「い…いやだぁあぁぁぁぁぁ!美神さん!美神さん助けてー!!」
横島は今非常識な人生でも最高レベルの危機に瀕していた。
「私は死という名の刈り入れ人。主の命によりおまえの魂に平穏を与えにきた」
ユリ子の魂の尾を切るのを諦めた死神は、ついでにすぐ傍で死に瀕していた横島の魂を刈り取りに来たのだ。
その後、一日が経った朝横島は静かに死神によって死を迎えようとしていた。
…静かとはいえないかもしれないけど。
「平穏なんているかー!俺は美神さんを落とすまで死ねんのじゃー!」
横島の魂の尾が今にも切り落とされそうになる。
「無駄だ。運命には逆らえぬ、諦めよ…」
ビュッ!!
死神の鎌が振りぬかれる。
ズバッ!という音と共に横島の魂の尾が切り裂かれた。
「ぁ…?あれ?わっ!?ちょっと待った!」
尾が切り裂かれた横島の霊体は宙へ浮いていき、体が飛び出す。
「刈り取ったぞ。さぁ、黄泉の国へ案内しよう」
「冗談じゃねー!いやだっ!?俺にはまだやるべきことがーー!」
宙を泳いで肉体へ戻ろうとする横島。
それを、死神は横抱きにして捕まえて天井からすり抜けようとする。
「横島クン、お見舞いに着たわよ…って、死神!?」
令子とおキヌが横島のお見舞いに部屋に入ってきた。
しかし、そこに存在する横島と死神を見て、唖然とする。
「美神さん!美神さん助けてー!!」
「ほぅ…おまえたちか。随分と縁のあるものだ…」
「よ…横島さん!?お願い!待って!死神さん!その人は…」
「ならん。おまえたちの願いは前日聞き届けているからな。言ったはずだ。二度目はないと」
おキヌが死神に横島の助命を懇願するが、死神の言葉に口を紡ぐ。
そこで、令子がある一点を見つめて悟る。
「…!!!そう…無駄よ、おキヌちゃん。もう、尾が切られてる…」
「そんな……」
「そ、そんなっ、美神さん!?なんとかならないんですか!?俺まだ死にたくはっ…!」
横島が美神の言葉を聴いて、この尾を切られた事がやばい事だと知る。
グレムリンの時一度似たような体験をしていたが、あの時尾の大切さを教えられていたので思い出したというのが正しい。
美神としても丁稚(兼すこし気になる男)を奪われるなんてたまったもんじゃないのだが、知識があるだけにどうし様もないというのが分かってしまった。
「…今生の別れを告げるがよい。一人一言、それくらいの時間なら待とう」
死神の言葉が重く響く。
「…美神さん。私、ずっと死んでも幽霊になって生きられるんだと思ってました。けれど、死神さんに連れて行かれた場合は、もう二度と会えないんですよね…」
「おまえも成仏すればいい。そうすれば、私達が責任を持って天国まで送り届けよう」
「そうですか…じゃあ、待っていてくださいね。きっと美神さんと一緒に会いに行きますから」
「ぇ!?ちょっとまった!!それでいいのおキヌちゃん!ここはとめるべきじゃ…」
「横島クン…あなたはスケベでヘンタイでだらしなかったけど、いざって時は結構頼りになって…なんだかんだで、結構退屈しなかったわ。今までありがとう」
「美神さ~ん!?うわっ!?」
「ここまでだ。それでは、もらっていくぞ」
そう言って死神は天井をすり抜けて、空へと上っていく。
「どわぁぁぁぁあ!?」
「このままお前を黄泉の国へと連れて行く」
どうやら黄泉の国とは天国の事のようだ。
下を見ればかなりの高度で色々と凄い事になっている。
しかし横島としてはそれどころではなかった。
(し、死ぬのか!?俺は、彼女も出来ずに○○のままで死ぬというのか!?)
とか考えてた。
「ここだ。」
急に死神が止まる。
そこは周りと何も変わりなく、ただの空。
しかし、死神が近づくと呼応するように空間が歪む。
そして…開いた穴に飲み込まれるように二人が消える。
「……。どこなんだよここ」
トンネルと抜けるとそこは…じゃなくて。
横島の目の前には花畑が広がっている。
後ろのほうには広大な川が見える。
「ここは黄泉の川のほとりだ。おまえたちは、三途の川というのだったな」
「え!?じゃあ、あの川を越えたらもう絶対戻れんって事か!?」
それはまずい。
今すぐに逃げ出そうと決意し、死神の腕の中でもがく横島。
「というより…すでに、超えているぞ?」
「…え?」
ピタッと横島の動きが止まる。
「ほら、この先が閻魔様の仕事場だ」
そういって横島を引きずっていく死神。
(や…やべぇ!今までセクハラとかばっかりしてきたし…俺、裁かれたら絶対地獄じゃねぇか!)
今まで以上に切羽詰って横島はついに行動に出た。
「りゃぁぁ!サイキック猫騙し!!」
「むっ…!?また目暗ましか…!」
「いまだっ!わーはっはっは!鬼さんこちらっ!…ってあれ?」
襟を掴まれて宙に浮く横島。
流石に美神に同じ手を食らっていたので、二回も騙せる相手ではなかった。
「どわーーーーっ!?」
「全く、油断も隙も無いな…お前達は。ここまで抵抗する奴は初めてだ」
そう言って横島を再び引き摺ろうとする死神。
「い、いやじゃぁぁぁ!」
そう言って、作り出したサイキックソーサーを死神に向かってむちゃくちゃに投げる。
当然、精霊石も破魔札も通用しない死神にその程度攻撃が通用するはずがない。
ないのだが…
「っ…!」
「あ、あれ…?」
横島の一撃で死神の仮面に小さな皹が入り、マントが切り裂かれる。
それを見た死神はすこし考えて…
「い、いけるっ!?よっしゃー!くらえ、サイキックソーサー!」
ゴンッ!
襲ってきた横島を鎌で昏倒させ、
「…来い」
やっぱり横島を引き摺っていった。
「はぁ…今日も退屈だ…」
所変わってこちらは死神の向かっていた仕事場の中。
そこでは一人の女性が回りに何名かの男性を連れて書類に判子を押していた。
女性の名前は閻魔。
本名は別にあるのだが、役職の名は閻魔である。
「閻魔様。死者を連れて参りました」
「ん?あぁ」
見ると、配下の死神が気絶している人間を連れて部屋に入ってきた。
そこで、死神の纏っているマントが切り込みが入ってるのに気づく。
見ると、仮面にもすこし傷が付いているようだ。
「どうした?その傷は」
「これは…」
すると、死神は黙って寝ている人間を指差した。
(へぇ…)
閻魔の顔に笑みが浮かぶ。
(死神が傷をつけられるなどありえない。私達は人だけでなく神や魔とも更に別の概念で存在しているから)
死神は伝承によって扱いが最も違う存在の一つである。
殆どの伝承において、死神は最高神に次ぐ位の高い神とされていることが多い。
崇拝の対象とされることも多いが、これは邪教崇拝という意味だけではない。、
しかし、これがキリスト教などの一神教になると、死神の存在は神から悪魔へと変わる。
死神は死をつかさどる神として描かれるが、キリスト教において死をつかさどるのは天使である。
ここで矛盾が生じた。
現在、神界を司るのはイエス=キリスト率いる天使達である。
しかし、多くの伝承において「最高神に使える農夫」と呼ばれるのは死神で、キリスト教では悪魔の扱いを受けている。
かといって悪魔となって魔界に行くとするにしても、他の宗教に置いての神としての重要度が高すぎる。
神族にも魔族にも適用する、そしてどちらに行ってもその勢力は莫大で、デタントの崩壊につながるだろう。
ならば、どうするか?
簡単なことだ。死神は神魔界からはぶられた。
そして、人界においての神魔の最高神に次ぐ地位となったのである。
具体的に言うと、これは宗教の範囲による。
主にヨーロッパなどのキリスト教などの布教な盛んな地域では、死者を運ぶのは天使の役目だ。
だが、それ以外の地域で死神が信じられていればそこは死神が死者を運ぶ地域となる。
つまり主に東洋において死神は最高神にかなり近い神格を要しているのだ。
ゆえに、この世に存在する殆どの概念では死神を傷つけることすら出来ない。
ましてや、人の見で起こせる神秘程度では傷一つつくはずが無い。
(そのはずなんだけど…ねぇ)
しかし、現実として今配下の死神には損傷が見られる。
「…とりあえず、起きるまで待とうか客間にでも寝かせといて」
「はい」
死神が彼を連れて下がると、次の死神が人間を連れて入ってくる。
さて…今日も仕事だ。
「…知らない天井だ。って、ここはどこだ!?」
あの後数時間して、よくやく起きた横島。
「やぁ、起きたね」
目の前には笑顔で話しかけてくる美人。
よく見ると周りに何人か黒いマントと白い仮面をした人物がいるが、
「ずっと前から愛してましたぁぁぁぁぁ~!!」
とりあえず横島の行動は決まった。
人外の速さで目の前の美人に飛び掛った!
「おぉ、大胆だね」
女性は腕を開いて横島を迎え入れようとする。
これはいけると思った横島だったが、体はそのまま女性を突き抜けてしまう。
「……あれ?」
「思い出した?君、死んでるんだよ」
「――――」
崩れ落ちる横島。
「ぁー…大丈夫?」
「うぅ…もう終わりだ…もう二度と彼女どころか女に触ることすら出来んというのか…」
「ぁー…とりあえず落ち着こうか」
そう言って女性は横島の肩に手を置く。
その感触に、横島は疑問を口にする。
「あれ…なんだ触れるんだ?」
(もしかして霊能力者か何かか?)
かつてジェームズ伝次郎に自分は触れなかったが、令子は触れた為にそう考え付く。
「あぁ、私閻魔様だからさ」
「…は?」
「まぁ~、そんなことはどうでもいいんだ。私はスカウトに着ただけだからさ」
「…スカウト?」
二重の予想外な言葉に思考がうまく働いてない横島。
「そう、スカウト。ズバリ、君死神にならないかな?」
「…死神!?なるって、どういうことっすか?」
「いやぁ…死神って、これっていう元がなくて…結構誰でもなれるんだよねぇ。ほら、仮面で顔を隠してるでしょ?まぁ、元の素質が高くないと無理だけど…
元々は全員人間だしね…たまに強い霊力の人間をスカウトするんだよ」
「…閻魔達って、どうことですか?」
「ん?あぁ、閻魔っていっても、何人かいてね…私は日本の担当なんだけど…他にも中国とか…」
「ちなみに…断ったら、どうなるんで?」
「そりゃぁ、ここで転生して次の人生を待つだけさ。記憶は全てなくなるけどね」
「ぁ、別に何か不都合があるわけじゃないんすね。だったら、俺は転生した…」
「勿論、裁判は受けてもらうけどね?地獄行き、とかね。罪や善行を全て清算してからだから」
「なりますっ!なりますとも!」
自分が地獄行きだと思い込んでる横島は即行で意見を差し替えた。
女性にした行動は正直やばいと自覚してるからだ。
(…彼は別に天国行きなんだけど、隠しておいたほうがよさそうだね)
そして彼女も言わない辺り軽く腹黒かった。
「そう。良かった良かった。最近、日本は死神が少なくてね…私の配下の死神も大体が紛争地域とかの方に取られちゃって、死者を把握し切れてないんだよね」
「そーなんすか…」
ちょっと諦めが入ってる横島。
「ところで、君はなんで死んだの?随分と若いけど…病気か何かかな?」
最近は事故で死んだ場合、死神が迎えにいくまで残っていることは稀で、大抵が悪霊かすでに成仏している。
ゆえに死神が運ぶことが出来るのは病気か何かではないかと推測したのだ。
「…あー!そういえば、俺が死んだのって最初から最後まで美神さんのせいじゃねぇか!」
すっかり奴隷化してた横島は思考がそっちに言ってさえいなかった。
一応、「身体で払ってもらおうか」などと言い出したのは自分が悪いのだが…車で轢いたのは間違いなく美神が悪い。
「ふぅ…自分を殺した相手くらい覚えておこうよ…」
「…そーですね…」
疲れた目をして答える横島。
「しかし…そんなに早く死んで、未練とか無いのかな?」
「そりゃありまくりですよ!俺はまだ彼女もできてないしさらに(自主規制)も(自主規制)も(自主規制)も…あー!閻魔様!ぼかぁ、ぼかぁもぉ!」
「落ち着けっ!」
「がふっ!?」
横島の魂の叫びに美神顔負けの突っ込み(致死量)を入れる閻魔様。
「お…おぉぉ…なんか…また死んだ気が…」
横島の死んだ原因は車で轢かれたよりも美神の突っ込みなのかもしれない。
「全く…せっかく私が君に二度目の生を与えてあげようというのに…」
「ぇ!?そんなこと出来るんですか!?」
ズイと血だらけの顔で寄ってくる横島。
「ちょっ!?顔が近い!出来るよ!私は人と生と死には最高レベルの権限があるんだよ」
そういうとどこからか手に持った扇子の角度を変えて軽くポーズを決めたりする閻魔様。
職権乱用という言い方も可能だ。
「本当ですか!?ぜひっ!」
「だから顔が近いっ!」
「めごっ!?」
扇子の一撃で地面に埋まる横島。
ポーズが無視された時すこし井桁マークが出たのはきっと関係ない。多分。
「ぉぉぉ…また死ぬ…」
「それ以上は死ねないよ」
突っ込みは非情でした。
「これは契約だよ。私は、配下にした者には一つ望みを叶えてあげることにしてるんだ」
(そうすると私への忠誠心が上がるからね…)
「じゃ、じゃあ、俺は是非二度目の人生で!」
「うん、よしよし。結構みんなこれを望むのよねぇ…ただ、問題はあるけどね。だって、君の身体は死んでるし…」
「…死んでる?じゃあ、無理なんすかっ?そんなっ!ここまで期待させといて嘘だなんて詐欺だぁぁぁー!へぶっ!?」
「話を最後まで聞こうね~。だから、死んだからだじゃ無理だから他のところから君の体を持ってこようってことなのよ~」
はたき倒した横島の頭をぐりぐりと踏む閻魔様。
話が進まなくていい加減面倒になってきたのかもしれない。
「…持ってくるってどういうことっすか?」
「だからね、この世界の君の体は死んじゃったから、他の世界から持ってきてあげるって事。いわゆる、平行世界ね」
「平行世界…って、パラレルワールドって奴っすよね?」
「そうそう。よかった、展開が速くて話についてこれてないと思ってたよ。それで、他の世界から、貴方の体を探して憑依させようってわけなのよ」
「憑依って…それ、幽霊が憑くみたいな?」
「いやいや、本人の体と本人の魂だからね。これ以上ないくらい適合するはずだよ。自分の体と変わらないさ」
「へぇ…」
「だから、さ。何か、希望はあるかな?パラレルワールドだからね…それこそ、条件の変わった体もいくつもあるよ?女性とか、妖怪とか、美形とか…」
「…!?今、聞き捨てならないことを聞いたような…わんもあぷりーず!」
耳ざとく閻魔様に詰め寄る横島。
「?いやね、だから、平行世界だから女性だったり妖怪だったり違う顔だったりする君の体もあるって言っただけ…」
「違う顔!?美形もありなんだな!?そうか!苦節16年!美形を呪い続けてきた俺にもついに春が…」
涙を流している横島にちょっと軽く引いてる閻魔様。
「…よく分からないけど、美形を希望って事でいいのかな?」
「おぉ!美形!それも、なるべくいい顔の奴をっ!!」
「はいはい…ちょっと待ってね。今探してみるから」
そう言って、目の前の空間を杓で一回しして、そこに手を突っ込む閻魔様。
(…平行世界って奴につないでたりすんのかな?)
よく見ると、空間の先に延ばしたはずの腕が反対側に見えない。
「ん、結果がでたよ」
「おぉ!それで、どれほどの美形なんだ!?」
もうすこし落ち着けといいたくなるほどに閻魔様に詰め寄る横島。
(ピートほどの美形だったらエミさんを落とすチャンスすらあるかもしれん!)
心の中はもっと落ち着いたほうがいいけど。
「うん…どうやら、君が美形の世界は存在しないんだよね。ごめん」
「……はい?」
硬直する横島。
「だからさ…どのような生まれ方をしても君はそんな顔って事」
「……詐欺じゃぁぁ-!美形っていったのにー!美形になれるっていったのにー!!」
俺の未来予想図はどうすればー!と叫ぶ横島。
この数秒でそこまで考えたとなると恐ろしい男である。
「ごめん…、私もこんなこと初めてなんだよね…普通、容姿が変わってるようなのはいくらでもいるのにさぁ」
よっぽど美形と縁がないんだねぇ、と息をつく。
横島はというと、完全に力なく崩れ落ちていた。
「ぁ、安心してよ。何も、生まれがその顔だってだけで、将来ずっとその顔だけって事じゃないよ?」
「…………へ?」
「君ね、何だが17歳を境に、色々な人と霊気構造が融合したりしてるんだよね…それで、その後霊気構造の変化につられて容姿変化も起きてるんだ」
「って事は、美形もいるんすね!?」
とりあえず、今の横島にとって重要なのはそこだった。
「いるねぇ。結構いるけどどうする?」
「一番美形な奴で!」
即答だった。
「一番美形ねぇ…そういわれても私と君の感受性は違うからどれか分からないんだけど、最近の日本人の思う美しい姿って事でいいのかな?」
「はい!」
「おーけーおーけー。人界に体を送っておくよ。目の前にあったら、それに乗り移ればいいから。それじゃあ、そろそろ生き返ろうか」
(少し先の身体みたいだけど、ま、いっか?)
「ふ、ふふふ…これで俺も美形…」
「…聞いてる?」
「…ハーレムも夢じゃない…」
「…もう、面倒だなぁ。とっとと準備しに行っちゃお。」
そういって閻魔様はおくの部屋へと引っ込んでいった。
結局一言も話さなかった死神達も閻魔様についていく。
その後、横島が正気を取り戻すのには10数分の時間を要した。
「…あれ?閻魔様は?」
キョロキョロと周りを見渡す。
「おまえの復活の準備に取り掛かっている…」
「うぉぁ!?」
横島はすっかり誰もいないと思っていたら背後から声をかけられて思わず飛びのいた。
「そう驚かなくてもいいだろう…。これからは同士になるようだし、仲良くやろうではないか」
「ぇ?あ、同士って…あぁ、そういえば死神になるんだったな」
生き返れる嬉しさですっかり条件を忘れていた忠夫君。
「運がよかったな…あの時おまえが私の仮面に傷をつけなければ、そのまま天国か地獄に放り出されていただろうからな」
「…ん?仮面に傷ってことは…お前、俺を連れてきた死神か?」
「そうだ」
「ぁー、そーなのか。いやぁ、お前達って、外見が同じで見分けつかないじゃん?」
ごめんなー、と頭を掻きながら申し訳なさそうな顔をする。
すると、死神は首をゆっくり横に振った。
「謝る必要はない。それに、お前も直にこうなるのだしな」
「ぁ~…、そっか、そーだったな」
(子供の頃は特撮ヒーローには憧れたが…死神かぁ)
死神は意味深に仮面を掴む。
「これは、私達が死神であるという証のようなものだ…私も死後閻魔様に誘われただけで、普通の人間だった。しかし、今では精霊石でも傷一つ受けない
ような強力な神となっている。…これが何故か分かるか?」
横島は首を横に振った。
「神魔族の強さは信仰心に比例することが多い。しかし、本来それは個人を対象にしたものだ。が、死神は最高位に近い信仰心を得ておきながら、
これといった個人への対象ではなく、死神という概念への信仰となっている。故に、閻魔様に見初められ死神になればすぐさま一定の力が付く。
しかし、個人を対象とした物ではない故に、顔を隠さねばならないのだ」
もちろん、制限はあるが、と死神は付け足す。
「へぇ~…じゃあ、死神って種族的に一番つえーんじゃねぇの?だって、お前みたいなのがたくさんいるんだろ?」
「一番とは言わないが…天使に匹敵するくらいの力はあるだろうな。しかし、今はキリスト教の世故に、私達は定義としては悪魔に近い方に位置づけられている。
そして、強力ではあるが曖昧な立場故に、どちらかの陣営に味方すればデタントが崩れる恐れがあるのだ」
「…ん?デタントって何だ?」
「デタントというのは…まぁ、神魔の仲が良い状態とでも覚えておいてくれればいい。まぁ、その為私達は天界にも魔界にも所属できず
人界を担当しているというわけだ」
横島に詳しく理解してもらうことを放棄し、自分達の境遇に溜め息を付く死神。
「よく分からんが…神様も大変なんやなぁ…」
うんうんと自らの境遇を思い出して首を振る横島。
彼の場合はかなり特別な例だといわざるをえないが…。
その後、お互いに話さずに待っていたが閻魔様が戻ってくる気配がないので、横島が閻魔様への疑問を口にした。
「そういえばさ、お前達は時代がかった口調だけど、閻魔様ってかなーりフランクな口調だったよな…小竜姫様も時代かかった口調だったんだけど…
閻魔様って小竜姫様より偉いんだろ?だから同じような口調だと思ってたんだけど…(そもそも女だったなんて予想外だったけどな)」
「そういわれても、私は小竜姫という者は知らんのだが…閻魔様の口調については、担当地が日本だから、としかいえんな」
「どういうことだ?」
「…高位の神というのは日々が退屈でな。閻魔様もほとんど毎日のように書類に判子を押すだけ、やってきた人間を裁くだけ、という仕事だしな。
激務に追われていれば実感することもないのだろうが、日本は死者の数が他の国に比べて少ないのだ。後は…最近の死者の変化だな」
「死者の変化?」
「うむ…」
死神が良いにくそうに言葉を切る。
「閻魔様は暇な時に裁判待ちの死者と話す事があるのだが…最近は、同人ゲームというのが流行っているそうではないか?そういうのに
毒されてしまってな…私たちもたまに人界に買いに行かされるのだ…それも、売っているところだとこの格好でも何も言われんものでな…」
「…神様がそんなんでいいんか?」
流石の横島もびっくりだった。
実は他にもテレビゲームが好きな最高レベルの武神様がいるのだが、横島はまだ知らなかった。
「おーい。準備できたよ?」
と、ここで閻魔様が戻ってきた。
「あ、閻魔様」
「ん?私の部下と話してたの?」
「は。自分が連れてきた人間ですので、どうなったか気になったもので…」
「そう?じゃあ、君も一緒に着てよ。こっちの部屋ね」
そう言って三人は奥の部屋へ移動する。
その部屋は左右に巨大な門があり、大きく「天国」と「地獄」と書いてある。
そして、その中央には見たことも無いような複雑な魔方陣が書いてあった。
「さて、これから君をここから落っことして、生き返すわけだけど…」
「落っことして!?」
「あぁ、言い方が悪かったね。まぁ、人界と繋がる扉とでも思ってよ」
「なんだ、そういうことか…」
幽霊なので落ちても大丈夫なのだが、幽霊の自覚なんてそうそうできるもんじゃない。
「それで、その時なんだけど…軽く、時間が戻るから、気をつけてね。といっても、
私レベルの神なら、時間に縛られる事も無いから君の事を忘れたりしないけど」
「時間が戻る…ねぇ。それだけっすか?」
「…ん、そうだ、言い忘れた事があった」
ここで閻魔様が伝言でPSとでも言うような口調で話しかけてきた。
「なんすか?」
「名前、なんにする?」
「…は?どういうことですか?」
「だーかーらー、生き返ってから名乗る名前だよ!」
「え…横島忠夫のままでいいんじゃ…」
「あまーい!時間が戻るって事は、そこには過去の自分がいるんだよ?」
「あ、そっか」
「いかに時期がきたら死ぬとはいえ、ね」
「…って、ちょっと待ってください。もしかして、俺、別人として生きなきゃいけないとか!?」
「まぁ、そういうことになるねぇ」
「マジですか…」
流石の横島もこれには堪えた。
ただ、閻魔様は落ち込む暇もなくどんどん話を進めていく。
「そうだねぇ…黄泉、なんてどうかな?」
「黄泉ぃ~?なんか、気障っぽくてやだなぁ…」
「む…そう?なら、なんにしようかなぁ…」
そういって考え込む閻魔様。
すると、横島の傍に死神が寄ってきて、こう耳打ちした。
(悪い事はいわん。黄泉で了承しておけ)
(ん?なんで?)
(ここだけの話だが…閻魔様のネーミングセンスは最悪でな。はっきりいって、黄泉なんてまともなものが出てきたのにびっくりだ)
(え…)
(書く言う私も、三途川渡なんていうネーミングセンスの欠片も感じられない名前でな…いや、私ですらはっきりいっていいほうなんだが…)
(…それいいほうなのか?)
(ああ。こないだ死神になった奴など、三途川=アンサンブル=渡だったからな。もはや意味が分からん。とりあえず、音楽記号に走ったのが敗因だろうか…)
(あ、あんさんぶる?)
(うむ、最近つけるのが面倒になってきたらしく、三途川と渡を固定で間だけしか変えてくれないのだ。次はクレッシェンドなんてくるかもしれん)
(うぇ!?)
「ねぇねぇ渡、音楽記号で「次第に弱く」って「はいはいはーい!黄泉でいいです!流石閻魔様!見事なネーミングセンス!感動です!」あ、そう?良かった♪」
(た…助かった…)
閻魔様はやたら上機嫌で
「いやはや、そこまで気に入ってくれると私も嬉しいよ。あんまり好評じゃないみたいでねぇ…」
なんて言っていた。
ちなみにその時死神は
(うむ、クレッシェンドではなくてデクレッシェンドの方だったか)
なんて場違いな事を考えていた。
あとがき
どうも、作者です。
自分は正直文才がないので拙い文章ですいませんが、書いてみました。
この後の展開で横島君がTSする予定なので、苦手な方は読むのをやめた方がいいです。
更新も遅いですし。
ついでに題名にはあんまり意味は無いです。
では、縁があったら2話で。