i wish you were here
〜貴方が此処に居て欲しい〜
第一話 来訪者は虹色の光と共に
〜ネルガル本社ビル・会長室〜
「来たみたいだね」
そう言うのはネルガル会長のアカツキ・ナガレ。
其の視線の先は、虹色の光で溢れている。
ボソンジャンプの印だ。
光が収まり、代わりに其処に姿を現したのはアキトとラピスである。
「一体何のようだ?」
ドカッと椅子に座って言うアキト。
ラピスは其の隣にちょこんと座る。
「いや〜そろそろ此処もやばくなって来たんでね。其れを君に伝えようかと思ってね。序に、君がこれから如何するかを聞きたくて、此処に呼んだんだ。」
書類を片付けながら言うアカツキ。
「そんなもの、通信で事足りるじゃないか」
解答に不満を持ったアキトは、不機嫌そうに言う。
「それでも良かったんだけど、直接君と向かい合って話がしたかったからね。僕が月の方に行っても良かったんだけど、ご覧の通り。仕事が片付かなくてね」
相変わらずせっせと書類を捌きながら言うアカツキ。
「それで俺を呼んだわけか」
明らかに呆れた顔をして言うアキト。
しかし、アキトを呼んだ本当の理由は・・・・・。
―――本当は彼女が此処に居るからなんだけどね〜。
である。
実は会長室の隣にある応接室に、アキトの事を慕って居る一人の女性が居るのだ。
そう。
電子の妖精こと、ホシノ・ルリである。
最近行方がつかめなかったアキトと、ネルガルに繋がりがあると考え、アカツキを脅したのだ。
―――これ、何か解りますよね?
素敵な笑顔と共にそう言った彼女が手に持っていたのは、アカツキのプライベートのデータがぎっしり詰まったディスクであった。
ご丁寧に、『ネルガル会長のまるひデータディスク(はあと)』などと書いてあった。
そのディスクと引き換えに、アキトを此処に呼んだのだ。
実際、そのディスクを見ると自分しか知らないはずの、あ〜んな事やこ〜んな事が入っていた。
「で、君はこれから如何するんだい?」
内心、親友に謝りながら言うアカツキ。
それに無言で居るアキト。
「草壁も北辰も、山崎だって君が殺したんだ。復讐は終わったはずだろ?」
「ああ。俺の復讐は終わった」
その質問には直ぐに答えるアキト。
「それなら、これから如何するんだい?」
再び、同じ質問。
「俺は――――、この子と共に生きようかと思う」
アキトは静かに、しかしはっきりと告げた。
「―――それは本気で言ってるんだね」
アキトの決意を感じ取ったアカツキが言う。
「ああ。俺の復讐の片棒を担がせてしまったこの子の為に、償いとは言わんが、この子の傍に居てやりたい」
ルリちゃん達には悪いけどね。
アキトは苦笑しながらそう付け足して言った。
「そうか・・・・・。ユーチャリスとブラックサレナだけど、君達が持って行ってくれて構わないよ。二つとも、君達専用に作り上げた物だからね。餞別代りに持って行くといい」
親友が前まで言っていた、――亡霊は消えるまでだ――という言葉を気にしていたので、生きると言ってくれただけでも嬉しかった。
―――ルリ君達には悪いけど、彼にとっては其れが一番かもしれない。
そうも思ったゆえの決断である。
「用はそれだけか?」
と、アキト。
「ああ。もう行っていいよ」
アカツキがそう言うと、アキトはラピスを伴い虹色の光と共に消えた。
「さて、ルリ君にはどう言ったものか・・・・・・」
当面の問題はそれだった。
一人途方に暮れるアカツキであった。
〜月・秘密ドック〜
アキト達がジャンプアウトしたのは、ユーチャリスが補給作業を受けている月のドックだった。
「エリナ、補給のほうはどんな具合だ?」
「ご覧の通り、完了したわ」
ユーチャリスを指差しながら言うエリナ。
「有難う。俺達はもう出発するよ」
アキトはそう告げると、ユーチャリスに乗り込んだ。
暫くすると、ユーチャリスは光に包まれ其の姿を消した。
後に残ったのは、哀しそうな顔をしたエリナだけだった。
アキト達は当ても無く宇宙を彷徨っていた。
「ラピス。これから何処に行きたい?」
ラピスの髪を梳きながら言うアキト。
「アキトと一緒なら何処でもいいよ」
梳かれるのが気持ち良いのか、目を細めて言うラピス。
その時、ユーチャリスのAIである『オモイカネ´』から報告が入った。
<マスター、連合軍が攻めてきました。どうやら本腰を入れて来たようです>
其れを聞いたアキトは席を立つと、ラピスに言った。
「俺はサレナで出る。ラピスはバッタで牽制してくれ」
「解った」
ラピスの返事を聞いたアキトはそのまま格納庫に向かった。
サレナに乗り、サレナ搭載の戦闘サポートAI『サレナ』に機体状況を聞く。
「サレナ、出れるな?」
『YES、何時でも出れます』
其れを聞いたアキトは、ブリッジに通信をつなげ一言。
「ブラックサレナ、出る!!」
戦闘、開始。
ズガガガガッッ!
ハンドカノンを連射し、敵を牽制する。
前方には連合軍の艦隊が。
「サレナ、敵の数は?」
『戦艦・百、機動兵器・五百です』
報告を聞くと、口の端を吊り上げる。
―――嘲笑である。
「その程度で俺を止められると思うなよ?」
丁度その時、敵艦隊から通信が入った。
ピッ
『S級テロリスト犯、テンカワ・アキトに告ぐ! 大人しく武装解除し、投降しろ!!』
「ハッ! 降伏させたければ力ずくで来い!!」
そう告げると一方的に通信を切り、攻撃を開始する。
ズガァァァァァァンッッッ!!
向かってくる機動兵器を次々と破壊していくアキト。
幾度と無くジャンプを繰り返し、敵の真っ只中に飛び込んでは破壊の限りを尽くしていく。
今では半数以下に減った敵を前にし、アキトはスパートをかける。
「堕ちろッ!」
ズガガガガッッ!
ズガガガガッッ!
ズガガガガッッ!
ハンドカノンを連射。
コックピット、或いは間接部をピンポイントで狙う。
その時、衝撃がサレナを襲った。
ズガァァァァァァンッッッ!!
「ぐっ!」
衝撃に顔を歪め、サレナに状況を聞く。
「サレナ、今のはなんだ!?」
『ボソン砲による砲撃かと思われます』
其れを機に、ステルスで隠れていたのだろう。
新たな機動兵器や戦艦が姿を現す。
そしてそれらに共通するのは――――、
「火星の後継者と手を結んだか・・・・・」
そう、火星の後継者を現すエンブレムである。
スラスターを吹かし、この場を退避しようとする。
が、スラスターは動かない。
ズガァァァァァァンッッッ!!
「くっ!」
それをチャンスとみたか、敵は更に攻撃を加えてくる。
「サレナ、如何した!?」
『スラスターが破損しています! ジャンプによる退避を!!』
ズガァァァァァァンッッッ!!
そうしている間にも、攻撃は加えられている。
「ジャンプ!」
其の直後。
ズガァァァァァァンッッッ!!
ピー、ピー、ピー。
アラームがなる。
「がぁぁぁぁっ!」
衝撃がコックピットを襲う。
『ジャンプフィールドに損傷! このままでは――――』
サレナの言葉を聞き終わる間もなく、アキトを乗せたブラックサレナはジャンプした。
そして、それ以降サレナの姿を目撃した者は居ない。
―――2197年十月二十日、ユーチャリス撃墜。
同日、ブラックサレナロスト。
後にこの日は、『史上最悪のテロリスト犯最後の日』として、歴史に残った。
〜此処では無い何処か〜
「・・ター、・・・・・さ・!」
――誰かが俺を呼んでいる。
「マ・・ー、起きて・・・い!」
――誰だろう?
俺はもう寝たいんだ。
「マスター、起きて下さい!」
――ますたー?
俺の事か?
「んっ・・・・・」
――光が、見える?
まて、ラピスと離れ離れになった今、リンクは機能していない筈だが?
念の為に確認してみるが、其れは変わらない。
確かにリンクは切れていた。
そして、其処には見知らぬ少女が。
「マスター、解りますか?」
少女が聞く。
「君は誰だ?」
どうやらアキトは膝枕をされているらしい。
「マスター、私が解らないんですか?」
哀しそうに言う少女。
「お前、サレナか!?」
自分の事をマスターと呼ぶのは、サレナか´しか居ない。
しかし´は此処に居ない。
自分はサレナとジャンプしたからだ。
消去法で考えると、残るはサレナしか居ない。
「はい! そうです、サレナです」
自分の事を解ってもらえて嬉しいのか、笑顔で言うサレナ。
「それで此処は?」
自分の目が見えることも疑問に思いつつ言うアキト。
「私達が居た世界とは別なのは確かです。しかし此処が何処なのか、そして何故私が肉体を持ったのかは不明です」
アキトの役に立つ事が出来なくて悔しいのだろう。
少しすまなさそうに言うサレナ。
其処に、五色の光が溢れ出す。
「これは一体・・・・?」
この後、アキトは衝撃の事実を知ることとなる。
後書き
第一話お送りしました。
先ずは、ここまで読んで下さった方に感謝を。
今回新規投稿になったのは、パスワードエラーによる為です。
管理人様には申し訳ない。
この場で謝罪させて頂きます。
では、感想・誤字報告。お待ちしております。