんなわけで紅玉さんは日本語も達者なのだが、香蘭は未だに完璧とまでは……。
 難儀な話である。
 ああ、ちなみに紅玉さんは今年で34歳、未だ色気を醸し出しまくりの未亡人…じゃなかった、専業主婦。
 香蘭は俺の一コ下で16歳、年に似合わぬ巨…ゴホン、失礼……えーと、高校一年生。

 紅玉さんの夫で香蘭の父親である人は考古学者だったらしい。しかし彼は3年前に病に倒れ、既に亡くなっている。
 後に、彼の研究していた資料を、彼の恩師でもある、とある人物に渡すために彼女達はこの町にやって来た。
 で、その『とある人物』というのが、俺の後見人で尚且つ俺の知人の保護者でもある姫島教授だったのだ。
 まあ、その後紆余曲折を経て、天涯孤独の身だった俺は紅玉さんの養子として迎えられたのである。
 ……はい、回想終わり。こういう真面目な話はちゃっちゃと切り上げるに限る。
 大体、血の繋がりは無くとも、俺は二人のことを本当の家族だと思っているんだ。過去の事なんか知らんね。
さて、現実に話を戻そう。

 
「あ、兄様、口元、汚れてるね」
 そう言って俺の口をティッシュで拭く香蘭。
 しかし…身を寄せているせいで豊か過ぎる胸の感触が……
 ……はっ!い、イカンイカンっ。
 香蘭は妹だ、そう妹なんだ。その大切な妹に欲情するなんて以ての外だ。
 くっ、この乳が、俺を惑わせるっ。
「っと、アホなことやってる場合じゃねえや。おい、香蘭、そんな引っ付くなよ。飯が食い辛い」
「あ、ごめんね、兄様」
 慌てて体を離す香蘭。
 ……ちょっと名残惜しい気もしたが、取り敢えず食事を続けよう。


 さて、食卓の上がそろそろ寂しくなってきた頃、
「あら、もうこんな時間。二人とも、急がなくて大丈夫?」
 そう言って心配そうに時計と俺達の顔を見比べる紅玉さん。
「うわ、やっべ」
 俺は慌てて残った白米を無理矢理口に詰め込み、お茶で流し込んだ。
 折角のウマい飯が…と少し勿体無い気もするが仕方がない。
 鞄を引っ掴み玄関に向かうと、既に準備万端の香蘭が待っていた。
 慌てて靴を履きながら謝罪する。
「わりィ、待たせた」
「ん、構わないよ」
 そんなやり取りをしていると、居間から紅玉さんが顔を出した。
「いってらっしゃい。道中車に気を付けるんですよ」
「あ、はい。行ってきます、紅玉さん」
「逝ってくるね、母様」
 ……いや、なんか違わないか?


 いつも通りのんびりと駄弁りながら学校へ向かう。
 端から見ても中のいい兄妹といったふうに見えるだろう。微笑ましく心温まる日常風景だ。
 が、ようやく校門が見える所まで来て、俺は体の向きを180度転換した。
 突然の俺の奇行に隣では香蘭が不思議そうに首を傾げている。その仕草はとても可愛らしいのだが……悲しいことに俺にはそんな彼女に構っていられる余裕はなかった。恐らく今俺の顔は不自然過ぎるほどに引き攣っていることだろう。
「香蘭、俺は急用を思い出した。大事な大事な用事だ。よって、非常に残念だがお前とはここで別れなければならない」
「え、兄様、一体どう「じゃあなっ。遅刻するなよっ」
 香蘭のセリフを遮り、しゅたっと片手を挙げて俺は走ってその場を離れた。後には呆然とした香蘭だけが残される。
(すまん、ほんっとーにすまない香蘭…!けど、今あいつに会うわけにはいかないんだっ)
 そう心の中で謝罪する俺だったが、前方に見知った顔を発見して急ブレーキを掛けた。
「……っ。い、衣緒!?」
「あら、九峪さん。御機嫌よう」
 相手の女性、今顔を合わせたくない人物ナンバー2の宗像衣緒はにこやかに挨拶をしてきた。
「ゴ、ゴキゲンヨウ」
 なんとか返事をするが声が掠れてしまっている。
 そんな俺を見てとても楽しそうに……本当に楽しそうにころころと笑いながら衣緒はこちらへ近寄ってきた。
 俺は反射的に後退った。
「そんなに怯えなくてもいいですよ?別に危害を加えたりはしませんし。まあ、お姉様の元へ連行させては頂きますけど」
「そ、それのドコが『危害を加えない』だ!考えられる限りで最悪の扱いじゃねえか!?」
「…九峪さん。あまりそのようなことを大声で仰られない方が……」
 ふと何故か真顔で宥める衣緒だが、俺は構わず続けた。
「亜衣がこの上もない性悪の部類に入るヤツだって事くらい、妹のお前だって知ってるだろう!?俺があいつと顔を合わせないように裏門からこっそり入ろうとしたなんて知れたら、どんな折檻が待ってることか…っ!いや、それだけじゃないっ。星華や藤那にあらぬことを吹き込んで、三人掛かりで世にも恐ろしい拷問を―――」


「…ほう。成る程、お前は私のことをそんな目で見ていたのか」


 ………………音が、消えた。
 気が付けば、さっきまであんなに大勢いたはずの登校途中の生徒達が今は一人もいない。おそらくは避難するために慌てて校舎へ入っていったのだろう。
 硬直してしまった俺の正面では、衣緒が憐れみの篭った目を向けている。
 だが、このまま固まっていてはどうしようもない。
 俺はカラカラに干乾びた喉で何とか声を絞り出した。
「え〜と……亜衣、さん?」
 背後に立っているだろう人物への問い。
「ああ私だ」
 そして簡潔な答えが返ってきた。
 ……間違いない。今俺の背後に居るのは、衣緒の姉であり、耶麻台高校生徒会副会長の宗像亜衣だ。
 ゴクリ、と唾を飲み込んで、再び問う。
「あの、香蘭は…?」
「ふむ、君の妹君は今頃は無事自分の教室にいることだろう」
 俺はそれを聞いて一つ安心した。
(ふう、どうやら亜衣に八つ当たられなかったみたいだな)
「今、とても失礼なことを考えなかったかな?」
「い、いやっ、別にっ?」
「……まあいい。さて、お前のことだ、どうせ私を見て逃げると思ってな、衣緒を張り込ませておいて正解だったようだ。しかし、ふむ……。何やらとてもユカイな事を聞いてしまったなあ」
 そう言って、背後から俺の頬を撫でる亜衣。
 衣緒は……あ、逃げやがった。
「さぁて……。取り敢えずは生徒会室へ来て貰おうか?『雑用係』クン?」


 九峪雅比古。
 私立耶麻台高校2年C組在籍
 入学時にある問題を起こし、罰として3年間生徒会でありとあらゆる雑用を引き受けなければならなくなった、校長公認の『雑用係』。
 あんまりな扱いだが、起こした問題が問題だっただけに教育委員会もこの処遇には不干渉。
 卒業までずっとこき使われるパシリ君。
 それがこの学校における、今の俺の立場だった。


 …………周りからは自覚の無いハーレム状態だとか言われているが。


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