ネギ・スプリングフィールドは今まさに、自分が教えるべき教え子達と初対面をする為に、自ら2−Aへと続く扉を開けた。
彼の眼前は、まるで彼を至福するに真っ白な朝日のベールが彼を優しく包みこんで――
ボフン
―――訂正。
真っ白なチョークの粉が彼を困惑の渦へと包みこんでいった。
「ゲッホ、ゲホゲホ。」
彼は激しくむせる事となった。
彼の後ろでは、指導教員となったしずなが口元に手を当て苦笑いをしていた。
魔 法 先 生
ネギま!
Career of mistake
第03話
あはははははと、彼を見守る生徒達から浴びせられる笑い声。
ネギは思考をすぐに正常に戻す。
『コレは俗にいう黒板消しトラップ!!
まさか日本にもあるなんて・・・。
コレはきっと生徒達がボクをどんな人間か試す為の試練に違いない!
よし、ボクは決して怒らないぞ〜〜!!』
意外と大人な思考をしているようであるが、彼の浮かべた表情は笑顔の中にも何か哀愁が漂うものだった。
とりあえず、何となく悲しい気持ちを抑えつつ、演技で笑いながら教卓へと歩みを進める事にするネギ。
しかし、彼は甘かった。
日本の中学生は時に残酷になれるのだから。
ガッ
「へっ?」
足元に何か引っ張られるような、重くなるような感覚をおぼえた瞬間、ネギの体は徐々に床へと近づいていった。
意気込みよく進んでいた彼は、その場で倒れるだけでは済まず、勢いよく前方へとその身を投げ出した。
ドタン
「へぶっ!?」
顔面を強打するネギ。
しかし、それだけでは止まらず、彼の後頭部には更なる魔の手が忍び寄っていた。
とりあえず、かなり勢いよく、液体(水道水)+金属(ステンレス)の複合体が――すなわち、水入りバケツが!!
ガボン
「あぼ!?」
今度はネギの背後から急速に接近する三つの影。
それらは先端に丸い吸盤を付け、弦の力により高速に放たれる――そう、玩具の矢だった。
コレは殺傷能力は皆無だが、精神に傷を負わせるには多大な力を持つ。
そう、眉間にでも当たろうものならかなりプライドに傷がつく。
そんな恐ろしい罠なのだ。
パスッ、パスッ、パスッ
「あああああああっ」
しかも殆どの矢がネギの体へと張り付いていた。
当たり所は二矢がネギのお尻へ。
最後の一矢がバケツへ。
バケツはともかく、お尻は非常に痛い。
何が痛いって心が痛い。
眉間に食らうよりも遥かに心が痛いだろう。
ドガン
「ぎゃふん!」
そして、ネギの2−Aへの入場は終わった。
そう、目的地でもある教卓へたどり着いたのだ。
ぶつかったとも言うが・・・。
そんな中、コントでも今では中々見れない凄まじい状態に、2−Aの生徒達は大喜びだった。
しかし、そんな喜びも彼の容姿を見た瞬間止まってしまう。
そう、相手が自分達より年上の男性ではなく、年下の少年だったからである。
「えーっ!? 子供!?」
「君! 大丈夫!?」
「ごめんなさい。テッキリ新任の先生だと思って・・・。」
2−Aの生徒達が彼へと駆け寄り助け起こす。
ネギは未だに頭がクラクラするが、『怒らない、怒らない、怒らない、僕は先生、僕は先生、僕は先生』と心の中で何度も唱えながら、立ち上がった。
そんな中、ネギの後ろに控えていたしずなを両手を叩きながら生徒達を自分の席へと戻らせる。
「はいはい、皆席に戻って。
とりあえず、自己紹介をしてもらいますから。
さぁ、ネギ君。」
「あ、はい。」
ネギはバケツトラップにより水浸しなのだが、しずなはそんなネギを放っておいて話を進める。
意外と酷いお人である。
「あ、あの。
今日からこの学校で、まほ・・・英語を教えるになりました。
ネギ・スプリングフィールドです。
三学期の間だけですが、よろしくお願いします。」
緊張というよりも、見知らぬ年上の女性達の視線におっかなびっくりのネギ少年。
そんなネギの自己紹介を静かに聞いていた2−Aの生徒達だが、2−Aの中で3人ほど他の生徒達とは違う目で彼を見ていた生徒がいた。
まあ、2−A全生徒の中には真っ白なままの某出席番号8番の生徒が居たが、今のところ誰にも気に留められていなかった。
そんな某8番さんは置いておいて、ネギは自分に向けられている複数の視線の中にある、2つの困惑の視線と1つの怒りの視線に気が付かなかった。
何故なら、ネギが自己紹介を終えた次の瞬間、2−Aの生徒達が一斉に教卓へと――いや、ネギへと襲い掛かったからである。
ちなみに2−A女子達はただ勢いよく歩み寄っただけであるが、ネギには獲物にたかる肉食動物の様に見えた事であろう。
「「「「きゃあああああ!! かわいい〜〜!!」」」」
一体幾人の生徒がその言葉を放ったのだろうか。
まさにその声は怒涛の勢い。
ネギの日本の女性への印象が、『恐怖』となった瞬間だった――かはともかくとして、今現在非常にネギが怖がっているのは確かである。
「ねぇ〜ねぇ〜、何歳なの〜?」
「どっから来たの? 何人!?」
「今何処にすんでるの!?」
怒涛の勢いで迫り、怒涛の勢いで質問をする2−Aの女生徒達。
質問のついでなのかどうなのか分からないが、ネギへと抱きつくものも現れだした。
まるで甘いお菓子を発見したアリのように、女生徒達はネギへと抱きついていった。
『ぐ、ぐるじぃ〜!!
息が出来ないよ〜〜!!
あ、甘く見ていた、これが日本の試練なの〜!?』
ネギは抱きつかれながら、周りの女生徒達の圧力により、どんどん息が詰まっていった。
『うう、ぼ、僕は怒らないぞ〜!!
お、怒らないけど、泣いてもいいんだろか・・・。
試練って言うより、イジメだよ〜、こんなの〜。
うわぁあああん、お姉ちゃん、助けてよ〜〜〜〜!!!』
やっぱりまだまだお子様だったようだ。
結局姉に助けを求め――距離的にも物理的に助ける事は不可能と思われるが――心の中で泣いてしまうネギ。
そんなネギの様子に気が付かない2−Aの生徒達。
結局その騒動は、ネギが女生徒達の圧力に屈し、意識を手放すまで行われていた。
イジメというよりも、もはや拷問と言っても過言ではないであろう苦行によって、ネギの第一回の授業は自習という事になってしまうのであった。