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「神の使い(月姫+ヘルシング)」

黒夢 (2005-05-14 13:12)


ヴァチカン――――世界最大の宗教、キリスト教の総本山にして、古来より魔と戦い続けてきた人の持つ人外に対する絶対戦力を保有する国だ。

そんな国の、格式がある建物の屋根の上に彼女はいた。

その場に座り込み、ただただ夜空を見上げ続けている。

微かに吹く風に、蒼く美しい髪が左右に揺れる。

ああ――――今日は、満月だ。


神の使い


今日は満月だ。夜空に広がる星の海の中でもっとも美しい魔性の月光は人間、人外の隔たり無く万物を魅了する。

それは遠い昔、この星が生まれた時から変わることのないことだ。

そしてここにも、今宵の月に魅せられたカソック着の美しい女性が一人。

二つの組み合わせはあまりにも奇妙であまりにも不自然に見えるが、だからこそ、巨匠が描いた絵画のように幻想的で、見るものに訴え掛ける何かをかもし出していた。

女性は思う。何故こうも美しい月が自分の仇敵である彼等の力となるのかと。そしてまた思う。彼等もまた、月に魅了されるからこそ力がでるのではないかと。

普段なら考えることの無い、そんな無意味で他愛の無いことでさえ、この月夜の前では世界に出された命題に思えてくる。

「――――吸血種じゃあるまいし、月など見ていて楽しいか?埋葬機関第七位『弓』のシエル」

しかし、その命題の明確な回答を見つける前に静けさを打ち破る無粋な声が、その場に静かに響き、闇夜に溶け込んでいく。

「……そうですね。あなたが声をかけてくるまではとても良い気分でした。それで?あなたから話しかけてくるなんてよっぽどの用事なんですか?イスカリオテ機関アレクサンド・アンデルセン神父」

よっぽど邪魔をされたのかが気に入らないのか、首だけ振り返り、いつの間にか背後に立っていた中年の男性に向けてシエルは非難の眼差しを送り、言動も自然と冷たいものになる。

だが、シエルの背後に立っている中年の男性、アンデルセンはその視線や言動の冷たさにもまったく動じず、逆に事も無げに

「いいや……ただの気紛れだ」

と言い放った。

気紛れで仕事の合間に出来た自分の大切な平穏の時間を台無しにしたのかといっそう非難の眼差しを強めるが、やはりというかアンデルセンは微塵も気にした様子は無い。それどころかそれを無視するように月を見上げている。

「忌々しいほどに今日の月は輝いているな。こういう日は、吸血種どもが血を吸いたがる」

いつの間にかシエルの隣まで移動したアンデルセンは空に浮かぶまん丸の月を無表情で見上げたまま、忌々しげにつぶやく。

「そうですね」

不機嫌なままとりあえず適当に合槌をうったシエルはふと、あることに気づいた。

「そういえば、あなたと仕事以外でこうして話すのは初めてですね」

そうなのだ。確かに二人とも教会内では有名なので知らない中ではないが、こうして意味も無く話すのはこれが初めてだった。そして、これはシエルにとってチャンスでもある。

「一つ、聞いてもいいですか?」

そう、一つ。前々からシエルはたった一つだけ、どうしてもアンデルセンに直接聞きたいことがあった。

「…………」

アンデルセンは何も語らないが、無言を肯定と取ったシエルはおもむろに胸のうちに溜めていた疑問を静かに、少しずつ語りだす。

「アンデルセン神父……あなたは吸血鬼や死徒を狩るとき、哀れと想いますか?」

「……くだらん。俺は神の下僕。神の教徒。神の信徒。その俺が終わった生に縋りつく亡者どもに憤怒を覚えたとしても、哀れと思ったことは一度としてない」

やはりというか、シエルの予想通り一切の躊躇無くアンデルセンは言い切る。だが、真にシエルが問いたいのはそんなことではない。続けて、シエルは口を開く。

「たとえそれが、今まで信念をともにした同じ機関の者でもですか?」

彼とはじめて出会った共同任務での出来事は今でも鮮明に思い出すことが出来る。

命じられた任務はアンデルセン神父と共に、五体の死徒が互いに協力し合ってできた巨大な死都の浄化だった。

もちろん名前だけならアンデルセン神父のことは知っていた。人外を震え上がらせる数々の異名の持ち主であり、現状のヴァチカンが誇る二枚の切り札の一枚。そんなとんでもない人物のことを教会に所属していて知らないなど、それこそありえない。

旅路を終始無言で進み、死都へと向かった二人を出迎えたのは、先遣隊として送り込まれたイスカリオテ機関の武装神父たちの死者の群れだった。

シエルは胸に鋭利な刃物が刺さったような痛みを感じながらも襲い来るかつての同胞を黒鍵で苦しまないよう確実に屠っていった。

だが彼は、アンデルセン神父は違った。血に飢えた野獣のように一切の躊躇も微塵の情けもなく、狂気をありありと顔に刻んでかつての同胞を切り伏せていったのだ。

「確かに吸血種はいずれ狩りつくさねばならないでしょう。ですが、吸血鬼に侵されればかつて信念を共にした者であろうと躊躇なく切り捨てる。それを本当に神は望むのですか?」

これは普段表には出さないが、シエルを悩ませることの一つだ。今までも何度か先遣隊が死者に侵され、この手で処断した。その度に微かに思うのだ。自分達は本当に正しいのかと。

しかし、アンデルセンはシエルの真剣な問い掛けすら再びくだらんと切り捨てた。

「我らは神の信徒にして死徒。我らはユダ、イスカリオテの名を持つ殲滅機関。たとえそれが、神の望むところでないとしても我らは神の意に反するものを狩りつくす。それが、我らの唯一絶対の掟」

一切の揺らぎなく言い切られた言葉には、決して折れることのない強靭な意志がはっきりと見えた。

「はぁ〜〜。凄いですね、あなたは……いえ、あなた達は。
正直、私にはとても真似できそうにありません」

ため息をつき、半ば呆れながらも心の底から感嘆する。それに比べて自分の所属する機関の者たちはと考えたところで、思考を放棄した。あの人格破綻者どもと比べること自体が間違っていると気づいたためだ。ちなみにもちろん人格破綻者の中には自分は入っていない。あんな連中と自分を一緒にしたくないからだ。

そうしてしばらく元の静寂の夜が戻るが、そういえば、とシエルが声を漏らすことで再び静寂の夜は決壊する。

「今ふと思い出したんですけど、メレムから聞いた話だと、あなたにはとんでもない強敵がいるそうですね」

埋葬機関第五位メレム・ソロモン。彼は変わり者の多い埋葬機関の中でも特に珍しい部類に入る変わり者だ。そう言うのも彼は先に述べたとおり埋葬機関所属であるにも関わらず、死徒二十七祖の席に名を連ねる生粋の死徒だからだ。なんでも古今東西の秘宝コレクターで、教会の秘宝の側に居たいが為に埋葬機関のメンバーとなったらしい。

そのメレムだが、実はアルクェイドの隠れファンで一時的に戻ってきたシエルにしつこく日本でのアルクェイドの様子を聞いてきたのだ。もちろんそんなことをわざわざ話す義理もクソも無いので無視していたのだが、それならとメレムが話の交換を提案してきて、持ち出してきたのが今の話だった。

「……ああ」

アンデルセンは若干の沈黙の後にその言葉を肯定した。

その肯定の言葉にシエルはありありと顔に出るくらい驚いた。いつものメレムの虚言だと思っていたので、本当だとは思っていなかったのだ。今になって適当にあることないこと告げてしまったことに対して豆粒ほどの罪悪感が湧くが、メレムがいつも持ち込んでくる厄介ごとに比べればかわいいものだと勝手に納得し、記憶から瞬時に消去する。

「ちょっと考えられませんね。イスカリオテ機関のアンデルセン神父と言えば、埋葬機関歴代最強のナルバレックに並ぶローマ教会の切り札。いったいどんな化け物なんですか?」

イスカリオテ機関のアレクサンド・アンデルセン神父をこっちの世界で知らないものはまずいない。

今までに伯爵級以上の吸血鬼やそれに匹敵する化け物を数匹仕留め、倒すまでには至らぬものの死徒二十七祖とも単身で幾度と無く渡り合ったという正しく怪物なのだ。

「……英国国教王立騎士団所属、吸血鬼アーカード」

「!?」

わずかな沈黙の後に静かに告げられたその宿敵の名にシエルは声もなく驚愕した。

「……やっぱりあなたは想像を超えた怪物です。現代に存在する真祖の姫に並ぶ二大吸血鬼の一角、不死の王と渡り合いますか」

不死の王アーカード――――真祖の姫が真祖によって生み出された最強の真祖ならば、不死の王は人間によって生み出された最強の吸血鬼。

全てにおいて従来の吸血鬼の能力を上回り、その二つ名の示すとおり驚異的な不死性を誇る。その不死性は一説にはあの死徒二十七祖第十位、混沌のネロ・カオスをも超えると言われているほどだ。

もう片方の化け物を知っているからこそ、シエルにはわかる。そんな化け物と戦おうと考えることがどれだけ無謀で、どれだけ馬鹿馬鹿しいかを。

「貴様はどうなんだ?『弓』のシエル。報告によれば極東に、日本にいるんだろ……真祖の姫が」

「……悔しいですが、私では彼女にかないません。ですが、今の彼女が教会と敵対することはありえないでしょう」

そうだ。それは断言できる。今の彼女が今の平穏を壊してまで教会に敵対するわけがないと。

……もっとも、その平穏の中心にいるのが彼なのはひどく不愉快だが。

こうして徴集されているあいだにあっちで何か起こっていないか内心不安で仕方がない。

だが、次のアンデルセンの一言でそんな不安など見事に吹き飛んだ。

「そうか……このごろ、俺に回ってくるような仕事がない。真祖の姫……一度見に行くか」

「お願いだから止めてください」

その冗談とも本気とも取れる言葉にシエルは神速の速さで即答する。

もしもアンデルセンとアルクェイドが本気で闘うことになれば、冗談抜きで町の一角が瓦礫の山になりかねない。


「俺はもう行く」

しばらくすると突然、現れた時と同じように何の前触れも無くそれだけ告げるとシエルに背を向け、屋根の端へと歩み寄る。特に止める必要もないので、シエルはそうですかとだけぶっきらぼうに月から視線を逸らさずに答えた。

「シエル」

突然、初めてちゃんとした名前で明確に呼びかけられたことに驚き、シエルは食い入るように見つめていた月から視線をずらし、首だけアンデルセンの方に向けた。

「覚えておけ。始まりと終わりの時は近いことを」

始まりと終わりの時――――この矛盾した言葉に何の意味があるのか?シエルはそれを問いかけようと口を開こうとするが、それよりも再度アンデルセンが言葉を発するほうがわずかに速かった。

「そのうちに、第七聖典を借りることになるかもしれん」

最後にそれだけ告げると、シエルが何かを言う前に屋根から飛び降り、訪れた時と同じように唐突に姿を消した。

シエルは口を半開きにさせたままアンデルセンが消えた方向をじっと見つめると、ふぅ、と一度ため息をつき、空に浮かぶ美しい月を見上げる。

「あの子が聞いてたら、泣きながら拒否したでしょうね」

自分と契約している守護精霊のその時の様子を想像したからか、第三者が見れば思わず見惚れてしまいそうな優しい笑みが浮かぶ。


ああ――――今日は、満月だ。


こうして終わりと始まりの時と始まりと終わりの時が人知れず交差し、始まりが始まり、終わりが終わる道を歩むことを、まだ、極一部の者しか知らなかった。


この意味をシエルは、一ヵ月後に知ることになる。


あとがき

ご愛読ありがとうございました。

今回、前二作のバトルとは打って変わっての語りです。シエルとアンデルセンを登場させたのはある小さな複線のためです。

本当はもう一つ短編を投稿してから、と思っていたんですが、書いてるうちに「これは今投稿するものではない」ということに気づき、次は初の長編SS『黄昏の式典』を投稿させていただきます。最初のほうはたぶんわけがわからないと思いますので、あらかじめ言っておきますと、このSSの第一部は他作品同士で戦うチームトーナメント形式の大会です。

詳しいことは下のほうに書かせていただきます。

それと、皆様に尋ねたいんですが、プロローグは入れたほうがいいでしょうか?

なにぶん初めてなので必要かどうか判断に迷っています。


第一部 黄昏の式典

四人制のチームトーナメント形式の大会の名称。

(烈火の炎の裏武道殺陣や幽遊白書の暗黒武術会のようなものです)

ランダムに対戦相手が決まり、最終的な勝敗数が同じならば互いに試合に勝った同じチーム内の者と組んでタッグバトル。

補足事項として、例えば三連勝をしてチームの勝敗が決していても残っている試合は行う。

私が正確に作品の設定を知っているものの中から十二作品、計十二チーム参戦。

なお、今までの短編で登場した作品がこの大会に参戦しているかどうかはわかりません。

……と言いながら、GS美神、−奪還屋−GetBackers、月姫の参戦だけは予告しておきます。

特にGBには他作品と設定(特に月姫)を融合させるためにほとんど無理矢理○チを操るあの人の参戦も……

その他、ゲストなど多数登場予定。

主軸はGS美神になる予定です。

できるだけ早く投稿したいと思っていますが、テスト期間中ですのでいつになるかは正直わかりません。

試合はおそらく四、五話、もしかしたら六話辺りになると思いますが、よろしくお願いします。


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