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「槍でも降るに違いない(まぶらほ)」

たつろう (2005-03-07 01:40)

夏の日差しが燦然と輝く、とある日のこと。
近所の子供達の遊び場である空き地に、一人の少年と一人の少女がいた。
二人とも幼く、そして少女は泣いていた。

まあ、ぶっちゃけた話、まぶらほシリーズの始めの始め、あたま4ページのことである。
余談だが、この話を書くに当たって原書を読み直して、かなり驚いた。
巷の二次創作では、場所の説明がほとんどの場合「公園」となっているが、原作ではそのような表現は一切使われておらず、ただ単純に「空き地」といっているだけなのだ。
もっとも、「壊れたベンチが一つある空き地」を「公園」と呼称している可能性もあるが、おおよそのSS作家・読者はまぶらほの出だしの舞台は公園だと思っていることだろう。
某ブラックサレナがいつのまにやら相転移エンジン搭載型になっていたのと同様に、二次創作がファンの認識を歪めた一例である。

ついつい脱線したが、本来何が言いたかったかというと、
「詳しい情景描写は他の作品を見ること」
という注意書きだ。
どうせ詳しく描写したところで、読んでいる側からすれば「いつもの情景」としてたいてい斜め読みするし、書いているほうも原作を開きながら(しかも最初の5〜8ページだから開きづらい!)いかに「丸写し」と言われないように表現に凝るというのは面倒である。
よって、この作品では省く。


…こんだけ長々と書くなら原作丸写ししたほうが早かったというツッコミはなしの方針で。


もとい、幼い夕菜が雪を頼んだとこまで進んだと思いねぇ。


「ほんとうにみれたら、えっと、およめさんになってあげる」
「うん!」
少年は笑みを浮かべると、両手を天へと突き出した。
その胸中は、「およめさんになってあげる」と言われたことではなく、女の子が自分を信じてくれたことによる興奮に満ちていた。
およめさんがなんであるかは把握しているが、その価値については理解できず、そんな未来の約束よりも、今この瞬間、可愛い女の子が自分に全幅の信頼を寄せてくれていることのほうが大切であった。
自分へ向けられる視線にむず痒さを感じつつ、顔を空へと向る。
そして大きく深呼吸をして新鮮な空気を吸い込み、意識を集中させ、魔力を活性化させる。
少年に秘められた暴力的なまでに強いそれはやがて腕に集まり、まばゆく輝きだす。
ゆっくりと静かに、しかし大胆にイメージを展開し、魔力へと込めていく。
尋常ならざる雰囲気に、傍らの少女は息を飲み、しかしその目は期待に満ちて輝く。
やがて少年の集中が極限に達したその時、力強く吐き出す息と共に魔力が天へと解き放たれる。
それは一帯の空を覆いつくし、夏らしさをかもし出していた頭上の雲を変質させ、少年が思い描いた世界を顕現させる。


さて、実は致命的な事実がひとつあった。
少年和樹は降雪を見たことがなかったのである。
前の冬は暖冬で雪が降らなかったのだ。
その前の冬は、首都圏に雪が降った日に京都の実家にいたため、見ることがかなわなかった。
さらに前の冬は、深夜に降って朝にはやんでしまったので、積もっている雪は見たものの、降っている雪は見られなかった。
赤ん坊の頃に見たことがあったものの、さすがに覚えていない。

不幸なことに、和樹には子供らしい中途半端な知識があった。
テレビでやっていたことを鵜呑みにして、
「雪とは雲の中の水が凍ったもの」
という認識をしていたのだ。
一見すると間違いではないのだが、子供の理解力では水分という概念はない。
雨とは雲の中の水槽からこぼれてくる水滴と考えてしまう。

とどのつまり、和樹の想像したのは「凍った雨」である。
世間一般ではそれを「雪」とは言わない。
「雹」と呼ぶのだ。(雹:ひょう)


「いたたたたた!」
「いたいよいたいよー」
雹は実は恐ろしいものである。
アメリカの寒い地域では、雹によって窓ガラスが砕かれ、車に穴が開くことがよくある。
日本でも、そうそうあるわけではないが、実は窓が砕かれた事例がいくつかある。
いくら元が水とはいえ、実質的に石のつぶてが飛んでくるのとなんら代わりがないのだ。
その破壊力は、決して侮れるものではない。
「いたたたたた!」
「いたいよいたいよー」
幸いにして和樹の作った雹は、雨のイメージが元であったために大きさはさほどでなく、威力もそれなりであった。
が、それなりとはいえ空中から硬い物体が高速で飛来することには違いない。
肌に当たればかなり痛い。
「いたたたたた!」
「いたいよいたいよー」
雹が降ってきた場合、速やかに建物に入ってやり過ごすのが最善である。
外にでていれば、容赦なく全身をつぶてに打たれるのだ。
和樹たちも手近な屋根の下に避難すべきだが、ここは空き地。
木の一本も生えておらず、屋根となるような遊具もない。
唯一あるのがベンチであるが、壊れているため屋根にはなりそうにない。
「いたたたたた!」
「いたいよいたいよー」
周囲の家も突然の雹に泡を食って窓や門を閉ざし、外を見ることはなかった。
歩行者も、手近な軒下に逃げ込むなり防護結界を展開するなりして何を逃れていた。
しかし空き地には子供が二人しかおらず、まともな結界を作れる大人はいなかった。
結果として、遊び場に子供が残っている可能性に町会長が気付くまで、二人は氷のつぶてにさらされていたのである。


二人とも、奇跡的に全治が見込める程度の怪我で済んだものの、全身を打たれ続けたためひどい有様であった。
駆けつけた大人たちの魔法で応急処置的な治癒がなされ、病院でも本格的な治療が施されたため、傷跡や後遺症が残ることは避けられたものの、内臓に対する検査や、なにより長時間全身を打たれ続けるという恐ろしい体験によって受けた心の傷を癒すため、入院することとなった。
当然宮間家の引越しは延期となり、夕菜の最初の願いが果たされた形になったが、本人達はそれに気付きもしないし、まず間違いなくありがたいなどとは思わないだろう。


二人の入院する部屋は、多くの事情に後押しされ、お互いに離れた個室となった。
まず根本的に、夕菜が見知らぬ少年に恐怖心を抱いていた。
見知らぬ少年とは和樹の代名詞ではなく、夕菜と面識のない少年全般という意味である。
空き地で初めて会った少年あんな目にあわされたのだ。
心がそれを回避しようとして、見覚えのない少年がこちらに向かってくるのが見えただけでパニックに陥り、ついには魔法を暴走させてしまうのである。
それを別にしても、夕菜の両親が和樹を危険な少年だと認識し、我が子から遠ざけようと思ったのだ。
落ち目とはいえ、腐っても宮間家。
上等な個室を指定して即日入院するぐらいはどうにでもなる。

和樹側には全く別の事情があった。
警察は事態を重く見て、和樹を監禁することにしたのだ。
人権上の問題に対する言い訳などいくらでもつく。
優先するべきことは、再発の防止である。
事件の瞬間の膨大な魔力とその効果を警察は把握していた。
偶然、今が夏で雲の少ない日だったからよかったものの、同じ夏でも積乱雲の真下や、梅雨の雨が多い時期にでも同様の魔法が使われたらどうだろうか。
先ほど説明したように、家屋を破壊するような氷の塊が、魔法によって間断なく空から降り注ぐのである。
天候変化による迷惑というより、大規模な破壊活動による被害といったほうが正しいだろう。
そのような恐ろしい事態を引き起こされないために、警察は和樹を病院の一室に監禁し、少年課の私服警官と精神科の医師による24時間態勢の監視をしていた。

また、被害にあったのは二人だけではなかった。
威力が弱いとはいえ、耐久性に優れない構造物は破壊されてしまった。
そうした家の外壁などを壊されたり、車をボコボコにされたりといった物的被害である。
それだけでなく、逃げ遅れたり、上手く結界を張れなかったりした人たちの人的被害もあった。
何かの拍子にそうした当事者に、和樹が事件の首謀者であると漏れたらどうなるだろうか。
式森一家は無事ではすむまい。
和樹は、そうした他の被害者から離しておく必要があったのである。


さて、あとのことは大まかに記述するにとどめようと思う。
最終的に、事件の真相は闇に葬られることとなった。
世間には、密入国者による大規模な呪術の失敗、と発表された。
息子が社会的に更生できなくなることを避けようと裏工作に尽力した式森家と、娘が間接的に引き金を引いたことを隠したい宮間家の協力による結果である。
宮間夕菜はその後、手厚い治療によって順調に回復し、退院後は両親によってよりいっそう過保護に育てられ、着実とその潜在能力を伸ばしていき、やがてキシャーを超えるスーパーキシャーになったと風の噂で聞くものの、真相は宮間家の隠蔽工作によって明らかにはされていない。

和樹は、一般的には不幸ながら、本人的に、そして原作との相対的に幸せな人生を送った。
まず治療の過程において、和樹は魔法を使うことに対する恐怖を植えつけられた。
立派な洗脳であるが、式森一家は事件の隠蔽に当たって各方面に負い目をおってしまい、黙認せざるを得なかった。
もっとも、和樹の魔法回数がもともと少なかったので、魔力を使い切って塵になる可能性を減らせるために、あえて黙認したという側面もあった。
その目論見は功を奏し、和樹はその人生において、魔力の枯渇という憂き目にあわずにすんだ。

退院した和樹は、式森家に帰ることはなく、そのままとある家に引き取られていった。
そこは日本の政界においてかなりの発言力を有する一門であり、和樹の起こした事件の隠蔽に大きく貢献した家である。
そこで式森和樹は軟禁され、やがて一門の娘と結婚させられて子をなした。
事態の収拾をあせった式森家の失策で、和樹の将来と一族の血を差し出す羽目になってしまったのである。
もっとも、式森家としても有力な一門と血のつながりが出来ることはマイナスではないし、和樹も軟禁されているなりに、許嫁となった少女との恋愛をたのしんだので、そう悪いことではなかった。
また和樹はこの有力な一門の中で、いわばホグワーツの中のスクイブであったが、魔法への忌避と魔法回数のコンプレックスから非魔法分野の勉強にのめり込み、軟禁生活できた時間を使い研究をして、魔法を避けた着眼点と発想によって見事ノーベル物理学賞を獲得し、邪険にされない程度の発言力を得ることが出来たため、子を育て孫を可愛がるぐらいの権利は確保できた。
暴走娘トリオ+αによる破壊的な生活よりは、はるかに幸福な一生といえるだろう。


「和樹があのとき制御に失敗したら」
(氷の)槍でも降るに違いない    完


あとがき

雪を人工で作るってかなり難しいじゃないですか。
おなじ氷でも雹になってもおかしくないなー、という発想でした。

初めてのSSなので、読みづらいかもしれません。
そうしたら眼をつむったりせず、
「読みづらいぞゴルァ!」
と感想に書いていただければ幸いです。


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