舞い、流れ、纏い、紡ぎ・・・・手繰る
その織糸のまるで流水のような動きは幻想を含み
闇の中の織糸に反射する光でそれは輝線のように舞を想わせる
男はそれが己の命を奪う為のモノだということを、輝線が己の周囲を巡り遠くなる意識の中で初めて気付く
遠くなる意識の中で
それは舞繰る織糸のように 第3話
昼間は子供の笑い声や喧騒に賑わう雛鳥の家も夜更け・・・午後11時を過ぎると起きてる人間は限られる。
消灯をすぎた暗い建物は昼間の装いを知るものならば別の場所と考えるほどである。
次の日の朝になればまた賑やかな一日が戻ってくるのだが。
【園長室】と色とりどりのクレヨンで描かれたプレートの貼られた部屋には、その起きているのが限られた者・・・・二人がいた。
園長の牧村とのび太である。
園長室といっても備え付けられているものは、やや大き目の木製の机と来客用のソファー、アルミ製の棚というどちらかというと質素で冷たい印象を与えるものなのだが、その部屋を使用している人物の人柄からかその部屋にはどこか暖かな雰囲気があった。
のび太はソファーに浅く腰掛け、あや取りに耽っていた。
楽しそうな鼻歌を嬉しそうに響かせながら。
その様子は二十歳を越えている青年ながら、まだ容貌に幼さを残す――それは性格にも起因しているのだが―――という印象を強めるものだったのだが、のび太自身はそれを気にした風もなく。
牧村は書類整理―――役所に提出するものや里親に関するもの等の書類を作成していたのだが、天井からの灯りが人影に遮られたのに気付き顔を上げた。
といってもこの部屋にいるのは、牧村を除けばのび太一人なのだから書類を作りながら用件を聞けばいいのだが、それをしないで目を見て話す事を心掛けている事も牧村の人柄といえた。
「どうしたの?のびちゃん。」
その声は昼間の声と変わらない。
昼と夜で違う顔を見せるこの場所で唯一変わらぬ物といっていいのかもしれない。
もう40も半ばを越えた年齢ながら夜遅くまでの書類整理・・・その疲労を感じさせないものだった。
・・・・・ソッ・・
のび太は慣れた様子で、懐から厚みのある封筒を取り出し机の上に置いた。
「今月のお金です・・・・・使ってください。」
幾度となく繰り返してきたことなのだろう、これもまた慣れた風に言葉にした。
のび太の顔にはただ、微笑が浮かんでいた。
あや取りに耽っていた時の幼さは形を潜め、年相応・・・大人の顔をしながら。
「のびちゃん・・・・有り難う。」
牧村も多くは語らない。
けれど感謝の念を伝えることは忘れない・・・・それが幾度繰り返されようと。
その時の牧村の表情はいつも悲しみが滲む・・本人も気付かないほど小さなもの。
のび太はソレに気付かぬ振りをして、彼もいつもの台詞。
「いいんです。僕の両親もきっと・・・・喜んでますから。」
そのお金はのび太の両親が交通事故で亡くなった時の保険金。
その金額があまりにも大きすぎた為、のび太の親戚が自分がお金の価値が分かる―――成人してから毎月支払われるように保健会社と調整した。
それを牧村に毎月渡している・・家族の約束事のために。
――――と牧村には説明している・・・3年間。
最初牧村はそのお金を受け取ろうとはしなかった。
それがのび太の両親が残したお金であった以上、自分自身の為に使うべきだ・・・そう牧村はのび太を諭した。
けれど――――
「僕も・・・家族を守ります。」
――――その言葉が牧村にのび太が大人になったということを気付かさせた。
それに含まれた決意にも・・・何がのび太を変えたのかは分からなかったが。
のび太はいつも、この時の牧村の悲しみを僅かに滲ませた顔を見るのが嫌いだった。
それを出さないために表情に笑顔を貼りつかせる・・・仮面のように。
いつもこの時思い出す・・・・・3年前のあの時を。
それは冷たい記憶・・・暗い路地裏。
いつも、思い出す。
続きます