ユサユサ……
なんだか体が揺さぶられる感覚を覚えて、うっすらと目を開けてみます。
……えっと……確か私は美神さんの事務所に戻ってきて……
みなさんの歓迎を受けて……それからいきなりあの霊団の悪霊が襲ってきて……
それをみんなで退治して、場所をお店に移して……
歓迎会から飲み会に変わちゃって……私もちょっとだけ飲ませてもらってから……
ええっと……それから意識が混濁してきて……
……あぁ、私ったら眠ちゃったんですねぇ。
そんなことを自覚しながら、私の混濁していた意識がかなり覚醒してきたのを感じます。
ユサユサ……
ええっと、コレって……ああ、誰かが私をおんぶしてくれてるんですね。
眠ちゃった私を運ぶために……
誰が背負ってくれてるのかぁと、薄く開けていた目に意識を集中します。
やがてはっきりと目に映ったのは、藍色の生地の肩口。
これは……ジーンズの生地……
私が知る中でジーンズを着ている人は一人しか居ません。
横島さん……貴方がおんぶしてくれてるんですか?
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この言葉を貴方に
~ 帰って来たおキヌちゃん ~
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「……ったく。だれだよ、おキヌちゃんに飲ませたのは」
「ま、いいじゃないの。それにアンタだって結構飲んだでしょ?」
「そりゃまぁ。俺は美神さんに付き合って結構飲み慣れてますけど、
おキヌちゃんはそうもいかないじゃないスか」
私が目を覚ましてるのを気付かずに、横島さんと、隣を歩いてる美神さんが会話しています。
美神さんが「まあ、今日ぐらいは……ね♪」と横島さんに返してるのが聞こえます。
その口調はとても楽しそうです。
私が帰って来たのをとても喜んでる様子が伺えて、私も嬉しくなってきます。
でも、横島さん? まだ高校生なのに飲み慣れるほど飲んでるんですか?
それも美神さんと一緒に……
それは私が幽霊だった時も飲んでいらしたのを覚えていますけど、
私が居なくなった後も美神さんとお付き合いして飲まれていたんですねぇ……
今更ながら、私が居ない間の二人がどう過ごしてきたのかを想うと、胸が苦しくなってきます……
美神さんは、なんだか横島さんに対して物腰が柔らかくなった気がしますし、
横島さんも以前よりも格好よく……ああ、いえ、その……すこしだけ頼り甲斐があるように見えます。
私が居ない間に、お二人の間になにがあったんでしょうか?
「でも、おキヌちゃん……帰って来たんスよねぇ。
それもネクロマンサーなんて霊能力まで持って……」
「そうよねぇ~。アンタの文珠に加えて、ネクロマンサーの笛まで!
経費が掛からなくて報酬は丸儲け! これから更に大儲けできそうだわ!!」
クス……美神さんらしいですよねぇ。
でも、私は知ってますよ?
それが嬉しいときの美神さんなりの照れ隠しだってこと。
変わってない……いつも通りの二人に私の胸の痞えが取れていくのを感じます。
そうですね、私が居ない間のことを考えてもしょうがないですね。
これからのことは、これから考えればいいんですし、
これまで出会った人のことも、これから出会う人のことも……
勿論、美神さんのことも、それから……横島さんのことも……
「よっと……」
横島さんのその掛け声と共に、私の身体が少し浮き上がります。
どうやら少しだけずり下がったらしくて、横島さんが抱え直したみたいです。
「それにしても、おキヌちゃんって軽いなぁ。ちゃんと食べてるのかな?」
「少なくともアンタが心配するよりかは食べてるでしょうね」
そんな声が聞こえます。
心配しなくてもいいですよ?
美神さんの言う通り、ちゃんとお養母さんからいっぱい食べさせて貰ってましたから。
それよりも、横島さんこそちゃんと食べてるんですか?
以前、バレンタインの時にチョコレート渡しましたけど、
それをオカズにしてご飯食べようとしてましたよね?
その後、結局私が食材を買ってきて晩御飯作ってあげましたけど……
又今度、作りに来ますね。
幽霊だったときほど頻繁には来れないと思いますけど……
そこまで考えて目を閉じます。
ゆっくりと息を吸い込むと、お酒の匂いと、ほんの少しの汗の匂い……
これが横島さんの匂い……
幽霊だったときは感じることのなかった感覚……
そして身体全体で感じる、横島さんの背中……
思ったよりもずっと広くて、大きくて、そしてとっても温かくて……
……なんだか以前にも、こうしておんぶされたことがあるような……
そこまで考えたとき、私の脳裏に覚えているはずのない会話が聞こえてきました。
――――『美神さん……おキヌちゃん、俺達のこと思いだしますかね?』
『それは分からないわね……あの祠でも言ったけど、幽霊だったときの記憶なんて、
夢を見てるときの記憶と変わらないんだし……』
『そうスか……でも、絶対思い出してくれるって気がするんスよ。
だって、おキヌちゃんなんスから……』
『そうね……そう思いたいわね。それよりも横島君? おキヌちゃんを落とさないようにね?
そ・れ・と、変なことしたら私がアンタを地獄に送ってやるんだから、分かってるわよね?』
『分かってるっスよ! いくらなんでもこの状態の女の子に俺が何かするわけないでしょうが!
しかもおキヌちゃんスよ? ちゃんと責任持って運ぶっス!』
そこで会話が途切れます。
ああ、そうなんですね……あの祠から私を背負って運んだのは横島さんなんですね……
道理で覚えがあると思いました。
そう思うと胸の中がいっぱいで、目頭が熱くなってきます。
思わず私は横島さんの肩に置くだけだった両手を回して、横島さんにしがみついてしまいました。
「お、おキヌちゃん!?」
案の定、横島さんの驚いた声が耳に届きます。
「ううん……」
咄嗟に寝惚けたフリをしちゃいましたけど……いいですよね? これくらいは……
「どうやら寝惚けてるみたいね。フフ、安心しきった顔で寝てるわ。
それよりも横島君? 変なこと考えてたら私が承知しないからね?」
「わ、分かってるっスよぉ~……ああ! でも、この背中に感じる柔らかい二つの感触がダイレクトにぃー!
おキヌちゃんてば、思った以上に育ってるー!?」
「よ・こ・し・ま・く~~~ん?」
「ああ!? また声に出てたー!? み、美神さん! こ、これはーー!!」
「……とりあえずお仕置きは保留にしといてあげるわ……おキヌちゃんを背負ってるんだしね……」
「(ホッ)た、助かった~」
「言っとくけど、あくまでも保留だからね? これ以上なんか言ったら倍にするから。分かったわね?」
「ワ、ワカリマシタ……」
どうやら美神さんがものすごい顔で横島さんに言い聞かせてるみたいです、
横島さんの返事がカタコトになっちゃってますから……
ごめんなさい、横島さん……
でも、「思った以上に」ってどういう意味ですか?
ちょっとだけムッとしちゃったから、もう少しイジワルしちゃいますね♪
「ぬおっ!?」
「どうしたのよ? 横島君」
「な、なんでもないっス……」
フフフ。ちょっと胸を押し付けてグリグリしちゃいました♪
これぐらいはいいですよね? あんなこと言うんだし……
でも……しちゃった後で言うのもなんですけど……やっぱり恥ずかしいですぅ~!
はうぅ~。や、やっぱり止めとけばよかったですぅ~……お酒の所為ですよね? そうですよね?
どうしようもないくらいに私の顔が火照ってきてるのが分かります。
横島さんの肩越しに当たる夜風がとても心地いいです。
幽霊の時には感じることのなかった感覚……
やっぱり私は生きているですねぇ~……
横島さんの匂いを感じたり、温もりを感じたり、こうして背負われてドキドキしていたり……
……なんだか横島さんのことばっかりですねぇ……
ユサユサ……
横島さんが歩みを進めるたびに揺さぶられるのを感じます……
なんだか揺り篭に揺られているみたいで、それが私を再び夢の世界へと誘います。
横島さん……目を覚ましたらもう一度「ただいま」って言いますね。
……そして、いつかは絶対に伝えたい言葉があります……
“大好き”って……
終わり。
後書き。
あー……何も言わないで下さい!
はっきり言って、(´ω`)氏や、その後のとーり氏のお話しの影響を受けました!!
だってだって、おキヌちゃんの時だって原作で背負ってたでしょう!?
それに、生き返ったおキヌちゃんを誰が運んだんだろうって考えまで浮かんじゃってーー!!
ぶっちゃけ、「幸福大作戦」の執筆が全然進まなくてスランプ状態やったんやーーーーーーー!!!
ぜえっぜえっ……す、すいません……いや、マジで進まないんですぅ。 (ノ∀`)
そんな時に、両氏の作品を見て、又もやビビッと“でむぱ”を受信しちゃいました。 (´∀`;)
それと今回は初めて一人称に挑戦しましたが、いかがでしたでしょうか?
みなさんのご指摘、ご指導、突っ込みなどお待ちしております。
前回の短編『貴方のお答えは?』では、たくさんのレスを頂きまして、ありがとうございます。
私は基本的にレス返しはする方なんですが、短編に限りましては次の作品を投稿することで、
レス返しに変えさせていただきます、勝手ながらどうぞご理解下さい。
では、長編の執筆へと戻ります。ここまでご拝読頂きありがとうございました。 m(_ _)m