作者注意
この物語に登場する横島君は、なんだかとっても間違えています。
更に、オリジナルキャラとかが出たりしますが、ラ・カンパネラ本編とはまったく関係ありません。
更に更に、私の技量不足の為に、バトルとして書いたつもりですが、そうバトルバトルしてません。
それでもお目汚し頂けますなら嬉しい限りでございます。
GS美神極楽大作戦! ~ラ・カンパネラ?~
番外 ~アンプロンプチュ~
「うぬが我と轡を並べんとする、横島忠夫と言う者であるか?」
「あぁ、よろしくな将門公」
神田明神の一角、庫裏の奥、更にその奥にある、彼岸と此岸の間。三途の川とはまた違った別の世界が広がっていた。
そこで対面を果たしていたのが、最近、関東守護者の役職に就いた横島と、数百年前から、その役職に就いている相馬小次郎将門だった。
「聞き及ぶどおりに魔の力を孕んだ人か……中々業の深き男なりや」
7尺もの巨躯に、京の公家社会に憧れを強く持っていたのと、自身が幾ら奏上しても官位を賜れなかった事のあてつけか、黒い直垂を着ている将門だが、黒と言う、落ち着いた色の格好であるにも関わらず、その巨躯から発せられる威圧感とも取れる霊圧は、将門が歴戦の武士を感じさせるに十分な迫力を持っていた。
そして、将門は横島の身体から発せられる、自分とは違った霊気を感じて、少し考える様な顔をしていたが、それでも横島の事は神界の最高指導者から聞かされていたので、横島の過去に何があったか気にはなったが、それを口にする様な事はしなかった。
「色々あったからな……それよりも、あんたに聞きたい事がある」
「ふむ、我が答えられる事であれば幾らでも答えよう」
横島が真剣な表情を浮かべていたので、将門もまた居を直して横島に向きなおす。
「あんたの娘は美人か?」
「ぬ?」
少し時間が止まった。
幾ら此岸と彼岸の間にある異空間とは言え、その中に居ても普通に時間は動くのだが、それでも時間が止まっていた……将門の。
「いや~、あんたの娘さん、確か五月姫だっけ? あんたとの付き合っていく上で、俺にも会う機会があると思うんだ」
横島は、猿神から言われても、でっかいおっさんである将門に会う事を嫌がっていたのだが、その三女である五月姫が、関東守護者となった父の将門に付き従っている事を聞き、更に、その五月姫が美人であるとも聞かされて態度を急変させた。
その後に小竜姫から嫉妬交じりの神剣三段斬りをプレゼントされたり、パピリオにも、いつも以上のスピアーを喰らったりしていたのは、まったくの余談である。
「ふむ……それは然り。我とうぬが同じ関東守護者として轡を並べる以上、斯様な事もあろうな」
「あぁ、そこでだ……五月姫が美人であるか否か、それだけははっきりとしておきたい」
「訳は解らぬが、我が娘の五月は我の贔屓目かも知れぬが、中々愛らしいぞ……傍に控えておる筈だが……如何する?」
「会えるのか?!」
将門が嬉しげに娘自慢をしているので、横島も少し親馬鹿かと訝しがったが、それでも猿神も美人と言っていたので、多少の父親補正が掛かっていたとしても、五月姫が美人であると確信を持った。
そして、その美人の姉ちゃんに会えるとなると、横島の興奮も跳ね上がっていた。
「左様な……五月はどこぞ?」
「ここに控えておりまする父上」
将門の声に、颯爽と現れた五月の姿は―――
―――透き通る黒水晶を彷彿とさせる様な瞳、それを彩る少し勝気な眼が印象的で。やや低い鼻から繋がる、今の価値観と逆行する様な太い眉が逆に新鮮で。口元を一文字に結びながらも、そこから醸し出される妖艶な色気は消える所を知らず。櫛を通せば流れる様な滑らかさを持つであろう、その艶やかな長い髪を邪魔にならない様に後ろにしばり。若草色の、少し大きめの狩衣を身に纏っていた。
それは、女性である前に武家の娘である事を誇示しているかの様な佇まいであった。
「おぉ、打てば響くその疾風の如き速さ、我が娘ながら武家の誉れぞ」
「勿体無き御言葉でございます……が! 頭を撫でるのは止めて頂きたい!」
娘が可愛いのか、満面の笑みで五月の艶やかな髪を撫でるが、その行動に五月は顔を赤らめて諌めていた。
「何故であるか? ……もしや、これが噂に聞く反抗期と言うヤツなのか?」
「私は既に大人でありまする! 斯様な事は辱めに等しき所業にございます!」
「なる程、人前で照れているのであるな……ふふ、我が娘ながら愛らしいのぅ……そうであろう横島忠夫?」
「……」
そんなやりとりを見続けていた横島は、先程の将門の様に時間が止まっていた。
「如何致した横島忠夫?」
「お義父さま!!」
「な、なんであるか?」
突如として、現世への復帰を果たした横島に驚きながらも関八州を治めていた自分が、この程度の事でうろたえれば、他の武士に示しがつかないと思ったのが少しと、そんな感情よりも、可愛い娘の前で情けない格好を晒したくないとも思っていた……いわゆる親馬鹿だ。
「人が悪過ぎますお義父さま! 五月姫がこの様な美人であると、何故言ってくなかったのですかっ!」
「わ、私が美人……そ、その様な事はありませぬぞ横島殿っ!?」
横島に、臆面も無く美人と称された五月は、先程と同じ様に赤面していた。年代的に異性から容姿を褒められた事がなかった所為だろう。
「それは全人類に対する宣戦布告ですかっ! 貴女の様なお方が美人でないと? ご冗談を! 天地創造より、美人と言う言葉は、貴女以外に使う事を許されていません!」
「ふむ、横島忠夫は良き事を言う。まったくをもってその通りである」
「ち、父上まで…」
横島の滑らかな褒め口上に、二なく頷く将門。そんな二人に赤面しながらも、自分にその様な尊大な褒め言葉を使われているので、怒るに怒れない五月。
「そうでございましょうお義父さま!」
「先程から申しておるが……誰が誰の義父とな? 答えによっては、うぬが命――この場で散るやも知れぬぞ?」
「その言葉……俺と五月姫の関係を認めるには、それ相応の試練があると?」
将門は横島の言葉の端々にある、『義父』と言う言葉に気付いたのか、今までの空気を一変させて横島を睨みつける。
視線で人を殺せるのであれば、将門の視線はそれに値するだけの圧力があったのだろうが、それでも横島は怯まない。怯まないどころか、逆に睨み返すだけの余裕すら見せていた。
「ほぅ、その身、その弱き身で我に挑むと?」
そんな横島の余裕に呆れながらも、人間の身から神にまで昇華した自分を睨み返すだけの気概を持つ横島を試したくなった。
「仰られている意味が判りませんな……五月姫の為ならば、俺は神すら殺せますよ?」
横島も横島で、この様な事は織り込み済みと言わんばかりに胸を張って答える。
「くくくっ! よう申した横島忠夫! その傲慢な言質! その無謀なまでの蛮勇! 我に挑むに十分ぞっ!」
「は? 私の意志は?」
五月は五月で、そんな自分の蚊帳の外で行われている、自分の為に二人の男が争うと言う、少し少女漫画チックな光景に多少の感慨もあるのだろうが、それ以上に、何故か自分の意思を無視されている事実に気付き、それを突っ込んでいた。
「五月よ……我が娘ながら、天の川すら凌駕する己の美しさが罪と知れ」
「その通りです五月姫! 貴女の為なら、俺は『新皇』すら討ちましょう!!」
「ぬかすわ! 我が名は相馬小次郎将門! 坂東武者の生き様見せ付けてくれよう!!」
「だから! 私の意志は何処へ!?」
結局、五月の意思は無視されていた。
◆◆◆
緋糸威の具足を身に纏い、偉丈夫である将門に負けない程の体躯の良い木曽馬に跨った将門。左手に異常なまでに弦を強く張られた和弓を持ち、右手にはゆがけをはめ、通常では二本の矢を持つ所に、三本の矢を持っているのが印象的だった。
それと対峙する横島の右手には文珠の≪剣≫で作られた、栄光の手よりも格段に強い、両刃の剣を上下に合わせた様な両剣を携え、左手にはその身体の半分を覆わん程の大きさの、霊気を集束させて作った盾を構えていた。
「うぬは馬に乗らぬのか?」
「生憎と馬に乗って戦った事はなくてな」
濁流染みた殺意の視線。
互いに目を逸らす作業を忘れたかの様に見詰めあい、ある筈もない隙を疑っていた。
「何故に斯様な…」
そんな二人を見守る事を義務付けられた五月の目は、諦めともつかぬ、馬鹿らしさを前面に押し出し、怨嗟の質量すら篭った視線で二人を見詰めていた。
「ふむ……まったくの非力、まったくの無謀、まったくの……侠気!」
横島の霊力が自分と比べてあまりにも低かった所為か、半ば呆れながらも、そのか弱き力で自分に立ち向かう勇気を賞賛し、十人張と言う、人の身ならばまず扱う事すら叶わない強弓をもって、一息の間に三本の矢を放った。
一本は眉間を、一本は喉元を、一本は心臓を―――全ては急所を狙っていた。鞍上での弓だけに、その狙いは安定していないと考えた時点で勝負は決まっていただろう。
相馬小次郎将門―――坂東武者の礎を築いた彼は、その比類なき武勇で関東全土を支配し、自らを『新皇』と号した人物。
その彼が放った矢は、なんの躊躇いもなく、なんの間違いもなく、その狙いを外すことはない―――弓が武士の武器でなくなったのは戦国の終り。新しい武器である鉄砲が使われる様になり廃れた弓だったが、将門の生きた時代、平安の世において弓は武士の最大の兵器であり誉れでもあった。
その誉れがなくて、何が『新皇』と名乗る事が出来ると言うのか?
その武勇がなくて、何が関東全土を治める事が出来ると言うのか?
その鞍上での弓がなくて、何が坂東武者の礎だと言うのか?
故に、その矢は放つ前より―――全ては中る!
「笑わせるなっ!」
中る筈であった矢は、横島の閃光染みた一薙ぎによって掃きに為った。
何の事はない、一息の間に三本の矢を放ったといっても、それが同時と言う訳にはならない。
故にその一本一本の間に、少なからずの時差が生じる。それを見極め、その時差を見切り、その着弾点である三つの点を目測のみで看破し、そして、そのまったくの隙のない三つの点を、剣の一薙ぎをもって虚無へと還した。
横島忠夫―――人であった頃より銃の弾丸、初速400m/秒と言う、撃たれて気付いた時には音速にまで到達する程の凶弾を、己の動体視力と反射神経のみで打ち落とした程の人物。その動体視力と反射神経があったからこそ、幾たびの戦塵にまみれても尚、その命を永らえる事が出来た。
人であった時に味わった絶望からか、人であった時に感じた無力さ故か、横島は猿神との修行で変わった。それこそ死を選んだ方が楽だと思った時も多かったと横島自身思っていた、その光景を見ていた小竜姫達の反応もそれと同じだった。
しかし、それでもその命を永らえてきた奇跡と代償―――死ぬ寸前まで追い込まれ、その力の超回復させた時に増幅した霊力。猿神による絶死の如意棒にすら耐え抜くまでに昇華した埒外の肉体。
更に、その力の根源は煩悩―――類稀なる煩悩を武器に、半人半魔となり、生還困難な戦場を経験しても尚、生き残り、勝ち残り、すべての災いからその身の安寧を掴み取ってきた奇跡の代行者。
魔神すら凌駕する神算鬼謀の知略。
自己の欲望の為ならば古今独歩の爆発力。
所構わず自分の力を引き出す煩悩の数々。
故に、五月と言う餌を吊るされた横島は、相馬小次郎将門を天下無双の武者と称するのならば―――ただれた力を無限に内包する、天下御免のワイルドカード!
「く」
非力だと侮っていた横島が、自分の放った音速染みた矢の軌道すら見切るその眼力。更に、その十人張の弓から放った比類なき強矢を薙ぎ払う決断をした豪胆な判断力。
横島を見据える将門の表情に笑みが零れる。
快楽にも似た闘争を味わえる喜び。
愉悦とも取れる好敵手の存在。
悦楽にすら感じた身の震え。
全てが将門の―――荒ぶる魂を満たす。
「ふははははは! うぬは真の武士ぞ! 我の弓を掃かすなど―――この三千世界に幾人もおらぬわ!!」
鞍上の将門は、馬の腹を蹴った途端、疾風の徒となった。
相馬小次郎将門は武士である。
弓だけを誉れとするだけなら、他にも存在する。それこそ、将門を討ったとされる俵藤太秀郷などは代表格だろう。
しかし、坂東武者の本懐は馬術。鞍上での戦いの巧緻さが全てであった。ならば、将門の本懐もまた!
「受け取れぃ!」
「上等!」
腰に佩いていた冗談染みた長さの太刀を抜き払い、その閃光染みた煌きと、全てを塵芥へと還す程の圧倒的な暴力で横島の首を薙がんとした一撃を、横島もまた冗談の様に受け止めた。
受け止められた事に驚きもせず、二の太刀で横島の肩口を裂かんとした一撃を放つ。
再び横島は受け止め、更に、その返す刃で将門が駆る馬を斬らんとした。
「承知!」
「ったりめぇだっ!」
横島の一撃を、然も織り込み済みと言わんばかりに、馬を反転させるだけで避けきる。後ろを見せた将門に、それだけで圧殺出来るだけの力を持つ、霊気の盾で押し切らんとした横島の圧力だったが、それを己の霊圧と気迫で打ち返す将門。
「まだまだ終らぬぞ!」
「はん! 自分の年齢を考えやがれっ!」
互いに示し合わせたかの様にぶつかり合う凶刃。
一合、五合、十合―――常軌を逸脱した速さの剣戟は、既に神域に至る。
互いの視線の先には、興奮を覚える程の剣劇を舞う相手が居て。
剣を振るう相手の、歪んだ笑顔すら狂おしいまでに愛しくて。
たぎる情念に、無限の可能性すら感じて。
「見えるわ! この身にたぎる力が見えるわ!!」
「眼科に行きやがれ!」
払えば切り上げられ、切り下げれば払われ、切り上げれば袈裟に刈られ―――繰り広げられる、稚児の真似事にすら思える程の剣戟の極致。
互いの得物が削りあって出来た、霊気の火花は列火の如く。
耳をつんざく様な、金属と霊気が奏でるアンサンブル。
そんな暴風雨の中で二人は笑う。
「愉悦! 是程までの愉悦は生涯になし!!」
「冗談! これ程までの馬鹿げた戦い、金輪際御免被る!」
それでも笑顔、されど爆心地。
快活なまでの太刀筋に無邪気を感じて―――笑う。
互いの必殺を、必殺をもって返されて―――二度笑う。
巧緻を極めた太刀筋にすら無益を感じて―――三度笑う。
終極染みた刺突を、終焉染みた刺突をもって返されて―――四度笑う。
「ならば横島!」
「来るならきやがれ!!」
笑いながら終曲を選択した。
互いの剣が奏でる甲高い音と共に、二人は互いで作った暴風雨の外へと下がる―――千日手に飽きた訳でもなければ、互いに認めない訳でもない。
最高に/愉悦
極上の/悦楽
続けたい/永久に
横島と将門―――互いに統べた感情が同じで、互いに悟った気概に感謝して、互いに想った永遠を―――最高の刹那を感じる為に、その感情を捨てる覚悟を決めた。
「我が乾坤一擲の一撃―――受け取るがいい!!」
鞍上ながら、右手に持つ大太刀を最上段に構える将門。
最大の好機と、最大の隙を兼ね備えた構えで―――その身体から放たれる気概に、命を賭した決意の色すら伺える。
「その覚悟―――俺の全身全霊をもって打ち砕く!!」
左手に張っていた霊波盾を消失させ、右手にもった剣を両手で持ち直す。
将門の最上段に対して、横島は脇構え。
剣を隠して剣筋を眩ます―――そんな、最もな良手であり、最もな愚手である構えで、日乃本一の武者、相馬小次郎将門と相対する。
「いざ――」「――参る!」
◆◆◆
「よもや相打ちとは…」
互いに放った最良で最高の一撃は互いに決まった。
将門の剣は横島の肩を深く斬り裂いた。
しかし、その代償として、将門の腹にも斬り裂かれた痕が残る。
そんな状況から、将門の類稀なる膂力をもってしても、立ち上がるだけの力が残されていなかった。
「へへっ、残念……俺の勝ちだ…」
「何を申す……うぬが肩は…」
「俺は……文珠使い……横島忠夫だ…!」
横島はそう言うと、自らの傷を文珠で≪完≫≪治≫させた。
左手で構えていた霊波盾を消失させ、両手で剣を握り締めながらも、その掌の一部に隙間を残し、その隙間に文珠を忍ばせていた。
「く……くくく……くはははははっ! 左様であったか! ならば、その隠し玉を見抜けなんだ我の負けよ!!」
相馬小次郎将門は武士であった。
戦う相手が何かを隠し持っていたとしても、それすらも相手の手の内と認め、己が炯眼の無さを笑い、自らの負けを宣言した。
「俺はこんなせこい手が得意だからな……あんたの強さに対抗しようと思ったら、こうするしかなかった…」
横島と将門の間には超越困難な壁があった。打ち合いをしている時は、馬の動きを見切り、何とか喰らいついていた横島だったが、それでも将門と比べると、力が圧倒的に弱かった。そして、その横島が将門の最良の一手と相対するのは不可能に近い。
しかし、それを超越出来てこそ人魔横島忠夫であり、その手の内を隠す事が、数多の戦場を越えて尚、生き残ってきた奇跡の結晶。
「然り、己が力量と相手の力量を見極めた者が勝つ……それが戦いの理よ」
互いに寝そべりながら、相手を賞賛し合う。負けすらも清々しく、勝ちすらも空しく、互いの力に憧れて、互いの器に惚れて。
「あぁ、これで傷を…」
「む? 我は斯様な施しは受けぬぞ? この程度の傷……10年も安静にしておれば容易いわ」
「長いって……そもそも施しなんかでもねぇし」
「施しでないと申すか?」
「当ったり前だ、なんで俺がおっさんに施しを与えなきゃならんのだ? あんたが美人な姉ちゃんなら無償奉仕するがな」
それは横島の持論、それでもその言葉には、将門に対する優しさにも似た思いやりが含まれていた。
「ふ、ふははははっ! 善哉善哉! うぬは我が娘の婿に相応しい!」
「……そういや、そもそもの原因って五月姫の事だったな…」
「うむ、我も先程まで失念しておった…………ほぅ、流石は婿殿。文珠とは斯様に利便なモノであったか」
戦いの理由が何であったか、それすらも忘れて闘争に酔いしれた二人。あまりの楽しさに、あまりの興奮に、そもそもの原因すら忘れていた。
「すげえな、もう立ち上がれんのか? 俺は血が足らないから、まだ立てないってのに」
「我は相馬小次郎将門ぞ? 傷さえ塞がれば些細な事よ」
文珠で傷を塞いだ将門は、まるで自分の元気さをアピールするかの様に笑う。
その眩しさに、横島もまた笑顔に―――
「その相馬小次郎将門様に質問がございまする♪」
―――なれなかった。
「う、うむ……して、なんぞあるか五月?」
「左様ですね~♪ 人を賭して戦う事について聞きとうございますが…」
流れる様な艶やかな黒髪が、何故か風もないのに揺らめいて。
黒水晶を思わせていたその瞳に、何故か無限の常闇を感じて。
女だてらに若草色の狩衣を着ていた筈なのに、何故か白小袖に緋袴、そして、その上に千草を羽織っていた。
横島は知らない。五月が父の死をきっかけに変貌した事実を。
ついでに将門も知らない、自分の死後に五月がどういった人生を送ったのかを。
天慶の乱によって父である将門が討たれた五月は、一族の仇を討つために京の都に入り、機会を伺っていのだが、中々機会に恵まれなかったが、それでもその思いを、日夜鞍馬にある貴船神社に願をかけ、そして満願の夜、ついに願いは叶い、五月は妖術を授かった。
その後に、五月は名を滝夜叉姫と改め、下総の国の猿島に篭り、多くの手下を従えて悪逆の限りを尽くし、源家に多大な損害を与え続けていた。
後に、時の陰陽師、大宅中将光圀によって邪心を払われ、将門の御霊を弔い、世の平穏を祈るために尼道に帰依したのだが―――
「死んで頂けませぬか?」
――感情を殺した表情で――
「な、何故であるか、さつぎゃ!?」
――黒いから――
「は、話せは解る五月ひぎょ!?」
――何を言おうが――
「ふふふ……次などありませぬぞ?」
――結局、滝夜叉姫だし――
「「……はい」」
――無理だった――
あとがき(また黒オチやん…)
よし! バトルを書いてみよ!! と書き初めましたが、何処か抽象的な雰囲気を感じます……はい、初バトルモノがこんな結末です……至らぬ点等をご教授頂けますと嬉しい限りでございます。
言葉遣いと衣装に関しましても……拙僧の武家のイメージがあんな感じでしたので、時代考証は深く考えずに書きました。御目溢し頂けますと幸いです。
後書きがちょい短いので、どうでもいい小話を一つ。私が何故、自分の事を拙僧と書いているかは……中学の時のあだ名が和尚だったからです。付けた人物は私が所属していた剣道部の顧問でした。ついでに名付けられた時は学年集会の時でしたので、瞬く間に広まり、未だに同級生からそう呼ばれ続けている始末です。
一応、副題の意味を
アンプロンプチュ―――即興曲
これに関しましては番外でございますので、第四章のレス返しは第五章で致します。更に、この番外にレスがありますれば、レスにレス返しを書きたいと思います。