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「月堕幻夢1−1(NARUTO)」

月堕 (2005-02-24 22:29)


――――ある日を境に姉の姿が見えなくなった。

一族は騒然と為り、里中が慌てふためいていたのを、
当時、まだ徒の力無き幼児に過ぎなかった自分も幼心ながら覚えている。

自分の一族は特殊な一族だ。
血継限界と呼ばれる非常に特異な異能をその血に宿す一族の一。
五影ですらその異能の術を行使する事が出来ず、
その血の一筋は他の里からすれば宝の地図にも等しい。

そんな血統に名を連ねる姉の捜索も、行方不明の子供の捜索にしては過剰なほど行われた。
里中隈なく捜査され、姉の行きそうな場所は塵一つ見逃さないほど過剰に調べられた。
当然、姉の友人でも会った里の嫌われ者だったもう一人の姉も調べられたが、蛻の殻。

当時、姉を攫ったのは“もう一人の姉(九尾の器)”であるという噂も流れた。

だが、結局姉が見つかる事は無かった。
里に残されたのは幾人かの忍の骸と刻まれた慰霊碑。
自分に残ったのは最後の悲しげな二人の姉の姿と気落ちした二人の大人の姿。

後に知ったが、姉が失踪する少し前、姉には婚儀が決まっていたらしい。
火の国の然る大名との婚儀。
何でもその数週間前にあった祭りの日に姉を見かけ気に入ったらしい。
そして、力ある大名らしく、その権力にものを云わせて、国と里の不可侵条約を無視した。

本来、国の軍事力そのものである忍びの隠れ里相手にそのような暴挙に出る等考えられない。
しかし、その大名は国の中枢に根付く家柄。
下手に反抗的な態度を取れば、里と国の関係が悪化と言うほどの大問題に繋がる。
忍び五大国の中心とも云える木の葉の里には僅かな関係悪化する手痛い問題である。
条約を結んだものの、それには然程力は無い。
木の葉が弱体化すれば即座に他国は落としに掛かるだろう。

長である火影には、その様な危険策は取れなかった。
ましてや、天秤に掛けるのが一人の少女では、なおの事である。
しかし、それとは別問題に日向の異能――魔眼――は渡せない。
故に、火影と日向宗主はある手段を取ることを決めた。
姉を売るのは決定だが、姉の異能は渡せない。
ならば、異能を消せば良い。

日向の分家筋には二つの掟がある。
宗家の守護と、秘密の遵守。

「刻印」。
日向宗家の盾となり戦う彼らはそれだけ敵に瞳の異能を奪われる可能性が高い。
故に日向は異能の遵守の為に様々な方策を設け、死を覚悟してでも瞳を奪われる事だけは護る。
だから、瞳を奪われる事は同時に分家の人間の死を意味する。
しかし、万が一、秘密の遵守が出来ずに死ねば瞳を護れない。
故に最終防壁が「刻印」。死と同時にその秘密の全てを抹殺する忌まわしき呪式。

本来は分家筋の人間のみに刻まれる刻印は異例の事ではあるが、宗家の嫡子である姉に刻まれた。
宗家であり、分家と同じ扱いを受けた人。
分家と同じ扱いでありながら、決して分家にも届かない人。

―――そうして、姉は切り捨てられた。

あれから五年。
姉は大名に嫁ぐ前に何者かの手引きにより失踪し、同時にもう一人の姉も失踪する。
里は既に当時の事件を忘れ去り、当事者達もまたその件を忘れたかのように振舞っている。
姉が消え、姉の通う筈だったアカデミーに通い、そして既に卒業まで指折りとなった。
写真の中、二人の姉の姿はもう自分よりも小さい。
それでも、彼女達が自分にとっての姉である事には違いないが、
写真の中、時の止まった二人と現実に成長し続ける自分。
このまま自分と思い出の彼女たちはすれ違っていくのだと言う事実を知り、

――――その事に幾分かの寂寥感を感じた。


<">#R$B"> ツキオツルマボロシノユメ
<">#R$B">月堕幻夢
<">#R$B">第一章 月の章
<">#R$B">−1−

迫ってくる手裏剣。その数は七。
軌道は直線で何らかの術を付与された等の捻りは何も無い。
ただ教科書通りに投げただけの手裏剣術。
速さも眼を見張るものは何も無く、かといってタイミングをずらしている訳でもない。
態と躱し易いものを投げて隙を伺っている訳でもない。

正直、何がしたいのか解らない。

(―――欠伸が出る)

侮蔑は内に、表情は無表情のままクナイを逆手に取る。
一閃。弧を描くようにクナイを振るう。

―――軌道も速さも然程違わない手裏剣術など躱すまでもない。

ギン、ギィン、ギィン、ギン。

僅か一振りで七つの手裏剣は弾かれ、あらぬ方向飛んでいく。
そのまま間髪入れずにクナイを一閃。

―――ガァン。

弾かれ、方向が狂った手裏剣の一つを捕捉してそれを相手に向かって弾き出す。

「どぉわぁあああ!!」

大げさな声を上げて、相手の獣臭い毛皮を常に被っている何処かの名家の子倅が慌てて回避を試みる。

動きにあまりに無駄が多すぎて、本当に自分と同じ名家の出だったか自信が無くなる。
獣じゃないんだから、道具ぐらい上手く使えと言いたい。

「―――瞬身」

小さく呟くと同時に足の裏にチャクラを集束させ、――――駆ける。
“瞬身の術”。割とメジャーな術で、忍者であるなら大抵の者は扱えるだろう。
瞬間的に静から動の移行する事で相手の認識を狂わせ、近接戦闘に持ち込む術。
それなりに実力があれば、正式な忍者ではない自分の様なアカデミー生でも使える。

しかし、それは本物ではない。

本来の“瞬身の術”はこの程度のレベルではない。
本来の意味でこれを極めたと言える忍者は恐らくは一人、彼の英雄のみだろう。

加速による世界の位相の中、
その様な意味のない事を考えている自分に苦笑しながら相手の背後を取る。

「あ、あぶねぇ。
てめッ、糞餓鬼、今本気で俺を殺る気だっただろ!!」

手裏剣を投げることで僅かに体勢が崩れたところ、間髪入れずに反撃。
全然想像の埒外の技に驚愕しながらも、頭部目掛けて来る手加減の無い一撃を必死で避ける。

ハッキリいって下手すれば死んでいた。

手裏剣は完全には避け切れずにフードを切り裂き、一張羅が台無しになるが、命在ってのことだ。
訓練で行き成り殺されそうになり、怒鳴る。
そんな彼の首筋に何時の間にか冷たい金属の感触が添えられていた。

「手裏剣を放つ事で崩れるバランス感覚の低さ。直線的で何の捻りも無い手裏剣術。僅か一つしか飛んで来ていないのに慌てた冷静さの不足と一つの手裏剣相手に二の手が打てなくなるほど身体を捻る体術の未熟さ。その後相手の姿を確認するより先に怒鳴るという戦闘に対する心構えの問題。・・・・・・貴方は何をしに此処に来ているんですか?」

酷く冷たい声で問題を告げられ、真新しい冷や汗を掻く。
相手は自分より頭一つは低い年下の女なのに、声を聞いている限りは全然そんな気がしない。
気分的には猛獣の檻の中に入った感覚だ。

(ま・・・まじ・・・?)

あくまで訓練であり、命のやり取りをしている訳ではないが、今は切実に己の命が心配になる。
彼、犬塚キバの脳裏には急速に彼女に呟いた悪口、悪戯の数々を思い出す。

曰く、若年寄。説教幼女。真っ平ら。色白餓鬼等々。

・・・・・・思い出せるだけで悪口は尽きる事を知らなかった。

「そう云えば、確か色々言ってくれましたね。名前も知らぬ方。
ああ、忘れたわけですけど、態々言わなくても良いですよ。・・・・・理由は解りますね?」

(――――や、やられる!?)

クナイに力が篭り、徐々に首に食い込んでくる。
ハッキリ言って漏らさなかったのは事前にトイレに行っていたことも関係するのだろう。

「其処まで、―――――双方引け!」

(引きたいのは山々だっつーの!!)

無茶を言う担任に悪態を付きながら、キバは緊張のあまり喉を枯々にする。
すると、相手はあっさり引いた。

「へ?」

てっきり、殺されないまでも色々やられると思ったキバとしては拍子抜けだった。
が、次の一言で相手の心が知れた。

「何を勘違いしたのか知りませんけど、
名前を言わなくても良いのは、どうせ貴方の名前なんて覚える価値が無いからです」

くす、嘲笑の一言。
幼い容姿と相まって凄まじい屈辱感が脳を駆け巡り、実力差を忘れ一気に頭に血が上る。

「こ・・・この糞餓鬼ィ」

「五月蝿い。実力を磨いてから吠えてよ、駄犬」

「―――テメェ!」

あからさまな侮蔑。
しかも自分の家すら持ち出した悪口に怒りのあまり何が何だか解らなくなる。
手裏剣を数枚掴む。先ほどは外したが、この距離なら―――――

「止めろって言ってるだろうが・・・・!!」

一瞬。そう表現する事しかできないほど速く、担任であるイルカは二人の間に割り込む。

「キバ。年上なんだし、少しは忍耐力ってものを鍛えろ!
そしてハナビ。お前もお前でキバを挑発するような事を言うな」

チッと舌打ちするキバと軽く瞳を閉じて嘆息するハナビ。
自尊心が高く、悪餓鬼の犬塚キバ。
冷徹に相手を馬鹿にする為、孤立しがちな日向ハナビ。

共にイルカの頭を悩ませる問題児である。
否。問題児と言えば、今期の生徒は問題児が揃っていると言っても良い。

「ふぅ、後が支えているから長い説教は無しにしといてやる。
だが、ハナビ。お前は少し協調性というものをだな」

「先生。―――今の訓練に対しての問題点は無いのですか?」

話の腰を行き成り折る凛とした声。
確かに授業態度より其方の方を言うのが先か、と思い直す。
(と言うかそうじゃないと右から左に流すだろう)

「ま、手裏剣術に関しては特に文句の付けどころはない。
クナイで弾いて相手に飛ばす、あんな技は手裏剣術を習得しなければ出来ない芸当だからな。
“瞬身の術”をみればチャクラのコントロールも問題ないだろう。
今の戦闘の技術にはケチのつけ様が無いさ。
戦闘そのものに関して言えば、色々言いたい事もあるが―――――」

「いえ、言いたい事は私なりに理解しています。
無駄が多かったのは、本気でやる必要性が見出せなかったからです。
技術の問題点がないのなら、良いです。――――では、私用がある為に早退します」

「―――って、おい!」

タン、と軽い足音と共にハナビの姿が消える。
先の訓練よりも速い“瞬身の術”に一瞬見失いそうになるが、直ぐに捕捉。
ハナビは校庭の中央から端へと一足飛びしていた。

「おい、まだ話は終わってないぞ!!」

そんな怒鳴り声など耳に入っていないのか、
ハナビはそのまま悠々とアカデミー校舎を抜けていった。

「たく、相変わらず協調性が・・・・・・」

「先生―、私も腹痛の為に早退しまーす」

「ああ・・・・・ってああ!?」

相槌を打った後、我に返り慌てて振り向けば、一人減っている。

「先生。いのが早退しましたー」

「・・・・・・いや、解ってるんなら、頼むから止めてくれ。シカマル」

「俺に、いのを止められるわけないじゃん」

「本心は?」

「めんどくせー」


――――嗚呼。拝啓、天国の父上、母上。俺、最近教師としての自信無くしそうです。


子供達の和気藹々とした他愛のない会話を聞きながら、イルカは地面に手を付いて脱力した。
そんな様子を尻目に、キバはハナビが消えた方向を睨んでいた。


―――――退屈だった。

毎日がどうしようもなく怠惰で、それを行う事が苦痛だった。
好奇心を刺激する様なものが存在せず、やりたいことも見当たらない。
目標とすべきものがなにもなく、目指すべき到達点が解らない。

自分でも可愛げのない子供だと、ハナビは思う。
だが、仕方ないとも思う。

恐らく自分は世の中の仕組みを知るのが速すぎたのだろう。
世界は打算に満ちていて、運命は残酷。世間は穢れていて、人は独り。

団子屋で座り、三色団子を小さな口で食べながら、忙しそうに歩み行く大人達を眺める。

「今日もアンコさんは居ない、か」

自分以外誰も客の居ない店を見て呟く。
仮にも特別上忍だ。そうそうこんなところで暇はしていないだろう。
だが、ハナビにとって気の許せる数少ない大人の為に、暇になるとついつい無意識の内にこの店に足を伸ばしてしまう。

――――そして何時の間にかアンコ以上の常連客となってしまった。

(ま、お団子は美味しいから良いのだけど・・・・)

店の主人も彼女を孫の様に扱ってくれるため、
アカデミー生が真昼間からこんなところに出歩いているのを然程強く咎めはしない。

「暇・・・・ですね。こんなことなら読みかけの兵法書でも持ってくればよかった」

説教を聴きたくないのでさっさと逃げ出したのだが、本はアカデミーの教室に置いたままだ。
それなりに面白い文献だったが、アカデミーに取りには戻れない。
今は良いが、家に帰ったら仕方ないから今日は代わりに別な本でも読もうかと思いを巡らせる。

「暇かね、ハナビちゃん」

「あ、聞いてましたか、店長さん」

恐らく御代わりのお茶を入れに来たのだろう。
好々爺とした雰囲気の店長はハナビにそう問いかけた。

「アカデミーは退屈かね」

「強いて言えば」

間髪知れずに答えるハナビに皺だらけの顔を面白そうに歪ませる。

「そうか。・・・・・まぁ、同い年の子も居ないんじゃな」

ハナビの隣に座り、自分で茶を入れて啜り出す。
確かに今は自分以外に客は居ないが、営業時間中に良いのだろうか、と考える。

「心配かね? 良いんじゃよ。そもそも趣味で始めた店じゃしな」

ハナビの表情から言いたい事を察したのかそういって朗らかに笑う。

「・・・・・潰れてもらっても困るのですが」

「大丈夫じゃよ。
仮に潰れたとしてもアンコの嬢ちゃんとの待ち合わせの場所など他に幾らでも出来るわい」

「別に、アンコさんとの待ち合せだけで、この店を評価している訳ではありません。
そう思っているのでしたら、私を含む他の常連さんの侮蔑です」

「ほっほっほっ。嬢ちゃんは優しいの。
おまけに美人じゃ。後数年経てば皆放っておかんぞ?」

その一言に視線を団子に落とす。
店長としては誉めているのだろうが、ハナビには嫌な言葉でしかなかった。

「優しさが異性を惹きつけるのでしたら、私は残酷な方が良いです」

「ふむ・・・・・」

迂闊だったか、と口を紡ぐ。店長とてあの事件の事は良く覚えている
確かに彼女の立場では男性嫌悪症になっても可笑しくない。
求愛に対しては嫌悪感で済んでいるのは軽い症状だと喜ぶべきだろう。

そんな彼等の前に幾人かの子供達が通り過ぎる。
年齢はまちまちで、ハナビと同じか、少々幼い子供が三人。
そしてハナビより年上の子供が一人。大声で騒ぎながら走っている。

言動から察するに忍者ごっこだろうと当たりをつける。
だが、小さい方の三人は兎も角、大きい方はどう見ても十は越えている。

(そんな歳で忍者ごっこ・・・・・・アカデミー生じゃないの?)

確かにアカデミー生は強制ではないが、里の大抵の子供は入っている。
アカデミーは忍者を育てる組織だが、それ以上に忍者の基礎知識を身に付ける組織という方が形態を言い表すには的確である。

此処は隠れ里。
いざとなったときは里中で戦闘になることが容易に推測できる。
だから、農家の子供でも、商人の子供でも、鍛冶師の子供でも、大抵はアカデミーに入り、身を守るための最低限の基礎知識と基礎戦闘技術を見に付ける事を推奨されている。

アカデミーは私塾ではない。
故に、学費は安いし、出世払いも十分利く。
だから、あの歳の子供が入っていないとは考えにくいのだが・・・・・・

(―――関係無い、か)

アカデミー生であろうが無かろうが、実際には自分とは関係ないだろう。
アカデミーで下忍に上がれるのは忍びの家系の人間か、余程優秀な素養を持つ必要がある。
こんなところで忍者ごっこをやっている人間にはどうしたって関係ないだろう。

そんな事をハナビが考えていると件の少年が此方に向かってきた。

「団子の爺ちゃん。何時もの団子を五本欲しいってばよ!!」

「相変わらず元気だね、ナルト君」

「それが取り柄だってばよ!」

ほっほっと笑いながら、ハナビに軽く会釈して、厨房へと戻る店長。
正直、こんな喧しい連中と一人で傍に居たくないのだが、仕方ないと諦める。

此処で御代を置いて帰るのは簡単だが、
団子も茶も食べ終わらずに帰るのはこの少年に負けたみたいで嫌だった。

「なあなあ、見かけない顔だけど誰だってばよ?」

「人に名を問うなら、己から名を明かせ、と言うのが一般的だと思いますが」

「か、堅苦しい喋り方だってばよ・・・・」

淡々と受け流すハナビにナルトと呼ばれた少年は嫌そうな顔をする。
しかし、気を取り直したのか、直ぐに満面の笑みを浮かべる。

「俺はナルト。うずまきナルトだってばよ」

何が楽しいのだろうか、と漠然とハナビは思った。
透き通る様な笑みを見ていると何か奇妙な感覚に駆られる。

もっと見たいような、それでいて見たくないような。

「でさ、でさ、お前の――――」

「日向ハナビです」

「へえ、日向か。―――何か格好良い苗字だってばよ」

「・・・・格好良い?」

ハナビには日向の姓にそんな思い入れは無い。
忌まわしき一族の名。古い慣習を守り、姉の見限った一族。
他の人間にそう感じる事は無かった。
だが何故か、この少年にだけはその名で呼んで欲しくなかった。

「出来れば、日向の姓で呼んで欲しくない」

無意識の内に呟き、反射的に口に手を当てた。

(――――何を言っているんだろう?)

こんな見知らずの相手に、何故自分の一族への確執の一端ともなりそうな事を話しているのか。
何時から自分はそんなに警戒心が薄くなったのか。

「分かった。ハナビって呼ぶってばよ。
だから、俺の事もナルトって呼んで欲しいってばよ」

それを友達の証と取ったのか、より笑顔を浮かべて手を差し出す。

まただ、と思った。
その笑顔は何故か癪に障る。苛付くような、安らぐような、見ていて不安定にさせる。

だから、その手を無視して立ち上がり、机の上に勘定を置く。
これ以上この少年といるのは自分にとって良くない事だと本質的に悟り、冷たい目付きで睨む。

「別に私は貴方と交友関係を築きたいとは思いません」

「何、怒ってんだってばよ?」

「怒ってなどいません。仮に怒ってるんだとしても貴方に関係はないでしょう」

「ハナビってば理屈っぽい・・・・・将来の夢とかあるのかってばよ?」

それはハナビの迫力に気圧された故の、会話を繋ぐ他愛の無い言葉でしかなかったのだろう。
だが、ナルトを押し退けてでも立ち去ろうとしていたハナビはその言葉に足を止める。

「――――」

ハナビにそんなものはない。
夢を見ていられる時間はとうの昔に無くしてしまった。

願えば、努力すれば何でも叶うと思っていた。
大名の件も、父や長である三代目に必死でお願いすれば何とかなると、本気で思っていた。
でも、現実は子供の空想では通らない。
大人でも、里の最高の忍者である火影でも、出来る事と出来ない事がある。

1個人ではどれだけ優れていても決して届かぬ高みがある。

才能があるとか、強いとか、それだけでは世界は変わらない。

ハナビが黙ってしまった事に怪訝な顔になったナルトだが、
直ぐに気を取り直し、己の夢を語りだした。

「俺は火影になるのが夢なんだってばよ。
火影になって皆を見返して、ものすんげー凄いことをして、
誰もが認める歴代最強の忍びに為りたいんだってばよ」

それは、ハナビの心の琴線に触れる禁忌の一つだった。
火影。最高の忍びにして指導者。そしてそれ故に姉を見捨てた存在。

だから、だろうか。気付けば―――――――


「火影・・・・・下らないですね」


他人の夢を、吐き捨てていた。


一気に険しい顔つきになるナルト。
夢を貶されれば誰でも怒る。その反応は当然だとハナビの冷静な部分はそう思う。
誰にも、その夢がどんなに愚かなことであれ、他人の夢を貶すなんて事をして良いわけが無い。

だが、止まらない。ハナビは此処に来て漸く、自分が真剣に怒っているんだと自覚した。


「火影なんて徒の指導者です。何も変わらない。
如何に優れていようが、火影一人ではこの国は何も変わらない」

「――――そんなことないってばよ!!」

ハナビの暴言に大声で反論するナルトに往来の人間や、
先ほど店長が持ってきた団子を食べていたナルトの連れが驚いて遠巻きに眺める。

ただ、店長だけが痛ましげに二人を眺めていた。

「三代目の爺ちゃんは、火影は凄ぇんだ。
この里で一番凄くて、この里で出来ない事なんて無ってばよ。
火の国でだって、三代目の爺ちゃんに敵う奴なんていないってばよ!」

「強ければ何でも変えられる?
それは愚考、妄想にすら劣る。どんな人間も個人では何も変えられない。
どんな力もより大きな力の前に潰される。
どんな意思も、大衆の前には飲み込まれて、――――消える。
貴方には想像もつかないかも知れませんけど、
この国は、この里は、火影達の忍びだけで回っているわけじゃないんです」

喋っている内にどんどん熱くなってきたのか、ハナビはナルトに向かって踏み出しながら続ける。

「火の国との外交問題。他の里の忍びとの友好関係から来る問題。民との調和。
全て、火影の力や一存だけで決められる問題じゃない。何でも出来るわけじゃない。
ましてや火影は指導者です。
―――――いざと言うときは、どの様な事情があっても大を救う為に小を切り捨てます」

「爺ちゃんはそんな事しない。絶対絶対皆を助けてくれるってばよ!」

睨み合ったまま、黙る二人。
二人の意見は平行線である。―――――だが、それも仕方の無い話。

ナルトは火影の人間的な部分と忍びとして尊敬する部分しか知らない。
ハナビは火影の指導者として冷徹に人を切り捨てる部分を知っている。

意見が平行線になるのは道理だ。

怒りに酔う二人。だが、真っ先に我に変えるのはハナビの方が速かった。
大体、ナルトと此処で論争しても何の意味も無い話である。

ふぅと微かに嘆息し、ナルトから視線を外し、身体ごと振り向く。

「平行線ですね。此処で貴方に私の考えを言ったところで意味の無い話でしたか。
まあ、いい歳して忍者ごっこなんてしている貴方が、火影まで到達するなんて万が一もないでしようから、貴方の夢を否定する意味もなかったんでしょうね。
そうですね・・・・・そんな貴方のささやかな空想を態々貶めたのは大人気なかったですね。一応誤っておきます」

しかし、未だに怒りが冷め切っていないのか喧嘩を売っているとしか思えない謝罪の言葉を吐く。
そして未だに頭に血の上っているナルトがそれを買わない訳がない。


「良いってばよ。其処まで言うなら、俺の凄っげーとこ見せてやるってばよ!!」


筆者の一言。
初めまして、月堕です。勢いで何故かNARUTOを書いてしまいました。
既にこの時点で原作と大分違う感じになってます。
本編を読んで解ると思いますけど、この話にはナルト以外に九尾が封印されていますし、ヒナタは既に木の葉に居ません。もし、執筆活動が続けばその事についても書く機会があるかと。
NARUTOの設定にそれほど精通している訳ではないので色々違和感は出るかもしれませんが、応援いただければ嬉しいです。


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