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「緋色の短冊(GS)」

あらすじキミヒコ (2008-07-01 18:14)

「あっ!!
 そーいえば『天の川』って英語で……」
「たしかに『ミルクの道』って言うわね」

 私がポンと手を叩くと、それに美神さんが反応してくれました。
 私たちの横では、タマモちゃんとシロちゃんが、

「……これのどこがロマンチックなの?」
「さあ……?」

 と不思議がっています。

(あら……!?)

 二人には分からないのかもしれませんが、今、目の前で繰り広げられている光景は、とってもロマンチックなんですよ?
 だって、織姫さまと彦星さまが抱き合っているんです。それも、バキバキと音を立てるほどの強い力で。
 実は織姫さまは、牛乳をドッサリかぶってしまい、誰も近寄りたくないような臭い状態です。だけど、彦星さまは全く気にしていません。

(これが本当の愛……!
 匂いや外見なんて
 どうでもいいんですね)

 彦星さまとは違って、世の中には、外見に騙されてしまう男の人もいます。
 私は、ふと後ろを振り返りました。
 シェルビー・コブラでガードレールに激突した横島さん。彼は、まだハンドルを握ったまま、頭からドクドクと血を流していました。

(横島さん……)

 織姫さまの今夜の浮気相手に選ばれてしまって。
 織姫さまの変身能力に惑わされてしまって。
 なんとか『浮気』を未然に防ぐことは出来たので、喜ぶべきなのですが……。
 私の気持ちは、ちょっと複雑です。幸せ一色ではありません。
 だって、織姫さまが『横島さんの好きなおなご』として化けていたのは、ずっと美神さんだったんですから。


    緋色の短冊


 美神さん、シロちゃん、タマモちゃんの三人は、美神さんが運転する車で帰りました。
 私ひとりが、横島さんをヒーリングするため、事故現場に残りました。
 事務所の面々にとって、横島さんの流血は既に見慣れた光景です。でも、これは交通事故なんですから、キチンと癒してあげる必要があると思ったんです。

「やっぱり……
 横島さんが一番好きな女の人は
 ……美神さんなんでしょうか」

 膝の上にのせた彼の頭に対して、私は問いかけます。
 えへへ。
 もちろん、今、横島さんに意識はありません。だから、ふだんは恥ずかしくて口に出せないことも、今なら言ったり聞いたり出来ちゃうんです。

「私のことは……どう思ってるんですか?」

 美神さんは、女の私から見てもステキな女性です。だから横島さんが心惹かれるのも理解できます。
 でも……。

「少しは私のことも気にしてください」

 それが女心です。
 私自身の気持ちだって、どの程度『好き』なのかハッキリしてないんだけど、それでも、横島さんには望んでしまいます。

「たまには私にも……目を向けてください」

 例えば、今夜だって。
 美神さんたちは普通の服装でしたが、私は七夕らしい格好をしてたんです。
 天の川と笹竹と短冊を模様としてあしらった浴衣。
 自分では気に入ってたんだけどなあ。
 横島さんに対しては、まったくアピールにならなかったみたいです。

「私のセンスって……ちょっと古くさいんでしょうか?」

 と、私がつぶやいた時。
 横島さんが、パチッと目を開けました。


___________


「横島さん……?」

 もう迂闊なことは言えません。
 とりあえず名前を呼びかけてみたのですが、返事をしてくれませんでした。
 よく見ると、まだ目の焦点が定まっていない感じです。
 それじゃあ、横島さんの意識がハッキリするまで、もう少し今の姿勢を維持しましょうか。

「うふふ……」

 こうして横島さんを膝枕しているのも、なんだか幸せです。
 私は、膝と右手で彼の頭を抱きかかえながら、左の手でヒーリングを続けました。
 しばらくの間、そうしていると……。


___________


「今度はおキヌちゃんに化けたのか!?
 卑怯者ーッ!!」

 そう言いながら、突然、横島さんが飛び退きました。
 どうやら、回復はしたものの、私のことを織姫さまだとカン違いしているようです。
 でも、これって酷いですよね?
 『美神さん』に化けた織姫さまにはメロメロだったくせに、『私』からは逃げるなんて!

(もう……!)

 ちょっとムッとしたので、少しイタズラしちゃいます。
 織姫さまのフリをしてみるんです。

「このおなごは……イヤか?」

 そう言いながら、私は横島さんに歩み寄りました。
 横島さん、ジリジリと後退していきます。

「どうした?
 逃げることはなかろう?」

 不敵に笑う織姫さま……を演じているのですが、心の中では、私ちょっと傷ついてます。

(……そんなに魅力ないのかな)

 と思ってしまったのです。
 すると。

「イヤとかそんなんじゃねーよ!」

 横島さんが叫びました。


___________


「おキヌちゃんに手を出したら
 ……完全に悪者じゃねーか!」

 え?

「おキヌちゃんは……おキヌちゃんは、
 そういう存在じゃないんだよーッ!!」

 トクン。

 横島さんの絶叫を受けて、私の胸が鳴りました。


___________


 えーっと。
 『そういう存在じゃない』という言葉は、色々な意味に受け取れます。

「色気も何も感じないんだ!」

 というニュアンスで使われたのなら、私は悲しむべきです。
 でも……。

「手を出したいけど、出しちゃいけないんだ!」

 と神聖視されているなら、ちょっと嬉しいです。

(えへへ……)

 そうなんですよね?
 そう思っていいんですよね?
 私の自惚れじゃないですよね?
 確認のために、もう一歩だけ、踏み込んでみることにしました。


___________


「ふふふ……。
 本物に手を付けるには罪の意識があるのだな。
 では偽物のわらわだったらどうじゃ?
 『おキヌ』をモノにするチャンスだぞ」

 そう言いながら、私は、横島さんに顔を近づけました。
 きゃーっ!
 我ながら大胆です。
 織姫さまのフリしてると、ここまで出来ちゃうんですね。
 でも……。
 これくらい大胆に迫らないと、なかなか横島さんの本音は聞けません。
 以前の『大好き』発言だって、なんだか有耶無耶にされてしまったんですから。


___________


 そんなことを私が考えていたら、

「うぎゃーッ!?
 誰か止めてーッ!!」

 と叫びながら、横島さんが飛びかかってきたんです。
 心の準備もなかった私は、その場に押し倒されてしまいました。

(いゃん!)

 横島さんの手が、私の背中を撫で回しています。
 男のコなんだから――しかもスケベな横島さんなんだから――本当は別のところを触りたいのでしょうが、まだまだ遠慮してるのでしょうか。
 ……なんて分析してる余裕、私にはありませんでした。
 彼の腕の動きがだんだん大胆になってきましたし、それに、好きな人に体を触られていたら、私だって……!


___________


「もう……。
 そういう気持ちがあったのなら、
 ちゃんと私に言ってください」

 目を閉じて、横島さんの手に身を委ねたまま。
 私は小声でつぶやきました。

「……え?」

 横島さんの動きが止まります。
 どうやら、織姫さまではなく本物の私だということに、ようやく気付いたようです。

「でも……そうなんですよね。
 私が怒っちゃったから流れちゃいましたけど、
 前に『大好き』って言った時、横島さんは
 『おキヌちゃんでいこう』って言ったんですよね」

 ここで私は目を開けて、横島さんの顔を見つめました。
 横島さんの頭は私の胸の辺りに埋もれていたのですが、今は彼も顔を上げて、こちらを見ています。
 そうやって二人の視線が絡み合っている間に、私は質問をぶつけてみました。

「今でも……まだ……
 『おキヌちゃんでいこう』って思ってくれてますか?」


___________


 横島さんは、何も言わずに、ガバッと体を離しました。

「そうやって逃げちゃうのが
 ……横島さんなんですよね」
「いや……その……」

 しどろもどろな横島さん。
 視線もキョロキョロと動いていましたが、それが突然、ハッとしたように一点で止まりました。
 横島さんが見つめているのは、私の浴衣です。少し遅れて、私も、その意味に気付きました。

「あっ」

 いつのまにか、私の浴衣は汚れていたんです。
 でも、頭から血を流していた横島さんを膝枕したり、彼に抱きつかれたりしたんですから、考えてみれば、これも当然の結果ですね。
 ちょうど短冊のいくつかに、血が付いていました。
 短冊全体が赤く染まったものもありますし、血文字で何か書きこんだように見えるものもあります。

「ごめん、おキヌちゃん。
 せっかくの浴衣が……」
「ほら、また……
 そうやって話をそらすんですから」

 謝ろうとする横島さんを、私は止めました。
 これはこれで……。横島さんの色に染められたみたいで、なんだか嬉しかったんです。

「いいんですよ、気にしないでください。
 だって……」

 微笑みながら、私は、スーッと近寄りました。
 また逃げられちゃうかなとも思いましたが、今度は大丈夫でした。
 逃さないようにキュッと抱きついて、彼の耳元で囁きます。

「この短冊に私が書きたかった願いは……」


(緋色の短冊・完)


______________________
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 こんにちは。
 七夕のエピソードでは、せっかくおキヌちゃんだけ浴衣を着てたのに、おキヌちゃんの扱いは既に脇役のようだと(個人的には)感じました。
 おキヌちゃんファンとしては少し悔しかったので、こんな話を作ってみました。浴衣のガラに着目した物語です。
 これも以前に投稿した横キヌ短編と同系統だと思うので、こちらに投稿させていただきました。やや曖昧にしている部分もありますが、読者の方々が色々想像していただければ、私としては嬉しいです。


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