ＬＰ暦五年・・・・世界は再び大きな変換期を迎えた

　魔王が、リトルプリンセスから早くも変わったのだ・・・

　新たに魔王に就任したのは・・・かつての魔王『ジル』

　彼女は魔軍を率いる事もせず、魔人ですら自分に刃向うものはその手で消し去った

　ただ、魔王城に滞在し続け・・・思い出したかのように自分に抗う物を虐殺する・・・

　人間にとって、再び暗黒時代が訪れたのだが・・・・

　『ジル』の真意を、何故再び魔王になったかの『真意』を知る人間は・・・どこにもいなかった

　魔王城　玉座の間

　そこでジルが、いつものように面倒くさそうな表情のまま玉座に座っていた

　「ヘルマン方面、ならびにゼス方面で再び人間が結集しだした模様です

　　リーザスでは特に動きは無いですが、自由都市、川中島は発破をかけているようです

　　ケイブリス軍は、ゼス方面とこちら側とに兵を二分する形になっているようです」

　そんなジルに、筆頭魔人であるホーネットが、人間界の状況を報告するが
ジルの表情は一切変わらなかった

　「いつもどおりの対処で良い、話はそれだけか？」

　「はい、それだけです」

　ホーネットがそう言うと、ジルは手で下がるように指示し、ホーネットもそれに従い出て行った

　そうして、ホーネットが出て行き、ジルは一人きりになると、いきなり立ち上がり、玉座の裏に回った

　「・・・・ふっ！！」

　そして、地面に手を置いたかと思うと、その手に尋常ではない量の魔力を込めた

　　ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

　すると、それに反応するようにして、その床が急に動き、ワープホールが現れた

　「・・・・・」

　ジルは、無言のままそのワープホールに入り、ジルが入った後、床は再び何事も無かったかのように元に戻った

　異空間内　ジルの家

　ワープホールを用いて異空間に作った自分の家に戻ったジルは、一目散にある部屋に向かった

　その部屋には・・・本来ならジルしかいないはずのその家の、唯一のジル以外の存在がいた・・・

　その存在は、ベッドに横になっており、目を瞑ったまま、呼吸し続けていた・・・

　ジルは、その眠り続けている存在の隣まで行くと、慈愛に満ちた表情でその存在の顔を撫で、口付けをした

　2、3分ほど口付けをした後、ジルの顔は急激に悲愴な表情に変わり、その存在の胸に顔を埋めた

　「ウッ・・・ヒック、クッッ・・・・ヒック」

　ジルは、必死に泣かまいとしているようだったが、ジルの目から、次々と涙が溢れていた・・・

　「早く・・・・目覚めてください・・・・・

　　魂だったら・・・いくらだって取ってきますからぁ・・・・

　　お願いですマスタァ・・・早く・・起きて・・・私を・・一人にしないでぇ・・・」

　そう、ジルが縋り付くようにして泣いているその存在は・・・・

　かつて、リーザス緑の軍将軍だった、ランス・プロヴァンスその人だった

　だが、どれほどジルが訴えても、縋り付いていても、ランスは目を覚ます気配は見せなかった

　それはそうだろう・・・・ランスは、本来ならとうの昔に死んでいるのだから・・・

　ランスの死因は、敵として戦った女性、カオルを庇った際の爆風による物だった・・・

　爆風によって吹き飛ばされた後、ジルがカオルを処罰せんとしたときに、一度だけ息を吹き返しはしたが・・・

　その後のジルと、リーザスの名医達の必死の看病の甲斐もなく、その事件から三日後、ランスは帰らぬ人となった

　ランスの葬式は、国を挙げて行われ、葬式の当日に、リーザス国は川中島とゼス国との永久的な国交断絶を表明した

　川中島との国交断絶の原因は、法王ムーララルーが、ランスが死んだ後、葬式までの期間の間に、演説を行ったのだ

　そう、『魔王』になろうとした『大罪人』が、ゼス国王の手で葬られたと言う演説が・・・

　もっとも、その演説にゼス国王であるガンジーは参加しておらず、完全に行方不明となっていたのだが・・・

　だが、演説と、ランスを殺した人間がゼスの国王であるという事実から、リーザスはゼスとの国交も断絶したのだ

　そして・・・葬式に出されたランスの遺体は・・・何者かに奪われてしまった

　その何者かは、『大罪人』ランスの首を晒そうと、死者をなお辱めようとする狂信者達であったのだが

　その者らの行動は・・・・ジルによって止められ、その狂信者達は即座に消滅させられた

　そして・・・その時から・・・ジルは『狂った』

　急に何かに取り付かれたように、リーザス王城の地下に部屋を構え、その部屋に篭ったのだ

　ジルが、ランスにどれほど依存し懸想していたかは、リーザス城の人間はほぼ全員が知っていた

　だから、そのランスが死んだ事で耐え切れなくなり、ああやって『狂った』のだろうと認識していたから

　せめて、ジルの気が済むまではそっとしておこうと言うのが、全員の意見であった

　他にも、ジル同様に『狂い』始めた人間も少なからずいたのだ・・・・

　まずランス直属の緑の軍兵達は、皆、死を恐れぬ狂戦士へと、人間のまま変わっていってしまい

　ランスの後任に着いたアールコートも、かつての臆病さ、優しさはどこに言ったのかと言うほどに

　敵を殲滅する策を、何の躊躇いもなく、情けもなく実行するようになっていった・・・

　そして、魔人を狩るはずの魔剣カオスも、戦いの意義を失い、人間の姿を魔法陣内部に篭る事で維持し続けていた

　だが、やはり一番狂ったのは、ジルであった

　ジルが地下室で何をしていたかを知れば・・・その狂い度合いがわかるだろう

　何せジルは、地下室で、屍霊魔術(ネクロマンシー)を行っていたのだ

　しかも、ただ死者をよみがえらせるのではなく、生者を犠牲にしたうえでの魔術を行い続けていたのだ

　その犠牲者は、まだ僅かに理性が残っていたのか、それとも復讐心による物か・・・・

　ＡＬ教を盲目的に信仰している、いわゆる狂信者だけだった

　魔王時代ですらも行わなかったネクロマンシーを、ジルが今になって行う理由はたった一つだけだった・・・

　そう、死んだランスを、再び蘇らせる為だった・・・・

　本来なら、肉体は維持できても、魂までは維持できないので、蘇生までは出来ないはずなのだが・・・

　ジルは、その抜け道を完全に把握していた・・・・

　完全に蘇生できない原因は、魂の大半が神、ルドラサウムに向かう事と、一部が殺した物の経験値になる為に

　その者の思念などは残っても、魂は決して残る事がないからなのだ・・・

　時たま、魂が丸々残る物もいるが・・・それは本当に極々まれなのである

　魂が残っているように見えても、実は単なる思念体だけというほうが普通なのだ

　そこでジルは、ランスが助からないと悟ると即座に特殊な結界を張り、ランスの魂の一部を回収したのだ

　そして、他者から命を奪う事で、ランスの肉体の維持と、魂の再構成を狙ったのだ・・・・

　だが、それは容易ではなかった、ランスの特異体質が余りにも極悪すぎたのだ

　そう、成長限界無限の肉体を維持するだけで、回収した魂全てを使い切ってしまうのだ・・・

　それに、ランスの魂自体が、肉体を持つ存在としては大きかったのもあり

　ジルがどれほど生贄を用意しても、魂の再構成は全く進まず、むしろ肉体維持の為に使う場合もあったほどだった

　完全なる蘇生には、完全な肉体と、完全な魂が保持されていなければならないため

　ジルは、肉体維持で精一杯と言う現実から、蘇生をあきらめざるをえないかに思われたが・・・・

　ＬＰ暦五年、つまりは、歴史の変換点の日に・・・ジルはある魔法を完成させた

　そして、即座に未だに保護されている魔王リトルプリンセス、美樹に、その魔法を放ち、魔王の力を奪ったのだ

　その魔法とは・・・魔王と魔人の絶対防御結界を中和し、魔血塊を、魔王の力を奪い取るドレイン魔法だった

　それは、かつて魔王であったジルだからこそ完成させられた究極の魔法だったのだ

　ジルは、美樹から力を奪うと、即座に美樹と健太郎を元の世界に送り返した

　ジルは、その行為を聖刀日光の所持者をなくす為だといっていたが・・・

　ランスが、その二人の事を、実の家族のように可愛がっていたのが原因だと、他の者達は気付いていた・・・

　その後、ジルはランスの遺体を噛み、ランスの肉体を魔人の物とした

　本来、魂から再構成を行うので、死者にはきかないはずの魔人化だったが・・・

　ジルは、ダミーの魂、つまり魂の器を変換することで魔人化を成功させたのだ

　そして、ランスの魔人化が成功すると、ジルはこう、一言だけ言った

　「私に逆らおうとするな・・・・逆らえば何者とて邪魔はさせん

　　マスターが護ろうとした者達を・・・殺したくはないのだ・・・頼む

　ジルはそう言うと、ランスの肉体を抱えたまま魔王城へと向かっていった

　魔王城に付き、現在生き残っている魔人全員を集めてジルが最初に行ったのは、宣言だった

　「再び私が魔王となったことに驚いた物がさぞいるだろう・・・・

　　だが先に言っておく、私はかつてのような殺戮を行う気などはない

　　降りかかってくる火の粉は払うが、私は先にやるべき事があるのでな

　　不服な者はかかってくるが良い、強制力など使わぬ、私を楽しませてみろ」

　その宣言を聞いた魔人たちは、全員が全員驚愕していた

　特に驚いていたのは、カミーラとケイブリスであった

　カミーラは、純粋にジルの余りにも大きすぎる変化について

　ケイブリスは、せっかく優位に進めていた戦争を邪魔されたのに、人間を殺せないと言うことからであった

　ジルの宣言の真意は・・・魔人たちの反乱を誘う事であった

　魔人は、人間と違い長く生き続けただけあって魂の大きさがかなり違うのだ

　ジルは、魔人化によって肉体の劣化は防いだので、急ぎ魂を再構成しようと考えたのだ

　そして、そんなジルの思惑通りに・・・ケイブリスは反乱を起こした

　ジルは、その反乱を即座に潰せる力を持っていると言うのに

　あえて、魔物達だけを全滅させ、魔人は生かして戦い続けていた・・・・

　そして、ワーグの力を使い、魔物達の魂を集め続けていたのだ・・・・

　だが、魔人となった事で、ランスの魂の器はより巨大な物になっていた

　その為、かなりの量の魂を注ぎ続けていると言うのに、未だにランスは眠ったままだったのだ・・・・

　「マスタぁ・・・・マスタァ・・・・マスター・・・」

　ジルは、毎日のようにランスに縋り付いては、このように泣き続けていた・・・

　それほどまでに、ジルにとってランスは、重要な存在だったのだ・・・

　ジルにとって、ランスは決して譲れない存在だった

　初めて『魔王』でもなく、『魔人』でもなく、『化け物』でもなく、『ジル』として見てくれた人

　そして、自分に『優しさ』を、『暖かさ』を与えてくれた人だった・・・

　ジルは、ランスが蘇生した後、ランスが激怒し、自分を手にかける可能性があることも理解していた

　ランスは、自分の為に他者が犠牲になる事を嫌う性格だったのだ

　そんなランスが、自分を蘇生する為だけに何千もの魂を既に奪っている自分を許すとは、ジルは考えていなかった

　だから、ジルは、ネクロマンシーを始めてから、常に死に場所を決めていた

　蘇生が成功したランスの手で、『殺して』もらうという死に場所を・・・

　チリリリリーン!!　チリリリリーン!!

　突如、部屋にあった電話らしき物が鳴った

　ジルはそれを聞くと、即座に顔を上げ、涙を拭い、ゆっくりと立ち上がった

　「・・・また人間達か、いつまでも懲りぬ奴らよな、そのほうがこっちは都合はいいのだがな

　マスター、行ってまいります、ゆっくりと休んでいてくださいね・・・」

　ジルはもう一度だけランスに口付けると、その部屋から転移した

　ヘルマン領　番裏砦

　「人間が・・・愚者の言うままに我を相手にした事・・・後悔するがいい！！」

　こうして・・・今日も再び、ジルは『魔王』として戦いを続ける・・・・

　ジル側から攻め込むことこそなかったが、人間と魔人とを同時に相手にし続け

　さらに、自ら前線に出て敵を粉砕し続けるジルは、『狂魔王』と呼ばれるようになった

　だが、ジルが何の為に戦い、何の為に狂ったかを本当の意味でしるものは・・・誰もおらず

　『魔王』ジルはただ、いつか来る自分の唯一の理解者にして、マスターの起きる日を信じ

　ただひたすら、戦い続ける日を送っていた・・・・・・

　　あとがき

はい、スランプ突入しそうなのでＥＤＮo01、ジル魔王再臨エンドです
今回の分岐点は・・・爆発の際のランスの負傷度合いですね
本編では奇跡的にも比較的軽症でしたが、今回は致命傷になってしまいたした
その結果・・・・歴史はこういう道をたどってしまいました
クジラは、ランス復活がどうなるかが楽しみで大陸を放置しています
ランス君復活がどうなるかは・・・・まぁ私からは語りません
ＩＦＥＮＤは大半がこういう微妙な形で終わりになる予定です
なぜなら、これはありえたかもしれない歴史、決して表に出ない歴史なのです
つまり、そこから先の物語は、皆さんしだい・・・・ということです
まぁ、何だかんだと格好つけて言いましたが、一応この先も簡単にですが出来ています
皆さんが希望するのなら・・・私流のこの歴史の行く末を語るとしましょう
出来れば皆さんで、想像を膨らませて歴史を創造してくださいｗ
ジルさん(むしろジルちゃん？)への萌え度などが上がったら私の狙い通りかもしれません(ォィ
では、次は正史の舞台で会いましょう（先にレス返しでしょうけどｗ）
ＰＳ：注釈、つけるかどうか悩みましたが一応ダークつけておきます