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「十年後の写真……私がいつまでも若い理由(GS)」

あらすじキミヒコ (2008-05-17 14:04)

 シトシトと雨が降り続く一日だった。空は分厚い灰色の雲に覆われ、昼間だというのに薄暗く、ドンヨリとした空気が漂っている。
 しかし、それも、この場には相応しいのかもしれない。ここは、歓楽地や繁華街ではなく、霊園なのだから。

 大霊園ではあるが、墓参りの時期でも休日でもないせいか、園内にはほとんど人がいない。そんな中、大きな傘に身を隠した一人の女性が、夫や子供の眠る墓の前で、ジッと立っていた。

「横島クン……」

 昔の……古き良き日の思い出がよぎったのだろうか。
 女性は、結婚前の呼称を口にした。


    十年後の写真……私がいつまでも若い理由


 彼女の名前は、美神令子。
 今から八十年くらい前……彼女が二十代の頃には、辣腕ゴーストスイーパーとして一世を風靡した女性である。特に、彼女が二十歳の時には、今の人々が聞いたら漫画としか思えないような大事件が多発。その全てにおいて、仲間とともに大活躍したものだった。
 今では百歳を超える美神であるが、当時の美貌は、まだ保たれている。
 いや『美貌』だけではない。90年代当時と全く同じ外見で、少しも老化を感じさせない風貌なのだ。
 とても百余歳には見えない。誰が見ても二十代だと思ってしまう。それが、今の美神だった。
 大きめの傘を用意し、雨の日に外出することを好むのも、年齢不相応な外見を恥じる気持ちがあるのかもしれない。


___________


「横島クン……」

 もう一度つぶやいた美神は、持参してきた数枚の写真を、ソッと取り出した。
 それは、美神が三十歳の時の写真。美神と横島の結婚式・新婚旅行の写真だ。激動の90年代から数えれば『十年後』となる写真であるが、写真の中の美神は、やはり90年代当時と変わっていない。一方、横島の外見は、ちゃんと十年分の成長をしていた。

(この時には……不思議とは思わなかったのよね)

 女性が若さを保とうとするのは、ごく当たり前のことだ。だから、三十路女が二十歳の頃と変わらぬ容姿をしていても、周囲からは、

「努力してるのね〜〜」
「年下のダンナをもつと大変なワケ」

 と言われるだけで済んだ。

 一番身近にいた横島は、美神が特に努力などしていないことを知っていたが、それでも不審には思わなかった。彼は、かつての『悪魔像グラヴィトン事件』の際に、

   (やっぱ目立つなー美神さんは。
    とても正月じゅうコタツでモチ
    食ってたプロポーションじゃない……!)

 と不思議に思って以来、もう、そうしたことに疑問を持つのはやめたらしい。
 何もしなくてもナイスバディで美人であるのは、美神のアイデンティティーのようなもの。いつまでも若くったって、美神だったら当然だ。
 ……それが横島の考えだったのだ。

 だから、しばらくは美神も、自分の外見の不変化など気にしていなかったのだが……。


___________


「ママって……昔とまったく同じなのね。
 パパは変わってるのに……?
 ねえ、なんで!? なんでなの!?」

 疑問を持ち出したのは、小学生に上がったばかりの愛娘だった。
 すでに美神も三十代後半である。
 古いアルバムから若い頃の両親の写真を見つけた娘は、子供心に気になったらしい。

「それが『美神』の女なのさ。
 ……そういう血筋なんだよ。
 ほら美智恵おばあちゃんだって、
 今でも十分若いだろう……!?」

 娘と一緒になって写真を見ていた横島が、笑いながら説明する。だが、彼女は納得しなかった。

「ええ〜〜!?
 おばあちゃんは別だよう〜〜。
 美智恵おばあちゃんは……
 ちゃんと年をとってるもん」

 そう言われると、横島としても返す言葉がない。
 たしかに、美智恵の『若い』と美神の『若い』は次元が違うのだ。

「あたしもママの子だから……ママと同じなの!?
 なんかヤだな〜〜」
「そんなこと言っちゃダメだよ!?
 いつまでも若いままだなんて幸せじゃないか!」
「ええ〜〜!?
 でもママって……
 パパと出会った頃で成長が
 止まっちゃったんでしょう!?
 ……そんなの、あたしはイヤだな。
 ちゃんと大きくなりたいもん」

 『成長が止まった』……。それは子供の無邪気な言葉であるが、だからこそ、核心に迫るものでもあった。


___________


 娘の問題発言があった夜。
 ベッドに寝転がった横島は、隣で寝ている美神に声をかけた。

「令子……まだ起きてるかい!?」
「うん……」
「一度調べてもらったほうがいいかもしれないな!?」
「そうねえ……」

 特に『何を』と言わずとも、美神の方でも話題の対象は理解していた。
 美神自身の外見のことである。
 そして、こうした問題は人間の手には余るかもしれないということも、共通の認識だった。

「久しぶりに小竜姫さまやヒャクメに会いにいかないか!?」
「それはいいけど……浮気はダメよ!?」
「……いっ!?」
「今のあんたなら
 小竜姫くらい口説けちゃうだろうけど
 ……許しませんからね!?」
「お……おい!?
 俺がそんなことするわけないじゃないか。
 ……は……ははは……」

 美神の手がスーッとのびる。

「あんたがナニ考えてるのか丸わかりよ!?
 ココをこんなにしちゃって……
 まだ言い訳するつもり!?」
「ち、違うんだ!
 これは……ほら、
 令子が隣で寝ているから……」
「嘘つけーッ!!
 私はいつも隣で寝てるのに……
 あんたのココは、昨日やおとといとは
 全く違う状態じゃないかーッ!?」
「ああ、かんにんやーッ!!」

 こうして夫婦の営みが始まってしまうくらいだ。この時は、まだ二人とも、そんなオオゴトだとは思っていなかったのである。


___________


 横島の計画では、美神と二人で妙神山へ行くつもりだったのだ。そうすれば、美神がヒャクメに調査してもらっている間、自分は小竜姫さまと色々楽しめる……。
 どうやら、そんなことを考えていたらしい。
 だが、横島の考えなど美神にはお見通し。だから、二人で訪問する代わりに、神さまに美神たちのところまで来てもらった。それも、小竜姫連れではなく、ヒャクメ一人である。

「それじゃ、さっそく……」

 美神の心の奥底……日頃の好奇心程度では覗きこまないような奥底にまで、ヒャクメは、探索の『目』を伸ばしていく。表層の記憶から、深層心理へ、そして、本質である『魂』に近づいた時……。

「た……大変なのねー……」

 ヒャクメの顔が青ざめ始めた。
 こんなヒャクメ、美神も横島も見たことがない。

「おい、どうしたんだ!?」
「ちょっとヒャクメ!?
 もったいぶってないで、早く言いなさいよッ!!」

 二人に急かされて、ヒャクメは、ゆっくりと口を開いた。

「美神さん……魔族になってるのねー……」


___________


 かつて美神は、神となった菅原道真の訪問を受けたことがある。
 それは、平安時代への時間旅行の事件の際であり、道真は、メフィストに頼まれて来たのだった。
 その時、美神のところには、メフィストもいた。平安時代から一時的に現代へ来ていたのである。道真が平安時代に出会ったメフィストよりも二十歳若かったので、そんなメフィストを見て、

   『今のピチピチしとる姿も色っぽいが
    なかなかどーして。
    イカス年増になっておったぞ!』

 と、道真は言ってしまう。
 これを聞いた美神は、不思議に思ったものだ。

   (え……!?
    年増……!?
    魔族のメフィストが
    たった20年で……!?)

 そう……もしもメフィストが魔族のままならば、年をとっても外見など、ほとんど変化しないはずだったのだ。
 だが、その後メフィストは、アシュタロスから奪ったエネルギーを利用して『人間』になった。アジトにあった精製前のエネルギーも活用したが、もちろん、飲み込んだ『エネルギー結晶』も使っている。
 そして、美神令子は、そんな『人間』メフィストの魂がそのまま転生した結果だからこそ、魂にも『エネルギー結晶』が含まれていた。
 したがって、その『エネルギー結晶』をアシュタロスに奪われた時点で、その魂も大きく変わってしまい……。
 美神の魂は、本来のメフィストの魂に……『魔族』メフィストの魂に反転していたのだった。


___________
___________


 ……こうして、墓の前で、百余歳の美神令子は、昔のことを思い出していた。
 彼女の長い回想を遮ったのは、背中にかけられた知己の声だ。

『ごめんなさい。
 私たちがもっと早く気付いていたら
 美神さんも苦労しなかったのねー』

 声の主は分かりきっていたが、それでも美神は振り返る。
 そこに立っていたのは、やはりヒャクメだった。
 ヒャクメの言うとおり、アシュタロスとの戦いの直後に美神の『魂』を調べ直していたら、美神の魔族化も早々に判明していたであろう。その場合、彼女の人生も大きく変わっていたに違いない。
 しかし、そんなことよりも、

(まるで計ったようなタイミングね。
 ……また私の心の中を覗いてたんでしょう!?)

 と思って、美神は内心でクスリと笑ってしまう。だが、別にヒャクメの覗き癖を責めるつもりはない。こんなのは、もう慣れっこだ。それに、神族であるヒャクメは、90年代当時と外見が変わらぬ、貴重な友人の一人でもある。

『美神さん……
 そろそろ……行きましょうか?』
「ええ。
 今の私が……いつまでも人間の世界に
 留まるわけにもいかないもんね」

 美神は、ふと思い出した。

   「記録によると、美神令子は
    2087年に死亡していますよ!?」

(あの予知夢の中で……
 横島クンといっしょに見た夢の中で、
 そう言われたんだっけ……)

 今日人間界から消えることで、『2087年に死亡』という公式記録が出来上がるのだろう。

 ここで、美神は傘を手放した。
 いつのまにか雨は止んでいたのである。
 空を見上げると、雲間から日の光が伸びて来ていた。それは、美神を迎える輝路のようにも思えた。

(死ぬには良き日だ……
 って言っても、私の場合は
 ホントに死ぬわけじゃないけどね)

 最後に美神は、もう一度、持ってきた写真にチラッと目を落とす。
 心の中で、

(さようなら……横島クン!)

 と呼びかけながら、その写真を墓に供えた。
 そして美神は、ヒャクメの先導で、空へ浮かんでいく。
 新たな生活の場、魔界を目指して……。


(十年後の写真……私がいつまでも若い理由・完)


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 こんにちは。
 ふと思い立って、こんなおはなしを書いてみました。
「エネルギー結晶欠如のせいで魔族化って、もしかすると使い古されたアイデアかなー? それとも、逆に、強引すぎて受け入れられない解釈かなー?」
 とか
「オチもヤマも薄い(というより、無い!?)なー。小説らしくないなー」
 とか心配でしたが、それでも作品にしてみました。
 投稿先も少し悩んだのですが、『これこそ、小ネタ』と思い、こちらのサイトに投稿することにしました。
「この終わらせかたならば、これをプロローグにして続きの『魔界編』を書くことも可能だなー」
 と考えたのも、こちらに投稿した理由の一つであります(ただし、あくまでも『可能』というだけで、実行してしまうとこの作品の雰囲気が壊れてしまう気もしていますが)。
 いかがだったでしょうか。御意見・御感想がいただければ幸いです。


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