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「アルコール(短編)(GS)」

(´ω`) (2008-06-19 22:32/2008-06-20 23:32)


「美神さんが酔いつぶれるなんてこりゃ明日は雪だな」


初夏の夜風がアルコールを微かに含んだ頬を撫で上げてすり抜ける感覚が気持ち良い。
除霊が終わって事務所に戻った横島を飲みに連れ出し、散々高級な酒を呷った挙句の果てが
今横島におぶられてアルコールを湛えた寝息を横島の首筋に一定のリズムで吹きかけている。

肩に回されたしなやかな腕と肩甲骨の辺りで弛む豊かな胸。
掌にストッキング越しにしっとりと吸い付く太腿の感触。

少し前の自分がこの光景を目の当たりにしたらどんな反応を示すだろうか。


3年に進学した辺りから美神さんにシバかれる回数が減ってきた。
シバかれる回数と一緒にシャワーを覗く頻度も減った。


何故だろう


美神令子という女性をそれまでとは別の意識で眺める様になって行ったのは。
特別に何か変化があったわけじゃない。

いつもの様に事務所に行って
いつもの様に除霊して
いつものポジションで彼女の背中を眺めて
いつもと少し違う角度の横顔を眺めて

いつのまにか正反対の位置で美神令子を眺めている自分にふと気付いた。


事務所で書類整理をしてる彼女の時折見せる少し眦を緩めた眼差しの先に興味を持つようになって。
視線を胸や太腿から少し上げてみて。

ただそれだけなのに、そこには今まで気付かなかった美神令子の表情があった。

――あんな顔もするんだ


日常の中のよくある取りとめの無い小さな発見。
その小さな発見が小さな驚きになって。
何時の間にか小さな喜びがたくさん増えて。

小さな幸せが何時の間にかあった。


柄にもないと笑いがこみ上げてくる。


初めて美神令子と出会った時の自分から何歩前に進んだんだろうか。

今この瞬間も胸の底で雄叫びを上げてるもう一人の自分を
苦労しながらもいなせる程度には前に進めた。

手を伸ばせば届く場所にあの時の自分がいて。


必死になってこっちに手を伸ばす自分を少し苦笑いしながら手招きしたい衝動に駆られて。


こっちに来いよ。
ここは少しだけあの人に近い場所だぞ。


ほんの少しだけ近い位置で美神令子を見ていられる。
もう少ししたら更に一歩前に進めるかもしれない場所。

だからお前も早く来い。
ここから見る美神さんはそこよりずっと綺麗なんだぜ?


今でも乳や尻やフトモモは綺麗だけど
この人はそれよりもっと綺麗なものを隠してるのに気付いて。


意地っ張りで我侭でゴーマンで守銭奴で天上天下唯我独尊で
意外と優しくて意外と人情に厚くて意外と寂しがりやで

こんな風に酔い潰れてカワイイ寝息たてて眠るんだぜ。


いいじゃねぇか大赤字だって
今更手遅れなんだから

くたばる前に大赤字から赤字位にまで減らす努力だって多分満更でもない。


だから


「こーなったらもー美神さんでいきます」


いつか素面の貴女にそう言える時まで
貴女の手が他の男の手を握りませんように


肩に廻された手が少しだけ俺の喉元を絞めたのは多分気のせいで

眠っている美神さんの耳が真っ赤なのも絶対アルコールのせいで

首筋に唇が触れたような気がしたのはどうしようもなく気のせいだった。


おわり


ユンケルが売り切れだったのも気のせいです


△記事頭

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