「好き」の導火線
それは祐巳様の他愛のない悪戯から起こったのでございます。
●彼女は見ていた…ってストーカーかよ、このメガネ編
武嶋蔦子さんの場合
「さ、最近の祐巳さンは、し、刺激が強すぎる・・・」
些かはしたないが、両の鼻にクリネックス・ティシューを盛大に突っ込みやがったまま、祐巳様が妹たち(を含めた下級生、どころか志摩子さんの胸を揉んでるヤツ←志摩子さんは幸せそうに赤面中、檄レア!や由乃さんに頬擦り(KISS寸前!)してるヤツまでありやがる!?)にセクハラしまくりやがっている写真の現像作業に熱中していやがる、このメガネの少女。
名前を武嶋蔦子さんと言う。
リリアン女学園で知らない者はないというほどの有名人である。良い意味でも悪い意味でも(汗)。
ある時は芸術写真として伝説となり、リリアン女学園に永遠に残るであろう不朽の名作「躾(しつけ)」を写したカメラマン。
ある時は制服が汚れることさえ厭わず草むらにアンブッシュしまくり、たった一瞬の盗撮にすべてを賭けるパパラッチ←…マテや、このメガネ(滝汗)。
ある時は紅薔薇のつぼみ・福沢祐巳様の貴重な助言者にして頼りになる友人、またある時は騒ぎの扇動者。
折々に立場を変えながらも彼女のスタンスは全く変わらない。
すなわち、祐巳様を写す。これだけである。
高等部1年生のとき、偶然クラスメイトになった祐巳さンを、いつものように何げなく写したのだ、蔦子さんは。それが運命の選択になるなんて、考えもせずに…。
偶然写した数枚の写真の中の彼女の表情に魅せられ、蔦子さんはものすごい勢いとものすごい自制心で祐巳さンを写し続けた。
姉妹(スール)制度があり、クラスの大半が姉を持つ中で、姉を持たない者同士でなにかと祐巳さンの世話も焼いてきたのだ。
そして、運命の一枚を手にした蔦子さんは、祐巳さンを一気に押し上げたのだ、運命の表舞台に。
既に時計の針は深夜2時半を回っている。しかし、やめられない止まらない。
現像は終わったができあがった写真の整理があるのだ。表用、表用(新聞部→真美さん)、表用(山百合会→由乃さん、令様、乃梨子さん、双子の怪獣)、裏用(シスター上村他教職員女性有志一同)、裏用(山百合会最高顧問=蓉子様&志摩子さん)、裏用(祥子様取引分)、Myコレクショ〜ン(さらに秘蔵♪)とあたりを付けて複数枚ずつ仕上げていかなければならない。
もし仮に、裏用の写真リストが一般に出回った場合、ひっじょ〜〜にヤヴェことになるだろう…蔦子さん自身の安全とそのコレクションが(冷汗)。
乙女の園、淑女を目指す伝統ある女学園リリアン、しかしその実態は「祐巳様萌え」の一大集団であり、最近はOGや先生も巻き込んでいるのでキリはない(キッパリ)。
上流階級に独自のコネクションを張り巡らし、一定以上の影響力を世界に有するリリアンOG…ある意味危険がいっぱいであった。
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ(はぁと)」
不気味な笑い声とともに現像した写真を確認しながら振り分け時々悦に入るというその行為は夜更けまで続いたという…。
さて、翌朝である。
実は武嶋蔦子さんの朝は早い。どれほど夜遅くなっても、6時には起きて一日の装備を整えなければならないからだ。
当日学校に持ち込む機材、基本的に余程のことがない限り(つまり学園祭や修学旅行等のイベントが無い限り)持ち歩くのはカメラ1台と決めている蔦子さんである。
本日のチョイスはCONTAX Tであるらしい…35mmフィルムにこだわる蔦子さん好みの逸品だ。
『今日も祐巳さんの良い写真が撮れますように』
何かを著しく間違えているような気がするが、一途な祈りをマリア様に捧げると、蔦子さんは出撃するのだ、自分の戦場へ。
あ、朝ごはんはトースト1枚、ベーコンエッグ、サラダ、コーヒーでした、まる♪
銀杏並木を通り過ぎるとマリア様の像がある。
そこで一生懸命に祈りを捧げるのは、今となってはリリアン女学園の唯一の良心。
下級生にとっては理想の姉(グラン・スール)、上級生にとっては理想の妹(プティ・スール)、同級生にとっては姉もしくは妹にしたい存在として最も愛されている一人の女生徒。
それが紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブトゥン)福沢祐巳様であった。
今日はどうやらお一人で早めにご登校なさったらしい。
祐巳様を取り囲む騒ぎの根源である、重度の妹狂い(スール・ホリック)の紅薔薇様(ロサ・キネンシス)小笠原祥子様や、全下級生の羨望の的である、祐巳様の妹である双子の紅薔薇のつぼみの妹(ロサ・キネンシス・アン・ブトゥン・プティ・スール)、通称・双子の怪獣であるデコボココンビ、松平"ドリル"瞳子さんと細川"ジャンボ"可南子さんはいないらしい。ぢゃなきゃこんなに平穏なはずはない(キッパリ)。
「ごきげんよう、祐巳さん!今朝は早いねぇ」
「ごきげんよう、蔦子さん♪ 蔦子さんを待ってたのよ、今日は(はぁと)」
や、やヴぇ…ぜってぇなンかを企んでいる…。祐巳さンのツインテールがものゴッツ楽しそうにピョコピョコ揺れている。危険だ、この祐巳さンは危険すぎる!!
今となっては遅いが、蔦子さんは誘い込まれたのだろう、祐巳様に(汗)。
最近になって祐巳様がよく使う、撒き餌(この場合祐巳様ご本人)と誘導…すでに周囲の人気は無く、完全に誘い込まれたのが解る。
これが夏休みで覚醒し、最強と謳われた先代紅薔薇様・水野蓉子様の才能、戦略戦術を受け継いだと言われる、最近の祐巳様の十八番(おはこ)の一つ「誘い込み♪(はぁと)」であった。
「蔦子さん…す・き・よ(はぁと)」
台詞を聞いた瞬間、自分の顔が紅潮するのがわかる。
これだ!これなのだ!!祥子様を、双子の怪獣を失神させ、由乃さんを病院送りにした!!
意識を手放す寸前、無意識に収めた最後のシーンは、満面の笑みを「私だけ」に向けた祐巳さんだった…。
私、武嶋蔦子には誰にも言えない「秘密の宝物」がある。
それは祐巳さんが私だけに向けてくれた笑顔を切り取った、私最高の一枚だ。
例え悪戯だったとしても、私だけに微笑んでくれた祐巳さん。
これだけは私と祐巳さんとの秘密である。
終わり
あとがき
とりあえず、死亡説が流れていますが(いないいないw)生きてますので久々に投下して見ました。
でも、祐巳様と蔦子っち、いいコンビだなぁ(笑)